早川 克美(教授:学科長)2020年3月卒業時の講評

年月 2020年3月
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

良く書けていた3点をご紹介すると
「新宿駅新南口に広がる空間デザイン ~「都心型広場」としての存在意義~」は、今日、広場に求められている役割を明示した上で、事例の評価のポイントを3つの視点で考察され、客観的で冷静なまなざしがとても良いと思いました。
「和ろうそくを広める - M店の取り組み」は、事例を通して、伝統工芸は、技術を後世につなげるとともに、常に時代のニーズをとらえ、革新していく事が必要であるということを丁寧な調査から明らかにしています。
「長崎市外海地区 ~その歴史とそこからつながる地域デザインについて~」は、外海地区の施設がそれぞれ地域デザインの形成に貢献していることを調査によって明らかにして評価・考察を行っています。

レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方も少なからずいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧になってしまい減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、二次情報に頼らず、ご自身が直接現地で調査をされたり、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。演習の授業でもお話しましたが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、批判的、反省的なまなざしで捉えていなかったことが気になりました。一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びはゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。これからのみなさんのご活躍を祈っております。