持続可能な未来のための大きな可能性を秘めた取り組み 「TSUYAMA FURNITURE」

仁木 理恵

<はじめに>
岡山県北の「美作杉」「美作桧」と呼ばれている針葉樹。
その優しくて気品ある風合いや色合いや美しさを、インテリアを通じて発信しているのが、私が住む岡山県津山市の「TSUYAMA FURNITURE」である。
「TSUYAMA FURNITURE」は、地元企業が参加する官民一体の取り組みで、地元のプロの手で、通常、柱などの建築用として使用される杉や桧で、家具を作っている。

2023年、「TSUYAMA FURNITURE」の取り組みは、森林保全など地域産業が抱える課題解決の役割として山林ー製材ー加工の環で森林保全への貢献が評価され、産官学連携で共有するメリットと、そこから広がる共感力を今後も期待できることから、グッドデザイン賞を受賞している。(註1)

<1. 基本データと歴史的背景>
1.1 基本データ
名称: 「TSUYAMA FURNITURE」
所在地: 岡山県津山市
設立年: 2019年
参加企業: 地元企業5社(資料①)
デザイン:SEIKI DESIGN STUDIO(資料①)
取り扱い点数:29種類75点(2024年12月10日現在)
目的: 豊かで高品質な森林資源を使用した家具を通して、津山市の木材の認知を広め、持続可能な未来を築く「開かれた地域ブランド」の確立

1.2 歴史的背景
岡山県北には「美作杉」「美作桧」と呼ばれている針葉樹がある。木材としての質が高く、建築用に多く用いられてきた。その中で、桧の生産量は日本一であり、津山市には古くから、製材所や木加工場があり、木材産業の集積地となっている。
戦後の日本において、経済成長とともに木工産業も発展したが、近年では海外製品の流入や消費者のニーズの変化により、地域の木工産業は厳しい状況に直面している。このような背景から、行政(津山市)の主導により「TSUYAMA FURNITURE」は設立され、行政、デザイナー、そして市内に拠点を置く木工メーカーが手を携え、地域の伝統的な技術や資源を活かし、現代の市場ニーズに応え、家具を通して、津山市の木材の認知を広めると共に、持続可能な未来を築いていくために設立された。

<2. 評価点>
2.1 地域資源の循環
「TSUYAMA FURNITURE」では、地元の木材を使用した家具製品の開発を推進している。
この取り組みは、地域資源の有効活用だけでなく、環境への配慮も考慮され、地元の木材を使用することにより、針葉樹を活用して、次の造林のサイクルへ向かうことができる。これは、地域産業だけでなく、森林がもつ防災など産業外の役割から見ても、国土にとって重要なことである。
また、木材の輸送コストを削減することは、カーボンフットプリントの低減にもつながる。

2.2 職人技のアップデート
「TSUYAMA FURNITURE」は、地域の職人の伝統技術を背景に、地元の木工メーカーに対してデザイン支援を行い、津山の木工産業の振興を目指している。また、地元の木材を使用した製品開発を推進し、新しい技術の導入にも積極的に取り組んでいる。これにより、今後の地域の伝統技術の保持と、産業全体の技術向上に寄与している。

2.2 デザインの革新
「TSUYAMA FURNITURE」は、シンプルで温かみのあるデザインと機能性を兼ね備えた家具の開発に取り組んでいる。
デザインのテーマを「シンプルで優しい曲線と触りたくなる造形」とし、針葉樹の特性である光沢や、質感、色味を活かしたデザインとなっている。また、時と共に変化する色味や艶などの味わいが増すことが分かるよう、木目を活かして使う楽しみを一層駆り立てるデザイン的配慮がなされている。

2.4 コンソーシアムブランド
地元企業5社が参加することで、共同でのマーケティング活動が展開されている。これにより、各企業の強みを活かしながら、ブランド力を向上させることが期待できる。また、共同での展示会出展やプロモーション活動は、地域の知名度を高める効果があり、2024年6月にはデンマーク・コペンハーゲンで開かれた展示会「3 days of design」に海外初出展を果たした。

