浜離宮恩賜庭園の現代的景観の意義

富澤 敏雄

1.はじめに
東京都の文化財庭園浜離宮恩賜庭園(以下浜離宮)は、旧芝離宮恩賜庭園(以下芝離宮)とともに江戸時代に造られた汐入の池泉回遊式庭園である。
都心にある文化財庭園は、開発により周囲に高層ビル群が林立している。本来、周辺の自然環境と一体となっていた文化財庭園は、その本質的価値としての眺望という点ですでに変質してきているといえよう。こうした眺望の変容を単なる景観破壊と断ずるのではなく、新たな価値を見出し、文化財庭園の現代的景観の意義について考察する。

2.基本データと歴史的変遷(1)(2)
① 基本データ
• 正式名称 :特別名勝・特別史跡 浜離宮恩賜庭園
• 所在   :東京都中央区浜離宮庭園1-1
• 開園年月日:1946年(昭和21)4月1日
• 開園面積 :250,215㎡

② 浜離宮の歴史的変遷
徳川四代将軍家綱の弟で甲府宰相松平綱重が1654年に造営した浜屋敷。綱重の子綱豊が六代将軍徳川家宣となり、以後は将軍家の別邸「浜御殿」となる。海水を引いた汐入の庭で、二つの鴨場を設け、殖産研究、出城、賓客接待など様々な機能を有していた。1870年に宮内省所管の「浜離宮」となり、1945年に下賜されて東京都立浜離宮恩賜庭園となっている。

③ 浜離宮周辺の環境について
(添付ファイル:浜離宮年表・浜離宮周辺高層ビルリスト参照)
浜離宮の土地は17世紀前半に埋め立てが開始された造成地であり、その周辺も年代ごとに埋め立てが進んできた。特に明治以降は東側の勝どき地区の埋め立てが進み、東京湾に面していた海側の眺望は失われた。埋め立ては戦後も拡大し、臨海地区には1990年代頃より高層ビルが建造されるようになった。
2002年に建築基準法等の一部改正を伴って施行された「都市再生特別措置法」により、容積率制限、用途制限、高さ制限といった規制の適用が除外されたことにより、浜離宮周辺地区には超高層ビルが林立するようになる(3)。特に旧新橋停車場跡地の再開発「汐留シオサイト」がスタートし、大手門側の景観は大きく変貌した。

3.浜離宮の景観的評価(添付ファイル:浜離宮内部からの眺望)
① 高層ビルの映り込む眺望
浜離宮は東京湾の眺望や冨士見山から望む富士山などを借景とする伝統的庭園であったが、周辺環境の変化によりそれらを失い、現在では、園内のどの場所から周囲を見渡しても、その眺望には高層ビルが背景として映り込むようになっている。
実際に浜離宮内部からの景観について、四か所からその眺望を観測してみた。観測箇所は回遊式庭園の中心となる汐入の池に近い、南側及び東側で行った。

観測地点A:お伝い橋中央付近より東西南北の4方向
観測地点B:富士見山頂上付近より北側・東側の2方向
観測地点C:汐見の御茶屋跡付近より西側・南西側・東側の3方向
観測地点D:海手お伝い橋付近より西側・東側・北側

どの地点からも超高層ビルが入り込み、特に北側は汐留地区の高層ビル群(図表2・6)、東側の臨海地区の高層マンションなどのスカイラインが映り込んでいる(図3・4・7)。

② 周囲の高層ビルによる眺望の変質への積極評価
進士五十八等は、日本庭園の外部に中高層ビルが林立して視野に入ってくることは、眺望阻害や眺望の変質、さらには「景観破壊」となると断じた(4)。
しかし浜離宮の周辺はすでに明治20年(1887年)頃より臨海地区の埋め立てが開始され、大正期までにはすでに海側の眺望は失われている。さらに戦後も周辺の開発は進み、西側に首都高速道路が建設され、芝地区や霞が関などに中高層ビルが建設されたことなどで、富士見山から富士を望むことも叶わなくなっている。こうした近代化、現代化に伴う周辺環境の開発による眺望の変質は、進歩の観点から致し方のないことでもあり、その流れを止めることは困難なことでもある。
一方で、超高層ビル群やレインボーブリッジなど東京の新たなランドマークを園内から望むことができるため、伝統的な庭園と都市の現代的な景観を同時に味わうスポットとして、これを評価する意見も出てきている。(5)
浜離宮を訪れる多くの人々にとって、周辺の高層ビル群は景観を破壊するものとは捉えられていないようである。多くの鑑賞者は、園内の池泉を中心とする自然空間と園外の超高層ビル群とのギャップを楽しんでいるように見える。実際、園内から外部の超高層ビルの眺望を写真に撮り、「かっこいい」と声をあげる人もいる。特に若い世代や外国人観光客には、園内からの超高層ビルのスカイラインは「かっこいい眺望」と映るようだ。

