松本 理沙(専任講師)2024年9月卒業時の講評

年月 2024年10月
卒業研究レポートを提出されたみなさん、本当にお疲れ様でした。大学生活の集大成として、みなさんが真剣にレポート課題に取り組まれたことが伝わってきました。

今回私が担当した卒業研究は、以下のテーマを扱ったものになります(順不同)。

《風神雷神図屏風》
PIGMENT TOKYO
株式会社へラルボニー
マイヤ・イソラ
シブヤ・アロープロジェクト
いたばしボローニャ絵本館
クライストチャーチ・アートセンター
川崎市市民ミュージアム
鳥羽市立海の博物館
ユベール・ド・ジバンシーとオードリー・ヘプバーン
安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄
宮城県芸術協会絵画部の公募展
豊島区立熊谷一守美術館
美術館・博物館におけるキャプション
道後温泉地区のアートイベント
ゴッホ・ベルナール・ゴーギャンの判じ絵
和泉市久保惣記念美術館
純喫茶ジンガロ

多種多様なテーマで初めて知る事例も多く、いずれも楽しく拝読しました。以下に、レポートの優れていた点と改善点について記していきたいと思います。

まず、卒業研究レポートで必ず扱わなければならない5点( 1.基本データと歴史的背景 2.事例のどんな点について積極的に評価しているのか 3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか 4.今後の展望について 5.まとめ)が一つのテーマや視点によってうまく繋がっているレポートは、非常に読み応えがありました。
例えば、今回拝読したレポートの中には、川崎市市民ミュージアムの被災を起点に、水害に対応した建築空間や三次元のデジタルアーカイブの導入を提案するものがありました。災害対策という一貫した視点から執筆されていたことから、このレポートは読みやすく説得力のあるものになっていました。

一方、「 3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」や「4.今後の展望について」が、他の章と関連する内容になっていないレポートもいくつか見受けられました。そこで展開されている内容がどれも興味深いものであった分、非常に勿体無い印象を受けました。あらかじめレポートの枠組みが決まっており、それにご自身の興味関心や調べたことを当てはめるのは難しい作業だったと思います。その中でも、章同士、文章間の接続がうまくいっているかどうかは意識していただきたい点でした。これから卒業研究に取り組まれる方は、まずはご自身の興味関心や問題意識を絞り、一つの軸に沿って執筆する内容を検討していただきたいと思います。

また、「3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」についての記述は、卒業研究レポートの中でも特に力を入れて執筆された方が多かったのではないかと思います。そして多くの方のレポートでは、ご自身で取り上げた対象と比較事例の共通点、相違点がきちんと記されていました。特に、共通点についての記述は、読み手がこの事例が比較対象として適切なのかどうかを判断する材料の一つになります。今回私が担当した卒業研究レポートにおいて、ご自身で取り上げた対象と比較事例があまりに異なっており、適切な比較がなされていないという方はいらっしゃいませんでした。みなさん良い比較事例を選定しておられたという印象を受けました。
同じような特徴を持つ対象同士を比較すると、それぞれの際立った点や課題が浮かび上がってきます。防災サインとしての役割を持つ「シブヤ・アロープロジェクト」を取り上げたレポートでは、同様の役割を持つ他のアート・プロジェクトや広告と比較されていました。同じ目的の作品や広告同士で比較することによって、その意図の違いが明らかになっており、レポートの中で効果的に比較が用いられていました。

一方で、比較がほとんど行われていない方もいらっしゃいました。卒業研究レポートの課題に含まれているものですので、この点については十分な分量で執筆いただきたいところでした。

以上が私からの好評となります。ご自身の成果にも成績にも満足された方、もう少し頑張ればよかったと後悔されている方、思った成績ではなく悔しい思いをされている方など、卒業研究の末に感じられることは様々だと思います。ですが、大学での学びはこれからも活かされていきます。美術館や劇場での作品鑑賞、目の前に広がる風景、日々耳にするニュース、友人とのちょっとした会話に対する捉え方が大学入学前と少しでも変わっているならば、それは皆さんがたくさんのことを学び、その成果を日々に活かしている証拠です。これまで学んだことを活かし、今後ご活躍されることを心から祈っております。

ご卒業、誠におめでとうございます!