
氷川神社の活動に関する提言
東京都港区赤坂周辺には、氷川神社、日枝神社、乃木神社と名だたる神社が存在し、三つの神社は800m以内の至近距離に立地する。初詣の時期には日枝神社の25万人を筆頭にそれぞれ数万の参拝客が訪れる。
近年若い人を中心に宗教離れが進んでいると言われるが、都心にあるこれらの神社は初詣や例祭時には多くの人々を引きつけている。そこで氏子地域となっている氷川神社に焦点を当て、人々を引きつけている要因を分析し、神社の今後の活動について提言する。
1. 氷川神社の起源と現状(基本データと歴史的背景)
1)氷川神社の起源
氷川神社の起源は最も古く1000年以上遡る。御祭神は天照大御神の弟で八岐大蛇(やまたの おろち)を退治した素戔嗚尊(すさのおのみこと)、五穀豊穣を司る奇稲田姫命(くいいなだひめのみこと)、出雲大社の御祭神である大国主命(おおくにぬしのみこと)の三体である(参考文献1)。
多くの参拝客が訪れるが、お願いする神様が上記の三体であることを認識している人は少ないだろう。
2)年間の祭典
交通安全、家内安全等の祈祷、初詣、祈念祭等の神社に共通した行事以外の特色ある行事を以下にまとめた。
氷川神社の最も重要な行事は9月の例祭である。2006年に、赤坂の氏子24町会、地域の商店街や企業、さらには行政の賛同を得、「NPO法人赤坂氷川山車保存会」が発足し、戦後80年ぶりに山車巡行が実現した。今では参加3000名以上、見学者を含めると総勢2万人規模の祭礼へと復活し最も人を集める行事となっている(参考文献2)。
6月末、12月末に行われる大祓式前には、赤坂の各戸に大祓式の案内と形代が配布される。形代に自身の穢れを移し神社に持参することで祓い清める(添付資料1)。赤坂に転居してきた人々は、都心の住居にこのような案内が形代とともに届くことに意外性を感じる。10月に行われる包丁塚祭も、赤坂の有名店の料理人が集まる赤坂ならではの特色ある行事である。
3)氷川神社をサポートする組織
神社の崇敬会として「ともえ会」が組織されている。会員は100名程度で会員はLineでつながり、年中行事時の警備や山車の清掃、餅つき会の手伝い等、年間7つの行事のサポートをボランティアで行っている(参考文献1)。
4)氷川神社が運営するその他の活動
氷川雅楽会や神事とは直接繋がらない赤坂氷川茶道教室、花活け教室「はなのみち」、歌のお稽古を運営している。
2.近隣の二つの神社との比較(他事例との比較による特質)
近隣の乃木神社、日枝神社との比較を試みた。
1)年間の祭典
乃木神社は乃木将軍をお祀りしていることから、1月に乃木将軍の凱旋祈年祭、2月の天皇誕生日をお祝いする天長祭、9月には御祭神である乃木夫妻の命日に最大の行事である例祭が行われる(参考文献3)。故人の崇拝に力を入れている点に特色がある。
日枝神社は、1月に印章の霊性に感謝する印章護持祭、6月には江戸三大祭りと称された
山王祭が特に有名である。日枝神社の格式によるものなのか、3月、9月に宮中で行われる皇霊祭では遥拝を行う。庚申信仰もあり、2ヶ月に一度の庚申祭も特色ある催事と言える(参考文献4)。
2)神社をサポートする組織
氏子の会である崇敬会の性格に違いが見られる。乃木神社の崇敬会「中央乃木会」は、ご神体である乃木希典夫妻を崇める会とも言える。乃木神社で結婚式を挙げた人だけが入会できる「なつめの会」も組織され、結婚式後も神社からの案内が届けられる。日枝神社の氏子崇敬会は「広大無辺なる日枝大神様の御神護を頂く」ことを目的とするが、いずれの会も「ともえ会」のようなボランティアベースの組織はない。
乃木神社、日枝神社の崇敬会は、入会すると会員証が発行され、定期的に会報誌「洗心」(乃木神社)、「山王」(日枝神社)が送られてくる。年会費は両神社とも3000円である。日枝神社ではさらに年会費の納付金額によりランク別に会員名称が与えられ、10万円以上の年会費を払うと名誉会員の称号が与えられる。
3)神社が運営するその他の活動
乃木神社では、社殿に剣道場があり小学生、中学生を対象とした剣道教室が開かれている。また、乃木将軍が早くからボーイスカウト活動に注力したこともあり、神社内にボーイスカウトの事務所がある。日枝神社では地域に向けた剣道教室やお茶・お花の会はない。乃木神社、日枝神社とも結婚式(披露宴)会場を持ち、積極的に結婚式、披露宴の誘致を行っている。
以上のことから、総じて初詣や七五三、大祓式等の年間の祭典、各種の祈祷等主な活動は各神社とも行われ、同じ行事が毎年繰り返されている。
