早川 克美(教授:学科長)2020年9月卒業時の講評

年月 2020年10月
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

特に良く書けていた3点をご紹介すると、
「アートとホテルの関係性において、有意義なコミュニケーションが生まれる可能性」では、ホテルの運営に、アートを導入することにより、有意義なコミュニケーションが生まれる可能性を調査・検証されました。活動自体も大変独創的で、その効果を証明したレポートとして、その独自性を評価しました。
「金山町の景観まちづくり」では、「景観公有論」を前提とした金山町の取り組みに着目され、産業と景観を結びつけた点に気づかれたことで、日本の地方都市が抱える問題の糸口を示されました。
「レイクプラシッド~継承されるオリンピック村の文化的景観」では、レイクプラシッドの景観について、表層的ではなく「文化的景観」として多面的に評価し、各種データや用語の定義も根拠を示され、大変簡潔されました。

レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、二次情報に頼らず、ご自身が直接現地で調査をされたり、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。いつも演習の授業でお話していますが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びはゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。これからのみなさんのご活躍を祈っております。