加藤 志織(准教授)2018年3月卒業時の講評

年月 2018年3月
卒業研究の提出お疲れさまです。本科目を担当しています教員の加藤志織です。

まずは卒業が決まったみなさん、おめでとうございます!1年次入学・3年次編入学共に、これまでの道のりは決して楽なものではなかったと思います。ここまで学習を積み重ねてこられた、その努力に心より敬意を評します。

では、私が担当した卒業研究の総評をおこないます。すでにお渡ししている個別のレポート査読結果(点数と講評文)とあわせて復習にお役立てください。

今回も興味深いさまざまな事例を取り上げて文化資産評価報告書を作成していただきました。それぞれに読み応えのあるレポートでした。

ただ、課題で求められている条件にそった論述が十分にできていないレポートが散見されました。レポートには必ず以下の5点、すなわち「基本データ」・「事例の評価ポイント」・「歴史的な背景」・「国内外の他の同様事例に比べて特筆されるポイント」・「今後の展望」を明記していただくことになっています。

しかし、基本データが不十分なもの、事例の評価ポイントが不明確なもの、歴史的背景の説明が不十分なもの、あるいは歴史的背景のみを必要以上に説明したもの、同様事例との比較が不明確なレポートが今回もありました。定められた要件を満たすレポートを書くように心がけてください。

本科目では、各自の関心・興味にしたがって文化資産評価報告書の作成をしていただくことになっています。その際、誰かの意見ではなく、自分自身のものの見方や考え方を客観的に論じていただくことが重要です。第三者の調査結果や考察結果に依拠しただけのレポートは課題の趣旨に反します。

ですが、既知の情報等をまとめた段階のレポート、事例の概要を紹介しているにすぎないレポートがいくつかありました。また3200字程度の紙幅で論述できることには限界があります。事例の選択は言うに及ばず、論点も可能な限り絞り込まなければ具体的で踏み込んだ考察になりません。「○○地方の□□産業について」というような漠然としたものではなく、「○○工房の□□製品にみられる商品開発」のように限定する必要があります。

論証方法についても述べておきます。取り上げた事例に関係する個人や団体がWEBや書籍等で述べていることを、そのまま何の検証もしないで論拠に挙げることには問題があります。当事者が語っているから、「事実」ということにはなりません。その発言内容が妥当であるのか、嘘や事実誤認あるいは誇張はないのか、きちんと確認し、その結果を踏まえた上でレポートに記述してください。

また、説得力のある論述をおこなう際には、多くの場合、事例に近づいてみる必要があります。製品であれば、実際に手に取ってみる、使用してみる、イベントであれば参加してみることが肝要です。実体験による裏打ちがない論考は浅薄なものにしかなりません。

最後にレポートの体裁上の問題点についても述べておきます。図版等の資料を付けていただくことは結構ですが、付けるのであれば、それがレポート本文の具体的にどの箇所を補足するものであるのかを示してください。先行研究や他人が作成した資料等を参照して書いた箇所には論文作法にしたがって註を付ける必要もあります。こうした点をきちんと認識しましょう。

卒業後も学びは続きます。芸術教養に磨きをかけて、これからの人生に活用していただければ幸いです。みなさんの今後の活躍を期待しています!