多治見市モザイクタイルミュージアムの取り組みとその展開

石川 修平

1.基本データ(1)
名称 多治見市モザイクタイルミュージアム所在地 岐阜県多治見市笠原町2082番地5
開館 2016年6月4日(多治見市制75周年/多治見、笠原合併
10周年)
主な所蔵品 モザイク浪漫館所蔵品他タイル関係資料ミッション ①モザイクタイルの魅力を伝える。
②「発見」→「交流」→「発信」する。
③地域を元気にする。
方針と展開 ①常設展
②企画展(幅広いテーマの展示)
③産業振興(タイル業界主催の展示)
④展示以外(出張講座、講演会、館外でのワークショップなど)

2.事例の何について積極的に評価しようとしているのか。
多治見市モザイクタイルミュージアムを中心とした取り組みは展示中心の博物館とは異なり、地域連携型の取り組みのモデルケースとして他の地域での伝統文化、技術伝承に展開できる可能性を持っていること。地域の熱意と願いがその完成への原動力担っている2点が最も重要な点と考える。更にモザイクタイル事業そのものの特質性を鑑みるとこの地域
でしか保存が出来ないという必然性があり、まとめると以下の5つに整理される。

① このミュージアムは、地域のシンボルとしての位置付けとモザイクタイルの利用拡大の拠点となっている。近隣の工場との連携や館外活動を積極展開するなど幅広い活動を実施している(別紙1)。博物館に展示品を集めるだけではなく、地域と連携することで地域
活性化を同時に実現し、より低い投資額で効果の出せるコンセプトで運営されている。

② このミュージアムは、有志によるモザイクタイル製品の保存活動の集大成として作られた「モザイク浪漫館」(2)がベースになっている。この資料をもとに多治見市と笠原町の合併記念として完成された。

③ モザイクタイルの出荷額は1994年と2014年比半減と減少傾向があり、その中で岐阜県の全国シャアは80%を超えている。(3)この地域でなければ本技術を伝えることが出来ない必然性がある。

④ 多治見市のモザイクタイル事業は、この地区に中小零細企業が多数存在すること、更に一部工程の分業により成り立っている。(4)(5)このためミュージアムを中心に企業連携を進められるという特徴がある。

⑤ モザイクタイルとタイルはサイズにより一般に区別される(4)。他のセラミクスと基本工程は類似しているがモザイクタイル特有の移載工程などがある。

3.歴史的な背景は何か(いつどのように成立したのか)。
多治見市笠原町のタイル工業は瀬戸の陶工の系譜に連なる者たちの慶長年間における移住によって発生。大正期の好景気に「もやい窯」から「石炭窯」への移行が起り発展した。1926年には加藤重保により多治見市に日本建陶が設立され無釉のモザイクタイルの生産が始まった。1928年に陶磁器工業が下降線をたどる中で山内逸三がテトラコッタと古代エジプトのモザイクタイルの研究を経て素地の安定した磁器質のモザイクタイルを完成。岐阜県のモザイクタイルの発展を牽引したのは薬がけモザイクタイルであった。これは施釉方法について金属酸化物の発色性が酸化焼成に優れることに着目したことによる。1950年代には輸出を開始するとともに生活様式の変化に伴い需要が増加した(風呂、流し台など)。1990年代は衰退の時期に入っている。全国シェアは1994年から2014年にかけて83−87%であるが、安価な海外製品の流入による価格競争が起こり、他の陶磁器産業と同様に衰退傾向にある。(3)(4)(6)

4.国内外の他の同様な事例に比べて何が特筆されるのか。(別紙2)
タイル博物館としては、INAX ライブミュージアムにある世界のタイル博物館と関連施設が有名である。INAX の博物館は1997年建築され2007年にリニューアルされており、関連資料館やトンネル窯などを整えた総合施設である。タイル研究家の山本氏からの寄贈品をベースにしておりリニューアルの際に世界のタイルの歴史やその代表的な作品を再現するなどしている。そのコンセプトは装飾タイルを観て学んで発見する唯一のタイル研究機関というものである。
一方、多治見市モザイクタイルミュージアムは、地域産業の拡大と技術の伝承発展の拠点となる活動を実施している。このため、館外での活動も活発で近隣工場と連携した工場見学会や製造体験会、講演会が行われている点が特筆すべき点である。LIXIL 社(旧INAX 社)のような大企業の一貫工程を揃えかつ研究拠点として活動する規模はないが、モザイクタイルに特化し、展示規模の不足を近隣の工場との連携で補いかつモザイクタイルの利用拡大のための活動をしている点(別紙3)が他と一線を画している。展示中心の博物館に比べ、安価でかつ地域全体の活動として推進している。このコンセプトは、他地域の伝統文化、技術伝承に有効と言える。

