宮 信明(准教授:主任)2025年3月卒業時の講評

年月 2025年3月
みなさま

卒業研究レポートの作成、そして提出、本当にお疲れさまでした。大きな課題を終えられて、いまはホッと一息つかれているところでしょうか。

手塚治虫に「人を信じよ、しかしその百倍も自らを信じよ」という有名な言葉があります。ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんね。みなさんも卒業研究を作成されるとき、先行研究や調査対象者といった「人」を信じ、そして、なによりも「自らを信じ」たからこそ、卒業研究の提出という大きな課題をクリアできたのではないでしょうか。まずはそのことを大いに誇ってください(自慢しましょう!)。

今期の卒業研究は277件の提出がありました。ちなみに、昨年度の春期は254件でしたので、昨年度より23件も増えたことになります。非常に多くの卒業生を送り出すことができて、我々教員にとっても、こんなにうれしいことはありません。

みなさんのご卒業を寿ぎ謹んでお慶びを申し上げます。

さて、今回、私が担当した卒業研究では、以下のような対象が取り上げられていました。

・世田谷代官屋敷
・河越茶
・石巻の野外劇
・松本ピアノ・オルガン保存会
・正中山法華経寺聖教殿
・小田原城
・守口大根
・北ドイツの紅茶文化
・阿波藍
・福知山城
・剣舞
・尼崎城
・櫛まつり
・キッコーマン株式会社
・庭園美術館と茶室「光華」
・豊平館
・金丸座
・広島お好み焼き店
・山形交響楽団
・雅楽
・干瓢
・いかなごのくぎ煮
・藍染職人・桑山奈美帆
・八千代座
・日本刺繍
・原田の森ギャラリー
・益田「中世の食」再現プロジェクト
・自園自醸ワイン紫波
・宇治茶まつり
・八王子車人形
・平成中村座
・豆腐ちくわ
・ルミネtheよしもと
・熊本の能楽
・宝塚のレビュー文化
・Naoya Hida & Co.
・『デカメロン』
・久留米絣
・ジェラルド・ジェンタ
・小倉城天守閣
・有松絞
・神戸の角打ち店
・文楽
・練羊羹
・横浜スカーフ
・大津絵

いかがですか。このラインナップを見るだけでも、どれほど多彩なテーマで卒業研究(=評価報告書)が作成されているのか、一目瞭然でしょう。いずれのレポートにおいても、興味深い事例が報告されていました。また、それを論じるための視点もじつに多様で、読み応えのあるものばかりでした。
それぞれのレポートの点数と講評については、個別にお伝えしてありますので、ここでは、採点・講評を担当した卒業研究のなかから、私が興味深く拝読したレポートをいくつか紹介してみたいと思います。

1つ目は、石巻の野外劇を取り上げたレポートです。民話の意義とは、そしてそれを伝承していく必要性とはなにかという問いを立て、しっかりと考察されていました。演劇学や民俗学などに関する先行研究や資料もきちんと調査した上で、その知見を参照しつつ、丁寧に論理が組み立てられていました。民話を伝承することが、地域の文化や自然環境を残し、それを発信することにも繋がっていくと、その意義や必要性が明快に論じられていて、非常に優れたレポートになっていたと思います。

2つ目は、松本ピアノ・オルガン保存会を取り上げたレポートです。まず、なによりも「2007年度から2011年度までの保存活動」というように、その期間を限定して、つまり問題設定を明確にして論述されていたことが素晴らしかったですね。また、デザイン編集学や地域活性化論などに関する先行研究や資料もきちんと調査した上で、関係先への取材調査も行い、さらに芸術教養学科での学びも参照しつつ、独自の着眼点からレポートが作成されていました。こちらも非常に優れたレポートになっていたと思います。

3つ目は、自園自醸ワイン紫波を取り上げたレポートです。上記2つのレポートと同様に、評価対象のみならず、食文化論や消費者行動論などに関する先行研究や資料をきちんと調査した上で、関係先への取材調査も行い、さらに芸術教養学科での学びも参照しつつ、完成度の高いレポートが作成されていました。特に、技術は当然として、対話がより重要であるという指摘は、非常に刺激的で興味深い考察になっていました。こちらも非常に優れたレポートになっていたと思います。

ここでは上記3つのレポートに言及しましたが、それ以外にも、今回の卒業研究では、素晴らしいレポートがたくさんありました。そこに共通するのは、やはり①分析や考察に必要な文献・資料がきちんと調査されていること、②対象を吟味するとともに、それが独自の問題編成によって展開されていること、③アカデミック・ライティングのルールに則って、説得力のある文章で論述されていること、の3点ではないでしょうか。その点を踏まえ、改めてご自身のレポートを読み返してみてください。

卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。だからこそ、個別講評では、厳しいことをあれこれと書き連ねてしまいました。とはいえ、それぞれのレポートが卒業に値するクオリティに達していたことは間違いありません。ぜひこれからも、芸術教養学科で学修したことをもとに、よりよい学びを続けていっていただければと思います。

それでは、改めまして、ご卒業、誠におめでとうございます!