関西(特に神戸)という地域における阪神甲子園球場を本拠地とする阪神タイガースの存在について
0.はじめに
昨年、38年ぶりの日本一となり、今年で設立100周年を迎える阪神甲子園球場を本拠地とする阪神タイガースの存在は、特に関西において、そして私の住む下町である神戸市兵庫区周辺においては人々の心に強い影響を与えてきた。その存在は、まさに「地域の文化資産」に値するのである。
1.基本データと歴史的背景
阪神タイガースとは…
創立・89年
生みの親・外山 修造氏(阪神電気鉄道初代代表)
運営法人・株式会社阪神タイガース
親会社・阪神電気鉄道
現監督・岡田 彰布氏
阪神甲子園球場とは…
設立・100年
所在地・兵庫県西宮市甲子園町1-82
所有、管理、運用する者・阪神電気鉄道
最寄駅・阪神本線「甲子園駅」
収容人員・42,600人程
歴史的背景
1924年、全国中等学校優勝野球大会(現在の高校野球)の人気の高まりより、その開催を目的として、日本初の大規模多目的野球場として阪神甲子園球場が建設される。1934年、大日本東京野球倶楽部(現在の読売ジャイアンツ)が発足し、職業野球繁栄の兆しにより、翌年に阪神タイガースが誕生する。そして、日本プロ野球でフランチャイズ制が導入された1948年頃より大阪タイガース(現在の阪神タイガース)が阪神甲子園球場を本拠地とする。今年で阪神タイガースが阪神甲子園球場を本拠地として76年となる。
阪神タイガースの発足当初のチーム名は「大阪野球倶楽部」、翌年より「大阪タイガース」として活動。第二次世界大戦の頃は、「タイガース」が敵語だったため「阪神軍」として活動。1961年より正式に現在の「阪神タイガース」というチーム名となった。
2.事例のどんな点について積極的に評価しているか
18世紀頃、時代をリードする思想として、フランスで生まれた「啓蒙主義」へと傾倒しまいと世界各国で生まれた対啓蒙主義的、対覇権主義的、対普遍主義的、対中心的な観点、またはそれにより切り取られた研究対象のことを指し、本来の民俗学の本質であるどのような集団にも存在し、その集団が所有する知識のことを指す言葉に「ヴァナキュラー」というものがある。関西、特に私の住む神戸の阪神タイガースファンの阪神タイガースへの想いは、まさに「ヴァナキュラー」なのである。例えば、私の身近なところだと、家庭内における父からの阪神タイガースを通した野球の英才教育、バイト先や職場での互いに阪神ファンであるからこその生まれる一体感、社交の場をさらに盛り上げるという地域の人同士のコミュニケーションツールとして阪神タイガースが存在している。神戸という地域に阪神タイガースという「ヴァナキュラー」が存在し、それぞれの人間関係をつくる場面において派生し、新たな「ヴァナキュラー」として存在しているのである。神戸の人々が所有する知識に阪神タイガースがあり、それを愛する気持ちは親から子、友から友へと確実に受け継がれているのである。もはや、阪神タイガースは神戸における伝統行事なのである。
また、阪神タイガースのファンコミュニティの1つに「阪神タイガース公式ファンクラブ」がある。強面なイメージのある虎をモチーフにした愛くるしいマスコットキャラクターをはじめ、社会への働きかけとして幼稚園訪問、子育て支援や各官庁関係の告知アナウンスを阪神甲子園球場で実施している。また、タイガースアカデミーでは野球指導だけにとどまらず、ダンススクールを開講し、競技者だけではない野球への愛情を持った野球ファンの育成に力を注いでいる。社会がよりよい方向へと進んでいくための働きかけは地域の人々、ファンの方々の信頼を形づくるのである。地道なコミュニティ活動の積み重ねが多くの野球に造詣の深いファンを生み出しているのである。
3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか
阪神タイガースは89年という球団の歴史のなかで、日本一を2回、リーグ優勝を10回と決して他球団と比較して多くない数の優勝回数である。そして、1987年から2001年は暗黒時代といわれ、チーム成績が著しく低迷していた。そんな過去をもつ球団だが、それでもなおなぜ多くのファンが応援し続けているのだろうか。共に日本プロ野球界を盛り上げてきた読売ジャイアンツとの比較を通して、探っていこう。
読売ジャイアンツは、東京ドームを本拠地とする球団で阪神タイガースと同じセントラル・リーグに所属している。阪神タイガースより1年先輩で90年という球団の歴史を持ち、日本一22回、リーグ優勝47回と阪神タイガースとは比にならない程の輝かしい成績である。1965年から1973年には王 貞治氏、長嶋茂雄氏を擁して9連覇を果たした。常勝巨人軍というイメージが確立されたのである。
