宮 信明(准教授)2023年3月卒業時の講評

年月 2023年3月
みなさま

卒業研究レポートの作成、お疲れさまでした。

いかがでしたか。資料の収集や調査から数えると、それ相応の月日をこのレポートの作成に費やしてきたことかと思います。満足のいく出来栄えになったでしょうか。なかなか自分の思い通りに書き上げることができたという人は少ないかも知れません。「こうしておけばよかった」「もっと時間があれば」といった思いを残している方もいるのではないでしょうか。しかしながら、いずれのレポートにおいても、さまざまな興味深い事例が報告されていました。

今回、私が採点・講評した卒業研究では、以下のような対象が取り上げられていました。
・地域の文化資産(清和文楽、農村舞台寶榮座、鶴見神社の「田祭り」)
・美術館・博物館・文学館など(諸橋近代美術館、北原白秋記念館、東京都写真美術館、中之島香雪美術館、ゲティ・ミュージアム、駒ヶ根シルクミュージアム、ウポポイ、知覧特攻平和会館、釧路市立博物館、仙台市歴史民俗資料館、大山崎山荘美術館、地中美術館、静嘉堂文庫美術館、岩槻人形博物館、益子参考館、旧小西家住宅史料館、インターメディアテク、みずのき美術館)
・建築物(誠之堂、旧松坂屋大阪店、旧神谷伝兵衛稲毛別荘、揚輝荘、駒井家住宅)
・舞台芸術(日本の伝統舞踊、舞台「里見八犬伝」)
・地域の景観やデザイン、まちおこしなど(濃尾大橋、有馬街道の石柱、青梅駅前商店街、「神戸百景」、小江戸佐原、大宮盆栽村、大阪ビジネスパーク、堺市中区陶器北地区)

また、組紐についてのレポートを提出された方もいらっしゃいます。どのレポートも題材、そしてそれを論じるための視点がじつに多様で、読み応えのあるものばかりでした。

個別のレポートの点数と講評については、個々にお伝えしてありますので、ここでは、みなさんの卒業研究の全体的な特徴や傾向、改善点について、述べていきたいと思います。

【文章の表記の正確さと構成の明瞭性】
多くのレポートが、ご自身の言葉で書かれていて、非常に明瞭な文章となっていました。また、構成についても、きちんと見出しをつけて構造化されており、非常に理解しやすい文章構成になっていたと思います。ただ、文章の表記については、敬語や「ですます」調、口語表現、「思う」や「感じる」といった主観的な言葉の運用など、修正した方が良いと思われるレポートもいくつかありました。大学のレポートや論文では、学術的な文章の作成(アカデミック・ライティング)が求められます。それは、自分の考えをできるだけ客観的に提示するためだけでなく、読み手が書き手の主張を客観的に検証するためにも必要なことです。註や参考文献をきちんと記載しなければならないのも同様の理由です。読者がその資料や文献にアクセス(検証)できるように明示しなければなりません。それがレポートや論文のルールなのです。

【授業の趣旨および課題内容の理解】
ほとんどの方が、特定のデザイン・芸術活動やその成果としての地域の文化資産について考察し、「文化資産評価報告書」を作成するという課題の趣旨を、きちんと理解され、レポートを作成されていました。素晴らしいと思います。ただ、残念なことに、「報告に際しては必ず次の5点を明記してください」「特に評価対象に関して、どのような点がデザインとして優れているかも考察して下さい」といった課題の要求にお答えいただけていないレポートもいくつかありました。特に「3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」では、他の同様の事例と比較することによって、それらの共通点だけでなく、対象とする事例の「特筆される=デザインとして優れている」点を考察していただきたかったのですが、比較考察がなされていないもの、比較対象の妥当性に疑問が残るもの、共通点の指摘だけで終わっているものなどが散見されました。比較考察することによって、研究対象の「特筆される=デザインとして優れている」点を明らかにしていただきたかったところです。

【受講生自身の見解の明示】
シラバスにも明記されていますが、卒業研究では、さまざまな場で実践されているデザイン・芸術活動に関して情報収集を行い、分析・考察した上で、「文化資産評価報告書」を作成することが求められています。つまり、関連資料や先行研究、フィールドワーク等によって調査したことを整理するだけでなく、それらを分析・考察した上で、独自の見解(評価)を報告しなければなりません。しかも、卒業研究レポートの規定文字数は「3200字程度」です。これは、決して多い文字数ではありません。そのため、独自の切り口を設定し、具体的な数値やデータ(論拠)をきちんと示しながら、規定の文字数のなかで、いかに多面的に考察することができるのか、が重要となります。独自の視点が設定できていたのか、客観的な論拠が提示できていたのか、多面的な考察ができていたのか、改めてご自身の卒業研究を読み返していただければと思います。

【着眼点の独自性】
まず、卒業研究における「着眼点の独自性」とは、ただ主観的に自分の思ったこと(思いつき)を述べるのではなく、先行研究や資料調査、フィールドワークや取材等を踏まえた上で、自分の考えを展開していくことから生まれるものだと思います。今回の卒業研究では、直接の研究対象については、ほとんどの方がきちんと調査されていましたが、関連分野の先行研究や資料については、若干ないがしろにされている傾向がありました。例えば、美術館や博物館を研究の対象とするのであれば、その対象となる美術館や博物館はもちろんですが、それだけでなく、これまで蓄積されてきた美術館論や博物館論の成果なども参照する必要があるのではないでしょうか。さまざまな先行研究や資料を調査し、考察を深め、より独自性のある着眼点を示していただけると、さらに良かったと思います。

なお、この「芸術教養学科WEB卒業研究展」には、提出されたすべての卒業研究レポートが公開されているわけではありません。また、優秀作品だけが並んでいるわけでもありません。本人が公開を希望するとともに、研究対象の取材先から許諾を得られたものが掲載されています。そのため、秀逸なレポートもあれば、そこまでではないものや修正すべき箇所があるものも一緒に並んでいます。もちろん、優れたレポートであっても、本人の意向や取材先からの許可が下りなかったなどの理由で、掲載されていない卒業研究も少なくありません。

いずれにしても、卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。だからというわけでもないのですが、この総評でも個別講評でも、厳しいことをあれこれと書き連ねてしまいました。とはいえ、それぞれのレポートが卒業に値するクオリティに達していたことは間違いありません。ぜひこれからも、芸術教養学科で学修したことをもとに、よりよい学びを続けていってください。

ご卒業、誠におめでとうございます!