障害福祉×デザインの協働チーム想造楽工――あらゆる属性・枠を超えた協働のデザイン――

中村 智絵美

1.はじめに
想造楽工(そうぞうがっこう)のプロダクトは、宮島依子がディレクション・デザインをおこない、障害のある人たちが絵の制作を担う。ユーモアのある伸びやかな世界観が好評で、個人から法人、民間・行政を問わず全国から受注がある。魅力あふれるプロダクトの制作背景はどのようなものだろうか。本稿では、障害福祉を起点とした協働の意義を社会的背景やインタビューより考察する。

2.基本データ
会 社 名 :株式会社ニューモア(NEWMOR Inc.)
設 立 日 : 2020/4/1
資 本 金 : 3,000,000円
本社所在地: 〒193-0835 東京都八王子市千人町2-16-1 丸神ビルB305
代表取締役:宮島依子
メンバー :15名(役員社員、外部パートナー含む)

3.想造楽工を設立した背景
想造楽工を運営する株式会社ニューモア代表取締役兼デザイナーの宮島は、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズでコミュニケーションデザインを学び、卒業後は国内外のアートプロジェクトに従事した。各地域で多世代と交わり、アートによって地域の活性化に貢献してきた。宮島はアーティストとデザイナーを対比し、「アーティストは魂を込めて全身全霊でアタックしていく情熱がある。デザイナーは何をつくってもいいが、人に伝わらなければならない。デザイナーは職業人で自分の性に合っていた」と振り返る。
宮島には障害のある家族がおり、長年福祉に携わってきた。「他者と交わることはどうしても避けて通れないが、障害のある人がどう他者と交わるのか。社会と交わることは本人にとって幸せなのか」障害のある人が暮らす日常と社会との隔たりに問題意識を抱いていた。
宮島は双方の二項対立に着目し、「アートは関心のある人が見に来る非日常の場、一方でデザインは私たちの日常にある。アートとデザイン、福祉と社会の在り方がリンクした」と述べる。目にする機会が少ない障害のある人が手がけたアート。それにデザインを加えることで日常に溶け込むプロダクトを構想した。想造楽工では、アートとデザインの役割を相互に持ち、「支援する人」と「支援される人」という関係を超えた協働制作に取り組んでいる。

4.協働制作の評価
4-1. 時間のデザイン
主体的参画を生むプログラムデザインは、いかにフロー体験をつくるかが重要だ。森高一は体験型プログラムにおける三段階のステップを定義した(1)。以下、想造楽工の制作過程を時間のデザインの観点から考察する。

①主体的な体験に誘うための「導入」
想造楽工は複数の福祉施設で定期的に絵を描く機会を設けている。宮島が準備したお題をもとに相性のよさそうなモチーフをディレクションしていく。参加者にクライアントの要望を「お題」として伝え、絵を描く動機づけをおこなう。さらに個別に声かけをおこないながら関係構築を図っていく。

②参加者自身が集中して体験、没入する「展開」
絵を描くことをお祭りのように楽しむ人、黙々と絵を描く人など各々のスタイルで取り組んでいく。しかし、完成されたプロダクトを見て、とくに反応を示さないケースもある。純粋に絵を描く瞬間が好きで楽しいという感覚は、フロー状態といえる。

③そこでの体験を参加者自身の認識や次の展開へと移す「まとめ」
宮島のディレクションによって本人の描きたい絵が定まることもある。一方、描きたい絵が本人の中ですでに決まっている場合、表現の幅を広げるような声かけを重ねていく。宮島が絵の制作段階から携わることで、イラストレーターとしての成長に寄り添っている。

4-2.クライアントの問題解決
宮島が原画を預かり、用途に合わせてデザインをおこなう。デザインソフトを使用し、構図や色味、書体や線の太さなどにアレンジを施す。デザインはプロダクトの完成度と客観性を担保するために必要な工程である。アートとデザインそれぞれの持ち味を活かす協働制作によってプロダクトが完成する。
デザインについて岡田勉は、「クライアントがいてそのニーズに応えるのはデザイナーで、一方、アーティストはクライアントの有無に関係なく自由な表現をする人たちのことです。あるいはデザイナーは問題解決をして現代社会を豊かにしていくうえでは有用な人々です」と述べている(2)。想造楽工はアール・ブリュットのような表現活動とは異なり、商業展開を目的とする。そのため、クライアントの要望に応えることを第一に考える。
一例を挙げると、「お台場冒険王2024お台場アーバンファーム未来を耕すムヒカの農園」(3)では、心が和むイラストとともに食糧生産の課題について身近に感じる空間デザインをおこなった。この事例では「SDGsにまつわる取り組みやメッセージを伝える場所にしたい」と考えるクライアントの要望に応えている。

5.他の事例との比較と特筆すべき点
5-1.ヘラルボニーとの比較
株式会社ヘラルボニーは、おもに知的障害のある作家とライセンス契約を結び、プロダクト販売や空間デザインを手がける。ヘラルボニーでは契約作家の経歴が公開されており、作家自身の表現に重点が置かれている。作家の創作傾向として、点描・幾何学・数字など特定の線や形にこだわりを示し、独自のルールに従って延々と描き続ける特性が見られる(4)。
編集の切り口について原研哉は、ゲームのルールをひとつ決めてしまうことは表現のしやすさでもあると述べている(5)。つまり、アーティストに依頼する際、一定の制約を設けるということだ。作家の感性を表出させたヘラルボニーのアートに対し、想造楽工では決められたお題に応える形でイラスト制作を遂行する。その点で、本人の思うがままに描きたいものを表現する創作とは異なる。

