ひらかたパーク 生き残った老舗遊園地が切り拓く独自の魅力

吉田 真由美

1.はじめに
「ひらかたパーク」のある枚方市は人口約39万人、大阪府内で5番目に人口の多い市である。[註1]大阪府の北東部、大阪市と京都市のほぼ中央に位置し、市の西側には淀川が流れ、東側には生駒山系の緑が広がる住宅都市である。江戸時代には京都と大阪を結ぶ淀川三十石船の中継港とし、また東海道品川宿から数えて56番目、京街道の宿場町として栄えた歴史あるエリアである。[註2]

古くから市のランドマークとして存在し「ひらパー」の愛称で親しまれる遊園地「ひらかたパーク」がある。[資料1]
1912年(大正元年)[註3]に開園し、日本経済新聞によると「創業時から営業を継続している遊園地では日本最古となる。」[註4]とある。
同業他社が閉園していく中、大正、昭和、平成、令和の4時代、112年を生き抜く当園の魅力と文化資産としての展望を考える。

2.基本データ
名 称:ひらかたパーク
所在地:大阪府枚方市枚方公園町1-1
開 園:1912年(大正元年)
施 設:アトラクション39種・動物園(屋内・屋外)2箇所・ローズガーデン1箇所・屋外ステージ1箇所 他
料 金:入園料の他にアトラクション利用料(フリーパスあり)、イベント入場券、施設利用料などが必要
運 営:株式会社京阪レジャーサービス
株 主:京阪電気鉄道株式会社
アクセス:京阪電車「枚方公園駅」徒歩約3分
年間利用客:約103万人※2022年度
[註3・4・5・6・7] [資料2]

3.歴史的背景
3-1 創業期
「ひらかたパーク」は京阪電鉄が京阪電車の開業と同年の1910年に旅客誘致のための沿線開発の一環として開園した「香里遊園地」(寝屋川市)を前身とする。開園の目玉として当時東京で話題となっていた「菊人形」を誘致し、この地でのちの「ひらかたパーク」の看板興行となる「菊人形」が開催される。
「菊人形」は好評であったが、本体である京阪電鉄の業績不振から1912年に「香里遊園地」は売却され、現在の場所に移転し「枚方遊園地」として開園を迎える。

3-2 戦後復興、市との紛争
1944年に入ると第二次世界大戦の影響を受け休園を余儀なくされるが、1945年8月に終戦を迎えると翌1946年10月には場所を変え「ひらかた菊人形」は千里山遊園で復活する。その後、1949年再び枚方に誘致されたが、市と京阪電鉄の関係は土地の譲渡問題へ発展し、激化した両者の関係は数年に渡る紛争となる。幾度にも及ぶ交渉の末1952年に和解、土地は京阪電鉄に譲渡され枚方市の発展のための京阪電鉄の遊園地「ひらかたパーク」となる。

3-3 成長期と課題
園の整備を急ぎ進める京阪電鉄は、1955年「東洋一のバラ園」造営を目指し日本で唯一の英国王立園芸協会会員であった岡本勘治郎氏にバラ園造営の監督を依頼し、園内9,900㎡に大バラ園が完成する。
1960年には高度成長期を迎え遊園地としての整備が整い、この年より年中開園に踏み切る。1974年には入場者数は約160万人にのぼり黄金期を迎えるが、1970年代に登場したテレビゲームや、米国の大型テーマパークの国内誘致などによりレジャーの多様化が進み中堅遊園地も存続への対策が求められた。

3-4 拡大期・再成長にむけて
施設の老朽化、空間演出の課題に対応すべく園は1996年に大規模リニューアルを行う。園内のゾーニング、幻想空間の演出、新キャラクター、愛称「ひらパー」の呼称PRである。大規模リニューアルを経て一時期減少していた入場者数は1996年には前年比15.2%増の150万人台に回復する。
菊人形と共に発展した当園であったが、菊師の高齢化・後継者不足、来場者の減少も影響し毎年の恒例開催は2005年をもって閉幕し、現在は不定期に復活開催されている。
その後も多額の投資がなくとも楽しめる企画やアイディアを重ね、2009年にはお笑いコンビブラックマヨネーズの小杉竜一氏が初代「ひらパー兄さん」に就任、2013年には枚方市出身の人気俳優岡田准一氏を「超ひらパー兄さん」として迎え「ひらパー」の名前は関西の枠を超え広がりを見せる。
(3章参考文献[註8・9・10・11・12])

