大規模公園にこめられた様々なデザイン

田中 明彦

– ひたち海浜公園を例として

1. はじめに
公園のデザインというと園内のレイアウトが思い浮かぶ。茨城県の国営ひたち海浜公園を調査観察してきた結果、公園には様々なデザインがこめられており公園を特徴づけていることが判ってきた。どのようなデザインがありどう効果をあげているのか報告する。評価に当たり東京立川にある国営の昭和記念公園を比較対象とした。(以下、各々を「海浜公園」、「昭和公園」と記す。)[添付資料1-1] 

2. 海浜公園の基本データ 
公園の種別 
都市公園法による全国17の国営公園の一つでイ号国営公園である。[添付資料2-1]
所在地と立地 
茨城県ひたちなか市の太平洋岸の砂丘地帯に、港湾や商業施設との総合計画で開発された。[添付資料2-2]
開園年月日と規模 
70ヘクタールの広さで1991年10月に開園し、拡張で現在は350ヘクタール。
公園施設概要
首都圏の多様なレクリエーション需要に応えるため花のテーマパークとする基本計画の下、6つのエリアから成っている。 [添付資料2-3]
来園者数 
開園時の65万人から2016年度200万人超に達している。[添付資料2-4]
昭和公園の概要
天皇在位記念事業の一環で1983年開園のロ号国営公園。東京都立川駅至近の180ヘクタールの都市型公園である。 [添付資料2-1]

3. 海浜公園の歴史的背景
海浜公園の立地する鹿島灘沿いの砂丘地は長らく小規模な製塩が営まれるだけの未開の地であり続けたが明治後半に旧陸軍の実弾演習場となり、昭和の戦時下に陸軍航空学校と飛行場が整備され、終戦前には特攻隊の訓練基地となった。戦後米空軍に接収され対地射爆撃演習場となり、1960年に入り地元民による激しい返還運動が始まり1973年に米軍から返還された。軍用地であり続けたことが広大な砂丘地の自然を残す結果となり、その自然を活かす大規模な公園の開設つながった。[添付資料3-1]
比較対象の昭和公園も良く似た歴史を経ており、戦前は旧陸軍航空の一大根拠地で、戦後米軍が接収し極東航空資材司令部や空軍輸送飛行場として運用された。1977年に基地返還闘争をへて返還され跡地が公園として整備された。 [添付資料3-2] この歴史経過の相似が昭和公園を比較対象に選んだ理由である。

4.海浜公園にこめられたデザイン
冒頭に述べたように海浜公園には様々な目的・観点によるデザインがこめられており、その中から特徴的なものを以下に報告する。

4-1 イベントのデザイン 
海浜公園では毎年2度の大規模花修景とロックフェスの三つの大きなイベントが開催されている。2つの大規模花修景は58mの小山であるみはらしの丘で開催される春の「ネモフィラファンタジー」と秋の「コキアカーニバル」である。[添付資料4-1-1] 大規模花修景は多くの公園で採用されているが、海浜公園では来園者に非日常の景観を提供するデザインがなされ海外のネットでも話題となるほどイベントとして成功している。
「ネモフィラファンタジー」では青いネモフィラを密植し、来園者に全山青一色のみはらしの丘を見上げさせ青空に繋がる独特の浮遊感を与えるデザインでファンタジックな異世界感を提供している。対して「コキアカーニバル」では夏の鮮緑そして秋に紅葉したコキアから受ける山の重量感と空の青とのコントラスト、そして卵型のオブジェのようにコキアが配列され人工的な非日常感が演出され、両イベントとも来園者の既視感を超える景観を提供している。 [添付資料4-1-2]
この公園側のイベントのデザインの意図に加え、来園者が撮った写真をネットに公開し多くの人から「いいね」をもらい満足する個人的イベントが発生し、更なる来園者を招くという相乗効果が表れているのが大きな特徴となっている。 

対して昭和公園でのイベントは大きな花火大会もあるが、基本的にはスポーツなど来園者自身が活動するイベントで、活動として文化的展示も常時複数開催されている。[添付資料4-1-3] 立地や需要の違いによりイベントのデザインの方向性に違いが現れている。

