中国EVデザイン革新の形成要因 ―カンボジア市場で販売される中国EVを事例とした考察―

川上 司

はじめに
筆者は2019年からカンボジアで生活・業務に従事しており、自動車市場の変化を継続的に観察してきた。従来、カンボジアではプリウスやレクサスなどの中古のトヨタグループ車が市場の多くを占めていたが、電気自動車 (Electric Vehicle: EV)も見られるようになり、2024年頃からBYDをはじめ、Avatr、XPENG、Lynk & Coなど中国EVメーカーが相次いで進出している (1)。プノンペン市内では、日本ではまだ目にする機会の少ない中国EVが日常的に走行し、その先進的なデザインやデジタル技術を直接観察できる環境にある。

こうした状況の中で、筆者は「なぜ中国EVは短期間でこれほど革新的なデザインを実現できたのか」という疑問を抱いた。中国EVは、従来の自動車とは異なる外観だけではなく、車内空間やデジタル機能、ブランドイメージまでを一体として設計している点に特徴がある (2)。本稿では、カンボジア市場で販売される中国EVを事例として、中国EVデザイン革新の形成要因について考察する。

1 基本データと背景
中国では2009年以降、新エネルギー車(New Energy Vehicle:NEV)を国家戦略として位置付け、購入補助金、税制優遇、研究開発支援、充電インフラ整備などを段階的に推進してきた (3)。その結果、中国は世界最大のEV市場へと成長し、BYDやGeely、Changanなどの自動車メーカーに加え、CATLやHuaweiなど異業種企業との連携によって急速な技術革新を実現している (4) [図1]。

中国EVの発展を支えた要因として、第一にEV専用プラットフォームの普及が挙げられる。バッテリーを床下へ配置することで設計自由度が向上し、ロングホイールベースや広い室内空間、空力性能を考慮した新しい車体デザインが可能となった (5)。第二に、SDV (Software Defined Vehicle)やAI技術の発展により、大型ディスプレイ、OTA (Over The Air)による機能更新、音声認識などを備えた「進化する自動車」が実現している (6)。

こうした変化はカンボジア市場にも及んでいる。近年、中国EVメーカーはプノンペンを中心に販売網を拡大し、日本車中心であった市場に新たな競争をもたらしている。日本車、中国EV、さらに日中共同開発モデルが同一市場で競争するカンボジアは、中国EVデザインの特徴を比較・検討する上で有効な事例である (7)。

2 事例の評価する点
本稿では、カンボジア市場で販売されるBYD Sealion 5 EV [図2]、Avatr 07 [図3]、XPENG G7 [図4]、Lynk & Co Z20 [図5]を分析対象とし、中国市場向けに開発されたMazda EZ-60 [図6]を比較対象として分析した [表1- 1]。

第一に評価できる点は、EV専用プラットフォームによる設計自由度の向上である。分析対象車種はいずれも、ロングホイールベース、短いオーバーハング、クローズドフロント、薄型LEDヘッドライトなど、EVの特徴を生かしたプロポーションを採用している。これらは外観上の特徴にとどまらず、広い室内空間や優れた空力性能の実現にもつながっており、機能性とデザイン性を両立させている (8)。

第二に評価できる点は、SDVやAI技術を活用した利用者体験(UX)の向上である。大型センターディスプレイ [図7]、OTA(Over The Air)によるソフトウェア更新、AI音声認識、高度運転支援システム(ADAS)などは、多くの中国EVで標準的な機能となっている。これにより、自動車は購入時に完成する製品ではなく、継続的に機能を向上させる「進化するモビリティ」へと変化している (9)。

第三に評価できる点は、ブランド戦略とデザインが密接に結び付いていることである。BYDは「Dragon Face」による力強いブランドイメージ、Avatrは未来性と高級感を備えたプレミアムデザイン、XPENGはデジタル世代を意識したシンプルで合理的なデザイン、Lynk & Coは都市生活者を対象としたスポーティなデザインを採用している。各メーカーは共通する技術基盤を持ちながらも、それぞれ異なるブランド価値をデザインによって表現している点が特徴である (10)。

