
一般社団法人日本パントマイム協会主催事業 「ワークショップキャラバン2023」
「基本データ」
一般社団法人日本パントマイム協会は2018年に設立されている。これまで日本には法人としての協会はなく、当協会が日本で初めて法人として設立され、国内におけるパントマイムの振興と発展、パントマイムに関わるアーティストの交流とサポートを目的として設立されている。2019年には渋谷区伝承ホール寺子屋提携公演「JAPAN PANTOMIME NEXT」、2022年には文化庁「ARTS for the future!2」の補助対象事業として「JAPAN PANTOMIME NEXT 2022」公演を主催しており、コロナ禍では配信ライブも精力的に開催している。
現在の会員数は42名(2025年)で、パントマイミストの中には視覚障害者や聾者も所属している。パフォーマー以外ではカメラマンやNPO法人国際サーカス村協会理事代表も所属しており、多様性に満ちた協会なのだ。
「歴史的背景」
パントマイムの語源は、古代ギリシャ語の「panto(すべてを)」と「mimos(模倣する、真似る)」を組み合わせた「pantomimos」である。
16世紀から18世紀にかけてイタリアのコメディア・デラルテが仮面を使用し、パントマイムや曲芸にて人気を博したことで、全ヨーロッパに伝わるのである。また、日本でも13世紀に円覚上人が仮面・パントマイムを使用した「壬生大念仏狂言」を生み出している。
20世紀に世界的マイムの大復興を担ったのが、マルセル・マルソーである。マルセル・マルソーはパントマイムの神様と呼ばれており、マイケル・ジャクソンら世界中のアーティストに影響を与えた世界的なパントマイマーである。2020年に公開された『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』(1) というマルソーの自伝的映画にて、子供たちとパントマイムでコミュニケーションを取っているシーンが描かれている(日本公開は21年)。孤児たちの年齢は様々であり、使用している言語が違っていたと言う可能性もある。そのような環境では無言の芝居(パントマイム)が共通語になっていたと考えられる。
マルセル・マルソーは、「子どもたちとの結びつきは、私の演劇修行の下準備になったわけです。」(2)と述べている。ある意味、レジスタンス活動での子供とたちの出会いが、マルソー自身にも大きな影響を与えたのである。このことからもパントマイムと子どもはとても親和性が高いと言うことがわかる。また、パントマイムは肉体のイリュージョンとも言える芸術である。無いものを有るかの如く肉体にて見せることのできる、種のない奇術なのだ。このことからも子どもたちは目を奪われる。非言語(パントマイム)とは、魅力的なコミュニケーションツールであるということが、このことからも認識できる。
日本の第一人者はヨネヤマ・ママコ(2023年没)であり、当協会の名誉会長も務めていた。
「評価する点」
一般社団法人日本パントマイム協会主催事業「ワークショップキャラバン2023」は、パントマイムで「からだ」と「こころ」を動かそう!を趣旨に掲げ、学校や施設に協会メンバーが赴きパントマイムワークショップをボランティアにて開催したのである。ワークショップのねらいは、「そこにないものを、まるであるかの如く表現できる芸術」なのがパントマイムであり、自分の身体を実際に動かしながら、身体への興味、他者へ想いを伝える喜び、自由に想像することの楽しさを味わってもらうことにある。
また、この事業を通して、身体の不思議さと可能性に気づき、その想いを大切に育み、ひとりひとりの成長につながる機会となれば幸いである。と述べられている。(3)
赴いた学校・施設は次の通りである。プレジャー企画(名古屋)、つむぎ保育園(世田谷)、笹幡保育園(渋谷区)、あかり学園特別支援学校(特定非営利活動法人あかり)(埼玉県)である。
プレジャー企画はホスピタル・クラウンを養成している団体である。ホスピタル・クラウンとは、病院をたずねて、闘病中の子どもたちを元気づける道化師のことであり、欧米では80年代にはじまり、今は治療法の一つとして認識されている。(4)
保育園では0歳児から5歳児までを対象とし、特別支援学校では障害を持つ18歳から21歳を対象に実施している。
優れているのは、幼児、障害を持つ社会に出る直前の子ども達、そして、病気の子ども達のケアを手伝うホスピタル・クラウンへ実施している点であり、さまざまな子ども達の「からだ」と「こころ」にフォーカスしているという点である。
「他の事例との比較」