4.国内の動向:テーマパークの到来と競合の廃園
1983年に米国から誘致した「東京ディズニーランド」が開園し、その一貫したテーマ性や物語性、非日常空間を演出するブランディング力、ショーやパレードなどの高いエンターテインメント力、完璧なまでのサービス精神を持つ、所謂「テーマパーク」の到来は、それまでの乗り物やアトラクションが中心であった国内遊園地に衝撃を与えた。
その後2001年に米国「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」が大阪市に開園することで、遊園地業界に運営面での多くの課題を与え変革を促進した。
しかし圧倒的な資金力・ブランド力を持つそれらテーマパークに潜在顧客が流れる事で、中堅遊園地の多くは来場者が減り、関西でも1911年開園の「宝塚ファミリーランド」や1972年に大阪万博(1970年)跡地にオープンした「エキスポランド」を始めとする歴史ある遊園地の多くが2000年以降閉園を迎える。[表1][註13・14・15]

5.評価
関西の主要遊園地が相次ぎ閉園している中、生き残る「ひらかたパーク」の強みの一つは
多種アトラクションである。
小さな子供を対象にした乗り物や動物園にステージショー、高学年や大人も楽しめる絶叫系の乗り物まで現在39種のアトラクションが楽しめる。[資料3]
過去には10台に1台は外が見えない「ロシアン観覧車」や、「ひらパー兄さん」のアイマスクを着用した「目隠しライド」など、笑いとスリルを提供するアイディアも豊富である。[註11]
中でも注目したいことは、0歳から3歳までの子供が15歳以上の同伴で利用できるアトラクションはフリーパス対象で22種と充実している事である。[資料2]
親世代を中心に独自に取ったアンケート[表2]でも「赤ちゃんが楽しめるアトラクションがここまである遊園地は他に思いつかない」という声があり、赤ちゃんを持つ親世代にとっては大きな魅力の一つである。
二つ目は乗り物以外の多彩なコンテンツにある。遊園地内とは思えない約600種4,000株[註12]のバラが咲き誇る本格的なバラ園「ローズガーデン」は四季の移ろいを目で、香りで感じる事ができ[資料4]、「ひらパー兄さん」の関西弁や枚方推しのユニークなメディア戦略、時代に沿ったアニメコラボ企画、夏のプール、冬のスケート、夜のイルミネーション、駅から徒歩3分という立地も大きな魅力である。
三つ目は、園内の環境である。菊人形・バラ園に象徴されるように当園は花と緑の遊園地である。園内は至る所に美しく手入れされた季節の花が咲き、どこでもフォトスポットと成り、休憩スポットも多数ある。[資料5]
バラ園だけを見るために散歩がてら訪れるという地元民や、また飲食物の持ち込みが可能なため、家族連れには経済的にも選択肢が増え、外食のアレルギーを気にせずお弁当を持参するというファミリーもいる。[表2]
当園は多世代が多様な楽しみ方ができる、乗り物だけの遊園地を超えた、乗り物・ステージ・植物園・動物園の要素を掛け合わせた希少なハイブリット型のエンターテインメントパークである。

