下町の遊園地「あらかわ遊園」 地域の人々とのコミュニケーションをつなぐデザインの思考

福田 佳子

1.はじめに
東京都荒川区は下町情緒の残る街である。東京に唯一残る路面電車の都電荒川線は区内の中央部を東西に走り、地域の人々の足としての利用はもちろんのこと、日帰り旅行気分も味わえる魅力的な電車である。その沿線にある「あらかわ遊園」は、全国でも珍しい、都内唯一の区営の遊園地である。大正11年(1922年)、民間経営として始まった遊園地「荒川遊園」の開業から数えると、100年以上も続く老舗の遊園地なのだ。遊園地としての規模は小さいが様々な楽しみが凝縮されており、小さな子供からお年寄りまで幅広い世代に親しまれている。子育て世代にやさしいデザインが多く、地域の人々だけでなく観光客にも親しまれている。あらかわ遊園と地域の人々をつなぐコミュニケーションはどのようなデザインであるかを思考する。

2.基本データと歴史的背景
名称:あらかわ遊園
所在地:東京都荒川区西尾久六丁目35番11号
開業:大正11年(1922)5月
面積:約30,000㎡
施設:遊戯施設(6種類)、複合遊具(数種類)、ポニー乗馬・小動物ふれあい施設、しばふ広場、釣り堀、水遊び施設、室内遊び場施設(1か所)、都電車両模型展示室、ワークショップ施設、飲食・グッズ販売施設(3店舗)、野外ステージ、都電車両でのカフェ施設、子どもプール(夏季限定)[註1](資料1)(資料2)

あらかわ遊園の歴史は、大正11年、レンガ工場跡地の持主、広岡勘兵衛氏[註2]が開通後まもない王子電車(現、都電荒川線)に着目し、当時の王子電気軌道株式会社に援助を得て、区民の精神慰安と身体健康増進の為に民営遊園地「荒川遊園」として開園する。遊園地は隅田川(旧荒川)に面しており、川の水や井戸水を利用し大池を作り、滝・築山・池・観月橋・総檜展望台などがあり、避暑地として「城北の名園」で親しまれていた。[註3]
昭和7年、不況の為経営困難となり、荒川遊園は王子電気軌道株式会社の所有となる。しかし、第二次大戦の勃発により施設は余儀なく閉園し、敷地内に高射砲陣地が設置されるが敗戦後は荒廃となった。昭和18年東京都制実施、企業整備に伴い、関東配電株式会社の所有となる。その後、企業の整備に東京都都市計画決定に基づき緑地帯建設指定区域となり、児童福祉法に基づき、昭和24年(1949)「荒川区立児童遊園」が設置された。さらに昭和25年(1950)3月に「都市計画荒川遊園」として指定されたことにより、児童総合遊園地として施設を拡大し、同年8月に都内初の「荒川区立荒川遊園」として改める。
遊園内には、飛行塔・豆汽車・豆自動車・木馬・釣り盛・その他の遊戯施設やローラースケート・プールなどの体育施設や、小動物園・花園・薬草園・売店などがあった。その後も、「あらかわ遊園」名称の改め、施設の整備や拡大、リニューアルを繰り返しながら、入園者数は伸びている。[註4]
現在は、のりもの広場大改修、園内や遊具のライトアップ設置など、3年5カ月の休園工事を経て、令和4年(2022)4月にリニューアルオープンしている。

3.評価点
ひとつは、あらかわ遊園は子ども目線のデザイン空間である。ファミリーコースターのデザインは子どもにも親しみやすい「いも虫型」であり、3歳以上の子どもから乗ることができる最高時速13.8Km/hの日本一遅いコースター(自称)がある。メリーゴーランドの乗り物は、通常多い馬や馬車以外にイルカ、パンダ、恐竜のデザインもある。この点を、荒川区子ども家庭部荒川遊園課 藤井氏(以降、藤井氏)によると、「ファミリーコースターは、限られた敷地内で小さな子どもから楽しく遊べるという理由をもとに機種の選定をおこなっている。メリーゴーランドについては、荒川区内の保育園、学童クラブ、ひろば館の子どもたちにアンケートを実施し、人気のあった生き物から選定している」と述べている。(資料3)
また、荒川に隣接しているため水の施設も多い。水あそび広場は通年利用可能であり、釣り堀は、開業の頃から人気の施設である。ウォーターシューティングライドは、燃えたビル(出火はイラストで表現している)の的に、大きな水鉄砲で火を消す施設である。これについても、藤井氏によると、「あらかわ遊園は、親水性のある都市公園というコンセプトがあり、水あそび広場、スワンの池、掘割、釣り堀の水は、隅田川から汲み上げた水を浄化して使用している。ウォーターシューティングライドについては、子どもは水遊びが好きという考えのもと整備している」と述べている。(資料4)
このようにあらかわ遊園は、子どもたちに調査し、子どもの目線に合わせたデザイン空間を提供していることが優れている要因である。