③ 借景の現代的意義
借景とは、庭園から視界に入る敷地外の景観を、単なる庭園の背景としてではなく、庭園の重要な構成要素としてとらえることである(6)。しかしもともと日本の伝統的庭園は、自然をモチーフとして作られた人工的な自然景である。岡本太郎は借景式庭園を「外の自然美と内の人工美との巧妙な使い分けの調和」と語り、「自然と半自然的要素とを対立のまま結合する技術」とした(7)。
そうだとすれば、周囲を現代的建築物に囲まれた伝統的庭園は、作られた人工美としての自然景の中に外部の作られた人工美としての高層建築を借景化しているといえるかもしれない。

4.芝離宮との比較と浜離宮の特筆点
芝離宮は浜離宮の南側約700メートルの距離にある。同じ江戸時代に造られた汐入の池泉回遊式庭園で、周辺環境の開発により浜離宮と同様に、周囲には中高層ビルが林立している。浜離宮は水路から海水を引水しているが、芝離宮は近隣の埋め立てにより池泉は淡水となり、海の景観を消失している。
浜離宮と芝離宮の園内からの眺望には必ず高層ビル群が映り込むが、その違いは広さと、周辺の建築物との距離にある。浜離宮の広さは250,215㎡、芝離宮は43,175㎡であり、さらに芝離宮は100m以内の距離に中高層ビルが約20棟建っている。
芦原義信は著書『街並みの美学』において、街路の幅(D)と建物の外壁の高さ(H)の比率を開放感や閉塞感の指標としている。
D/H=1以下 (完全に囲まれていると感じる)
D/H=4以上 (囲まれ感覚の消失)
さらに建築物の全体を景観としてとらえるためには、「建築の高さ(H₁)の2倍の距離(D₁)離れなければ建築の全体としてみることができない」としている(8)。
芝離宮には近接した中高層ビルによる閉塞感があり、また周辺の高層建築の全体を眺望化し得ていない。一方、浜離宮は広大な広さがあり、周辺のビル群とは一定の距離があるため、開放感のある敷地内から周辺の超高層ビルの全体を眺望景として捉えることができている。

5.今後の展望
東京都は『パークマネジメント・マスタープラン』を策定し、文化財庭園の魅力や価値を伝える展示の充実を図り、観光資源としての魅力向上を進めている(9)。そこでは夜間の開園や周辺の夜景を楽しむことやプロジェクションマッピングなどの新たな価値創造も企図されている。
また文化財庭園の景観価値については、園内からの眺望景観だけではなく、園外の周辺ビルから庭園を観る「庭園俯瞰景」に関する研究も行われており(10)、周辺のホテルやタワーマンションからの浜離宮の俯瞰景が価値を高めるものとなっている。

6.まとめ
都心にある文化財庭園は、周辺環境の開発、特に高層ビル群によって本質的価値としての眺望景が変質している。これを景観破壊と断じてもその開発を止めることは叶わない。また内部の保全に努め、高い植栽などを工夫しても、100m超の高層ビルを隠すことはできない。そうであるならば、周囲の現代的な高層ビル群と庭園内の景観のコントラストに新たな価値を見出していくことが必要と思われる。
すでに気鋭の建築家、写真家からは、日本庭園と外部の現代的建築物の借景化を積極的に評価する考えも提示されている。(11)
林立する超高層ビル群は都市の現代的なシンボルである。その近未来的な眺望と文化財庭園の自然景、そのコントラストを積極的に評価し楽しむことが現代における文化財庭園の意義を高めていくことになる。

  • 註釈_page-0001 本文注釈(1)~(11)を明記しています。
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  • 浜離宮内部からの眺望_page-0008 本文図表を掲載しています。
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  • 81191_011_32283330_1_4_浜離宮周辺ビルリスト_page-0001
  • 81191_011_32283330_1_4_浜離宮周辺ビルリスト_page-0002
  • 81191_011_32283330_1_4_浜離宮周辺ビルリスト_page-0003

参考文献

<参考文献・サイト>
『東京都における文化財庭園の保存活用計画(旧浜離宮庭園)』(平成29年3月)
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/park/teien/kouen0019
(閲覧:2025年9月29日)

『日本の庭園 造形の技とこころ』 進士五十八著 中公新書 2005年

『日本庭園-空間の美の歴史』 小野健吉著 岩波新書 2009年

『東京の美学』 芦原義信著 岩波新書 1994年

『日本の造園における借景という用語の性格と変遷』
(『ランドスケープ研究(オンライン論文集)』5 巻) 2012年
周 宏俊, 小野 良平, 下村 彰男
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jilaonline/5/0/5_0_17/_article/-char/ja/ (閲覧:2025年10月8日)

『日本の美術 No.372 借景』 本中眞編. 至文堂 1997年

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