岩元 宏輔(准教授)2024年9月卒業時の講評

年月 2024年10月
卒業研究のレポートを執筆された皆さま、大変お疲れさまでした。芸術教養学科における学びの集大成として「特定のデザイン・芸術活動やその成果としての地域の文化資産についての考察」を行い、「自身の問題関心に沿ったデザイン・芸術活動の報告書」として「文化資産評価報告書」を作成していただきました。各自が選んだテーマに基づいて進めた研究は、試行錯誤の連続であり、同時に多くの学びを得る機会でもあったのではないでしょうか。調査対象の選定に迷い、何度も方向性を見直した方や、インタビューで予期せぬ出会いを経験された方もいるでしょう。そうしたプロセスの中で、皆さんが得た実りは、単なる研究の成果にとどまらず、今後の人生においても大きな糧となるはずです。今一度、研究の全体を振り返り、当初の興味がどのように変化し、自身の視点がどれほど広がったかを感じていただければと思います。

今回、私が担当させていただいたレポートの題材は以下のとおりです。

・江戸切子
・井波彫刻
・三川内焼
・首里織
・桐生織
・大阪浪華錫器
・木版印刷
・富士ヒノキ
・陶磁器の銅版転写技法
・おおたけ手すき和紙保存会
・長岡まつり大花火大会
・さいたま竜神まつり会
・清和源氏まつり
・越前鯖江のイベント「RENEW」
・中馬のおひなさん
・ムサコたけのこ祭り
・沖縄アリーナ

伝統工芸品や特産物、伝統技術・文化継承コミュニティ、地域の祭り・イベントやイベント施設など全国各地のさまざま活動が取り上げられています。個人的にはこれまでと比較して、伝統工芸品や祭りに関する題材が多くあり、読み進める中で改めて各地域の取り組みを対比的に理解する機会ともなりました。それぞれの当事者たちの創意工夫や試行錯誤に思いを馳せ、各活動の特色から新たな発見がありました。みなさんが取り組まれた卒業研究は、このようにして読み手に学びを提供するものでもあります。

内容面については、卒業研究ということで、厳しめの評価・講評になった部分もあるかと思います。まずはレポートを書くうえで、「問われたことに答えていく」という基本的な姿勢を再確認していただきたいと思います。これは最近の芸術教養演習の採点時にも感じていることですが、設問とは異なる観点での項目立てをされて論じている、あるいは課題で求められていることについての抜け漏れがあるケースが散見されました。例えば「事例に対しての評価点を明記する」ということと、「国内外の他の同様の事例と比較した特筆点を明記する」ということがどちらか一方しか行われていなかったり、2つの項目で問われていることが混在した内容になっていることがあったりします。課題をしっかりと読み込み、何が求められているのかについて理解した上で取り組みを進めていくことが大切です。

一方で今回は独自の資料を作成されている方や、現地のインタビュー記録を添えていらっしゃる方もよく見受けられました。独自の資料からは、ご自身が調査対象とどのように向き合い、どのような切り口でまとめられたのかが、とてもよく伝わってきます。またインタビューの記録の中には、おそらく当事者だからこそ知りうる貴重な情報を、信頼を持って開示してくださったのだろうと感じられるやり取りもありました。地域に対する愛情が垣間見れたことは、地域貢献としても大変意義あることではないかと思います。このような調査姿勢は大変素晴らしいものであると考えています。

いずれにせよ、取り組んでくださった皆様については、いずれも卒業に値する取り組みであったことは間違いありません。芸術教養学科の学びが、これからの皆さまの「暮らし」に生かされていくことを心から願っております。ご卒業、誠におめでとうございます!