もうひとつは、地域の行事に組み込まれた多様な空間デザインである。荒川区内の保育園・幼稚園などでは、必ずと言って良いほど、あらかわ遊園に遠足に訪れる。区内にあるという立地もあるが、子ども目線でデザインされた園内や施設は、子どもを安心安全に遊ばせられる場所であり、ちょうど良いサイズ感であるからだ。また、アリス広場は、観客席800席ほどの半円形の屋外ステージであり、隅田川を後ろに広々とした解放感のある空間デザインとなっている。ここでは、子どもに人気なキャラクターショーを開催だけでなく、地域のイベントや、パフォーマンス、ワークショップに利用される場所である。遊園地以外の目的でも利用可能な空間デザインとなっている。(資料5)

4.あらかわ遊園と浅草花やしきを比較して特筆される点
地域の人々や観光客とのコミュニケーションをデザインでつなぐ下町の遊園地は、東京都台東区にも存在する。開園は嘉永6年(1853)に開業し、170周年の歴史である、日本最古の遊園地「浅草花やしき」である。全国的に有名な浅草寺と繁華街あり、年中賑やかな観光地なのだ。そんな中に存在する浅草花やしきは、スリリングな乗り物やお化け屋敷などの施設が多く、若者たちを引き付ける、「繁華街に合う華やかなデザインの乗り物が特徴の遊園地」と言える。観光客に特化した遊園地であることがわかる。(資料6)
その点、あらかわ遊園は、下町の住宅街の中に存在することもあり、施設はすべてゆったりとした速度の乗り物や遊び場であり、小さい子どもから遊べる「子育て世代に合ったデザインの乗り物が特徴の遊園地」と言える。
また、荒川区と深い繋がりのある、川や水を利用したデザインを施設に取り込み、地域の特性を遊びながら知ることや、入園券を提示すれば、荒川区内のお店でお得なサービスを受けられるデザインは、地域の人たちを繋ぐための絶好のコミュニケーションである。(資料7)これらは、あらかわ遊園の特筆される点である。

5.今後の展開
遊園地内を利用したイベントデザインが必要である。例えば、釣掘りを利用した釣り大会、水あそび広場を利用して、自作した船でタイムを競う大会、夜の動物園など、親子で参加できるイベント開催の充実化である。また、動物を深く知るための観察会や子どものワークショップ開催など、学べる場所としての役目もこの遊園地の特徴になると考える。
園内はバリアフリー構造で、観覧車・豆汽車・メリーゴーランドは車椅子のまま乗車することが出来るように、障がいを持った人も一緒に参加できる企画にすることも忘れてはならない。また、子どもに寄り添える優しい遊園地であるならば、高齢者向けのイベントも開催可能ではないだろうか。少子高齢化の現代には必要と考える。
さらに、屋外施設が多いことから、雨天でも楽しめる施設の変更や拡大も検討の余地があると考える。地域内外の子どもや高齢者に特化したイベントデザインとして新たな発展に期待したい。

6.まとめ
あらかわ遊園がこれまで荒川区の地で営業を続けられた理由について藤井氏によると、「昭和24年(1949)より荒川区が管理運営を行い、子育て世代をメインターゲットにした取り組みが、区民をはじめ多くの方々に支持されたからと考えている。今後も、基本的なコンセプトは変わらず、子育て世帯に寄り添った園にしたい」と述べている。
子育て支援の拠点施設や観光・レクリエーションの発信基地としてのデザイン空間と、荒川区下町の景観に合わせた地域に愛されるデザイン空間が合致したことにより、長きに渡り人々を楽しませてくれたことで、これまで長く営業が続いたと言えよう。今後もあらかわ遊園は、コミュニケーションの活性化につながるデザインを生み出す場所であると考える。