また、Mazda EZ-60は、中国EVで発展したEV専用プラットフォームやデジタル技術を採用しながらも、「魂動(KODO)」デザインや人間中心設計というマツダ独自のブランド哲学を維持している。これは、中国EVの技術や設計思想が日本メーカーにも影響を与え始めていることを示す事例として評価できる (11)。

以上のことから、中国EVデザインの革新性は、優れた外観デザインだけではなく、EV専用プラットフォームによる設計自由度、SDV・AIによる利用者体験の向上、ブランド戦略による独自性の確立を総合的に実現している点にあると考えられる。

3 他事例と比較して特筆される点
中国EVデザインの特徴を明らかにするため、本稿では日本のEVであるToyota bZ4X、Tesla Model YおよびMazda EZ-60との比較を行った [表1- 2]。その結果、中国EVの特徴は、単に優れたデザインや最新技術を採用していることではなく、それらを一体化した新しい価値を創出している点にある。

Toyota bZ4XはEV専用プラットフォーム「e-TNGA」を採用しているものの、設計思想は従来のトヨタ車の延長線上にあり、安全性、品質、耐久性、人間中心設計を重視している。これは長年にわたり培われた日本メーカーの強みであり、安心して長く使用できる自動車づくりを基本理念としている (12)。一方、近年の中国EVは品質や安全性に加え、AIやOTAなどのデジタル技術を積極的に取り入れ、自動車を継続的に進化する製品として位置付けている点に大きな違いがある (13)。

Tesla Model Yは、EV専用プラットフォーム、大型センターディスプレイ、OTAなど、現在のEV開発の方向性を示した代表的な車種である。しかし、中国EVはその設計思想を取り入れながらも、HuaweiなどICT企業との連携やAI技術の活用によって、より高度なスマートコックピット [図7]や利用者体験を実現している (14)。さらに、各メーカーが独自のブランド戦略を明確に打ち出している点も特徴であり、技術だけではなくブランド価値を含めた総合的なデザイン競争へ発展している。

Mazda EZ-60は、中国市場向けにChanganとの共同開発によって誕生したモデルであり、中国EVで発展したEV専用プラットフォームやデジタル技術を採用しながらも、「魂動(KODO)」デザインや人間中心設計というマツダ独自の設計思想を維持している (15)。このことは、中国EVの技術やデザイン思想が中国メーカーだけにとどまらず、日本メーカーの製品開発にも影響を及ぼし始めていることを示している。

以上の比較から、中国EVデザインの最大の特徴は、EV専用プラットフォーム、SDV・AI、ブランド戦略を融合し、「モビリティ全体の価値」を設計している点にあると考えられる。これは、従来の自動車デザインが外観や性能を中心としてきたのに対し、中国EVが利用者体験やブランド価値まで含めた総合的なデザインへ発展していることを示しており、世界の自動車産業に新たな方向性を示しつつある点が特筆される (16)。

4 今後の展望
中国EVは、今後もAI、自動運転、コネクテッド技術の発展とともに、利用者体験を重視したモビリティへ進化していくと考えられる。また、日本メーカーにおいても、中国市場で発展したEV技術やデジタル技術を取り入れる動きが進んでおり、今後は技術やデザインの融合がさらに進展すると予想される。

5 まとめ
本稿では、カンボジア市場で販売される中国EVを事例として、中国EVデザイン革新の形成要因を考察した。その結果、EV専用プラットフォーム、SDV・AI、ブランド戦略の三要素が相互に作用し、新たなデザイン価値を創出していることを明らかにした。中国EVは世界の自動車産業に新たな方向性を示しつつあり、その発展を継続的に注視していく必要がある。

  • 675556_1 表1 分析対象車種の特徴および中国EV、日本EV、Teslaの比較
  • 2_543343_1 図1 中国EVメーカー・ブランド関係図
  • 675556_3 図2 BYD Sealion 5EV
  • 675556_4 図3 Avatr 07
  • 675556_5 図4 XPENG G7
  • 675556_6 図5 Lynk&Co Z20
  • 675556_7 図6 Mazda EZ-60
  • 8_543347_1 図7 各メーカーEVの運転席

