早川 克美(教授:CLO)2025年3月卒業時の講評

それぞれの奮闘の輝き
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。
ここでは採点を担当したweb公開希望者のレポートを中心に総評を示します。なお、未公開のレポートにも大変優れた内容があったことをお伝えします。
公開されているレポート4点をご紹介すると、
『聴竹居に見る木造モダニズム』
聴竹居について丁寧に調べられています。現地にも行かれ、ご自身でじっくり体感されたことが良かったです。評価している3点もその整理が明確でした。一方で、建築におけるモダニズムとは何か、その前提となる定義をしたうえで木造モダニズムと照合させると、その特質がより鮮明になったのではないでしょうか。本来モダニズム建築とは機能的、合理的な造形理念に基づく建築であるのに対し、木造モダニズムはどのようなアプローチを取ったのか、というような比較です。
『中部電力MIRAI TOWER―電波塔から地域のアイデンティティへ―』
中部電力MIRAI TOWERについて、多角的に調査され、十分な情報量の中で、評価・考察ができています。リンチの都市のイメージからの評価は納得できる評価軸を示していました。添付資料も本文を補足する充実した資料となっています。中部電力MIRAI TOWERのランドスケープ、東京タワーとの比較の図解もよく出来た資料でした。
今後の展望についても地域の中でどのような価値を提供し続けるのか、可能性を示せたと思います。唯一、「3-1公園との共創空間 地域固有のシンボルゾーン」の項は、もう少し、近景・中景・遠景からの空間構成にも目を向けられると良かったのではないかと思いました。
『日本最古のゴルフ場、神戸ゴルフ倶楽部のヴォーリズ建築に関する考察』
ヴォーリズ設計の神戸ゴルフ倶楽部におけるバランス窓のデザイン的特徴を評価し、その窓の設計意図を探る探求のレポートとなっています。大変興味深く読み進めました。関係者にも取材を進め、「場所」「年代」「環境」「既存から」という4つの観点からの推理・考察は見事でした。最後まで推察で終わってしまうのですが、それでも、様々な資料にあたった到達点といえると思います。この研究をきっかけに今後も研究を続けられたらと期待しております。一つ疑問として、どうしてこのバランス窓に注目されたのか?この研究の発端を示していただくと、本論への導入と理解がスムーズになると思いました。
そして、もう一つ。
私は評価担当ではありませんでしたが、ご紹介したいレポートがあります。今回、ご本人の了解をいただき、ご紹介させていただきます。
『痛みを希望へ変える眼差しをデザインする、『地域保健』の挑戦』
Web誌『地域保健』を通して、保健師の活動をデザインの観点から評価した非常に意義深い内容です。そして、筆者が筋ジストロフィーという病気と向き合いながら、大学進学を果たし、4年間で卒業を達成されたことに深く敬意を表します。困難な状況下で学業を成し遂げたその努力と忍耐力が、研究内容にも表れています。研究のテーマである「痛みを希望へ変える眼差し」という視点は、保健師の活動をデザインの観点から評価する非常に独自性のあるものです。具体的な事例を交え、現場で実際に役立つ視点を提供しており、社会的にも価値のある内容だと感じました。難病の方たちに大学で学ぶ可能性をしっかりと証明してくださいました。
さて、レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、丁寧な調査をされ、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。いつも演習の授業でお話していますが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。
いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びは、ゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。
これからのみなさんのご活躍をお祈りしております。
ご卒業、おめでとうございます。
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。
ここでは採点を担当したweb公開希望者のレポートを中心に総評を示します。なお、未公開のレポートにも大変優れた内容があったことをお伝えします。
公開されているレポート4点をご紹介すると、
『聴竹居に見る木造モダニズム』
聴竹居について丁寧に調べられています。現地にも行かれ、ご自身でじっくり体感されたことが良かったです。評価している3点もその整理が明確でした。一方で、建築におけるモダニズムとは何か、その前提となる定義をしたうえで木造モダニズムと照合させると、その特質がより鮮明になったのではないでしょうか。本来モダニズム建築とは機能的、合理的な造形理念に基づく建築であるのに対し、木造モダニズムはどのようなアプローチを取ったのか、というような比較です。
『中部電力MIRAI TOWER―電波塔から地域のアイデンティティへ―』
中部電力MIRAI TOWERについて、多角的に調査され、十分な情報量の中で、評価・考察ができています。リンチの都市のイメージからの評価は納得できる評価軸を示していました。添付資料も本文を補足する充実した資料となっています。中部電力MIRAI TOWERのランドスケープ、東京タワーとの比較の図解もよく出来た資料でした。
今後の展望についても地域の中でどのような価値を提供し続けるのか、可能性を示せたと思います。唯一、「3-1公園との共創空間 地域固有のシンボルゾーン」の項は、もう少し、近景・中景・遠景からの空間構成にも目を向けられると良かったのではないかと思いました。
『日本最古のゴルフ場、神戸ゴルフ倶楽部のヴォーリズ建築に関する考察』
ヴォーリズ設計の神戸ゴルフ倶楽部におけるバランス窓のデザイン的特徴を評価し、その窓の設計意図を探る探求のレポートとなっています。大変興味深く読み進めました。関係者にも取材を進め、「場所」「年代」「環境」「既存から」という4つの観点からの推理・考察は見事でした。最後まで推察で終わってしまうのですが、それでも、様々な資料にあたった到達点といえると思います。この研究をきっかけに今後も研究を続けられたらと期待しております。一つ疑問として、どうしてこのバランス窓に注目されたのか?この研究の発端を示していただくと、本論への導入と理解がスムーズになると思いました。
そして、もう一つ。
私は評価担当ではありませんでしたが、ご紹介したいレポートがあります。今回、ご本人の了解をいただき、ご紹介させていただきます。
『痛みを希望へ変える眼差しをデザインする、『地域保健』の挑戦』
Web誌『地域保健』を通して、保健師の活動をデザインの観点から評価した非常に意義深い内容です。そして、筆者が筋ジストロフィーという病気と向き合いながら、大学進学を果たし、4年間で卒業を達成されたことに深く敬意を表します。困難な状況下で学業を成し遂げたその努力と忍耐力が、研究内容にも表れています。研究のテーマである「痛みを希望へ変える眼差し」という視点は、保健師の活動をデザインの観点から評価する非常に独自性のあるものです。具体的な事例を交え、現場で実際に役立つ視点を提供しており、社会的にも価値のある内容だと感じました。難病の方たちに大学で学ぶ可能性をしっかりと証明してくださいました。
さて、レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、丁寧な調査をされ、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。いつも演習の授業でお話していますが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。
いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びは、ゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。
これからのみなさんのご活躍をお祈りしております。
ご卒業、おめでとうございます。