早川 克美(教授:CLO)2024年9月卒業時の講評

年月 2024年10月
対象に惚れ込むこと

みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

ここでは採点を担当したweb公開希望者のレポートの中から優れたレポートをご紹介することで総評としたいと思います。なお、未公開のレポートにも大変優れた内容があったことをお伝えします。

「広島平和記念公園の折り鶴再生について」
広島平和記念公園の折り鶴再生について、大変丁寧に調べられています。研究の契機も冒頭にあり、著者の心が動き、この卒業研究に至られたことがよく伝わってきました。「積極的に評価している点」では、開発・事業デザインと継続・事業デザインに分けて評価されたことで、この取り組みの優れた点を過不足なく理解させることに成功しています。他事例との比較対照も適切です。捧げることでおわりとしない持続させることの意義についてふれた点も説得力のある考察でした。被爆国としての静かで美しい平和活動だと思います。

「雲仙・小浜温泉  〜「社会貢献の哲学」が継承される町〜」
雲仙小浜において、城谷氏のデザイン哲学がいかに継承されているかについて、インタビューを通して丁寧に調べられました。様々なひとたちが繰り広げる哲学継承活動の価値を認め、評価された点は素敵なまなざしだと思いました。それぞれの登場人物が実際にはどのように交流し、つながっているのかなど、取材しないとわからないことをもう少し記述できるとなお良かったかと思います。

いずれも、筆者である卒業生の方が、事例に惚れ込んで調べ書かれたことが、読み手である私に伝わってくる力作でした。やはり、卒業研究の対象となる事例は、書かれるみなさんが熱意をもって向き合えるものであるか、がとても大切なきがしています。

さて、レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、丁寧な調査をされ、適切な比較対照を試み、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。
まず、対象をできるだけ具体的に絞り込む。そして調査を開始します。調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びは、ゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの揺るがない知の財産です。

これからのみなさんのご活躍をお祈りしております。