6.課題と今後の展望
外出先の選択肢が増えた現代において、テーマパークだけでなく、娯楽施設、ショッピングモール、オンラインゲームやYouTube、VRに代表されるデジタルコンテンツも今や遊園地のライバルである。
時流に乗り体験型デジタルコンテンツの積極導入も重要であるが、当園が大切にしてきた地域と多様な来場者へのサービスの拡大、笑いとスリルの攻めの姿勢を活かし独自の魅力を強化し、ライバルとの差別化を図る事が重要である。
久しぶりに園内を歩いて感じた事は、思った以上に広くアップダウンがあることである。シニアや障がい者にも優しい景色を見ながら園内を一周するモノレールや、カートのような移動手段で見る楽しさを追求することにも期待したい。
「ひらかたパーク」は近代枚方市の歴史の一部であり、市を代表する文化資産である。しかし生き残った遊園地も決して楽観視はしていられない。これからも存続・発展するためのアイディアと柔軟性、コンテンツのアップデートが求められる。今後園がどのような未来を描くのか見守りたい。

  • 81191_011_31786020_1_1_[資料1]ひらかたパークエントランス 美しい季節の花が彩るエントランス(2024年6月24日 筆者撮影)
  • 81191_011_31786020_1_2_[資料2]パークガイド_page-0001
  • 81191_011_31786020_1_2_[資料2]パークガイド_page-0002
  • 81191_011_31786020_1_2_[資料2]パークガイド_page-0003
  • 81191_011_31786020_1_2_[資料2]パークガイド_page-0004 わかりやすい園内マップ。授乳室やベビールームもあり、ベビーカー(有料)や車イス(無料)のレンタルもあり、乳幼児を持つ親やシニア、障がい者も安心できる。
    日本語以外に英語・中国語・韓国語版もあり外国人観光客にも対応。
    「0歳~ 6歳(未献学)のお子さまが利用可能なフリーパス対象アトラクシヨン」があり、小さな子供も楽しめる。
    GPS版ガイドマップも樹にされており、スマホで現在地が分かる。
    (2024年6月24日現在の園内ガイド・写真は同日筆者撮影)
  • 81191_011_31786020_1_3_[資料3]人気のアトラクションと施設_page-0001
  • 81191_011_31786020_1_3_[資料3]人気のアトラクションと施設_page-0002
  • 81191_011_31786020_1_3_[資料3]人気のアトラクションと施設_page-0003 人気のアトラクション、小さな子供も楽しめる乗り物、ミニ動物園、屋外ステージ
    その他にも屋内ホールも2つあり、各種イベントが展開される。
    また小規模とはいえ、動物園がある遊園地は珍しく小さな子供に人気である。
    (2024年6月24日 筆者撮影)
  • 81191_011_31786020_1_4_[資料4]バラ園「ROSE GARDEN」_page-0001 「東洋一のバラ園」造園を目指し、1995年当時、日本で唯一の英国王立園芸協会会員であった岡本勘治郎氏にバラ園造営の監督を依頼。世界各国から集められたバラは、古代バラ(オールドローズ)・近代バラ(モダンローズ)・野生バラ(原種)など有名品種から園内で生まれた貴重なオリジナル品種もある。また四季咲き性で年中鑑賞が楽しめる。
    [註10・12] (2024年6月24日 筆者撮影)
  • 81191_011_31786020_1_5_[資料5]手入れされた園内と休憩所_page-0001
  • 81191_011_31786020_1_5_[資料5]手入れされた園内と休憩所_page-0002 手入れの行き届いた緑と花があふれていて、どこでもフォトスポットになる。
    園内には17箇所の休憩所がある。遊園地には珍しく、飲食物の持ち込みがOKである。
    (2024年6月24日 筆者撮影)
  • 81191_011_31786020_1_6_[表1]2000年以降に閉園した関西の主な遊園地_page-0001 [出展]京阪電気鉄道株式会社『京阪百年のあゆみ』2011年3月24日発行、694ページ・佐々木隆著『日本懐かし遊園地大全』辰已出版、2018年10月15日初版発行、122・123ページをもとに2024年7月15日筆者作成
  • 81191_011_31786020_1_7_[表2]独自調査「ひらかたパークのここが好き!」_page-0001 独自アンケート「ひらかたパークのここが好き!」
    2024年6月筆者の周辺で独自調査

参考文献

■参考文献
※ 各ウェブサイトへの最終アクセス日:2024年7月20日
[註1]
枚方市市勢要覧『枚方家族』枚方市広報プロモーション課、2024年3月発行、P3、P22
※人口などは2024年1月1日情報

