大谷 義智(准教授)2023年3月卒業時の講評

年月 2023年3月
卒業研究のレポート制作、大変お疲れ様でした。卒業研究のテーマは、「自身の関心に沿ったデザイン・芸術活動の評価報告書」を作成すること、つまりは、様々な地域で人々が築き上げてきた、何を評価し、何を残していくべきか、を考察することとも言えます。

一つ一つのレポートから、過去を見つめ未来を創造しようとする、真摯な姿勢を感じとることができました。その中のいくつかをご紹介したいと思います。

デジタル化が加速する昨今を反映してか、デジタルの過去と未来それぞれにまなざしを向けた2つのレポートです。

写真家でグラフィックス作家でもある八木博司氏と4名の塾生により京都から始まった「八木CG塾の活動」。2000年初頭、フィルムカメラからデジタルカメラへの変換が加速する中、「写真で絵を描く」という新しい概念を生み出し、アートの領域へと導いた彼らの足跡をたどるレポートです。今では当たり前になった写真加工、その背景には先人達の様々な活動と努力があった事を学ばせていただきました。

かたや未来に目を向け、資料のデジタル化やメタデータの構築の未来を考察した、「分野横断統合ポータル/ジャパンサーチの取り組み」のレポートです。検索する側の揺れと情報の揺れが響きあう未来は、すぐそこにきているのだと感じました。Chat GPT がニュースを賑わす昨今、「創造する」とは何かを改めて考えさせられるレポートでした。

3年続くコロナ禍、戦争、災害・・・2022年を反映してか、人と人とのつながりに目を向けた素敵なレポートがありました。

巣鴨地蔵通りを「笑店街」とネーミングし、巣鴨に暮らす人々と訪れる人々の関係性を深く考察したレポートです。人と人をつなぐコミュニティデザインの中には、「笑」のイベントが不可欠なのだということに、共感しならが拝読させていただきました。

「路地尊」を人と自然災害の繋がりを感じる建築と位置づけ、墨田区民が歩んできた災害の歴史と地域コミュニティの関係を考察したレポートです。災害はどこの国でも起こりうることです。しかしそこから人は学び、コミュニティーを強固にし、より豊かな生活を創造して行くのだと思います。読み応えのあるレポートでした。

ご紹介させていただいたレポート以外にも、素晴らしいレポートの数々が「芸術教養学科WEB卒業研究展」で読むことができます。卒業後も様々な学友のまなざしを、是非分かち合ってください。

皆様のこれからのご活躍に生かされることを願って、卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。