千本浜海岸の景観と環境の保全活動について

川野 貴弘

1.基本データと歴史的背景
千本浜海岸は静岡県沼津市から西にある富士市にまで続く海岸である。富士山と海を同時に望むことができる場所で、その中間にある松林は、視界から建造物を隠す働きをしている。海は透明度が高く、石浜が続く景観も魅力である。波打ち際では波によって石同士がぶつかりあうため、音も楽しむことができる。これらの魅力によって、夕方には利用者が多く、駐車場が満車になることもある(1)。
この場所の利用者は景色を楽しむこと以外にも、ここで開催されるイベントへの参加や、釣りのために訪れる。開催されるイベントでは千本浜海岸に沿って約20kmの堤防が整備されていることでトライアスロンの会場に使用されている。加えて、駐車場および海岸が広いことから、音楽などのイベントも開催される。さらに、駿河湾全体にわたり水産資源が豊富であり、千本浜海岸には年中釣り人がいる。水産資源の豊かさは、千本浜海岸に隣接する沼津港が、同県内の焼津港に次ぐ取扱数量を有していることからわかる(2)。

歴史的背景として、海岸沿いの松林が周辺住民の生活に必要な時期があった。現在のように堤防がなかった時代は、千本浜海岸の周辺で生活する人々にとって、松林が風や高波から住居を守る防壁のような役割を果たしていた。千本浜海岸は西から強い風を受ける場所で、風速10mを超えることが日常的に発生する場所である。風よけや塩害対策として松林が必要であった。
その松林は荒廃した時期がある。戦国時代には千本浜海岸が戦場となったためである。被害を受けた松林の復旧のため、千本浜公園から近い位置にある乗運寺の増誉上人が周辺住民のために植苗を行った。その活動がわかるものとして、乗運寺には植苗を行う増誉上人の像がある。また、松の植苗は長い期間で行われていたと推察できる。一般的に認識される情報として、ここで陸上戦が行われた時期は、武田勝頼と北条氏政が争った1580年で、この時期以降に植苗が行われたということになる(3)。しかし、増誉上人の没年が1580年であるため、それ以前から戦場となっていたこと、植苗も幾度か行われていたことが考えられる。1537年から1545年までは河東の乱が富士川から東側にあたる千本浜方面で起こった。河東の乱以降から、植苗を行い、1580年に増誉上人の死後も周辺住民などが協力して行ったという方が可能性は高いと考えられる(4)。
時は進み、日本の敗戦が色濃くなった時期にも松林は被害を受けた。1945年7月17日、沼津市は空襲を受け、それに伴い沼津の住民が千本浜へ逃れた。そこに待ち構える敵兵の機関銃による機銃掃射を住民及び松林が受けたためである(5)。現在、松林は再生されているが、自然災害から周辺住民を守る役割は堤防に引き継がれている。この堤防は富士海岸の防災対策によってつくられたものである(6)。1966年の台風26号による被害などを受けて、津波や高潮への対策として設けられた。

2.事例のどんな点について積極的に評価できるか
この場所を評価できる点は、恵まれた景観と、保全および清掃活動により、環境が維持されていることである。

恵まれた景観であることは、海辺から富士山までがほぼ自然のものだけで構成された景色をつくることである。富士山と海岸までの間にある松林により、中間に建造物などが視界に入り込みにくい状態となっている。この場所の近くには工場なども存在するが、背の高い松林により、視界には入らない状態である。過去においては松林が風や塩害を防ぐために存在したが、現代では堤防がその役割を受け継いだため、松林は景観を維持するという役割になった(写真1)。また、千本浜は波打ち際が石で構成される場所であることも恵まれた環境になる。波によって石が転がることで心地よい音をつくる。

千本浜海岸の景観を維持するため、清掃活動が継続して実施されている。千本浜の場合は、毎月1回は、清掃活動が実施されている(7)。環境省のプラスチックスマートという取り組みに従うものである(8)。海洋プラスチックごみが2050年には魚の重量を超えると予測されていることから課題として認識し、情報が発信されている。環境省の取り組みのなかで静岡県の6R県民運動が紹介されている(9)。環境省のホームページでは静岡県のプラスチックごみを減らす運動の団体との連携が評価されていることから紹介されていると考えられる(10)。また、駿河湾は水産物が豊富であることから、千本浜では釣りをする人がいるため、釣具メーカーも清掃活動に協力している(11)。

千本浜の景観は自然に形成されたものだけでなく、松林や堤防は人の手が加わっている。これらの要素が周辺の建物などを遮ることで、現在の景観を維持できていると考えられる。また、波打ち際では清掃活動で人の手が加わり、環境の維持によって石と波による音環境が維持されており、サウンドスケープとしても評価できる。

3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか
千本浜海岸の特筆されることは、石の浜は日本中に点在するが、石が音をつくる場所は限られており、その規模においては日本で最も広い可能性があることである。
千本浜のように石が音をつくる場所が貴重であることを、他の同様の場所と比較する。千本浜と同様に石の鳴る浜には、鳥取県の鳴り石の浜がある。その他の場所でも、限られた範囲では同様の場所はあるとも考えられるが、既存文献および公開情報を調査した範囲では確認できなかったため、一般的には認知されていない場所と捉えている。
鳥取県にある鳴り石の浜は長さが約500mになる(12)。比較して千本浜は長さが約300mとされている(13)。しかし実際の千本浜では、石が鳴る浜の長さは500m以上になることが確認できる(写真2)。よって、千本浜は鳥取県の鳴り石の浜と同等、またはそれ以上の規模であることがわかる。