  • 81191_011_31881077_1_1_【資料1】観覧車とメリーゴーランドとスカイサイクル 【資料1】 あらかわ遊園 観覧車とメリーゴーランドとスカイサイクル
     観覧車は、昭和29年に登場して以来、遊園のシンボル的存在である。当初はゴンドラ8基の小さなものだったが、現在の観覧車は、高さ40m、ゴンドラ28基あり、約9分で1週する。ゴンドラ内には、タブレットが設置され、景色の説明や、荒川区のイベントの情報を得られる。メリーゴーランドは、車椅子のまま乗車が可能である。スカイサイクルは、地上約5mの高さがある場所もあり、園内中で一番スリリングな乗り物かもしれない。電動アシスト付きのため子どもも乗車可能である。(2024年1月3日、筆者撮影)
  • 81191_011_31881077_1_2_【資料2】あらかわ遊園 園内マップ 【資料2】 あらかわ遊園 園内マップ
     遊園地の規模としては小さいが、さまざまな施設が整っている。(2024年1月3日、筆者撮影)
  • 81191_011_31881077_1_3_【資料3】 ファミリーコースターとメリーゴーランド_page-0001 【資料3】 あらかわ遊園 ファミリーコースターとメリーゴーランド
     荒川区子ども家庭部荒川遊園課 藤井氏によると、「ファミリーコースターはイタリア製で、限られた敷地内で小さなお子様から楽しく遊べるというコンセプトをもとに、国内外を問わず機種の選定されたものである。メリーゴーランドは、定番の馬以外に、区内の子どもたちのアンケートにより人気であった、パンダ、イルカ、恐竜を採用している。」と述べている。どちらもカラフルな乗り物で、何度乗っても楽しい工夫がされている。(2024年1月3日、筆者撮影)
  • 81191_011_31881077_1_4_【資料4】 水の施設_page-0001 【資料4】 あらかわ遊園 水の施設
     水あそび広場は、子どものひざ下程度の浅瀬で、緩やかな傾斜があり、春から秋にかけて水遊び好きの子どもたちが集まる。釣り堀は、貸し竿・釣り餌が用意されており、気軽に遊ぶことが可能である。ウォーターシューティングライドは、中央の建物にある炎の的にめがけて放水し、点数を獲得する施設である。スワンの池の中央には、めがね橋がかかり、訪れた人々に癒しの場所として親しまれている。(2024年1月3日、筆者撮影)
  • 81191_011_31881077_1_5_【資料5】アリスの広場 【資料5】 あらかわ遊園 アリスの広場(水上ステージ)
     園外の水辺の広場であるが、あらかわ・リバーサイド・ステージの頭文字をとって、アリスの広場と名付けられた。目の前の隅田川沿いの欄干には、グロッケン(鉄琴)が設置してあり、左端の鍵盤から叩いていくと、滝廉太郎(1879~1903)作曲の『花』を演奏することが出来る。「春のうららの隅田川」からはじまる歌詞の通り、あらかわ遊園も含めこのあたりも桜の名所である。またここは、水上バスの発着地(不定期)もある。(2024年1月3日、筆者撮影)
  • 81191_011_31881077_1_6_【資料6】 浅草花やしき_page-0001 【資料6】 浅草花やしき 
     浅草下町は昭和時代のデザインが今なお多く、浅草花やしき園内も昭和時代にタイムスリップしたような乗り物と施設である。そのコンセプトを壊さず、入園口も昭和のデザインで統一されている。浅草花やしきは、元々「花屋敷」という植物園から始まったこともあり、今でも園内には多くの植物が育てられている。また、遊園地内にある、バッテリーカー「パンダカー」の発祥の地であり、現在も乗ることができる。(2024年1月7日、筆者撮影)
  • 【資料7】 あらかわ遊園チケ得サービス事務局公式パンフレット(抜粋)2022年。(2024年1月3日、あらかわ遊園内配布)
    出典:【公式】あらかわ遊園チケ得サービス事務局(一般社団法人荒川区中小企業経営協会)ホームページhttps://arakawa-ticketoku.com/ (2024年1月3日閲覧)
    (非公開)

