加藤 志織(准教授)2019年3月卒業時の講評

年月 2019年3月
2019年3月にご卒業される皆さん、学士号の修得おめでとうございます!教員の加藤志織です。おそらく、ここに到達するまでにひとかたならぬ努力を積み上げてこられたことと思います。この度の目標達成を心よりお祝いいたします。

 

では、私が今回担当いたしました卒業研究について、気づいた点を以下に総評としてまとめます。個別にお伝えしている講評文と共に復習に役立てていただければ幸いです。

 

文化資産として評価するために選んでいただいた事例は、どれもがたいへんに興味深く、知的好奇心をおおいに刺激するものでした。また、調査にたいへん時間を費やした力作が多くありました。非常に読み応えがあるものばかりでした。

 

こうした良い点が見られた一方で、改善の余地についても散見されました。一番気になったことは、まだ事例の概要を紹介する段階にとどまっている研究が多かったことです。事例が成立・展開した歴史的な背景や経緯を記述したり、事例に関わった人物・団体の苦労話等を紹介したり、あるいは事例に関連する複数のプロジェクトやイベントを説明したりするだけでは不十分です。

 

本課題が3200字という限られた字数であることを意識しましょう。故に、論点を1つに絞り、それにそって事例を深く分析し、その結果を客観的に述べることが求められます。しかし、それが十分にできているものは残念ですが多くありませんでした。例えば、Aという伝統工芸を取り上げるのであれば、その伝統工芸を保存・継承・発展させるための複数の試みを、あれもこれも同列に論じるのではなく、それらの中から特に優れた取り組みを1つ選択した上で、何故それが上手くいっているのかを分析・批判的に検証していただくことが、効果的な論考につながります。既知の事実を整理するだけではなく、独自の視点から分析・批判的に検証していただくことが重要です。

 

こうした研究を仕上げるためには、調査力と分析力に加えて、文章力や論文構成力も必要です。レポートのタイトルや「はじめに」で提起された問題が、順を追って合理的に論じられなければなりません。さらに、その流れの中に、①基本データ(所在地、構造、規模など)、②事例の何について積極的に評価しようとしているのか、③歴史的背景(いつどのように成立したのか)、④国内外の他の同様の事例に比べて何が特筆されるのか、⑤今後の展望、といった5つの点を互いに関連させつつ入れ込まなければなりません。

 

最後にレポートに付ける図や表などの資料についてお伝えします。これらを付けていただくことはたいへんに結構なことですが、レポート本文で十分な言及がなされていない画像が添付資料として付けられているものが多くありました。事例に関する情報を、字数制限のある本文ではなく、添付資料や参考文献欄に回して少しでも多く載せたいという気持ちは理解できますが、註、図、表というものは、あくまでもレポート本文を補足したり、その内容を読者が検証する際の手がかりにしたりするために付けるものです。したがって、添付された図や表については、きちんとレポート本文において説明しましょう。レポートの内容と図や表との間に、どのような関係があるのかよくわからない図や表が複数の方の卒業研究に見られました。註、図、表などについては、過不足なく、必要なものに限って付けることが必要です。

 

いずれにせよ、皆さんには既に基礎的な力が備わっています。今後のご活躍を楽しみにしています。