参考文献

引用文献
註:
(1) “Royal Government Aims to Boost EV Inventory to 30k Units by 2030”. (2024) Khmer Times; Lee. “CDC Approves LYNK & CO Vehicle Assembly Plant Project” (2026); Alves. “XPENG Enters Cambodia, the First Overseas Market for Its Bestseller MONA M03” (2025); 筆者による聞き取り調査(2026年)

(2) “Global EV Outlook 2026”. IEA; Reuters, “'China Inside': How Chinese EV Tech Is Reshaping Global Auto Design”. (2025); 神野可奈子.「中国自動車の変革・海外展開の状況」(2025); 東洋経済オンライン「変化する『中国EV』の設計トレンド。『革新性』優先のリスク浮かび、『信頼性』重視にシフト」

(3) 中華人民共和国国務院弁公庁.「新エネルギー自動車産業発展計画(2021~2035 年)(NEDO 北京事務所仮訳)」2020年

(4) “Global EV Outlook 2026”. IEA; 神野 (2025); 東洋経済オンライン「〈現地ルポ〉北京モーターショーで見たCATL、BYDトップの素顔…もはや日本車は追いつけない中国EVの進化」

(5) “Global EV Outlook 2026”. IEA; Reuters (2025)

(6) 神野 (2025); 東洋経済オンライン「中国ファーウェイの自動車関連事業が好調、協業各メーカーの販売も押し上げ」; “Global EV Outlook 2026”. IEA

(7) KAK, "Cambodia EV Roadmap" (2022); “Royal Government Aims to Boost EV Inventory to 30k Units by 2030”. (2024); Lee (2026); Alves (2025); 筆者による聞き取り調査(2026年)

(8) “Global EV Outlook 2026”. IEA;Reuters (2025); BYD.「全新海狮05EV (Sealion5EV)」; AVATR Technology. "AVATR 07 | The Urban Luxury SUV"; XPeng.「XPeng_小鹏G7 AI智能家庭SUV | 小鹏汽车官网」; Lynk & Co. “Lynk & Co 20 (Z20) | Official Website"(各公式ウェブサイト)。

(9) “Global EV Outlook 2026”. IEA; 東洋経済オンライン「中国ファーウェイの自動車関連事業が好調、協業各メーカーの販売も押し上げ」; AVATR Technology. "AVATR 07 | The Urban Luxury SUV"; XPeng.「XPeng_小鹏G7 AI智能家庭SUV | 小鹏汽车官网」(各公式ウェブサイト)

(10) BYD.「全新海狮05EV (Sealion5EV)」; AVATR Technology. "AVATR 07 | The Urban Luxury SUV"; XPeng.「XPeng_小鹏G7 AI智能家庭SUV | 小鹏汽车官网」; Lynk & Co “Lynk & Co 20 (Z20) | Official Website"(各公式ウェブサイト)

(11) Mazda Changan.「MAZDAEZ-60官网-九风道悦级智能SUV|长安马自达」; 東洋経済オンライン「変化する『中国EV』の設計トレンド。『革新性』優先のリスク浮かび、『信頼性』重視にシフト」

(12) トヨタ.「トヨタ bZ4X | トヨタ自動車WEBサイト」; “Global EV Outlook 2026”. IEA.

(13) “Global EV Outlook 2026”. IEA; 東洋経済オンライン「変化する『中国EV』の設計トレンド。『革新性』優先のリスク浮かび、『信頼性』重視にシフト」

(14) Tesla. "Tesla_Model Y – Electric Midsize SUV"; AVATR Technology. "AVATR 07 | The Urban Luxury SUV"(公式ウェブサイト); 東洋経済オンライン「中国ファーウェイの自動車関連事業が好調、協業各メーカーの販売も押し上げ」