4-2 景観のデザイン
海浜公園の景観のデザインも大きな特徴であり、まず大規模花修景のシーン景観に触れる。多くの国営公園の大規模花修景が平坦な広場を木立で囲う平面的で境界を持った構造であるのに対して、独立した小山(みはらしの丘)に花修景する立体的な構造となっている。来園者の視点は、他の国営公園では横方向に拡散するのに対して海浜公園では小山の頂上に向かって縦に誘導される。この誘導により来園者にさらに頂上まで登ろうという動機を与える景観にもなっている。[添付資料4-2-1] 

さらに、大規模花修景の会場までの来園者の動線上での景観の変化が一連のシークエンス景観としてデザインされている。実地調査での観察によると駐車場から見晴らしの丘の頂上に至るまでに17のシーン景観とパノラマ景観があり、それらが巧みに組み合わされ重層的なシークエンス景観が構成されている。 [添付資料4-2-2] 

17のシーン景観は人工的な整形庭園の景観のゾーン、自然を活かした林間の景観のゾーン、そして最後の非日常的な大規模花修景のゾーンと大きく3つに分けられていて、複数の景観のコントラストが重ねられている。 
まず視界のコントラストがある。来園者は歩を進めながら視界の開けたシーン景観と視界が制限されたシーン景観を交互に体験するようにデザインされている。特にみはらしの丘の手前に木立のトンネルを配して視界を最小に絞りこんで大規模花修景の開けた景観を強調する演出は秀逸である。 
次のコントラストとして整と俗にも着目した。整った非日常的な公園の景観の中に売店のある世俗的な景観がうまく挟まれている。
またパノラマ景観も取り入れられコントラストとなっている。ゲートを入ってすぐの整形庭園ゾーンの眺望、同ゾーンの最終部からの整形庭園ゾーンの振り返り、そして最後のみはらしの丘の頂上から観る太平洋を含めた360度のパノラマ景観がシークエンス景観のクライマクスとなる。

このように海浜公園は大規模花修景への動線で展開されるシークエンス景観で来園者に独特な体験を提供するという特徴を有している。 

一方昭和公園では敷地の制約もあり、シーン景観も整形庭園と武蔵野の林の再現と広大な芝生が主で、園内を巡ることによるシークエンス景観も意図されておらず、来園者に景観で何かを提供するデザインはとられていない。 [添付資料4-2-3] 

4-3 災害へのデザイン
昭和公園の現地調査で公園には災害へのデザインもある事が見えてきた。 昭和公園ではトイレや休息所などの建屋が意識的に多く配置されており、これは災害時避難所としての目的が当初から組み込まれた結果である。多数のテント等の設営を考慮して地形も基本的にフラットを保ち園路も広くシンプルにデザインされている。[添付資料4-3-1]
一方海浜公園では災害へのデザインは設立時には想定されておらず、イベント時に集中する来園者、避難所となる休息施設の容量不足、景観演出のための複雑な園路が問題となっており、海浜公園の負の特徴に挙げられる。景観のデザインの優先が他のデザインとの相克になるという一例でもある。 [添付資料4-3-2]

4-4 過去を消すデザイン
両公園の比較から感得されたもう一つのデザインの視点を紹介したい。両公園とも軍事目的で使われてきた地であり住民の激しい返還運動が起こった過去がある。[添付資料4-4-1] これらの過去は負の歴史でありそれを覆い隠すことも公園のデザインで意図され、過去の痕跡は公園の造成で消されている。
海浜公園では小さいながらも歴史資料の展示がなされているが [添付資料4-4-2]、昭和公園では天皇在位記念事業という目的もあり公園の案内所で資料を求めてもなにも出てこなかった。歴史的過去と公園のデザインの関わりの難しい点である。

5 今後の海浜公園の展望 
今海浜公園では大規模花修景などの特徴が活かされ来園者が増加するという好循環にある。しかしそれも非日常的な景観への驚きとインスタ映え等の来園者のネット上での承認欲求に依っており、今後その持続性が公園のデザインの展開にとっての課題となりそうである。

