クラウドファンディングで最盛をかける廉塾ならびに菅茶山旧宅

沓脱 康弘

はじめに
広島県福山市神辺町にある国の特別史跡である「廉塾ならびに菅茶山旧宅」を紹介する。まず景観と配置について。また歴史的背景や特徴、地域に及ぼした影響、史跡として選ばれた根拠、廉塾と適塾の現状と批判点、結論として比較を行ない何が特筆されるか検討する。

基本データ≪ 廉塾 ・ 付属施設 ≫【資料1】
廉塾 ・ 付属施設と菅茶山旧宅(以下廉塾)の間を流れる水路は、北側が教育の場、南側が日常生活の場とされた。 式台より右の3室 ・ 20畳が当時の塾舎であり、襖をはずして講釈に利用されていた。塾舎の北側には浴室 ・ 便所 があり、 西側は書見所、東は竹縁が設けられた。菅茶山旧宅は神辺宿 (1807) の大火後、居住していた槐寮 (塾台所) が、廉塾と接続され、明治20年頃に2階が増築され付属施設となった。結果、米蔵 ・ 米搗き小屋とともに教育施設として塾が機能する形を残した。≪ 菅茶山旧宅 ≫は菅茶山(以下茶山)が晩年に過ごした住まいである。旧宅西側の中之間 ・ 新座敷 ・ 2階和室は明治時代に増築されたと考えられている。今日、歴代塾主の旧宅として当時の面影を残している。≪ 寮舎 ≫は現存する南寮である。当初の南寮は、弘化4 (1847) 年以降に現在の位置に改築したものと考えられている。塾が機能していた時代には塾生が生活する場であった。≪ その他の施設 ≫は特別史跡を構成する要素として、書庫、表門、中門が挙げられる。書庫・表門は当時の場所に位置、特別史跡を構成している大切な要素である。また淡水魚の養殖と防火用水的性格を合わせ持った養魚池、木小屋、そして菅家の先祖を祀る祠堂などがある。 (註1)

廉塾の歴史的背景
廉塾は1774年に茶山によって開かれた私塾であり、 茶山は、京都で儒学を学び、その学問を地元の神辺で広めるために廉塾を開いた。 廉塾は、広島県の福山市神辺町にあり、当時の建物が現存しており、 廉塾の特徴はその教育方針にあり、 茶山は、「学問の種」を育てることを目的として、個々の才能を見出し、それを伸ばす教育を行っていた。 ゆえに、廉塾は地域社会に大きな影響を与えた。

積極的に評価できる点
廉塾で学んだ人々は、その後、地域のリーダーとして活躍し、地域の発展に貢献した。 廉塾は、他の私塾のモデルとなり、広島県内だけでなく、全国に広がっていった。とりわけ、廉塾の魅力は、その教育方針にある。 個々の才能を見出し、それを伸ばす教育を行うことで、個性豊かな人材を育てている。 また、儒学だけでなく、実学も教えたことで、社会に出た後、直ぐに役立つ知識を身につけることができた。 さらに、廉塾は、地域社会と密接に関わりながら教育を行っていたため、地域社会の発展に貢献することができた。
廉塾の価値は、江戸時代に盛行した私塾のうち、廉塾ならびに菅茶山旧宅は「一式現存」している学術上、極めてまれにみる建築物である。たとえば 1934年に史跡、1953年に特別史跡の指定を受けており、当時の教育環境を今に伝える全国唯一の遺跡である。
「 廉塾 」 は社会秩序の回復を目指す塾生たちから成り、茶山ならびに果敢な若人により荒廃した村邑を再生し 、「 学種 」を育てることが大事に行われ、後に廉塾は福山藩の郷校となったが、塾生は福山藩をはじめ、中四国、九州、畿内、東北に至るまで全国各地から集まった。その数は2000人〜3000人に及ぶ。
以上より、廉塾は、その教育方針や地域社会への貢献度から学術上、極めてまれにみる遺跡である。ここにクラウドファンディングを仕掛けた。【資料2】