大きく阪神タイガースと異なる点は地域性、そしてチーム成績である。読売ジャイアンツのファンは関東圏に集中しているといわけではなく、全国に分布している。それに対して阪神タイガースのファンは関西圏に集中しているのである。関西では地元の情報番組や、コンビニに置いてあるスポーツ新聞(主にデイリースポーツ)などで阪神タイガースの特集が頻繁に組まれたり、公式スポンサーである上新電機株式会社や株式会社ローソンなど街に繰り出せば、阪神タイガースのロゴを必ず目にするといっても過言ではないのである。また、チームの成績が低迷し、たとえ弱くても同じセントラル・リーグに属する読売ジャイアンツに立ち向かう姿は、地元関西人の東京への反骨精神に訴えるものがあったのである。絶対的な強さを誇る読売ジャイアンツに対する阪神タイガースの存在は、対覇権主義的、対中心的な存在であり地元ファンの人々の応援の熱量はさらに増していったのである。
4.今後の展望について
これまでの50年、いや100年あまりという阪神タイガースが存在してきた歴史のなかで、関西の人々、そして私の住む神戸という地域のあいだで所有する知識として確実に阪神タイガースが存在してきた。それは、親から子、祖父母から子、友人同士で受け継がれてきた日常に潜む伝統行事である。今後も変わらず50年、100年と受け継がれ、その過程で多くの人々の阪神タイガースへの愛が生まれることを渇望するのである。
また、公式ファンクラブは今年度で創設24周年を迎え、競技者だけにとどまらない野球ファンの育成に注力している。ダンススクールや球団の地域活動など若い人々が野球以外のものから野球への接点を持つことは、今後の日本の野球ファンの人口の増加につながるはずである。明るい日本野球界の未来を渇望するのである。
5.まとめ
勝っても負けてもファンの人々は阪神タイガースを見捨てない。負けた方が阪神タイガースファン特有の熱くなり過ぎるが故のヤジが生まれ、阪神タイガースへの愛は熱を帯びていくのである。関西圏における阪神ファンほど日常に地元のプロ野球チームが浸透している地域はないのである。高校球児たちの夢の舞台である阪神甲子園球場が本拠地であることによる関西圏全体の野球熱の高さもその要因である。また、球団自体の地道なコミュニティ運営もその一つである。学校や仕事、家事や育児などの日常を生きていくうえで、共に戦う同士として関西の人々の日常に阪神タイガースは寄り添ってきたのである。阪神タイガースへの想いは千差万別だが、その想いが人々の行動となり、阪神タイガースという「地域の文化資産」に値する存在を形づくってきたのである。
6.さいごに
今回の調査、執筆にあたり、阪神タイガース愛溢れる神戸という地域で私を育ててくれた両親、阪神タイガースというヴァナキュラーを通して私と関わってくれた神戸の人々、日本プロ野球を運営している日本野球機構(NPB)をはじめ日本プロ野球界を盛り上げてきた多くの人々に感謝いたします。そして、これから就職し新たな人生のフェーズに入る私の日常にも今までと変わらず、阪神タイガースは存在し続けるのである。
本大学での学びを糧に今後の人生を歩んで参ります。ありがとうございました。
参考文献
島村恭則『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』平凡社新書、2020年。
阪神電車『阪神甲子園球場100周年記念サイト』2024年、http://www.hanshin.co.jp/koshien/100th/
(2024年7月25日閲覧)
阪神タイガース公式『阪神タイガース公式サイト』、http://m.hanshintigers.jp
(2024年7月25日閲覧)
阪神タイガース公式『ファンクラブ』、http://m.hanshintigers.jp/fanclub/
(2024年7月25日閲覧)
読売ジャイアンツ公式サイト『ジャイアンツ』、http://www.giants.jp
(2024年7月25日閲覧)
npb.jp『NPB』、http://npb.jp
(2024年7月25日閲覧)
阪神タイガース公式『阪神タイガース球団創設89周年記念「Thank you、89!野球よ、ありがとう。」特別企画について』http://m.hanshintigers.jp/column_news/13554
(2024年7月25日閲覧)