<3. 同様の事例と「TSUYAMA FURNITURE」の特筆すべき点>
3.1 福岡県大川市 大川家具
日本における家具6大産地の中の一つ大川家具。その歴史は室町時代に遡り、国内の有名家具ブランドでも長い歴史を誇る。
この地には「大川維新の会」という家具・建材・木材などの木工関連産業の若手経営者や技術者からなる組織があり、九州国立博物館で作品展「大川匠の世界コレクション」を開催するなどの活動実績がある。また、行政や商工会議所、木工産業関連組合などが設立発起人となり、「一般財団法人 大川インテリア振興センター」が設立されていることや、2012年から大川の企業12社と九州産業大学の学生で「商品開発」や「プロモーションビデオ」の制作を行う「大川プロジェクト」の中で、斬新な発想や創造力が溢れた商品が開発されている。
その他、長崎県の阿佐見焼きや富山県の高岡鋳物との他業界とのコラボレーションも行われ、新鮮な切り口を求め様々なチャレンジを行うことで、産業の活性化を行っていることが伺える。(註2)
大川市では「大川の匠」として認定し、顕彰する制度などがあり、2007年から2024年の間に、10名の認定者がいる。
その認定対象者の選考には、技術だけでなく後進の指導育成能力を有していることも認定条件の必須項目に挙げられており、一定年数の在住または在勤などの条件も必要で、技術の継承や人材の流出を防ぐ取り組みを、行政からもサポートしている事例である。(註3)

3.2 特筆すべき点
大川家具の歴史は長い分、組織も整っている。
しかし、「TSUYAMA FURNITURE」は、製品の販売だけではなく、素材の良さや高い技術力、求められたデザインを形にする力を津山に集積しようとするなど、「木材のメッカ」として津山市の木工産業をデザインしようとしている点である。
この、地域資源や伝統を守る姿勢と、地域の産業の新たな可能性を探りながら、持続可能な循環を生み出して進もうとしている攻める姿勢が併走している点は、「TSUYAMA FURNITURE」の特筆すべき点であり、大きな可能性を秘めているといえる。

<4. 今後の展望と課題>
美しい資源と、求められたデザインを形にする技術があることを国内外に発信していくことで、認知の拡大が進んでいく。
求められたデザインを形にする力を発信していくには、デザイナーを公募し、アーティスト・イン・レジデンスなどで、地域に滞在しデザイナーごとシリーズとして「TSUYAMA FURNITURE」を制作していくことも重要ではないか。

そして、「TSUYAMA FURNITURE」の認知拡大が進めば、立ち上げの目的の一つでもある、地元針葉樹林の、次の造林のサイクルへの循環が高まることが予想される。
津山市の森林は市の面積50,636ha中の約70%の35,416haを占め、その森林の内、民有林が31,508haとなっており、多くが国が所有していない森となっている。そしてその民有林の61%を人工造林が占める。森林維持は、防災や生態系など多面的な機能を有しているが、その整備を担うのは、その地域に就業する人々である。(資料2、註4)
林野庁の「平成22年度 森林及び林業の動向」には、日本の産業の高齢化が全産業の平均に対し、林業は高い水準にあるが、一方で35歳未満の若年層の割合が、全産業が減少傾向にあるのに対し、林業では1990年以降増加傾向で推移し、2005年には13%となるなど、国勢調査では高齢化に歯止めがかかりつつあることがまとめられている。(資料2、註5)
だが、地域の木工産業を支えていく人材育成は、まだまだ県内では不十分で、岡山県内唯一の林業を学べる勝間田高等学校の倍率の低迷からみても、当面林業の面だけをとっても、地域の人材育成は急務であり、「TSUYAMA FURNITURE」が大人だけの取り組みにならないよう、進路を決める前の中学生に向けたイベントを行っていくことも課題である。

<まとめ>
「TSUYAMA FURNITURE」は、スタートを切って間もないブランドである。しかし、今後、木材のメッカとして造林サイクルが高まっていくことや、素材の良さや高い技術力、求められたデザインを形にする力をつけていくことによって、地域が活性化し、そこに住む人たちが地域を知り郷土愛を育むきっかけにもなり、それは「まち」を育てる、大きな可能性を持った創造活動であることが分かる。
しかし、地域企業だけでは解決できない大きな課題もあるため、人材育成や次のプロダクツを生み出すための金銭的な支援など、更なる津山市の真摯なサポートが、今後の「TSUYAMA FURNITURE」の成功の鍵を握るといえる。