参考文献

【註釈】
[註1]
 施設の詳しい内容は、のりもの広場(観覧車・メリーゴーランド・豆汽車・ファミリーコースター・ウォーターシューティングライド・スカイサイクル)、その他遊具(屋外トランポリン・バッテリーカー数種類)、どうぶつ広場(ウサギ・モルモット・子ヤギ・子羊・アルパカ・カピバラ・フクロウ・ミーアキャットとのふれあいコーナー)、ポニー乗馬、しばふ広場(大小複数の滑り台などの複合遊具)、わくわくハウス(飲食店・子ども室内遊び場)、ふれあいハウス(都電車両模型展示・Nゲージ車両模型展示&操作体験・ワークショップ)、もぐもぐハウス(飲食店・グッズ売り場)、釣り堀(金魚が釣れる)、水遊び広場(通年)、都電車両(旧6000系の一休さん号)カフェ、アリス広場(野外ステージ)、子どもプール(夏季限定)、夜間開園・イルミネーション点灯(実施曜日あり)となる。

[註2]
 江戸時代、この一帯には江戸の近郊農村という場所ということから、政治・経済・文化との繋がりから大名屋敷があった。明治時代になると煉瓦工場が立ち並ぶことになるが、理由としては隅田川沿いのこの場所では、煉瓦に適した土が採取出来たことと、海上輸送が整った場所であったからである。広岡勘兵衛氏の経営していた広岡煉瓦工場もそのひとつの工場ではあったが、出火し全施設が消失している。

[註3]
 園内には、貸しボート、水上自転車、飛行塔、大浴場、映画館、各種子どもの乗り物や運動器具もあり、猿・熊・鶴・孔雀等のいる動物園もあった。

[註4]
 昭和28年度の入園者数は、36万人程であった。その後、昭和40年代には3年前に設置した小温室を大温室にリニューアルし、弓道の施設整備をおこない、昭和61年(1986)からは、遊園地が隅田川沿いにあることから、「土と緑豊かなスーパー堤防事業」と合わせて、施設老朽化にともなう全面改造工事をおこない、釣り堀・どうぶつ広場、のりもの広場のリニューアルや、平成3年(1991)に、水あそび広場、アリスの広場(野外ステージ)なども完成し、生まれ変わった「あらかわ遊園」がオープンし、同年入場者数は年間57万人となる。平成5年(1993)にはスポーツハウス、平成6年(1994)には地下駐車場が設置されることにより、車での来園対応も可能になり利用者層も増え、平成11年(1990)には、入園者が延べ2,000万人を超えている。平成16年(2004)には、ティーカップ、平成17年には、日本一遅いファミリーコースターをリニューアルする。


【参考文献】
生田誠著『図説 なつかしの遊園地・動物園』河出書房新社、2022年。
山下ルミコ著『都電荒川線 沿線ぶらり旅』フォト・パブリッシング、2021年。
佐々木隆著『日本懐かし遊園地大全』辰巳出版、2018年。
内山正雄・蓑茂寿太郎著『東京の遊園地』郷学舎、1981年。
中島恵著『テーマパーク事業と地域振興』三恵者社、2021年。
小沢詠美子著『江戸ッ子と浅草花屋敷―元祖テーマパーク奮闘の軌跡―』小学館、2006年。
ACC財団法人荒川区地域振興社編集発行『あらかわ遊園開園60周年記念 写真で見る60年のあゆみ』2011年。
荒川区民俗調査団編集『荒川区民俗調査報告書(二)尾久の民俗』東京都荒川区教育委員会、1991年。
荒川区発行『るるぶ特別編集 荒川区 あらかわ遊園・尾久』JTBパブリッシング2022年。

『あらかわ遊園』https://www.city.arakawa.tokyo.jp/yuuen/(2024年1月26日最終閲覧)
『浅草花やしき』https://www.hanayashiki.net/(2024年1月26日最終閲覧)
『あらかわ遊園チケ得サービス事務局(一般社団法人荒川区中小企業経営協会)https://arakawa-ticketoku.com/ (2024年1月15日最終閲覧)

【取材協力】
荒川区子ども家庭部荒川遊園課 藤井氏(2024年1月メールにて実施)

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