5-2.特筆点
想造楽工はデザイン的手法を強みとしながら、アートの領域においても活動の幅を広げている。2021年中之条ビエンナーレでは、駅前インフォメーションセンターの空間デザインを担当した。中之条町の障害福祉サービス事業所ほほえみ工舎の利用者約30名と絵を制作し、内装には町の端材を組み合わせた什器を使用した(写真1)。また、群馬AIRアートプロジェクトでは群馬県内三ヶ所の福祉施設と協働し、「群馬の山々にいる(かもしれない)生き物たち」をテーマに、絵と陶芸置物を制作した(写真2)。いずれも地域の福祉施設と連携し、アートとデザインの横断的な対応を可能にしている。

6.今後の展望について
宮島は障害福祉市場の問題点を指摘し、「福祉施設では『この人でもできる仕事』を回している現状があり、それが工賃の低さにつながっている。社会的なニーズがマッチすると正当な対価が生み出せると発想し『この人だからこそできる仕事』をつくることが大切だ」と述べる。障害者を取り巻く労働環境には、工賃の低さと職種選択の不自由さが挙げられる(6)(7)。現状では障害のある人が能力を活かした仕事に就き、自立した生活を送ることは非常に困難である。
想造楽工の事業は、この課題解決の一助となる。しかし、受注制作ではクライアントのニーズに応える性質上、特定のイラストレーターが起用されやすい傾向がある。また、毎月7カ所の福祉施設から送られてくる絵が月合計150枚以上未活用のままになっている。形にできる機会が限られているため、多くの人に活躍の機会を創出できているとは言い難い。
今後の展望として、第一に自社プロダクトの商品数を充実させること、第二に自社プロダクトの販路を拡大することが挙げられる。これにより新たなイラストレーターの発掘と、さらなる活躍の機会創出が可能と考える。

7.おわりに
想造楽工はアートとデザインをかけ合わせたインクルーシブな制作チームで新たな価値を創造している。将来的に、障害のある人が携わるプロダクトや空間デザインが普及していくと推察する。なぜなら、障害福祉を起点とする協働事業は、あらゆる属性・枠を超えて、人と社会をつなぐ可能性に満ちているからである。これにより、障害者がつくったという先入観にとらわれず、品質そのものが正当に評価されていくと考える。

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    ・中之条ふるさと交流センターつむじ内の公式ショップの空間デザイン
    ・ビエンナーレインフォメーション会場(旧ヤマザキショップ)の空間デザイン
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  • 81191_011_32383021_1_1_群馬ハ?ーセントフォーアート_compressed_page-0004 群馬県は「群馬パーセントフォーアート」事業の一環として、AIR(アート・イン・レジデンス)をはじめとするアーティスト支援(働く場づくり)に取り組んでいる。
    出典:群馬県地域創生部文化振興課文化企画係「『群馬パーセントフォーアート』 コンセプトペーパーを発表します(文化振興課)」2024年3月28日。
    https://www.pref.gunma.jp/site/houdou/636814.html(2025年2月3日閲覧)
  • 342295_1 群馬AIRアートプロジェクト2023年成果発表展・群馬県立近代美術館(2024年4月25日 山本陸撮影)

参考文献

註(1) 中西紹一・早川克美編『私たちのデザイン2 時間のデザイン ―経験に埋め込まれた構造を読み解く』(芸術教養シリーズ18)、藝術学舎、2014年、p.110。

註(2)早川克美著『私たちのデザイン1 デザインへのまなざし ―豊かに生きるための思考術』(芸術教養シリーズ17)、藝術学舎、2014年、p.140。

註(3)想造楽工(ソーゾーガッコー)「月刊想造楽工vol.33『アーバンファームの空間デザインをした話』」2024年8月9日。
https://note.com/newmor/n/nea8d1c7e7f65 (2025年1月2日閲覧)。

註(4)傳田健三「自閉スペクトラム症(ASD)の特性理解 」、『診断と臨床像1.主徴候3)興味の限局と常同的・反復的行動』、2017年、p.21。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/57/1/57_19/_pdf/-char/ja (2025年1月2日閲覧)。

註(5) 紫牟田伸子著、早川克美編『私たちのデザイン4 編集学 ―つなげる思考・発見の技法』(芸術教養シリーズ20)、藝術学舎、2014年、p.67。

註(6)厚生労働省「令和4年度工賃(賃金)の実績について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001281180.pdf (2025年1月2日閲覧)。

註(7)厚生労働省「令和5年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめを公表します」『4.職業別の就職状況(1)概況』2024年6月28日、p.10。
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001236931.pdf (2025年1月2日閲覧)。

参考URL
想造楽工
https://sozogakko.com/ (2025年1月2日閲覧)
株式会社ヘラルボニー
https://www.heralbony.jp/ (2025年1月2日閲覧)

参考文献
M・チクセントミハイ、今村浩明訳『フロー体験 喜びの現象学』世界思想社、1996年。
松田文登、松田崇弥共著『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉×アートの世界で世界を変える』新潮社、2022年。
群馬県地域創生部 文化振興課 「AIRアートプロジェクト」メールによる回答(2024年7月23日受信)
中村智絵美『想造楽工がつくりだすプロダクトの魅力と福祉施設における表現活動導入の課題』芸術教養演習1、2024年8月受講。

インタビュー
2024年5月6日 株式会社ニューモア代表取締役/コミュニケーションデザイナー 宮島依子氏
2024年5月6日 中之条ビエンナーレ総合ディレクター 山重徹夫氏

※本稿では、社会モデルの観点から「障害のある人」と表記した。
内閣府「『障害』の表記に関する検討結果について」2022年11月22日。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_26/pdf/s2.pdf (2025年1月2日閲覧)。

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