6 おわりに 
一連の調査観察により公園には様々なデザインがこめられていて、それらが互いに独立しては成り立たないことを理解できた。また大規模公園の文化的価値という側面からは、デザインにおける過去の取り扱いと、これから更に発展するネットワーク文化に対して公園が無関心ではいられないという点も考えさせられた。

  • 1-2 添付資料1-1、2-1
  • 1-3 添付資料2-2
  • 1-4 添付資料2-3
  • 1-5 添付資料2-4
  • 1-6 添付資料3-1、3-2
  • 2-2 添付資料4-1-1
  • 2-3 添付資料4-1-2
  • 2-4 添付資料4-1-3
  • 2-5 添付資料4-2-1
  • 2-6 添付資料4-2-2
  • 2-7 添付資料4-2-3、4-3-1
  • 2-8 添付資料4-3-2
  • 2-9 添付資料4-4-1、4-4-2

参考文献

国営ひたち海浜公園 PRESS RELEASE 『平成28年度 年間入園者数報告 2017年4月3日』
国営ひたち海浜公園 PRESS RELEASE 『平成27年度 年間入園者数報告 2016年4月1日』
鈴木昌道 (1978) 『ランドスケープデザイン <風土・建築・造園>の構成原理』 彰国社
ブライアン・ハケット(1977)『ランドスケープ・プランニング』 鹿島出版会
高田研一, 鷲尾金弥, 高梨武彦共著 京都造形芸術大学=編 (1998) 『森の生態と花修景 ランドスケープデザイン Vol.1』 角川書店
国土交通省関東地方整備局 『国営常陸海浜公園基本計画_平成24年1月』
国土交通省関東地方整備局 『国営常陸海浜公園__H230721』
国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 Webページ「公園とみどり」http://www.mlit.go.jp/crd/park/shisaku/p_kokuei/nihon/ (1/24’18参照)
国土交通省関東地方整備局 平成23年7月21日 『(再々評価)国営常陸海浜公園』
国営ひたち海浜公園ひたち公園管理センター『国営常陸海浜公園プレスリリース 2016年4月 平成28年度 Vol.1』
国土交通省 189 第4章 都市公園事業 4-1.都市公園における景観形成の原則的考え方
http://www.mlit.go.jp/common/000234815.pdf (6/12’17 Web閲覧)
国土交通省 景観ポータルサイト
http://www.mlit.go.jp/toshi/townscape/toshi_townscape_tk_000016.html (6/12’17 Web閲覧)
平松 玲治 『研究発表論文 利用促進に効果のある国営公園の花修景に関する考察』 日本造園学会 ランドスケープ研究
平松 玲治 『研究発表論文国営公園における広報・広告活動の実態と課題に関する研究』 日本造園学会 ランドスケープ研究
平松 玲治 『研究発表論文国営公園整備の進展と利用者の動態に関する研究』 日本造園学会 ランドスケープ研究
平松 玲治 『研究発表論文自然体験サービス提供施設としての国営公園におけるパークマネジメントに関する研究』 日本造園学会 ランドスケープ研究
詩歩 (2013) 『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』 三才ブックス
詩歩 (2014) 『死ぬまでに行きたい!世界の絶景日本編』 三才ブックス
国営ひたち海浜公園 PRESS RELEASE 「平成28年度 年間入園者数報告」 2017年4月3日
国営ひたち海浜公園 PRESS RELEASE 「平成27年度 年間入園者数報告」 2016年4月1日
茨城県公園街路課企画グループ 「いばらきネットモニター「いばらきの都市公園について」のアンケート」
http://www.pref.ibaraki.jp/bugai/koho/kocho/netmonitor/kekka/documents/kekkaa.pdf 2017/5/28
国土交通省関東地方整備局(再々評価) 『国営昭和記念公園』平成23年7月21日
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000042108.pdf (12/3’17 Web参照)
国営昭和記念公園事務所 home page – プロフィール
http://www.ktr.mlit.go.jp/showa/gaiyo/gaiyo.htm (12/3’17 Web参照)
陸上自衛隊 立川基地 Webより http://www.mod.go.jp/gsdf/eae/eaavn/history.html (1/28’18参照)