同様の事例【資料3】
適々斎塾(以下適塾)は蘭方医の緒方洪庵(以下洪庵)が1838年に開いた私塾である。洪庵は1825年に父の意向に従い大阪へ、1830年には江戸に出て、1836年から2年間長崎で学問を教え、1838年4月に大阪瓦町で開業した。
医学史上大きな業績が生まれたため、現存する適塾は日本唯一の蘭学塾となっている。1838年から1862年の25年間大阪・船場において塾を開き、その力量を知る幕府は1862年江戸に呼びたてると同時に幕府の医官とし、さらには開設された西洋医学の教育機関の頭取となった。
適塾は瓦町の家から1845年末に過書町へ移転し、大いに飛躍した。門下生数は1844年以降の入門者の署名「氏名録」に記載されただけでも636人である。1940年に大阪府の史跡、翌1941年には国の史跡として指定されたが、1942年に緒方家から国 (大阪帝国大学) に建物が寄贈され、今日に至っている。(註2)
その後、1976年から実質5年を掛けて解体修理を行い、修復を機に広く公開している。現在、『大阪大学適塾記念センターは、「日本の近代化と感染症対策の原点、適塾の建物を後世に守り伝えたい!」というテーマのもと、クラウドファンディングを実施している。デジタル技術を用いて適塾建物を調査・計測し、3Dモデルを制作する予定である。このプロジェクトは、有事の際に適塾を復元することを目的としている。 また、バーチャル空間に適塾を再現するなど、多目的利用も可能となる。 適塾は、今も往時の姿のまま大阪・北浜の地に佇んでいる。 このプロジェクトを通して、適塾を末永く守り伝えていきたいと考えている』と述べている。( 註3)

廉塾と適塾の現状と批判点、比較して何が特筆されるか
廉塾と適塾は、それぞれ異なる経緯を経て発展してきた塾である。廉塾は、地方の片田舎に塾を設けており、広大な敷地内に目的を持った9棟の建物が建っている。一方で、適塾は都会の中央に位置し、商家を購入した小さな塾施設である。適塾は後に大阪大学に寄贈され修繕事業も終了している。現時点のクラウドファンディングにおける現状は、廉塾と適塾で大きく異なる。廉塾は、まだ民家であり、産声をあげたばかりの9棟全体に対して募っている。一方で、適塾の修繕は終わっており、資金調達における現状も、廉塾と適塾では異なる。廉塾は、国から8億円の事業費を提供されており、福山市のクラウドファンディングは規模も非常に高く、必要資金も高額である一方で、適塾のクラウドファンディングは300万円であり、適塾の微調整にとどまる。

廉塾の今後の展望
「神辺の至宝を未来に受け継ぐプロジェクト」であり、ガバメントクラウドファンディングによって寄附を呼びかけ、福山市が誇る「廉塾」を未来に継承するため、9棟全ての建物の保存修理を進めることを目標としている。この件について、市長の協賛の礼状がある。
「このたびは、特別史跡廉塾ならびに菅茶山旧宅のガバメントクラウドファンディングに・・・・・、誠にありがとうございます。特別史跡廉塾ならびに菅茶山旧宅は儒学者で当代随一の漢詩人である、菅茶山によって江戸時代後期に開かれた私塾 (後、福山藩校の郷校 (分校) ) で、江戸時代の教育環境一式が現存する全国唯一の遺跡です。・・・・・皆様からの御支援は廉塾の建造物の保存修理や防災設備整備などの保存整備及びその維持管理などのために大切に活用させていただきます。・・・・・教育遺産としての価値を後世に伝えるとともに、地域の宝として未来に継承できるよう取組を進めて参ります・・・・・」。(註4)

まとめ【資料3、4】
広島県内において、国の特別史跡に指定されているものは厳島 (廿日市市) と廉塾のみである。廉塾ならびに菅茶山旧宅は、税の使い道を具体的にプロジェクト化したふるさと納税制度を活用し、さらにはクラウドファンディングによる第一期として1千万円程度の目標額を想定している。「神辺の至宝を未来に受け継ぐプロジェクト」会議において、庶民教育の場である郷校が、往時の姿のまま残る全国唯一の史跡であるため、貴重な文化財を全国にPRし、保存支援を求めていきたいとしている。市などは2020〜32年度の計画で旧宅や寮舎を段階的に改修する。総事業費は約8億円であり、国が7割、県と市、所有者が各1割を負担する。所有者の費用捻出が事業継続の課題となっているが、「神辺の至宝を未来に受け継ぐプロジェクト」には国民全体として、できることがまだ、あるのではないだろうか。 (註5)

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  • 81191_011_32181379_1_2_「廉塾」【資料2】_page-0001
  • 81191_011_32181379_1_2_「廉塾」【資料2】_page-0002
  • 81191_011_32181379_1_2_「廉塾」【資料2】_page-0003 「廉塾」現代の背景【資料2】
  • 81191_011_32181379_1_3_「適塾」旧緒方洪庵住宅【資料3】_page-0001 「適塾」同様の事例【資料3】
  • 81191_011_32181379_1_4_「廉塾まつり」【資料4】_page-0001 「廉塾まつり」【資料4】