4.今後の展望について
千本浜海岸において、過去には松林の保全が課題であったが、堤防の設置により課題は解決されている。現在は海から流れ着くごみと利用者が発生させるごみが課題である。清掃活動を容易に実施できることが改善の一歩だと考えられるが、現状の清掃活動の手続きと簡略化した場合のリスクから現状のしくみとなっており、沼津市ではリスクを回避した方法での問題解決を目指した取り組みがある。

一般的に清掃活動は個人の自宅の前を掃除するように、手軽に実施できることが望ましいと考えられる。現在の沼津市における清掃活動の実施までには以下の手順が必要となる。清掃活動を行う10日前までにメールで沼津市に申請する。それが承認された後にごみ袋などを事前に受け取る必要がある。指定されたごみ袋を使用していないと回収されないためである。清掃活動後は沼津市にごみの回収を依頼し、その回収を待つか、自身で処理することなどで完了となる(14)(15)。
この手続きを簡略化できれば、利用者が手軽に清掃活動に参加でき、千本浜海岸の環境維持や改善につながる可能性がある。現地で清掃活動の手続きを完了できる方法として案を作成した(図1)。少しでも清掃活動への参加者が増えることで、現在より環境の改善につながることが目的である。しかし沼津市としては、作成した案(図1)の方法では、以下の問題から景観を損ねる結果になるという意見であった。ごみ置き場を設置することで、ごみの不法投棄などで景観を損ねる可能性があり、爆発物などのテロにも利用される可能性があると考えられ、現在の制度が維持されている(図2)。
沼津市はそのリスクを回避し、問題解決を目指す取り組みがある。「沼津市海岸清掃ボランティア連絡会」(16)を設置し、活動団体相互の意見交換や情報共有をする機会を設けている。千本浜海岸は広い海岸であるため、清掃活動エリアを共有することで、より広いエリアの清掃を実施できるようにすることが目的である。沼津市は参加する企業や団体間の情報共有により、千本浜海岸の清掃活動を効果的に実施できるように取り組んでいる。

5.まとめ
千本浜海岸は富士山を望む貴重な海岸である。波打ち際では石が音をつくる貴重な場所でもある。この海岸の保全活動は戦国時代から実施されており、保全の対象は異なるが現在も継続されている。現在のごみの問題では、清掃活動を促進したいが、不法投棄やテロなどに利用される可能性がある。そのため、リスクを回避して清掃活動を推進し、環境の維持に努めている。

  • 662754_1 写真1 千本浜海岸の景観(2024年1月4日、筆者作成)
  • 662754_2 写真2 千本浜の石が鳴る浜の長さがわかる写真(2025年8月9日、筆者作成)
  • 662754_3 図1 清掃活動について沼津市との相談に用いた資料(2025年8月12日、筆者作成)

参考文献

註1 公益社団法人日本交通公社ホームページより千本松原について、2026年7月20日閲覧。
https://tabi.jtb.or.jp/res/220045-?form=MG0AV3
註2 静岡県交通機関部資料より沼津港の水産の動向について(21ページ)、2026年7月20日閲覧。
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/029/657/s2_10sankou4.pdf?form=MG0AV3&form=MG0AV3
註3 沼津市ホームページより千本浜での戦いの記載について(1580年と記載がある。)、2026年7月20日閲覧。
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/profile/rekishi/genshikara/ikusa.htm
註4 沼津市ホームページより乗運寺の増誉上人について、2026年7月20日閲覧。
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/profile/bunkazai/jiinn/jyouun.htm
註5 総務省ホームページより戦争の舞台となった千本浜について、2026年7月20日閲覧。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/daijinkanbou/sensai/situation/state/tokai_04.html?form=MG0AV3
註6 国土交通省中部地方整備局の資料より富士海岸の防災対策について(2ページ)、2026年7月20日閲覧。
https://www.cbr.mlit.go.jp/kikaku/jigyou/data/h2911/siryou6.pdf
註7 「海をまもろう。」ホームページより清掃活動について、2026年7月20日閲覧。
https://umi-mamorou.com/report/diary/diary20240911
註8 環境省ホームページよりプラスチックスマートについて、2026年7月20日閲覧。
https://plastics-smart.env.go.jp/
註9 静岡県ホームページより海洋プラスチックごみ防止6R県民運動について、2026年7月20日閲覧。
https://www.pref.shizuoka.jp/kurashikankyo/recycle/recycle/1064783/1017767.html?form=MG0AV3&form=MG0AV3
註10 環境省ホームページで紹介される6R運動について、2026年7月20日閲覧。
https://plastics-smart.env.go.jp/case/1080/?form=MG0AV3
註11 株式会社ジャクソンの清掃活動実績資料、2026年7月20日閲覧。
https://www.shizuoka-mazda.co.jp/pdf/news_202505seisou.pdf?form=MG0AV3&form=MG0AV3
註12 全国町村会ホームページより鳥取県鳴り石の浜の広さについて、2026年7月20日閲覧。
https://www.zck.or.jp/site/forum/16881.html?form=MG0AV3
註13 沼津観光ポータルサイトより千本浜の広さについて、2026年7月20日閲覧。
https://numazukanko.jp/spot/10001?form=MG0AV3
註14 沼津市のホームページより清掃活動に関する情報について、2026年7月20日閲覧。
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/office/ichiran/seisaku/chiikijichi/shiminundo/index.htm
註15 沼津市のホームページより清掃活動の申込書について、2026年7月20日閲覧。
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/kurashi/todokede/shinsei/item/001.pdf
註16 沼津市のホームページより沼津市海岸清掃ボランティア連絡会について、2026年7月20日閲覧。
https://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/office/ichiran/sangyo/suisan/renrakukai.htm

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