相違点は、初詣での参拝客数は日枝神社で25万人と圧倒的な規模であり、参拝客の数からすれば氷川神社は遙かに小さい。また、氷川神社では、結婚式の披露宴は行えず、崇敬会も他の神社に比べて組織化されていない。氷川神社や日枝神社ではいわゆる教義といえるものが存在しないが、乃木神社は会報誌等で毎回乃木希典夫妻の偉業が紹介されている。さらに、氷川神社では「NPO法人赤坂氷川山車保存会」、「ともえ会」のようなボランティア組織を立ち上げ、氷川神社に関心のある人々の交流の場を提供し、お茶やお花の教室等、地域に貢献する活動に力を入れている点に特色が見られる。
3.「神社の魅力」についての考察(評価)
上記の年間行事の説明だけでは人が神社に向かう理由について、十分説明しきれない。そこで、神社本庁が行った第4回『神社に関する意識調査』(参考文献5)の調査結果から神社の魅力を探ってみる。氏神様に対する具体的な印象を問う質問に対して表1のような結果が出ている。
表1 氏神様に対する印象
単位:% 2016年 2006年 2001年 1996年
地域の人々を守ってくれる 45.8 37.8 34.1 30.6
心に安らぎを与えてくれる 30.7 31.0 37.2 38.6
歴史を感じる 26.2 22.6 26.5 28.6
神聖なものである 23.7 23.5 24.4 21.0
お祭りが賑やかである 15.5 13.9 17.0 12.6
特になし 16.5 20.9 17.9 18.2
*2016年調査:満20歳以上の個人、標本数4000、回収率30% 複数回答可
この調査結果から神社に向かうのは、今でも人々の根源的な欲求である日々の生活の安寧や、心の安らぎを求めていることがわかる。特に「地域の人々を守ってくれる」が調査を行う毎に評価を増している点が注目される。日々の安寧や心の安らぎを願う人間の基本的な欲求を発露する場所として神社が認識され、これが神社に集まる人々の真相ではないだろうか。島田(2018)は、伊勢神宮の現在の状況について「国民が本当に求めているのは、本宗(神社のヒエラルキーの頂点)としての伊勢神宮ではなく、(江戸時代に庶民に親しまれた)お伊勢さんとしての伊勢神宮なのではないか。そして、それぞれの地元にある身近な神社に日々の安寧を願うことなのではないだろうか。」(参考文献6)と神社の本質論に迫っている。
また、氷川神社の「ともえ会」に着目すると、儀式はあっても教義のない神道では束縛されるものが少なく、神社での奉仕活動は地域住民の交流の場として人々を引きつけている。このような現象について、黒崎(2019)は「今日、公共政策において神社の価値を再発見、再評価する」べきだとし、「それは必ずしも、神社の氏子組織である地縁的コミュニティーの再活性化を求めるものではなく、むしろ現代の都市における新しいコミュニティーの形成を構想するもの」と説明し、神社を新しい地域コミュニティーの拠点としてその価値の再創造を提唱している(参考文献7)。
4.今後の展望とまとめ
以上のことから、3つの神社にはそれぞれ特色があり、総じて乃木神社は乃木将軍の遺訓を後生に伝えていくことで人を引きつけ、日枝神社はその格式と規模で人を引きつけていると言えよう。氷川神社は乃木神社や日枝神社と比較しその存在意義を特徴づけることができる。すなわち都会において地域コミュニティーの新しい拠点として、より存在意義を高められると言える。その為には、歴史資産の多い赤坂の歴史講座、五穀豊穣との関係から、新米の食べ比べや新酒の利き酒会等を地元民の親睦を目的とした活動が考えられる。また、これらの活動にはSNSの積極的な活用は必須である。
神道は第二次大戦の悲劇をもたらした原因の一端を担わされた歴史があるが、戦後負のイメージを負いながらも多くの人が初詣などで参拝している。そこに神社に対して求めるものの重要性を実感する。神社の価値を再定義することにより、あらたな存在意義を見いだせるものと確信する。
添付資料
1. 「赤坂氷川神社 大祓式のご案内」 2025年12月 荻原 撮影
参考文献
参考文献
1.赤坂氷川神社HP https://www.akasakahikawa.or.jp/hikawasai/ 2025年11月5日閲覧
2.福原敏男、是澤博昭「四。祭礼」滝口正哉編『赤坂氷川神社の歴史と文化』 都市出版 2016年発行 P66
3.乃木神社 HP https://nogijinja.or.jp/saiji.html 2025年11月5日閲覧
4.日枝神社 HP https://www.hiejinja.net/events/ 2025年11月5日閲覧
5.神社本庁総合研究所編 第4回『神社に関する意識調査』 平成30年6月発行 P5
6.島田裕巳著『神社崩壊』新潮新書 2018年発行 P220
7.黒崎浩行著『神道文化の現代的役割』弘文堂 2019年発行 P74、P79

