早川 克美(教授:学科長)2022年3月卒業時の講評

年月 2022年3月
みなさん、ごきげんよう。卒業研究のレポートの作成、おつかれさまでした。
卒業研究は、みなさんの芸術教養学科で学んだこれまでの学習の成果です。それぞれの方の視点が実に様々で、読み応えのあるレポートばかりでした。

ここではweb公開希望者のレポートを中心に総評を示します。未公開のレポートにも大変優れた内容があったことをお伝えします。

公開されているレポート4点をご紹介すると、

「エルププロムナードのデザインの特質と有用性」についてのレポートでは、幅広く文献にもあたられ、川添(2014)の論じる方向性と領域性の違い、イー=フー・トゥアンの経験による空間認知のことや、ジェフ・スペックやケヴィン・リンチによる有用な要素の特質によって、プロムナードの有用性の根拠となることを説いており、説得力のある論考でした。添付資料の充実も素晴らしかったです。

「ショッピングモール「イサカコモンズ」の魅力とは」についてのレポートでは、コモンズについて、筆者の独自の視点で評価考察ができています。空間のデザイン、時間のデザイン、ローカルビジネスの3点の評価軸による整理は大変わかりやすいまとめでした。エリンの銅像についての考察は特に好感のもてる視点でした。

「「生きづらさを感じる人を支える」ココロまち診療所のつながりのデザイン」では、丁寧な調査によって、診療所の特質が明らかに示されています。つながりを生み出す3つのデザインという整理も良かったです。大切にしていきたい場所ですね。

「高浜運河――「住宅地とビジネスゾーン」を隔ててつなぐ光あふれる美的空間――」では、高浜運河の美的可能性を、オルムステッドがランドスケープで都市空間の基本とする3つの視点で捉え、空間デザインの評価が見事でした。今後の展望として具体的な提案を示されているのがとてもよかったです。添付資料も充実しており、時間を書けて取り組まれたことがわかります。

レポートの評価が分かれたのはご自身の問題意識と対象への評価軸が明示されているかという点です。せっかく丁寧に調べられたのに、調べたことのまとめで終わってしまっている方もいらっしゃいました。また、論点の軸が曖昧なため、減点となった惜しいレポートもありました。評価が高かったレポートは、丁寧な調査をされ、適切な比較対照を試みたり、また評価手法および評価軸を明確に定義されていました。いつも演習の授業でお話していますが、まず、調べた多くの情報から、「何を取捨するのか」という「問題定義=切り口」を示すことが肝心です。次に、その切り取られた情報をどのような「構造」で組み立てて考察するのかを検討し、最後にその構造をどのような「語り口=手法・方法」で伝えるかという点に留意して書くことが重要です。
また、ほとんどの方が、選ばれた対象への一定の距離をおいた客観的な考察には成功されていますが、一見、うまくいっているように見える事象に問題はないのか?どのような課題をクリアして今日があるのか、そんな批判的、反省的な視点も加味されると、一層深い考察になったと思います。

いろいろと書いてしまいましたが、卒業生となられたみなさん、本当におつかれさまでした。みなさんが得られた学びは、ゆっくりと時間をかけてみなさんの中で熟成されて、様々な場面でみなさんを助けてくれることでしょう。一緒に学んだこの月日はみなさんの勝ち取られた財産です。これからのみなさんのご活躍をお祈りしております。