
万博のレガシー 〜大阪・関西万博にみるコミュニケーションを強く意識したデザイン〜
1.はじめに
国際博覧会条約に則り大阪府大阪市此花区の夢洲で国際博覧会、略称「大阪・関西万博」が2025年に開催された。国際博覧会(以降、「万博」と記す。広義を指す。)は、地球規模の多様な課題に取り組むために、世界中から英知が集まる場である。万博会期中、参加者は各国の文化や科学技術・芸術を学び、知ることができる。しかし、万博はこれだけでは終わらない。大阪・関西万博の会期中または閉幕後に「レガシー」というキーワードが話題の一つとなった。そこで本稿ではレガシーを「後世に継承される影響や遺産」と定義し、大阪・関西万博から万博に有用なレガシーを提起しつつ、そのデザイン性を考察する。
2.基本データと歴史的背景
(1)基本データ
開催期間:2025年4月13日~同年10月13日の計184日間
主催者:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
開催場所:大阪 夢洲
面積:約155ヘクタール(約1.55k㎡)
参加した国と地域数:158
テーマ:いのち輝く未来社会のデザイン
コンセプト(一部抜粋):展示をみるだけでなく、世界80億人がアイデアを交換し、未来社会を「共創」(co-create)[註1]
(2)歴史的背景
・世界における万博のあゆみと「モノ」から「想い」に発展
世界最初の万博は、1851年ロンドン博で、当時は参加国が自国の製品を一ヶ所に集め、世界最新の製品の技術と情報を発信する「産業技術の国際見本市」としての産業政策であった。そして、1933年シカゴ博ではじめて公式テーマによる万博が開催された。万博は共通テーマのもと、世界各国がモノを出品する場から、想いを伝える場へと変化した。日本は、江戸時代末期の1867年、はじめてパリでの万博に参加し、1970年にアジアで初めての万博が大阪で開催されるようになった。当時のテーマは「人類の進歩と調和」であった。[註2]
この大阪万博(EXPO’70)から55年ぶりに大阪での開催となった。
2025年大阪・関西万博の意義は、世界が新型コロナの影響や地域紛争などで分断の危機にある現在、いのちに焦点をあて、人と人、国と国が結ばれることで新たな対話と交流が生まれ、共に「より良い明日」を創るきっかけとする。ポスト・コロナの最初の「つながりを取り戻す」万博として位置づけている。[註3]
3.評価点
大阪・関西万博は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する人間中心の社会を、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、新たな社会として提起している。[註4]
そこで、当万博会期中にサイバー空間(仮想空間)における「バーチャル万博」[註5]のサービスを提供した。これはAR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術を活用し、来場者だけでなく、来場できない人々への疑似的な参加を可能にした。会場の風景やパビリオンの展示内容を密接に関連づけることで、万博会場内を知ることができ、また楽しみを付与した。この体験は、仮想と現実を融合した取組みといえ、新たな万博への参加方法を構築したといえる。
また、フィジカル空間(現実空間)においては、大屋根リングがシンボル的存在となった。【資料1】
大屋根リングが「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインを象徴し、大屋根リングを中心にパビリオンが配置されることで会場の一体感を生み出すと同時に、来場者の移動動線や巨大な日除けとして暑さ対策にもなるなど運営面でも機能を発揮した。[註6]【資料2】
上記にあげた空間のデザインは、現実の人・モノ以外に仮想のものまで含蓄しながら、それらを伝達・協調させることを強く打ち出している点で評価できる。
4.大阪・関西万博と大阪万博(EXPO’70)を比較して特筆される点
大阪万博(EXPO’70)のレガシーといえば、2025年8月に国の重要文化財(建造物)として指定された「太陽の塔」が代表的である。[註7]【資料3】
この「太陽の塔」と前記の「大屋根リング」は、どちらもそれぞれの万博における、地域に特化した有形的なレガシーといえる。これは、大阪万博(EXPO’70)入場者6421万8770人のうち外国人来場者約170万人(全体の約2.6%)[註8]、2025年の大阪・関西万博入場者約2902万人のうち外国人来場者は約5.2%【資料4】という結果からみても、万博への参加者がその主催国や地域に偏っていることが分かる。有形なレガシーは開催地のその後の観光名所としては有用だが、特定地域の活性化だけでは万博の活用が不十分といえる。そこで、今回の大阪・関西万博会場では、万博の参加者を活かしたコミュニケーションによる試みがあり、そこに地域性を超えるレガシーの可能性がみえる。高度経済成長期を象徴した大阪万博(EXPO’70)から安定成長期、バブル経済期を経て長期停滞期にある現代に、「つながり」を重視した当万博の特筆する点を以下に示す。
・「盆踊り最多人数・最多国籍数のギネス世界記録®」【資料5】
実施日:2025年7月26日
実施内容:同時に盆踊りを踊った「国籍数」と「人数」を競う
上記の記録認定には5分以上揃って踊るといった条件がある中で、3946人による盆踊りギネス世界記録®が誕生した。[註9]
また、盆踊りを踊った国籍数62ヵ国は初の認定となった。[註10]
上記のように、「多様でありながら、ひとつ」を体現した盆踊りは、参加者同士の対話や交流を生み、個々人の記憶に残り、記録が残った。これは万博のイベントに参加した、国籍や性別の異なる多様な人々による「共創」のデザインを形に表したといえる。こうした共創による文化的な体験をレガシーとして世界に発信していくことは、地域の為だけでなく万博そのものの存在や継続意義として有用といえる。