[註2]
枚方市HP「市史」「市の概要」
https://www.city.hirakata.osaka.jp/front.html

[註3]
京阪電気鉄道株式会社「開園100周年、春からひらかたパークはお祝いムード満点!」2012年2月23日リリース
https://www.keihan.co.jp/corporate/release/upload/2012-2-23_hirakata_park_100th_anniversary.pdf

[註4]
日本経済新聞「ひらかたパーク、今年で111年 日本最古の遊園地」2023年10月30日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF209YA0Q3A021C2000000/

[註5]
ひらかたパークHP「園内マップ・アクセス・運営会社」
https://www.hirakatapark.co.jp/

[註6]
ひらかた通信「枚方市の面積はひらパー何パークぶん?【ひらかたクイズ】」2024年4月24日配信記事
https://www.hira2.jp/quiz/quiz-area-20160202.html

[註7]
トラベルボイス/観光産業ニュース「レジャー施設の集客ランキング2022、東京ディズニーが2000万人台に回復でトップ、「浅草花やしき」が夜イベント再開などで絶好調」2023年10月3日配信記事
https://www.travelvoice.jp/20231003-154339

[註8]
・京阪電気鉄道株式会社編集・発行『京阪百年のあゆみ』2011年3月24日発行、P85~86、P127~128、P192~193、P241、P243、P323~324、P338、P465~466、P574、P675~695

[註9]
枚方市史編纂委員会編『枚方市史 第五巻』枚方市、昭和59年3月31日発行、P280~284

[註10]
京阪園芸HP「東洋一のバラ園と岡本勘治郎」
https://keihan-engei.com/baranae/okamoto?utm_source=banner&utm_medium=hphp&utm_campaign=rosegarden

[註11]
『京阪グループ開業110周年記念誌―最近10年のあゆみ2010-2020―』京阪ホールディングス、2020年11月1日発行、P29~32

[註12]
ひらかたパークHP「ROSE GARDEN」
https://www.hirakatapark.co.jp/rosegarden/


[註13]
株式会社オリエンタルランドHP「東京ディズニーリゾートのあゆみ」
https://www.olc.co.jp/ja/index.html

[註14]
合同会社合同会社ユー・エス・ジェイHP「沿革」
https://www.usj.co.jp/company/

[註15]
佐々木隆著『日本懐かし遊園地大全』辰已出版、2018年10月15日初版発行、P118~123

■その他参考文献
・枚方市史編纂委員会編『枚方市史 第一巻』枚方市役所、昭和42年3月31日初版発行・昭和51年1月31日再版発行
・枚方市史編纂委員会編『枚方市史 第四巻』枚方市、昭和55年3月31日発行
・枚方市史編纂委員会編『枚方市史 第五巻』枚方市、昭和59年3月31日発行
・枚方市史編纂委員会編『枚方市史 別巻』枚方市、平成7年3月31日発行
・京阪電気鉄道株式会社編集・発行『京阪百年のあゆみ』2011年3月24日発行
・『京阪グループ開業110周年記念誌―最近10年のあゆみ2010-2020―』京阪ホールディングス、2020年11月1日発行
・佐々木隆著『日本懐かし遊園地大全』辰已出版、2018年10月15日初版発行
・白土健・青井なつき編著『なぜ、子どもたちは遊園地に行かなくなったのか?』創成社、2008年5月20日初版発行
・生田誠著『京阪電車 街と駅の1世紀』株式会社彩流社、2015年2月5日第1刷発行
・PHP研究所編『京阪電鉄のひみつ』株式会社PHP研究所、2014年4月25日第1版第1刷発行
・「旅と鉄道」編集部『鉄道まるわかり007 京阪電鉄のすべて(改訂版)』株式会社天夢人、2022年10月22日初版第1刷発行

■2024年7月15日、ひらかたパーク広報にレポート制作の趣旨・園内写真の使用を連絡済み(園内写真の掲載許可は特に必要なしとの回答)

年月と地域
タグ: