上村 博(教授)2020年9月卒業時の講評

年月 2020年10月
卒業研究に取り組まれたみなさま、お疲れさまでした。
例年私が担当するレポートは対象が多岐にわたっているのですが、今回はとりわけ国際色豊かでした。ドイツのモニュメントを考察したもの、グアムの祭日の特色を扱ったもの、台湾の風習をとりあげたもの、北米や中米の文化資産に関わるものなど、実に多様です。単に外国のものが多かったというだけでなく、全体的に良かった点でもありますが、それぞれ対象の扱いが具体的で、それを選ばれたかたが現地の情況をよく観察されたうえでレポートを書かれているのは大変良いと思いました。
芸術活動や文化的実践は伝聞や二次的資料から知りうるものは限られます。もちろん、ただ実見した、経験した、というだけでは土産話でしかありませんが、現象の背後にあるものを見抜くためにも、どのような空間で出来事が生じているのか、またその場での人々の動き、反応、感情はどうなのかなど、言葉になりにくい情報を得ておくことは大事です。さらに、個人の外部からの観察という以上に、関係者への丹念な聞き取りや、現地に保管されている資料の精査などに努められたかたは、その成果がレポートに結実していて、非常に読み応えがありました。
また、観察に際して、自分なりの観点を明示して考察されたかたもおいでです。今回、公開はされていませんが、ライブアイドルや香りのワークショップを扱われたかたには、イヴェントに参加するというだけでなく、ご自身の視点からイヴェントを分析しようとする強い姿勢が見られ、それも素晴らしいと思いました。
他方で、取り上げた事例の特徴を十分に語れているかというと、やや類似例のなかに埋没してしまいかねないレポートもありました。比較対照する際に、あきらかに性格が異なるものを取り上げると、かえって微妙な差異が消し飛んでしまいます。できるだけ共通する性質のものを選び、そのうえでさらに何が独特なのかを精細に考察することが、モノやコトの個性を際立たせてくれます。分類に終わるのではなく、その上での特徴分析を目指してください。