5.今後の展望について。
5—1 モザイクタイルの展望
多治見市笠原地区は全国シェア80%を超える重要な生産拠点である。この技術を後世に伝える為に、地域の中小工場で生産し続けることが必要である。モザイクタイルの市場の維持拡大のためマーケティング4P の中の Product(製品)と Promotion(広告宣伝)での提言を行いたい。最後にこのコンセプトを他地域での活用する為の方策について述べる。
1) 新規モザイクタイルの開発について
この地区のモザイクタイルの発展は山内逸三の開発が契機となっている(3項)。現在ファインセラミクスの技術の発達により薄く、軽いモザイクタイル製品開発が可能である。テープ成形技術と積層技術を用いることで厚さ制御もでき大量生産時にはコストダウンが可能となる。形状の多様化に対応する技術としてはモールドキャスト製法などがある(別紙4)。材料では透明や半透明なものがあり、色違いの材料もある。印刷技術を用いれば精巧な図柄も可能である。これらの技術は既に実用化されている物であり、新しい材料、プロセスを活用したモザイクタイルの開発が必要と考える。技術融合を図る為に大学や研究機関、企業との連携を深めたい。

2) 原料のリサイクル推進による原料枯渇への対応
セラミクスは、原料により製品の特性、色合いが変化し、製造工程も原料に見合った工程条件を設定しなければならない。原料の枯渇対応として、新たに原料を確保するための鉱山の確保とともに、原料のリサイクルを進めることで安定的な原料の確保が可能になる。産業廃棄物であるガラス廃材を利用した研究もされており(7)、リサイクル材を一定量混ぜて使用することで原料枯渇を延命できる。

3) モザイクタイルの利用用途の拡大について
現状の用途である外壁や部屋の内装、水回りなどへの適用において、モザイクタイルを使用した時のイメージを抱かせることが重要である。興味を持てる用途例を展示しているが、定期的な各種提案を継続して欲しい。
他用途展開の事例として、お土産売り場にあったピアスのような小物やボトルデコレーションなどに新規開発の薄く、色彩豊かで一部透明なタイルの適用を考えたい。
多治見市や周辺地域の屋外での利用促進もより一層進めたい(別紙5)。来訪者にも見てもらえるし、モザイクタイルを市民の誇りである製品として認識いただき、市民による PR 活動へもつなげることが可能と思う。更にモザイクタイルはその一つ一つはブランド名がないが、多治見ブランドをつけて差別化することも重要である。(8)

5−2 他地域への展開方策について
地域で産業を支えている国内事例では京友禅のように完全分業化を実施し、地域で産業を育てている例がある。
多治見の例は完全分業ではないが地域産業を発展・活性化させるための取り組みである。その特徴は①地域の力を集約できるシンボルを持つ。②館外活動による発信の継続。③地域全体の協力。である。他地域でも同様な取り組みが可能であり、関連産業が集約することで切磋琢磨され技術レベルの向上や新しい取り組みが始まる機会が増える。新しい価値創造については官学の協力を得て地域の特徴を活かす研究や新規商品の開発など継続的な活動を進めることが重要と考える。

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参考文献

1) 多治見市役所産業観光課プレスリリース資料
2) アネモメトリ#35「現代に生きるタイル後編」、2015年11月
3) 外枦保大介「岐阜県東濃地域における地域イノベーションシステム構築の地域特性」下関市立大学論集、第60巻、第2号(2016.9)P49
4) 大森一宏「高度経済成長期におけるモザイクタイル製造業の発展」駿河台経済論集、第27巻、第 2 号(2018)p135、146
5) 上野和彦「わが国陶磁器工業の地域構成」新地理27−3(1979年12月)P1

6) 高橋宜久「岐阜県笠原町におけるタイル工業の地域的展開」地理学報告第46巻 p
36
7) 平野利親他「産業廃棄物利用のタイル製造への品質工学の適用」品質工学(200
0).vol、8.No,1.P31
8)越川靖子「地域活性化とブランド化に関する一考察」明大商学論叢、第90巻特別号 P135−136

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