また、経済産業省は当万博の実績と成果について以下に述べている。
・人々のつながりは、会場内だけでなくSNSや仮想空間での体験を通じて広がり、様々な形で万博に参加できることからより多くの人が能動的に万博に参加するきっかけとなった。【資料6】
・万博は『みんなで創りあげる場』として、リアルとデジタルの両面で共創の場となった。[註11]【資料7】
このように多様でありながら一つの集まりとしての「共創」を強く意識した万博のあり方を提唱したといえる。
5.今後の展開
上記大阪・関西万博が提起した「共創」の活動は、万博閉幕後の現在もオンラインプラットフォーム「EXPO COMMONS」[註12]や、2025年11月に開催された「TEAM EXPO 2025 MEETING」[註13]などで継続している。今回大阪・関西万博が構築した仕組みを、「万博名物レガシー」として、人のつながりの象徴であり続ける事が、万博の存在意義、そして人々の存在をより認識するための重要な活動の一つとなると考察する。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が存在する現代において、現実空間で多様な人々が共に創る記録や成果を残すという行為は人を意識しあうという点で有用といえる。
6.まとめ
今回、次世代に残す万博のレガシーの在り様という問いに、大阪・関西万博での大人数・多国籍による盆踊りギネス記録®は「多様でありながら、ひとつ」を体現し、世界に平和的文化活動という「共創」のデザイン を残したといえ、これが今後の万博に重要な無形のレガシーといえる。
万博の歴史から見る「モノ」から「想い」は進展している。この活動は、それぞれが「自分の存在と他者の存在」を再認識するきっかけとなったといえる。人類がモノを発展させ、ネットワークによって世界に広がりをみせている現代において、その営みには、平和的に相互理解を深めていくことが重要といえる。大阪・関西万博からみえたものは、仮想と現実との「共創」、人同士のふれあいの中で生まれる「共創」というように、つながりの重要性を示唆したといえる。万博がひとつの生命体のような脈動を起こし、社会はそれに反応するように平和維持や地球環境保全が推奨されるといった、世界が「多様でありながら、ひとつ」となるような「共創」のデザインが、後世に継承されることを期待する。
最後に、上記から万国博覧会は人類の知と存在を問う場といえる。また、個々人にとっても開かれた問いの場といえる。今回、大阪・関西万博を卒業研究として取り組めたことに公益社団法人2025年日本国際博覧会協会へ感謝する。
-
【資料1】大屋根リングがパビリオンと人を囲む。多様でありながら、ひとつ」のデザインを象徴した「大屋根リング」(2025年7月20日 筆者撮影) -
【資料2】大屋根リングの機能・詳細(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会HPをもとに筆者が作成)
出典:大阪・関西万博公式Webサイト、「大屋根リング」。
https://www.expo2025.or.jp/expo-map-index/main-facilities/grandring/(2025年12月30日閲覧) -
【資料3】「太陽の塔」(2025年11月16日 筆者撮影)
「太陽の塔」は芸術家の岡本太郎(1911-1996)がデザインし、1970年の「日本万国博覧会(大阪万博)」のテーマ館の一部として建てられた。太陽の塔は過去・現在・未来を貫いて生成する万物のエネルギーの象徴であると同時に生命の中心、祭りの中心を示したもので、博覧会開催期間中、来場者(約6,400万人)に多くの感動を与えた。構造は、鉄骨、鉄筋コンクリート造りで、高さは約70mとなる。
太陽の塔があったテーマ館は、地上、地下、空中の3層にわたる展示空間で博覧会のテーマである「人類の進歩と調和」を最も表現する場であった。[註16]
上記から太陽の塔が、祭りの中心的役割と当博覧会テーマの表現を果たしたという点では、2025大阪・関西万博の「大屋根リング」と万博内での役割において親和性があるといえる。 -
【資料4】2025年大阪・関西万博の来場者の内訳(グラフ)
(※経済産業省、「大阪・関西万博の開催実績及び成果の整理(案)、来場者データ」をもとに筆者作成)
出典:経済産業省、「大阪・関西万博の開催実績及び成果の整理(案)」、2025年12月、3ページ。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/results_verification/pdf/001_04_00.pdf(2025年12月30日閲覧)
上記のとおり、総来場者数に対しての海外からの来場者は5.2%、また国内をみても来場者の66.6%が近畿地方からとなっており、万博への参加が開催地域の周辺在住者に偏っていることが分かる。 -
-
【資料5】出典:大阪市、報道発表資料「大阪の祭!~EXPO2025真夏の陣~盆踊りギネス世界記録®に挑戦!」、応募チラシPDF(タレント顔写真なし)」。
(上記PDF【資料5】は、2026年1月26日に大阪府市万博推進局参加推進課から筆者が提供および使用許可を受けた)。(※「大阪ウィーク盆踊り世界記録挑戦事務局」は2025年8月末をもって業務を終了した。2026年1月26日現在、当PDFに記載の応募や、問い合わせ用のメールアドレス、FAX番号とQRコードでのアクセスは終了している。筆者確認済み)
当チラシは万博会場内で世界ギネス記録®「盆踊り最多人数・最多国籍数」に挑戦するために、事前に告知・普及活動された資料。記録挑戦当時は、チラシ下部のQRコードを読み取ることで日本語/英語対応の振付け動画を閲覧することが可能となっており、国籍を問わず多様な参加者を求めていたことが分かる。 -
【資料6】大阪・関西万博の来場者からの声
