
吹田だんじり祭から探る現代の地域コミュニティ形成:伝統行事の継承と市民主導運営の構造
はじめに
大阪市の北側に隣接する吹田市では2022年から「吹田だんじり祭」というだんじりを中心とした祭りが開催されている(1)。この祭りはだんじりを持つ各町会や、地域の企業や商店が協力し合うことで、だんじりを中心とした祭りを市民主導で実現したものである。今回はこの地域コミュニティと伝統の継承について着目し考察していく。
1.基本データと「吹田だんじり祭」誕生背景
大阪府吹田市は大阪市に隣接しており、古くから交通の要として発展してきた街であり、江戸時代には大都市である大坂に食料を供給することができるレベルの生産力もあり、農業的にも商業的にも大坂とかかわりの深い都市である(2)。
早い段階で商業的農業が発展しており、比較的豊かであった吹田市には江戸時代から受け継がれてきた、だんじりが7基残っており現在は西奥町・都呂須・六地蔵・神境町・浜の堂・川面町・金田町の町会で管理され、1998年には吹田市有形民俗文化財に指定され保護されている(3)。これらのだんじりの曳行は、かつて神事として行われていたが、近年は市民の楽しみや賑わいのひとつとして行われており、時代によって祭りの意味合いが変わってきている。
これらのだんじりは、JR吹田駅周辺で1970年より行われていた「吹田まつり」にて曳行を行っていたが、2019年に祭りが第50回を迎えたことで一旦区切りとなり、2020年からは「すいたフェスタ」と名称を変え、会場も万博記念公園へと移し、よりエンターテイメント性を高めた大規模な祭りを開催することになった(4)。
このように会場が変更となったことで、大型のだんじりを万博記念公園に運び込むことが非常に難しくなるという課題に直面することになり、だんじりを曳行する機会を失ってしまったのである。このことで、伝統を喪失してしまう危機感を抱いた7つの町会が集結し、「吹田だんじり祭」という、だんじりを主役にした新しい祭りを企画したのが「吹田だんじり祭」の始まりである(5)。
2.積極的に評価している点
現代において町内会や自治会にといった地域コミュニティに興味関心を示さない住民も多い中で、行政主導であった祭りを市民主導で開催するには、一つの目標へと向かうために団結する必要がある。祭りを運営するために立ち上げた「吹田だんじり祭実行委員会」は、各町会から2名ずつと、吹田歴史文化まちづくりセンター浜屋敷の職員に加え、市議会議員が会派を越えて「だんじり議連」を組み参加しており、伝統を途絶えさせないという強い思いを胸に抱くメンバーが集結し、この祭りの運営を支えているのである。
また、だんじり祭りに強い思い入れがあるのは、運営委員のメンバーだけでなく、地域の商店や企業にも共通しており、協賛金の依頼に快く応じてくれているところからは、だんじりが地域に根差した伝統となっているのが伝わってくる。
そして、伝統を継承していくには継続的に若者の参加者を増やし、育成していく必要があるが、その点についても様々な取り組みをしている。祭りが近づきお囃子の練習が始まると、そのリズムに惹かれ興味を持つ子どもたちもいる、そういった子には、体験する機会を設け実際に触れてもらい、鉦や太鼓のリズムを体感してもらう。さらに、吹田市のメイシアターというホールでは「こども伝統文化体験」として、だんじり祭で披露されるお囃子を体験することが可能となるようにプログラムに加えてもらうといった、より広い範囲の市民に体験できる機会を設けている(6)。
加えて近隣の吹田第一小学校にも協力を仰ぎ、吹田だんじり祭で5・6年生によるよさこいが披露されるなど、祭りの演者として出演してもらうというアプローチを行っている。さらに、子どもだけでなく若者世代へのアプローチも行っており、市内の大学からボランティアとして祭りに参加してもらい、実際にだんじりの曳行に参加してもらうなどしている。このように、子どもや若者に体験する機会を積極的に設けているのが評価すべきポイントであると私は考える。
3.特筆される点
兵庫県芦屋市で行われているだんじり祭りと比較し特筆される点を述べる。芦屋市のだんじりも江戸時代から受け継がれているもので、現在6地区で運用されている。祭りの運営に関しては祭り全体の運営をする「あしやまつり連絡協議会」と呼ばれる6地区の代表者2名ずつによる組織と、「芦屋だんじりパレード実行委員会」というパレードに特化した組織が存在する。後者は20代から30代の若者が中心となって動く組織で、パレードの企画・広報・SNS運用を担っている(7)。
だんじりが江戸時代からある点と、保有台数もおおむね同じくらいとなっており、共通点のある二つの祭りであるが、行政から手が離れた祭りを市民主導で執り行っている点が特徴的である。「吹田だんじり祭」は2025年に第4回目を迎えた祭りであり、まだ運営も手探りである部分もある。
運営組織は芦屋市の事例と比べ高齢であるが、商店街や企業との横のつながりを持っておりスポンサー集めなどの資金調達や出店依頼をすれば好意的に受け入れられている。行政の予算やルールを熟知した市民代表として市議会議員も運営に加わっていることで、市民と行政のパイプ役の機能を果たしており、市の予算獲得などがスムーズに進むと言ったメリットがある。
今まで行政に任せきりにしていた部分を市民が担い運営していくことで、受動的な参加であったものが、自律的な運営へと変化していき、運営に関わるメンバーの結束や地域に対する愛着が強まるとともに、祭りが「自分ごと」としてより身近なもの変わっていくのである。
吹田の独自性として特筆されるのは、町会・商店街・政治・文化施設という、既存の地域ネットワークを再編して運営基盤を構築した点である。受動的な参加から自律的な運営主体へと変わるプロセスは地域コミュニティの再生モデルにもなり得る。
