下村 泰史 (准教授)2018年9月卒業時の講評

年月 2018年10月
今回の卒業研究レポートには、多岐にわたるテーマのものが寄せられました。
私が評価にあたったものには、歴史ある都市公園を扱ったもの、廃校の再利用状況について調査したもの、地元の地域型アートプロジェクトについて考察したもの、地域固有の伝統武芸のこれまでとこれからについて考えたもの、地域の景観資源とその紹介メディアのあり方について検討したもの、などがありました。いずれも主題も視点も異なるもので、まずはこの多様性を楽しんで拝読しました。
対象の取り扱い方、論じ方もそれぞれでした。ここで個別には論じませんが、対象をきちんと観察し描出できているもの、着眼点がしっかりしていて考察の理路がよく照らし出されているものには、やはり感銘を受けます。
単なる「しらべもの」を超えるには、そうした対象観察・記述と分析・考察についての方法的な意識があることが必須であると痛感します。

芸術教養学科の卒業研究レポートは、3200字というコンパクトなものです。いわゆる卒業論文、卒業制作とされているもの比べると、随分軽いと思われるかもしれません。しかし、この分量の中で、幅広い読者に向けた一定の説得性・批評性をもった文章を書くのは、むしろ高度なことだと思います。そして、そのような議論が可能な人となることが、教養を得るということなのではないかと思います。この枠内で、主題の発見から考察に至る説得性のある議論ができれば、それは公論形成に参加しうる市民としての力を持っていることになるのではないかと思います。そして少し大げさかもしれませんが、これは自己と他者の生存と共生に繋がる大切な能力なのです。

今回のレポートの科目としての評価はすでに済んでいます。ここに掲示された以上は、今度は私たち教員からのではなく、より開かれた社会からの読みにさらされることになります。
この「芸術教養学科WEB卒業研究展」をひとつのきっかけとして、卒業生のみなさんはwebでの学びで得た見識と方法をリアルな社会に繋いでいってください。地域のモノやデキゴトを正確に把握し、その良いところや課題を取り出し、伝えることができる人は、これからの地域づくりに欠かせない存在になっていきます。これからの活躍を期待しています。