
夏を彩る『水海道祇園祭』の継承
基本データ
常総市は茨城県の南西部にあり、2006年1月に石下町と水海道市が合併して誕生した市である。また昔から季節毎に行われる行事が市民の楽しみでもあり、中でも『水海道花火大会』と『水海道祇園祭』は市民のみならず市外からも集客する大盛況な行事である。
常総市には43の寺(註1)と100の神社(註2)があり、『水海道祇園祭』は水海道の市街地7町が一年交替で「本社神輿」を担ぐ当番制があり、他4町が加わり11町が祭りの範囲で神輿22基と山車11基が渡御巡行するのである。見どころは終盤で、どちらが道を譲るのかをエネルギッシュに担ぐ「ケンカ神輿」と、山車の「突き合わせ」という向かい合わせになり囃子と踊りを競い合い、ペースに巻き込まれないように熱の入ったパフォーマンスをし続けるのである。獅子舞は、町中の路地を木遣りを謳いながら練り歩き、頭を噛まれて厄祓い、頭が良くなる、無病息災などをしてもらうのに獅子舞が来るのを楽しみにしているのである。(註3)
祇園祭の考察と評価
昭和時代までは周辺地域の中でも水海道市が活気のある中心地であった。2011年の東日本大震災や2015年の関東・東北豪雨災害、新型コロナウイルスに見舞われたが、常総市民は復興のために互いに助け合い乗り越えてきた。しかし、高齢化で商店街の再建が不可能な点や、2005年につくばエクスプレスが開通したことで近隣の守谷市に転居して人口が激減し閑散となってきた。しかし夏の祭事だけは以前と変わらず活気が戻ってくるのである。
このことから、祭事の継承によって活気ある豊かな町づくりを考察する。
*2023年水海道栄町地区班長(氏子)片岡様にインタビュー:子供の減少と塾で子供達の参加者が少なく子供の神輿と山車を保護者が参加することで成り立っていた。また班長は、氏神様である水海道天満宮で初日の本殿から神様を神輿に移す「宮出し」から始まり、自身も二日間山車を引きながら、大人(夜)の神輿と山車、子供(日中)の神輿と山車を見守り、地区のお手伝いの方とおにぎりを握り各家庭一軒一軒配るのが古くからの風習である。また、担ぎ手は足りないが、他の都道府県からの参加で大いに盛り上がったとのことである。(註3)
*2024年水海道栄町地区班長(氏子)小林様にインタビュー:前年度より子供の参加が減り保護者の負担がさらに大きくなった。各家庭に班長がおにぎりを配布するのだが留守の方も確認を取らなければならない。50%が辞退されたことから労力や食品ロスを考えると今後どうすべきか風習の見直しが必要である。また担ぎ手は前年同様他の都道府県からの参加で大いに盛り上がったとのことである。
次は『水海道祇園祭』の捉え方を水海道駅と水海道公民館で年代ごとに各20名ずつ聞き取り調査をした2023年(註3)→2024年の結果である。
①神輿や山車、囃子の稽古に当然参加するものである
②観るのは楽しいが神輿や山車、囃子の稽古に参加するのは無理である
10代 ①70%→50% ②30%→50%(子供会の義務がある)
20代 ①30%→30% ②70%→70%
30代 ①20%→10% ②80%→90%
40代 ①30%→30% ②70%→70%
50代 ①40%→30% ②60%→70%
60代 ①30%→20% ②70%→80%
70代 ①50%→50% ②50%→50%
80代 ①40%→40% ②60%→60%
結果、10代は子供会の義務でありながら塾や家庭の事情などで参加が難しく、どの年代も神輿や山車、囃子の稽古離れ傾向にある。また、70代、80代の参加値が高いのは囃子と踊りの伝承のためであり、実際に神輿を担ぐわけではないのである。
このことから、神輿を担ぐより観客として楽しむ傾向にある。
歴史的背景
戦国時代の水海道城主・田村弾正の守護神である大分県・宇佐神宮から御神霊を分祀したのが八幡神社である。当時は城のある橋本町にあったが、江戸時代初期1677年水海道村名主の秋場氏、村民の五木田氏、他26名によって水海道のほぼ中心であり水運要地の鬼門を封じる位置にあたる好適地現在の森下町に社殿が遷座したのである。(註4)
一方、水海道天満宮は799年に征夷大将軍坂上田村麿呂が「梅明神の霊」のお告げで難を逃れたことから辿り着いた丘に祠をたて梅明神を祀ったのである。南北朝時代に後村上天皇の御代として創建し菅原道真公の神霊を合わせ祀り『天神社』と改称したのである。また戦国時代は八幡神社と同じく田村弾正一族の氏神であった。鎮座地は変わらず、城の南西(裏鬼門)に位置し鬼門除けの役割もある。
水海道祇園祭は水海道八幡神社の相殿神である建速須佐之男命の祭礼でご神徳のひとつ「防疫・除災」を祈り、スサノオノミコトを神輿に遷し水海道の各所を巡り御神威によって疫病や災害が多くなる夏に防除しようとした信仰である。
起源は京都の八坂神社である。八坂神社は元は疫神信仰であり疫病や災厄を疫神によって鎮めるために祀り、のちに仏教の影響を受けて祇園の守護神である牛頭大王が祀られたのである。
その牛頭大王が神仏習合によってスサノオノミコトと同一とされ、水海道もスサノオノミコトの御神威によって疫病や災害を防除する祇園信仰となったのである。
*水海道天満宮の宮司・福田様にインタビュー(2025年1月2日):祇園祭は今も昔と変わらず伝統と歴史を重んじ仕来り通りに粛々と祇園祭が行われる。コロナの時期は中止したが、2023年再開してからは今まで通りに戻り活気も戻ってきた。今後も伝統と歴史を重んじ仕来り通りに継承するだろうとのことである。
この伝統と歴史を重んじた特性とは、初日に本殿から神様を神輿に移す「御霊入れ」から始まり、末日は「突き合わせ」でクライマックスを迎え、当番町の御仮屋で祝詞をあげ神様に報告をする。さらに祇園祭の翌日に神事として「御霊納め」をする。
その一連には当番町制、猿田彦大神の前導、雄獅子・雌獅子の巡行、四神圏を安置、昼と夜の渡御など伝統的な決まりがある(註4)
国外の事例
神輿とは神社にいる神様の御霊を乗せて街を巡幸することで鎮め清める渡御である。ゆえに神輿は日本固有の神道信仰の宗教である。
しかし、スペインのカトリック教では復活祭の前のキリストの十字架の苦しみを追悼する『マリア神輿』という聖母マリア像やキリスト像を載せた神輿がある。また、ヨーロッパやベトナムにも宣教師が伝えているのである。
神輿に乗せている像は、十字架を運ぶキリスト、悲しみの聖母マリア、十字架につけられたキリスト、祈る聖母マリアと天使などである。
日本の神輿は神様の霊力によって幸せになり、囃子のリズムで活気があり笑顔が溢れるものに対し、スペインの神輿は吹奏楽団の重々しい演奏でキリストの十字架の苦しみやマリア様の悲しみを分かち合い涙を流すような重いものである。(註5)
今後の展望
現代社会の生活リズムが変わり、氏子の減少や市民人口(特に子供)の減少から、継続するにはイベント化する事も重要である。『水海道花火大会』は水海道出身の女優や芸人、ミュージシャンを呼んで盛大にセレモニーから始める。『水海道祇園祭』も担ぎ手や囃子方に興味がもてるようなワークショップを開催したり、常総市のイベントとして広報から派手に宣伝することにより、担ぎ手や観客が神事に興味を持ち継承したいと思う人を増やすことが大切である。
まとめ
聞き取り調査とインタビューから継承のためには生活リズムの変化に対応して風習の見直しなど臨機応変に多様化していくことが大切である。
そのため、『水海道祇園祭』を継続し盛り立てるためには、神事の仕来りを重んじながらイベント化することで新しい風を受け入れ助け合う絆が大切である。すなわち、神事とイベントは全く違う定義だが、互いに距離を縮め共存することで今後の『水海道祇園祭』が継承して活気ある豊かな町づくりに重要な鍵となるのである。
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栄町の法被
2024年7月13日筆者撮影 -
本社神輿:2024年の当番は栄町である。
2024年7月13日筆者撮影 -
11基の山車が集結して「突き合わせ」が行われる。向かい合わせになりお囃子と踊りを競い合い、ペースに巻き込まれないように熱の入ったパフォーマンスが繰り広げられる。
2024年7月13日筆者撮影 -
どちらが道を譲るのかを神輿がエネルギッシュに担ぐクライマックスの「ケンカ神輿」は圧巻である。
2024年7月13日筆者撮影 -
いつもは閑散としている大通りがお祭りの日は「歩行者天国」にして前に進めないほどの人混みである。
2024年7月13日筆者撮影 -
亀岡町の山車、「突き合わせ」ではどの山車も一歩も譲らない大迫力。
2023年7月15日著者撮影 -
木遣を歌いながら練り歩く獅子舞。
2023年7月15日著者撮影 -
クライマックスで神輿と山車が集結したところに獅子舞が華を添える。
2024年7月14日栄町地区班長小林氏撮影
参考文献
(註1)43のお寺
https://www.bukkyou.com › TSInfo
(註2)100の神社
https://www.ibarakiken-jinjacho.or.jp/ibaraki/kensei/joso.html
(註3)芸術教養演習1(2023年8月26日)
(註4)水海道鎮守・八幡神社
http://hachiman.info/year_retuals2024/gionsai/
R-door通信(海外コラム)
https://rdoor-official.com
(註5)知識の宝庫
https://treasurehouse-of-knowledge.com
柳田國男編『日本の祭り』角川ソフィア文庫2013年
小松和彦編『現代の世相5・祭りとイベント』小学館1997年
横島広一著『水海道郷土史物語』筑波書林1984年
観光いばらき
https://www.ibarakiguide.jp/spot.php?mode=detail&code=549
常総市観光物産協会
https://www.joso-kankou.com/page/page000097.html
つくば新聞
http://www.tsukubapress.com/matsuri/mitsukaidogion.html
茨城見聞浪
https://ibamemo.com/2022/03/04/mitsukaido_tenman/
常総市公式ホームページ
https://www.city.joso.lg.jp/sp/kurashi_gyousei/kurashi/gakkou_kyouiku/isan/cityregi_bunka/tate/hatiman.html
水海道史 上/下
https://adeac.jp/joso-city/table-of-contents/mp000010-600010/d600010