鈴木裕子氏の「幼児期における身体表現の特徴と援助の視点」という研究報告がある。この報告の問題の所在では、人のコミュニケーションに関する研究領域では、言語による情報伝達はもとより、身体による非言語的な行動の果たす役割についても高い関心が寄せられており、教育や保育の領域においても、子ども達のコミュニケーション能力の不全に対して、こころと結びついた“からだ”や、主体とその関係のあり方を問う“身体性”という視点から問題を浮かび上がらせること。その解決策としてノンバーバル・コミュニケーションの必要性や重要性を議論する動きが活発化していると記されている。(5)
この事例は言葉がけにより子供たちの身体表現を促しているのだが、パントマイムは視覚に訴える。言葉で受け取るより、身体の動きから発想する方がより想像力の自由度が高いと考える。例えば代表的なテクニック「見えない壁」を取り上げても、その壁がいったいどんな壁なのか、子どもたちが想像する素材はガラス、コンクリート、木など違って良いのである。そこにないからこそ自由に表現でき、見ている側も自由に受け取ることができるのだ。身体だけで演じること、そして見て感じること、パントマイムは、身体以外には何もない空間にて想像力を育むことができるのが特筆される点である。
「今後の展望」
「ワークショップキャラバン2023」では、実施中の観察(客観的な視点)、終了後に一部の関係者にしかヒアリングを行っていないのである。これでは次の活動へのブラッシュアップはできないと考える。施設の関係者の方にどのような点が子ども達にとって有意義であったか、ホスピタル・クラウンの皆様には、実際にどのような点が子どもとのコミュニケーションに役立ったか否かなど聴くことは重要なのである。ボランティアで開催しているとしても人員と時間をもっと割くべきだと考える。
「幼児期における身体表現の特徴と援助の視点」では、データを細やかにとっている。情報は次の一歩への指針となる。このような活動を模範として、子ども達へパントマイムを通して「からだ」と「こころ」を動かす活動を継続して欲しい。
まとめ
「ワークショップキャラバン2023」を開催した笹幡保育園(渋谷区)から、2024年に園長先生からの要望で、再度ワークショップを行っている。この事業は園の申し出により有料になったとのことである。協会事務局長の三五氏から聞いたのだが、終了後には園長先生から、「毎年11月にパントマイムの日を作りたい」との言葉もいただいたそうである。一般社団法人日本パントマイム協会の活動が少しづつではあるが影響を及ぼしている。
協会の設立目的である「日本におけるパントマイムの振興と発展」には、子ども達へパントマイムの魅力を伝えることはとても重要なのである。また三五氏は、「パントマイムが持つ特性として自由に想像し、自分のアイディアをもとに出発し、決まった正解がないということがあります。」とインタビューに答えてくれている。これは、金子みすゞ氏の詩「みんなちがって、みんないい。」と同じ思想である。
このワークショップから、子ども達が言語に頼らずともコミュニケーションが取れることを肌で感じることで、表現の自由度が上がる。現代はAIなどの研究・発展にて、バーチャルな世界が登場している。バーチャルにも利点はある。しかし、このことにより人間は自分の「身体」の重要性を忘れてしまう危険性がある。人間が身体観を失わないためにも、子ども達にパントマイムを通して、身体で行う非言語コミュニケーションの術を伝えていくことは重要である。文化庁「コミュニケーション能力向上」(6)でも、パントマイムが採択されたと三五さんから聞くことができた。パントマイムには未来の身体のデザインに関して重要な可能性を秘めていると考える。
参考文献
(1) 映画『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』2024年5月8日
https://resistance-movie.jp/
(2) マルセル・マルソー、ヘルベルト・イェーリンク対談『パントマイム芸術』尾崎宏次訳、未来社、1971年
(3)一般社団法人日本パントマイム協会 公式HP「ワークショップキャラバン2023」
2024年1月8日 https://www.japanpantomime.com/archives/838
(4)大棟耕介 『ホスピタルクラウン 病院に笑いを届ける道化師』サンクチュアリ出版
2007年
(5)鈴木裕子「幼児期における身体表現の特徴と援助の視点」舞踊學 2002年 巻25号
P1,P6~P8, 図6(P8)添付
(6)文化芸術による子供育成推進事業
https://www.kodomogeijutsu.go.jp/r8/communication.html
2025年11月16日