  • 81191_011_32283108_1_1_20241216_163429 TSUYAMA FURNITUREショールーム
    ショールームをご案内くださったメンバーの皆さん。

    有限会社高橋工芸「ヒノキのナイフスタンド」
    有限会社松永建材店「ヒノキのまな板」「ヒノキのコンパクトキッチン」
    2024年12月16日筆者撮影
  • 81191_011_32283108_1_2_20241216_161150 TSUYAMA FURNITUREショールーム
    TSUYAMA FURNITUREショールーム
    柔らかい檜の光沢と質感を実際に体感することができる。

    株式会社イマガワ 「ヒノキの折りたたみテーブル」(ラージ・スモール)
    有限会社高橋工芸「ヒノキのブロックソファ」(2シーター・ラウンシ)

    2024年12月16日筆者撮影
  • 81191_011_32283108_1_3_20241216_163349 TSUYAMA FURNITUREショールーム
    1脚づつだけでなく、横に繋げて置くことでベンチのように使用することも可能。
    絶妙なカーブと檜のしっとりとした質感でデザインだけでなく、とても座り心地がよい。

    株式会社すえ木工「横につながるヒノキのダイニングチェア」

    2024年12月16日筆者撮影
  • 81191_011_32283108_1_4_20241216_163454 TSUYAMA FURNITUREショールーム
    家具だけでなく、トレイやドリッパーなど贈り物としても選べるような雑貨の取り扱いもある。
    ドリッパーには波状にしっかり「リブ」の窪みが施されている。

    株式会社イマガワ「ヒノキのトレイ」「スギのトレイ」
    株式会社すえ木工「ヒノキのワンホールドリッパー」
  • 81191_011_32283108_1_5_資料1_page-0001 資料① 参加企業/デザイナー
    TSUYAMA FURNITUREホームページを引用し、筆者作成
  • E38090E8B387E69699E291A1E38091+-+Pie_page-0001 資料②「津山市森づくり基本計画」「平成 22 年度 森林及び林業の動向」(林野庁 wp-1-H22-ringyo-hakusho.pdf)を引用し、筆者作成

参考文献

註:1  祝!グッドデザイン賞受賞 津山のデザイン家具プロジェクト https://www.nhk.or.jp/okayama/lreport/article/001/11/ 閲覧:2024年12月20日
註:2 大川こもれび家具ホームページ 大川こもれび家具ブログ 「大川家具のルーツは何と室町時代?その歴史と伝統、魅力を解説!」 2023年1月27日 https://www.kagu-tsuuhan.shop/komorebi-blog/?p=632&srsltid=AfmBOoo056qTr_y6NELRiSvATdXIRfPAILuGfUi2QKH3t1LUaRW205uz 2025年1月10日閲覧
註:3 大川市ホームページ 大川の匠認定者一覧https://www.city.okawa.lg.jp/s033/030/020/010/030/20180416123531.html#:~:text=%E5%A4%A7%E5%B7%9D%E3%81%AE%E5%8C%A0%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%81%97%E3%80%81%E9%A1%95%E5%BD%B0%E3%81%99%E3%82%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82 2025年1月10日閲覧
註:4 津山市公式サイト 「津山市森づくり基本計画を策定しました。」2016/04/25 https://www.city.tsuyama.lg.jp/article?articleId=67314d43523bee40a3d43c9a 2025年1月25日最終閲覧
註:5 林野庁 「平成 22 年度 森林及び林業の動向」
wp-1-H22-ringyo-hakusho.pdf 2025年1月25日最終閲覧

参考・引用
TSUYAMA FURNITUREホームページ https://tsuyamafurniture.com/
2024年12月20日、2025年1月24日最終閲覧
津山市公式サイト「「津山市森づくり基本計画」
https://www.city.tsuyama.lg.jp/common/photo/free/files/6904/201604251134580874536.pdf 2025年1月25日最終閲覧
林野庁「平成 22 年度 森林及び林業の動向」
wp-1-H22-ringyo-hakusho.pdf 2025年1月25日最終閲覧

取材協力
「TSUYAMA FURNITURE」ショールーム 2024年12月16日16時〜

年月と地域
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