下村 泰史(准教授)2022年3月卒業時の講評

年月 2022年3月
卒業研究に取り組まれたみなさん、お疲れ様でした。
このサイトで公開されているもののうち、今回私が担当したものとしては、

・外国人人建築家による古民家再生と地域づくり
・アール・ブリュットを地域に展示する試みについて
・川越市の景観保全と利活用について2件
・既存の植生や遺跡など多様な空間を擁する公園緑地に関するもの
・作家グループ企画による地域景観を活かした屋外彫刻展
・地域資産としての史跡やダムなどを扱ったもの
・海外における日本庭園の空間性と利活用の分析
・寺院を中心とした地域の市などのイベントデザイン
・珍しい浜を手作りで観光スポットにした事例
・棚田と里山の景観保全
・近代の煉瓦建築を都市の景観文脈から分析したもの
・「かわまちづくり」を扱ったもの
・近世に創設された今も続く薬草園を扱ったもの

があります。公開されていないものも含め、地域景観やまちづくりに関するものを中心に講評を行いました。

全体としては、大変優れたものもあった一方で、これまでの学びを活かし切れていないように思われるものもありました。いくつかの作品に共通に見られた問題について触れておきたいと思います。

一つは、資料が不十分であるもの。本文での議論を進めるにあたって、きちんと提示すべきものを、「参考文献」で済ませてしまっているものが何件もありました。資料としてまとめ、本文から論及するなかで、その文献をどのように評価し、どのように活かすのか、が示されないことには、「参考文献」は任意のおまけのようなものです。自分の論を一定の完成形にするためには、何をどこまで提示すべきか、を考えていただきたいと思いました。

二点めは、基本データの提示のあり方です。今回拝見したレポートには、ある場における活動や出来事についてのものがいくつもありました。この場合、最初に示すべき基本データは、「その場」と、そこにおける「活動・出来事」になります。むしろ、後者こそ真のテーマであるといえると思うのですが、「場」のデータのみが記され、そこでの人々の動きについては輪郭が示されてないものが見られました。

もう一つは、他事例との比較検討が十分に行われていないものです。他の事例の名前を挙げているに過ぎないものも散見されました。比較検討というのは、共通点と相違点を通して、考察を深めていくことです。課題としても、そうすることを通じて「特筆性」を浮かびがらせることが求められているのですが、それができていないものがありました。

ここには、課題そのものが持つ難しさもあると思います。「積極的評価点」を挙げよ、という要求と、比較検討を通じての「特筆性」を挙げよ、という2つの要求があり、これをどう関連づけるか、という見えない問いが課題の向こうに隠れているのです。この2つをうまく一致させているものもあれば、特筆性が評価点を補強するような位置付けになっているものもありますが、うまくいっているレポートはそのあたりがスマートに解決されているものでした。

一方、読む側の意識も冴え冴えとするような、素晴らしいものも、いくつもありました。そうしたレポートとの出会いは、何よりも嬉しいものです。

ここでは、新規に公開されたレポートのどれがどういう評価のものかは明らかにしません。ご自身の目で、確かめていただきたいと思います。レポートを相互に読み合うことで学べることは、とても大きいのです。

いろいろ書きましたが、卒業研究のレポートを執筆し、卒業を迎えられた方々は本当におめでとうございます。この卒業を意味あるものにするためにも、上記の反省を踏まえ、「卒業研究」という経験を完成させていただきたいと思います。そのことは、みなさんの今後の学びと、その活かし方に関わってくることと思います。