(※経済産業省、「大阪・関西万博の開催実績及び成果の整理(案)、新たな価値観への気づき・共有」をもとに筆者作成)
出典:経済産業省、「大阪・関西万博の開催実績及び成果の整理(案)」、2025年12月、20ページ。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/results_verification/pdf/001_04_00.pdf(2025年12月30日閲覧) -
【資料7 】出典:X(旧ツイッター)(@t_tsuji)をもとに2026年1月26日筆者撮影。
(※つじ氏にマップ掲載の使用を連絡済み)
大屋根リングが会場全体を一つにつなぐ役割を果たし、パビリオンや多様な人々に一体感を与えたといえる。また、今回の大阪・関西万博では、X(旧ツイッター)で非公式の地図を公開した「つじ」氏(51)のように、来場者同士がネットワークで情報を共有し、助け合う姿がみられた。SNS上でも「共創」があったといえる。
参考文献
[註1]大阪・関西万博公式Webサイト、「開催概要」。https://www.expo2025.or.jp/overview/(2025年12月30日閲覧)
[註2]大阪府編、『世紀の祭典日本万国博覧会50周年記念公式ガイド』、万博記念公園マネジメント・パートナーズ、2021年4月、5ページ。
[註3]JTBパブリッシング編、『2025年日本国際博覧会 大阪・関西万博公式ガイドブック』、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会、2025年4月、4ページ。
[註4]大阪・関西万博公式Webサイト、「開催目的」。
https://www.expo2025.or.jp/overview/purpose/(2025年12月30日閲覧)
[註5]大阪・関西万博公式Webサイト、「バーチャル万博」。
https://www.expo2025.or.jp/future-index/virtual/(2025年12月30日閲覧)
[註6]経済産業省、「大阪・関西万博の開催実績及び成果の整理(案)」、2025年12月、4ページ。https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/results_verification/pdf/001_04_00.pdf(2025年12月30日閲覧)
[註7]万博記念公園公式Webサイト、「万博記念公園 太陽の塔が重要文化財(建造物)に指定されました。」、2025年8月27日(12月25日更新)。
https://www.expo70-park.jp/info/72409/(2025年12月30日閲覧)
[註8]大阪府編、『世紀の祭典日本万国博覧会50周年記念公式ガイド』、万博記念公園マネジメント・パートナーズ、2021年4月、27ページ。
[註9]Guinness World Records,"Largest bon dance (non-costumed)",26 July 2025.
https://www.guinnessworldrecords.jp/world-records/768584-largest-bon-dance-non-costumed(2026年1月29日閲覧)
[註10]Guinness World Records,"Most nationalities performing bon dance simultaneously",26 July 2025.
https://www.guinnessworldrecords.jp/world-records/769705-most-nationalities-performing-bon-dance(2026年1月29日閲覧)
[註11]経済産業省、「大阪・関西万博の開催実績及び成果の整理(案)」、2025年12月、12ページ。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/results_verification/pdf/001_04_00.pdf(2025年12月30日閲覧)
[註12]公益社団法人2025年日本国際博覧会協会、「共創の広場 - EXPO COMMONS A Legacy of EXPO 2025 OSAKA, KANSAI 活用ガイド」、公開期間:2023年12月29日~2050年12月31日。
https://platform-clover.net/feature/expo-commons-guide(2026年1月18日閲覧)
[註13]大阪・関西万博公式Webサイト、「お知らせ TEAM EXPO 祭り「TEAM EXPO 2025 MEETING」“共創”をもう一度、みんなで!!」、2025年11月18日。
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20251118-01/(2026年1月18日閲覧)
[註14]大阪・関西万博公式Webサイト、「大屋根リング」。
https://www.expo2025.or.jp/expo-map-index/main-facilities/grandring/(2026年1月2日閲覧)
[註15]公益社団法人2025年日本国際博覧会協会、「持続可能な大阪・関西万博開催にむけた行動計画(開催後報告書)の方向性について、【大屋根リングの残置】」、2025年10月1日、22ページ。
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/uploads/250929_jizoku_file12-2.pdf(2026年1月2日閲覧)
[註16]万博記念公園公式Webサイト、「太陽の塔とは」。
https://taiyounotou-expo70.jp/about/(2025年12月30日閲覧)