岩元 宏輔(准教授)2025年3月卒業時の講評

年月 2025年3月
卒業研究レポート「文化資産評価報告書」に取り組まれたみなさま、大変おつかれさまでした。3200字につめこまれたみなさんの学びの軌跡を、1つ1つ味わいながら拝見させていただきました。

私が担当させていただいたレポートのテーマや調査対象は以下のとおりです。(順不同)

・ 札幌市時計台
・ 円頓寺商店街
・ 昔ばなし語りべ集団
・ 加古川マラソン大会
・ みやのこしこまち
・ 博多灯明ウォッチング
・ 古着屋の街「高円寺」
・ 高知県「こいアニ」と「コニコス」
・ 今谷焼
・ 西川材
・ 「福岡のコーヒーのある空間」
・ 宇津救命丸
・ 祇園祭
・ 余喜の能登獅子
・ 熊谷うちわ祭
・ インド「タラブックス出版」
・ 大室山
・ コザ・スタートアップ商店街
・ ARUYO ODAWARA
・ HELLO GARDEN
・ 教育現場におけるコミュニティデザイン
・ 大阪切子
・ カラマツチェンバロ
・ 居場所「カドベヤで過ごす火曜日」
・ 「慶應義塾図書館」及び「福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館」
・ 川崎市子ども夢パーク
・ 堺打刃物
・ 市民集団まちぐみ
・ 絹の道
・ 大倉山記念館
・ 根付
・ 龍門司焼
・ Gallery GEORGE
・ 樂茶碗
・ 想造楽工
・ 中目黒桜まつり
・ 豊橋筆
・ 世田谷文学館
・ 大阪欄間
・ 東武ワールドスクウェア
・ 江戸切子
・ (株)鈴与による静岡市の地方創生プロジェクト
・ 日泰寺
・ 招き猫から見る「せともの」と「これからの瀬戸市」
・ 旧大社駅舎
・ ブータン「ゲレフ・マインドフルネス・シティ」

全国各地の様々な事例に加え、今回はインドの出版社やブータンの都市計画など、まるで旅に出たかのように国内外の文化や芸術、デザインにまつわる興味深い取り組みに触れることができました。なかでも特に優れたレポートとして印象に残ったものを紹介します。

・居場所「カドベヤで過ごす火曜日」に見る、立場を異にする人々が共に過ごす時間と場のデザイン―
横浜市のレンタルスペースで定期的に行われている、誰もが立ち寄れる「居場所」を提供する活動を取り上げたレポートです。「時間のデザイン」「場のデザイン」という、芸術教養学科の学びでも取り上げられているまなざしから対象を見つめ、事例の意義を評価・考察しています。ほんの1時間ほど前までは見知らぬ人だったはずの人と、仲間として食卓を囲んでいるという状況はいかにして生み出されているのか。そうした取り組みが参加者に何をもたらすのかということなどについて、様々な取材記録などを踏まえて論じられていました。

・中目黒桜まつりが生み出す自律分散型ネットワーク――桜と地域文化が織りなす寛容なまちの形成――
都内有数の春の風物詩とも言える「中目黒桜まつり」を取り上げたレポートです。このイベントの発展の背景には「地縁者、新参者、来街者が主体的に関わるつながりの存在がある」とし、多様な関係者への取材や現地に足を運んでのフィールドワークを踏まえて「⾃律分散型ネットワーク」がいかにして形成されているか、ひいてはこの祭りの価値とは何かということについて論じられています。

他にも数多くの「心揺さぶられるレポート」がありましたが、やはりそのようなレポートからは、調査・研究に対する熱意・情熱や、調査対象に対する愛着・愛情が伝わってくるような気がします。卒業研究は、決して簡単ではない課題であったと思います。大変な労力をかけられた方もいらっしゃるでしょう。なかなか思うようなレポートを書けず、悔いが残っている方もいらっしゃるかと思います。しかしそうした紆余曲折や試行錯誤の甲斐あって、こうして一つの「文化資産評価報告書」を書き上げたという紛れもない事実を残すことができました。この経験そのものを誇り、糧にして、これからまたよりよい日々を紡いていかれることを心から願っております。