(15) Mazda Changan.「MAZDAEZ-60官网-九风道悦级智能SUV|长安马自达」

(16) Reuters (2025); “Global EV Outlook 2026”. IEA


参考文献:
1. Alves, Matilde. “XPeng Enters Cambodia, the First Overseas Market for Its Bestseller Mona M03”. Electric vehicle news, 2025年10月20日. https://eletric-vehicles.com/xpeng/xpeng-enters-cambodia-the-first-overseas-market-for-its-bestseller-mona-m03/(2026年7月16日閲覧)

2. AVATR Technology. “AVATR 07 | The Urban Luxury SUV”. https://www.avatr.com/en/07(2026年7月15日閲覧)

3. BYD.「全新海狮05EV (Sealion5EV)」. https://www.byd.com/cn/ocean-home/models/haishi/new-haishi-05-ev(2026年7月15日閲覧).

4. “Global EV Outlook 2026”. International Energy Agency (IEA). 2026年5月20日 https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2026(2026年7月5日閲覧)

5. KAK, Yutthavonn. "Cambodia EV Roadmap". General Department of Land Transport, Ministry of Public Works and Transport of Cambodia (MPWT). 2022 https://www.unescap.org/sites/default/d8files/event-documents/17%20Cambodia%20EV%20Roadmap.pdf(2026年6月18日閲覧)

6. Lee, Mr. "CDC Approves LYNK & CO Vehicle Assembly Plant Project" Estatedia | Economy & Real Estate Media in Cambodia. 2026年3月20日. https://Lee (Estatedia).com/cdc-approves-lynk-co-vehicle-assembly-plant-project/(2026年7月16日閲覧)

7. Lynk & Co. “Lynk & Co 20 (Z20) | Official Website". https://www.lynkco.com/lynkco02(2026年7月15日閲覧)

8. Mazda Changan.「MAZDAEZ-60官网-九风道悦级智能SUV|长安马自达」. https://ez-60.changan-mazda.com.cn/(2026年7月16日閲覧)

9. Reuters. “'China Inside': How Chinese EV Tech Is Reshaping Global Auto Design”. Reuters. 2025年9月11日. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/china-inside-how-chinese-ev-tech-is-reshaping-global-auto-design-2025-09-11/(2026年7月16日閲覧)

10. "Royal Government Aims to Boost EV Inventory to 30k Units by 2030". Khmer Times. 2024年7月12日. https://www.khmertimeskh.com/501521705/royal-government-aims-to-boost-ev-inventory-to-30k-units-by-2030/(2026年7月16日閲覧)

11. Tesla. “Tesla_Model Y – Electric Midsize SUV”. https://www.tesla.com/modely(2026年7月16日閲覧)

12. XPeng.「XPeng_小鹏G7 AI智能家庭SUV | 小鹏汽车官网」. https://www.xiaopeng.com/g7_2026.html?utm_source=chatgpt.com(2026年7月23日閲覧)

13. 神野可奈子.「中国自動車の変革・海外展開の状況」JETRO. 2025年11月18日. https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2025/lm20251118.pdf(2026年6月18日閲覧)

14. 東洋経済オンライン. 「〈現地ルポ〉北京モーターショーで見たCATL、BYDトップの素顔…もはや日本車は追いつけない中国EV「超速進化」の実像」. 2026年5月13日. https://toyokeizai.net/articles/-/944019(2026年7月16日閲覧)

15. 東洋経済オンライン. 「中国ファーウェイの自動車関連事業が好調、協業各メーカーの販売も押し上げ/一段と強まる業界への影響力」. 2026年4月17日. https://toyokeizai.net/articles/-/941059(2026年7月16日閲覧)

16. 東洋経済オンライン. 「変化する「中国EV」の設計トレンド。"革新性"優先のリスク浮かび、"信頼性"重視にシフト」. 2025年11月11日. https://toyokeizai.net/articles/-/916651(2026年7月15日閲覧)

17. 中国国務院弁公庁. 「新エネルギー自動車産業発展計画(2021~2035 年)(NEDO 北京事務所仮訳)」https://www.nedo.go.jp/content/100924684.pdf(2026年7月16日閲覧)

18. トヨタ.「トヨタ bZ4X | トヨタ自動車WEBサイト」 https://toyota.jp/bz4x/(2026年7月16日閲覧)

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