『ぼくらのキョテン、泉北BASE』が作り出す、「不登校児」と「地域」の境界のデザイン

松村 愛子

1)はじめに
全国の不登校児童生徒数は2024年度、小中学校合わせて約35.4万人に達し、過去最多を更新した*1。子どもの人数が減り続けている中での12年連続の増加であり、その背景には学校環境、家庭環境、発達特性、社会的孤立など多層的な要因が絡み合う*1。一方で、学校に通う子どもたちもまた、地域の中で安心して過ごせる“日常的な居場所”を失いつつある。公共施設の縮小や遊び場の減少、地域コミュニティの希薄化などにより、子どもたちが安心して過ごせる第三の場所が不足しているのが現状だ*2。
こうした社会状況の中で、泉北ニュータウンに2023年に誕生した「ぼくらのキョテン、泉北BASE」(以下、泉北BASE)は、従来のフリースクールの枠を超え、地域の子どもと不登校の子どもがゆるやかにつながる新しい子どもたちの居場所として注目されている。運営母体である「特定非営利活動法人 志塾フリースクールラシーナ」は、2016年から不登校児を支援するフリースクールを南大阪の2か所で運営してきた。しかし、その過程で従来のフリースクールのような「閉ざされた空間」では、支援のアプローチとして限界を感じていた。不登校児が地域の子どもと自然に出会い、社会との接点を取り戻すためには、フリースクールそのものを地域に開く必要があるのではないか。また、不登校児への地域の理解も少なすぎるのではないか。その問いから泉北BASEの構想は始まった*3 。

2)多機能を緩やかにつなぐ空間構成
泉北BASEは、泉北ニュータウンの「近隣センター」と呼ばれる小規模な商店街の中にある。1階に「でんでんカフェ」、その奥に駄菓子屋「でんでん堂」、さらに奥には「フリースペース」が「路地空間」を通してつながっている。2階には「フリースクール」、「図書室」、「自習室」がある。
特徴的なのは、メイン通りに面したカフェが一見フリースクールなどの子供の支援施設だとわからない点である。また、カフェ奥の駄菓子屋には子どもが一人でもアクセスしやすいような工夫がされている。よく見える大きな道路から直接入るのではなく、建物内部に誰もが立ち入り可能な「路地」をつくり出し、心理的にアクセスしやすい。路地の入口には杉の丸柱に電球を設置し、扉のない開放的な動線を確保することで、地域の子どもたちが安全かつ自然に行き交う“まちの路地裏”のような空間が生まれている。壁面には大阪芸術大学の学生が描いた絵が並び、地域の掲示板のように持ち込まれたチラシがたくさん貼られ、訪れる人の視線と足を自然に誘導する。
路地を進むと、右手に古民家の解体現場から譲り受けたレトロな扉のその先には、小さな駄菓子屋が現れる。駄菓子屋と路地の間にも古い窓枠が設置され、路地からカラフルな駄菓子が並ぶのが見える。扉を開けると目の前のカフェのスタッフが厨房からカウンター越しに声をかける。厨房で作業しながら子供を見守る程よい距離だ。
さらに路地の一番奥のフリースペースには大きなテレビ、ゲーム機、ソファ、卓球台、ガチャガチャなどが置かれ、子どもなら誰でも無料で利用できる。念のために監視カメラは設置しているが大人の直接的な監視はない。カフェの厨房のスタッフ用扉が近いので、子どもの気配は感じられる。何かあった時はすぐに大人が駆けつける。また、裏口(フリースクールの出入り口としても使われている)からは公園へと抜けられ、子どもたちの遊びの動線が屋内外で連続するように設計されている*4。
この空間構成は、不登校児の心理に寄り添う工夫でもある。人に会いたくない日は裏口からそっと2階へ上がることができ、気持ちが向いた日は1階の賑わいに混ざることもできる。選択肢を複数用意することで、子ども自身が「どこに居たいか」を決められる点は重要である*4。

3)境界をゆるめるデザイン
泉北BASEの最大の特徴は、「境界のデザイン」にある。不登校児と地域の子ども、子どもと大人、これらの境界を完全に消すのではなく、行き来できる“ゆるい境界”として設計されている。その空間的な「動線」については先に述べたが、もう一つの境界は「時間帯」である。フリースクールは10時〜16時の開校で、登校時間は地域の子どもと重ならず、活動中も比較的のんびりと過ごすことができる。一方、夕方になると地域の子どもたちがフリースペースに集まり、ちょうどフリースクールから帰宅する子どもたちと自然に接点が生まれる。フリースクール生は離れた地域から来ることが多いが、学校が違うからこそ、学校に「行っている」「行っていない」が気になりにくく、ゲームや卓球を通じて気軽な関係が生まれている。
また、このフリースクールには通信制高校の機能も併設されており、高校生は1階のカフェでアルバイトをすることができる。フリースクールという閉鎖的な世界だけではなく、社会との接点を増やしたいという思いから生まれた仕組みで、カフェのメニューには100円の寄付が含まれ、その寄付が子どもたちの体験活動に還元される。地域の大人がコーヒーを飲む行為が、子どもたちの未来を支える循環を生み出している。
一方で、境界をゆるめるだけでは不登校児の安心は守られない。地域の子どもたちはフリースクールの教室には立ち入れないなど、必要な線引きは明確に残している。自由と安全のバランスを丁寧に調整することで、子どもたちが「管理されすぎない安心」を感じられる場となっている。

