「未来にむけた器と食のデザインプロジェクト 〜USEUM SAGA〜」

徳田 明紀子

1.はじめに
アネモメトリの特集#33「状況をデザインし、好循環を生みだす」で取り上げられた、有田焼とまちのプロジェクトに強い関心を持った。私自身が料理や食器が大好きで、ものの素材やデザイン、味・盛り付けなどにこだわりがあることも大いに影響している。今回の卒業研究では、世界への幅広い展開をめざす伝統的な有田焼に関して、器と食のイベントとしてアリタセラで開かれた「USEUM SAGA」の取り組みをテーマに調査報告したい。

2.有田焼とアリタセラ
2ー1.有田焼について
(1)地理的背景
佐賀県の西部に位置する有田町は、長崎県との県境に接し、町土の約7割を森林や山岳が占め、町を分断する形で有田川がある。有名な伝統工芸品の有田焼の産地で、谷あいの「有田千軒」と呼ばれる町並みは、1991年に国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された。また、「棚田」の景観をもつ稲作地で県下有数の畜産地でもある。有田町は、有田焼の「器」と農業の「食」、両方の魅力を堪能できる地域として、伝統と歴史の文化的価値と豊かな観光資源を生かした町づくりに取り組んでいる。

(2)歴史的背景
16世紀末、豊臣秀吉が朝鮮出兵を命じた際、派兵された鍋島氏は、朝鮮人陶工:金ケ江三兵衛(李参平)らを連れて帰った。金ヶ江三兵衛は、17世紀初頭に有田に移住、泉山で磁器の原料となる陶石を発見し、1616年に日本最初の磁器を焼いた。それ以降、多くの陶工たちによって一大産地を形成していった。17世紀半ばからヨーロッパに大量の有田焼が輸出され王侯貴族を魅了し、世界で名高く評価されるようになった。現在、有田焼は400年の伝統と技法を守り、さらに磨きをかけている。

2ー2.アリタセラについて
有田町にある「アリタセラ」は、有田焼関連の多数の専門店、ホテルやレストランのある複合施設である。季節を通じて様々なイベントがあり、毎年4/29〜5/5には全国最大級の陶器市「有田陶器市」が開催され100万人の来場者で賑わっている。

(1)専門店
22店舗にも及ぶ陶磁器ショップには、日用食器から美術工芸品まで用途に応じた陶磁器が集結している。国内外の先進的なデザイナーによるもの、伝統的な技術を継承するものなど多種多様な商品が見られる。

(2)ホテル・レストラン
2018年4月にオープンした「arita huis(アリタハウス)」はオーベルジュスタイルの宿泊施設で、レストランでは、旬の地元食材で彩られたメニューをさまざまな有田焼の器で楽しむことができる。コース料理の予約時に器を3タイプ(トラディショナル/コンテンポラリー/デザイナーズ)を選べる。また、食をテーマにしたイベントも開催され、佐賀県のクリエイティブプラットホーム交流・発信拠点整備事業として、海外のクリエイターらが長期滞在するレジデンス機能を備えるなど、観光客や地域住民に広く活用されている。

(3)食のイベント「USEUM SAGA」
2018年以降何回か行われており、美術館(MUSEUM)に飾るような人間国宝などの器を用い(USE)、佐賀の食材を才能豊かな料理人たちの技で仕上げた料理が楽しめる。「USEUM SAGA 2021 vol.1」は「arita huis」を会場に、普段手にすることがないような人間国宝などの器も登場している。料理は旬の佐賀の食材を使い、2人の若きシェフ(目黒浩太郎シェフ、増永琉聖シェフ)がコラボレーションする。

3.本事例を積極的に評価した理由
「USEUM SAGA」は、佐賀だからこそ表現できる食と器の新たな可能性を探る、地域・文化に密着した食のイベントである。佐賀県では、「有田焼創業400年事業」などを契機に、食材と器と料理人を組み合わせ、調和させることによって新しい価値を創造する「サガマリアージュ」事業に取り組んでいる。この取り組みの一つで、県内料理人と生産者、蔵元、器の造り手などが、互いの知識や技術、感性などを共有する研究会「サガマリアージュラボ」も「arita huis」で立ち上がっている。新たな交流やつながりから生み出されるクリエイティブな活動は、未来にむけた食のデザインプロジェクトとして評価できる。