参考文献

(註1) 福山市文化振興課
https://readyfor.jp/projects/Renjyuku
(註2)大阪大学適塾記念センターホームページ
https://www.tekijuku.osaka-u.ac.jp/ja/kinenkai
(註3)大阪大学適塾記念センタークラウドファンディングのご案内
https://www.tekijuku.osaka-u.ac.jp/ja/ikuzj7
(註4)御礼状 「このたびは、特別史跡廉塾ならびに菅茶山旧宅のガバメントクラウドフャンディングに御寄付をいただき、誠にありがとうございます。特別史跡廉塾ならびに菅茶山旧宅は儒学者で当代随一の漢詩人である、菅茶山によって江戸時代後期に開かれた私塾(後、福山藩校の郷校( 分校 ))で、江戸時代の教育環境一式が現存する全国唯一の遺跡です。 備後国神辺(現:広島県福山市神辺町) に生まれた菅茶山は、当時、荒廃していた村の現状を憂い、学問や教育の力による社会秩序の回復と維持をめざし、郷里で私塾を開きました。 廉塾では地元を中心に全国各地から身分に関係なく塾生を受け入れ、「 学種 ( 学問の種 ) 」 として大事に教育が行われました。また、茶山の人柄を慕い、文人墨客たちが廉塾を訪れ、茶山との交友を深めました。 茶山は塾の永続を誰よりも願い、私塾から公的な福山藩の郷校とし、後任の塾主や講師の育成に努めるなど、その経営に尽力しました。 皆様からの御支援は廉塾の建造物の保存修理や防災設備整備などの保存整備及びその維持管理などのために大切に活用させていただきます。塾の永続を願った茶山の意思を受け継ぎ、教育遺産としての価値を後世に伝えるとともに、地域の宝として未来に向けて継承できるよう取組を進めて参ります。末筆ではございますが、貴方様の益々の御健康と御繫栄を祈念し、略儀ながら書中をもって御礼申し上げます 」            
(広島県福山市長 枝広直幹 礼状 2023.12.19原文)
【註5】 福山市「廉塾」保全整備へGCF10月中旬から、歴史的価値発信 山陽新聞
(2023年9月28日午後5時10分更新) https://www.sanyonews.jp/article/1457205#:~:text=%E8%80%81%E6%9C%BD%E5%8C%96%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%9B%BD,%E3%81%AE%E8%B2%A0%E6%8B%85%E8%BB%BD%E6%B8%9B%E3%82%92%E5%9B%B3%E3%82%8B%E3%80%82

《参考URL》
福山市ホームページ 特別史跡廉塾ならびに菅茶山旧宅保存活用計画を掲載します
(city.fukuyama.hiroshima.jp) .
(2024.12.8閲覧)
ふくやま観光・魅力サイト えっと福山
https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/site/miryoku2023/288959.html.
(2024.12.8閲覧)
(公財)福山観光コンベンション協会HP福山市文化振興課
https://www.fukuyama-kanko.com/travel/tourist/detail.php?id=32.
(2024.12.8閲覧)
広島県教育委員会 ホットライン教育ひろしま
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/bunkazai/bunkazai-data-106090010.html.
(2024.12.8閲覧)
まっぷるマガジン編集部 更新日: 2023年1月18日
https://www.mapple.net/article/84957/#:~:text=%E6%9D%BE%E4%B8%8B%E6%9D%91%E5%A1%BEpoint%E2%91%A0%20%E5%BD%93%E6%99%82%E3%81%AE,%E8%A3%9C%E4%BF%AE%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82.
(2024.12.8閲覧)
【特別史跡】廉塾・菅茶山旧宅 | 観光スポット | 福山観光コンベンション協会
(fukuyama-kanko.com) .
(2024.12.8閲覧)
福山市|江戸時代の教育施設がありのままの姿で残る「廉塾」を未来へ
https://readyfor.jp/projects/Renjyuku/announcements/300230.
(2024.12.8閲覧)
広島文化大百科 文化資源詳細情報 廉塾
https://www.hiroshima-bunka.jp/modules/newdb/detail.php?id=563.
(2024.12.8閲覧)

参考文献
広島県歴史博物館編1993-「廉塾(閭塾)開設とその社会的背景」菅波哲郎19号2017.
広島県歴史博物館編1993-「廉塾の施設整備について」 岡野将士23号2020.
神辺宿文化研究会 菅茶山と廉塾 神辺学区まちづくり推進委員会 2017.10.

収録雑誌 
「芸術教養学科2024年度春学期芸術教養演習2提出レポート」沓脱康弘

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