4.今後の展望について社会関係資本の視点から考察
社会関係資本は大きく二つの形があり、家族・町会など元々結びつきの強い「結束型」と、異なる背景をもつグループ同士を繋ぐ「橋渡し型」である(8)。従来の祭りの運営は行政のバックアップを受けつつ町会が運営する「結束型」が中心であったが、都市部では地域との関わりが薄く「結束型」だけでは維持することが困難になっていく。
ここで行政主導の祭りから市民主導の祭りに転換したことで、商店街、大学、議員連盟という「橋渡し型」のネットワークの構築が必要となったのである。祭りをハブにして外部との繋がりを強化することとなり、地域コミュニティ全体の回復力が高まっていくと考えられる。また、市議会議員を運営に組み込んでいる点については「連結型」と呼ばれる関係となっており、権力を持つ層と市民が繋がりを持つことで行政の規制を突破する力にもなり、より能動的に動くことができる地域コミュニティの形成が可能となる。
5.まとめ
「吹田まつり」が「すいたフェスタ」へと移行・会場移転したことにより、だんじり曳行の機会が失われるという危機に直面し、7つの町会が結集し市民主導の「吹田だんじり祭」を誕生させ、行政に頼り切るのではく各町会、市議会議員連盟であるだんじり議連、地域企業、商店街が一体となった多層的な運営組織を構築している。また、地元の小学校や大学、メイシアターといった文化施設とも連携し、若年層に体験機会を積極的に提供することで次世代への継承も組織的に行っている。
芦屋市の事例と比較すると吹田では既存の政治的・経済的・伝統組織といった地域ネットワークを再編して運営基盤を築いている点に独自性を見出せる。一方で大学生などの外部ボランティアを「お手伝い」で終わらせず、継続的な担い手へと定着させるのか、育てていくのかが今後の課題となる。
このように、だんじりを保存対象の文化財としてだけでなく、多様な主体が関わるための交流の場として再定義している点は、都市部における地縁組織の再生を考える上で、重要な示唆を与えている。
参考文献
註
(1)『吹田だんじり祭第1回』パンフレット、吹田だんじり祭実行委員会、2022年。
(2)吹田市史編さん委員会『吹田市史 第2巻』吹田市役所、1975年、198ページ。
(3)吹田市HP指定・登録文化財一覧https://www.city.suita.osaka.jp/bunkazai/shitei/1031084.html(最終閲覧日2026年1月20日)
(4)吹田まつり https://www.suita-matsuri.jp/(最終閲覧日2025年12月10日)
(5)2025年10月3日吹田歴史文化まちづくりセンター浜屋敷にて取材 藤本衞氏
(6)こども伝統文化体験
https://www.city.suita.osaka.jp/bunka/1018338/1018339/1021167/1011173.html(最終閲覧日2026年1月10日)
(7)祭礼コミュニティにおける活動場所の位置関係に関する研究
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390586411037302912(最終閲覧日2026年1月10日)
(8)梶井 祥子 編著『若者の「地域」志向とソーシャル・キャピタル 〔道内高校生1,755人の意識調査から〕』中西出版、2016年、26ページ。
参考文献
柳田国男『年中行事覚書』講談社、1979年。
西川和七『吹田(村)の地車』2009年。
『吹田市立博物館歴史講座平成11年』吹田市立博物館、1999年。
吹田市史編さん委員会『吹田市史 第1巻』吹田市役所、1990年
吹田市史編さん委員会『吹田市史 第2巻』吹田市役所、1975年。
吹田市立博物館『江戸時代の吹田』吹田市立博物館、1999年。
吹田市立博物館『わかりやすい吹田の歴史』吹田市立博物館、2009年。
小川 直之監修『祭』パイインターナショナル2022年。
森田 玲著『日本だんじり文化論』創元社2021年。
だんじりを活かした地域共働事業実行委員会編集『だんじりを活かした地域共働事業報告書』だんじりを活かした地域共働事業実行委員会、2015年。
吹田歴史文化まちづくりセンター浜屋敷 https://hamayashiki.com/(最終閲覧日2025年12月10日)
『吹田だんじり祭第1回』吹田だんじり祭実行委員会、2022年。
『吹田だんじり祭第3回』吹田だんじり祭実行委員会、2024年。
『吹田だんじり祭第4回』吹田だんじり祭実行委員会、2025年。
吹田だんじり祭X https://x.com/suitadanjiri?s=20(最終閲覧日2025年12月10日)
吹田だんじり祭facebook https://www.facebook.com/suitadanjiri/(最終閲覧日2025年12月10日)
吹田だんじり祭Instagram https://www.instagram.com/suitadanjiri?(最終閲覧日2025年12月10日)
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吹田だんじり祭Youtubeチャンネル https://youtube.com/@suita-danjiri?si=j-TdBTYIduAPRbme(最終閲覧日2025年12月10日)
第4回吹田だんじり祭~本編~https://youtu.be/UQd6zfXw8EQ(最終閲覧日2025年12月10日)
聞き取り調査
2025年7月27日吹田だんじり祭第4回でだんじりを撮影
2025年10月3日吹田歴史文化まちづくりセンター浜屋敷にて取材
2025年11月5日吹田歴史文化まちづくりセンター浜屋敷の土間談義スペシャルだんじり見学会に参加



