下村 泰史 (准教授)2017年3月卒業時の講評

年月 2017年3月
卒業研究レポートを執筆された皆さん、お疲れ様でした。そして無事卒業なさった皆さん、おめでとうございます。
他の先生も書かれていると思いますが、ここで発表されているのは、公表同意があったものに限られています。またレポートの評価についてはこのサイトでは一切触れられていません。ここに掲載されている以外にも多くの優れた作品があったこと、またここに載っているからといって優秀作という訳ではないということを、サイトの来訪者の方のためにも触れておきます。
この卒業研究レポートというのは3200字程度のものですから、ヘビーな卒業論文というのとはやや趣の異なるものです。字数的にはある程度埋まってしまう分量です。ですから「力作」かどうかというのは字数ではまったく測れません。しかし、並んでいるレポートを読んでいただければ、ひきこまれ、なるほどという気持ちになる、厚みと迫力を感じるものと、そうでもないものとがあることはお分かりいただけると思います。なぜこんなことを書くのかというと、これからここで勉強したいと思っていらっしゃる方や、すでに在学していてこれから卒業研究に取り掛かろうとしている方に、どのようなものが説得力を持ちえ、「力作」になりうるのかを、考えていただきたかったからです。
今回私は21件のレポートの講評と評価を担当しました。日本各地の面白い事例を知ることができるので、とても楽しく拝読しました。
やはり引き込まれるのは

・綿密な事前調査(史資料等文献調査)の上で、問題意識に基づいた現地調査(観察・インタビュー)がなされているもの
・そのことによって、事例の姿がいきいきと立ち現れているもの

です。もちろんそこに筆者自身のまなざしや思考が欠かせないものとして介在しています。ですから逆にいえば、「本やウェブ等の調べ物にちょっとした意見ぽいものを加えたもの」「自分の思い込みだけで書いてしまったもの」は、そうした厚みの感じられないものになっています。それぞれのレポートがそのどれにあたるか、読みながら考えていただければと思います。
これらのレポートを読んで、「これが芸術教養なのだろうか?」という疑問を持った方もいるかもしれません。普通の意味でのアートやデザインが取り上げられているものはそれほど多くないからです。芸術教養学科ではスノッブな「アート通」を育てようとしている訳ではありません。もちろん古今東西の芸術について学びますが、それは未だアートともデザインとも名付けられていないような表現や企図を、見出しそれについて語れるようになっていただきたいと思っています。集客や収益、あるいはもろもろの客観的データでのみ語られそうになっているものに、アートやデザインの思考から別のコミュニケーションの可能性を作り出せること。そのような視点や伝えるための技を身につけてほしいと思います。
「これが芸術教養なのだろうか?」という問いに対して、今回ここに紹介した作品の中にも、堂々と応えているものがあると思います。ここを読まれている皆さんには、是非探し出してみていただきたいと思います。