4.他の同様の事例との比較
4ー1.岐阜県における器と食のイベント
(1)概要
「国際陶磁器フェスティバル美濃」は、日本を代表する陶産地である岐阜県多治見市・瑞浪市・土岐市・可児市を舞台に、1986年から3年に1度開催している世界最大級の陶磁器の祭典である。メインテーマは「土と炎の国際交流」で、陶磁器のデザインと文化の国際的な交流を通じて陶磁器産業の発展と文化の高揚を目指している。メインイベントの「国際陶磁器展美濃」は、国際的に認知された陶磁器コンペティションであり、世界中の国と地域の作品が一堂に会する。

(2)特徴
「国際陶磁器フェスティバル美濃’17」では、美濃焼の歴史や魅力、地域の風土を楽しめる産業地域振興事業を多数開催され、その中の一つ「和食と美濃焼」では、地元食材を中心とした本物の「和食」、地元の窯元で作った本物の「美濃焼」を提供した。料理は「元赤坂ながずみ」の小河雅司氏監修による地元食材を中心とした和食で、メイン料理人には地元の日本料理店「優月」の三宅輝シェフを迎えた。器は、地物の伝統ある窯元に協力を得て制作した。

4ー2.各事例からみる共通点と異なる点
(1)共通点
佐賀、岐阜のどちらの事例も国内の有名な伝統工芸品である地元の陶磁器に、地元食材による特別料理を組み合わせ、有名シェフや料理人とコラボレーションする趣向をこらしたイベントである。地域はもとより全国の陶磁器ファンやグルメファンの注目度も高い。

(2)異なる点
佐賀の事例は若手シェフによる有田焼&フランス料理だが、岐阜の事例は美濃焼&日本料理である。日本の伝統工芸として美術性の高い陶磁器は、懐石料理など高級和食に用いるイメージが強いが、佐賀のイベントは世界のガストロノミーを意識してフランス料理である。若手シェフによるクリエイティブで自由な料理に合わせて、伝統的あるいはモダンな有田焼を用いる柔軟な発想は面白い。

4ー3.特筆すべき点
「USEUM SAGA」は、食材を提供した生産者たちもイベント前後に交流し、若手シェフの目新しい斬新なアプローチによって料理されたものを試食することで、佐賀県の食材が持つ可能性に気づく学びのイベントとなっている。また、佐賀県は、県を挙げて料理人支援に力を入れ、世界から注目される美食の街へと成長することを目指しており、伝統工芸の有田焼とともに世界への発信に取り組んでいる。地域全体での器と食に対する積極的な活動が確実に進んでいる。

5.今後の展望について
有田ならではの美しい器と洗練された料理による、そこでしか味わえない特別な美食体験は、ハイクオリティーにこだわる国内外の人たちを魅了するものと考える。有田焼創業400年事業で世界に高く評価された「1616/arita japan」「2016/」ブランドのように、器も食も未来にむけた意義のあるデザインプロジェクトに挑戦し、世界への発信を強めることで、佐賀県・有田は唯一無二の場所として、特別な価値観を訴求することでこれまで以上に注目されるにちがいない。

6.まとめ
未来にむけた器と食のデザインプロジェクト、をテーマに調査を進めることで、伝統工芸品を鑑賞する素晴らしさだけではなく、実際に触って感じるという上質な味わい深い体験をより多くの人に知ってほしい、という気持ちが強くなった。USEUM SAGAは、ひとが集まり交流することで、地域をよりよい方向に変えていくことが期待できる。今回、USEUM SAGAを体験する計画でいたのだが、コロナ渦で実地調査に至らず非常に残念である。今後ぜひ訪問して引続き学びを深めていきたい。

  • 1-1
  • 1-2
  • 1-3 有田焼を筆者自身が購入したり、ショップに展示を見に行くなど、実際に器に触れた体験

参考文献

参考:以下ホームページ

ありたさんぽ 有田観光協会ウェブサイト
https://www.arita.jp/aritaware/

アリタセラ
https://www.arita.gr.jp

USEUM SAGA
https://www.useumsaga.com

muto USUEM SAGA2021レポート
https://muto-web.com/article/13364/

ARITA EPISODE2
http://arita-episode2.jp/ja/topics/002.html

1616/ Arita Japan
https://1616arita.jp

2016/ Arita
http://www.2016arita.jp/?lang=ja

ミシュラン一つ星シェフ×地元の伝統ある窯元が手掛ける”本物の美食”「和食と美濃焼」開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000027185.html

国際陶磁器フェスティバル 美濃
https://www.icfmino.com/archive/2017_detail/

~30年以上続く世界最大級の陶磁器の祭典~『国際陶磁器フェスティバル美濃’17』開会式レポート
https://www.excite.co.jp/news/article/Prtimes_2017-10-05-27185-3/

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