4)従来の目的と違ったことが見えてきた
当初は不登校児を地域とつなぐ目的だった泉北BASEであるが、別の問題が次々に浮き彫りになる。子どもの居場所がないという問題は、不登校児だけではなく、地域の学校に通う子どもたちにとっても深刻であった。
学校にも家にも居場所がなく、放課後になると毎日あらわれる中学生は、駄菓子でおなかを満たす。そこで、駄菓子屋の中に「おにぎり」メニューを追加し、駄菓子並みの値段で提供する。また、子ども食堂を始め、ご飯を食べてからスタッフが宿題や勉強を見るサービスも開始した。高校生には自習室でスタッフが格安で塾を開く。カフェやフリースクールのスタッフは、いつも明るく、そして時には厳しく、子どもたちと接している。
多様な年齢の子供たち、そしてそれを支えたい大人たちが、泉北BASEに集まるようになった。問題が明るみに出るたび、大人たちで考え、子どもたちの居場所を提供している。これからも時代や利用する子供が変わるたびに、柔軟に変化し続けることだろう。

5)国内の事例と比較した独自性
国内には多くのフリースクールが存在するが、地域に開かれ、日常的な交流を前提に設計された事例は多くない。多くのフリースクールは、不登校児の安心を守るために外部との接点が最小限になる傾向がある。しかし泉北BASEは、安心を守りながらも社会との接点を意図的にデザインし、「閉じる空間」から「開く空間」への転換を実現している。
泉北BASEの特徴はその「空間」と「システム」が一体となって境界を調整している点にある。単なる多機能施設ではなく、子どもの心理や行動特性に寄り添った動線設計、地域の大人が自然に関わる仕組み、寄付が循環する経済モデルなど、空間・人・活動が有機的に結びついている。

6)今後の展望
多様な価値観が広がる中、不登校児は今後も増加が予測され、フリースクールの役割はますます重要になる。一方で、地域の子どもたちの居場所不足も深刻であり、泉北BASEのような「誰にとっても開かれた居場所」は地域福祉の基盤として求められる。しかし、現状では運営は厳しく、補助金やクラウドファンディング、ボランティアに依存する部分も大きい。学校制度の見直しや、フリースクールに通う子どもへの公的支援の拡充など、制度的な後押しが不可欠である*5 。

7)まとめ
泉北BASEは、全国的に増加するフリースクールの中でも、地域に開かれた稀有な事例である。不登校児の心理に寄り添いながら、地域の子どもや大人との境界をゆるやかにデザインし、管理されすぎない安心と自然なつながりを両立させている。子どもたちの「居たい場所」を尊重し、社会との接点を丁寧に編み直すこの取り組みは、これからの地域づくりと教育支援の新しいモデルとなり得る。

  • 639389_1 泉北BASEの見取り図
    (2023年アクソメ図たまきともこ氏が作成したものを2026年7月19日、筆者追記作成)
  • 540915_1 泉北BASE 1階の様子
    (2026年6月2日、筆者撮影)
  • 540916_1 泉北BASE 2階の様子
    (2026年6月2日、筆者撮影)

参考文献

*1 資料リンク:文科省HP 「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(不登校抜粋版(2026/7/4参照)
https://www.mext.go.jp/content/20251106-mxt_jidou01-000045738_3.pdf

*2 資料リンク: こども家庭庁「こどもの居場所づくりに関する指針」(2026/7/20参照)
https://www.cfa.go.jp/policies/ibasho

*3 運営者インタビュー
特定非営利活動法人 志塾フリースクールラシーナ 理事長 田重田勝一郎 (2026/06/02実施)

*4 設計意図 
設計者:松デザインオフィス 松村愛子/筆者(設計期間2022/8~2023/5)
設計参考図書:①『まほうのだがしやチロル堂のまほうの書』
(著:石田慶子、坂本大祐、吉田田タカシ 自主出版  2026/1刊行)
②『「いきたくない」もわるくない? トーキョーコーヒーからはじめる、大人もたのしむ共育のデザイン』
(著:吉田田 タカシ  出版社 ‏ : ‎ どく社  2025/12/17刊行)
③『自ら考え育つ環境づくり[特例認定NPO法人ASOVIVA]』
( 著者/編集: 特例認定NPO法人ASOVIVA 出版社: パレード 2024/3/13刊行)

*5 フリースクールの視察及びインタビュー
フリースクールみらい(2022/8 視察)
デモクラティックスクールASOVIVA (2022/9 視察)
フリースクールフォロ スタッフ里中氏 インタビュー (2022/9)
フリースクール「きみの森」(2025/4 視察)
FREE SCHOOL YADOLI スタッフ 本田友里氏 インタビュー(2026/6/19)
 
*6 資料リンク:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 政策研究事業本部「不登校のこどもを受け入れている民間施設等の利用実態等の把握に関する調査研究報告書令和7年3月」(2026/7/20参照)
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2025/04/koukai_250428_03_04.pdf

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