相模里神楽垣澤社中 ー古き新しき伝統の伝承と展開についてー

鈴木 智子

はじめに
「相模里神楽垣澤社中」は、神奈川県厚木市に拠点を置く家元世襲制の神楽社中である。丹沢山地と一級河川の相模川に挟まれ、都心の程近くながらも自然豊かな環境の中で、市の伝統芸能として100年以上歴史を紡いで来た。本稿では、次世代へ伝統芸能を守り抜く「相模里神楽垣澤社中」(以下、垣澤社中)の継承活動と今後の展開を考察する。

1.基本データと歴史的背景

1-1 基本データ

名称1:相模里神楽垣澤社中
名称2:神楽教室みずき会
所在地及び所有者:神奈川県厚木市酒井
垣澤社中座員数:9名(内、中心座員5名)
みずき会座員数:24名
稽古場所:厚木南公民館、及び社中稽古場
稽古内容:舞台稽古2回/月、個人稽古10回/月、グループレッスン2回/月

1-2 歴史的背景

江戸から相模国[註1]に伝播した神代神楽[註2]は、神事舞太夫に渡り相模流里神楽と称された[註3]。
厚木市の愛甲神楽の家元・萩原家も相模流を受け継いだ一家であった。1987年に萩原保が没し伝承が途絶えるが、萩原家と姻威関係にあった垣澤鹿蔵が神楽を継承し、垣澤社中の創立となった[註4]。明治初期の政府の宗教政策[註5]により、神社芸能が存続の危機に陥ると、神社は芸能維持の為に神事を神楽や祭へと変容させた。神への奉納物から人間の娯楽物への変化により、神楽が一般人へ受け継がれた事も時代背景となっている(提4)。1912年に、笛の名手と言われた鹿蔵が垣澤社中を創業し、鹿蔵の四男・常蔵により1967年に保存会が結成される。そして常蔵の四男・垣澤勉氏[註6]が三代目家元を受け継ぎ現在に至る(7)。1971年に市の無形民俗文化財に指定され、2021年に次期四代目・代表・垣澤瑞貴氏による神楽教室「みずき会」を開校し、後継者育成に尽力している。

2.事例評価

2-1 ジェンダーの枠を越える 女性神楽師

日本初の女性専業神楽師として、垣澤社中代表を務める垣澤瑞貴氏(以下、瑞貴氏)は、垣澤勉氏(以下、勉氏)の長女である。先述の通り、垣澤社中は世襲制であり、男性が芸を受け継いできた。神楽の舞事の身体表現は男性中心に構成されており、故に女性である瑞貴氏は不利であった。しかし、その実状を一蹴し初の女性神楽師と成し得たのが瑞貴氏である。瑞貴氏は、恩師からの芸の継承や日本舞踊[註7]を取り入れ、垣澤社中に新風を吹き込んでいる。
神楽は、日本神話に基づいた芸能であり天鈿女命がルーツとされる[註8]。元は女性の舞手が原点であった神楽が、男性主体に変わり歴史を紡いできた[註9]。しかし、瑞貴氏の出現により、神楽が男女性差の無い形態へと移り変わろうとしている。このようなストーリーを受け、瑞貴氏こそ新しい神楽の岩戸を開ける天鈿女命であり、神楽の原点に回帰したと言えるのでは無いだろうか。伝統継承を主軸に生きる自らを「歴史の駒」と語る瑞貴氏は、時代を読み、常に先の事を考えている[註10]。岩戸の新時代を迎えた垣澤社中に、大きな一手を投じた瑞貴氏の今後の活躍に期待したい。

2-2 記念公演の演出・構成

2023年3月5日に『社中創設110周年・厚木市無形民俗文化財指定50周年記念公演 〜古き新しき伝統〜』が公演された。筆者はチラシやポスター、物販などのデザイン制作に従事した。公演は斬新な脚本で構成され、地方の神楽社中や他の芸能のキャストを招致し、地域の垣根やジャンルを超えた新しい神楽の世界観を達成させた。新旧形態問わず展開した記念公演は多年の集大成となった[註11]。

2-3 新しい試みと広域活動 神楽教室の開校

垣澤社中が獅子舞を取り入れたのは10年程の間の近年で、瑞貴氏が恩師・髙見氏[註12]より継承したものである。新たに取り入れた獅子舞や御囃子によって出演依頼が増加し、活動の場を広げている[註13]。
以前垣澤社中は後継者不足に悩まされていたが、年齢性別問わず誰でも参加可能な神楽教室「みずき会」の開校により、座員数が増加した。後継者の間口を広くした広報活動が実を結び、若年層の入門が増えている。
神楽は地域に根差した土着的なものとして認識されて来たが、垣澤社中は担い手を地域住民に限定せず領域を広げた。オンライン遠隔講座では、海外からの受講生も在籍している。結果、興味関心の高い座員の獲得へと繋がり、活動が広域に拡大した点は評価すべき点である。

2-4 情報発信のデザイン

コロナ禍以前の周知活動では、市の学生との共同写真作品展示や、映像作品[註14]を制作した。オンライン講座を開設するなど、コロナ禍をターニングポイントとした活動を行なった。これらの取り組みにより、周知から認知へと活動形態の移行を成功させ、地方からも公演依頼が増加した[註15]。また、垣澤社中はホームページの他、インスタグラムやX(旧Twitter)などのSNS発信も頻繁に行い、日常や稽古の様子、出演情報などを頻繁に配信している。

3.同様事例との比較・特筆点

同市内に所在する「伊勢十二座太神楽獅子舞」(以下、太神楽獅子舞)[註16]を上げ比較する。
太神楽獅子舞は、1960年に厚木市指定無形民俗文化財に指定され、1980年に神奈川県選択無形民俗文化財に指定された。太神楽とは、伊勢神宮の参拝代行として神楽奉納をする神事芸能である[註17][註18]。全盛期を構築した 21代目嶋本清友が1998年に逝去し、活動を休止したが、2009年に再開した[註19]。23代目蛭間八重子が2021年に逝去し、相次いで親族の訃報が続いた事から、24代目本多あけみ氏は閉幕を思案した。祖父の清友が築いた芸風が変化する事は本意では無いという想いから2022年に活動を休止した。
上記の事例と比較して垣澤社中の特筆点とは、「変容を取り入れて来た事」である。垣澤社中は、時代の変化に伴いWEB媒体やSNSなどの伝達手段の採用、異なる芸能との協同公演など、新しい文化を柔軟に取り入れ構築してきた。 対して太神楽獅子舞は、写真媒体の流出の懸念や、情報発信に意義を感じないという考えから、SNSやホームページなどの媒体は持たない。垣澤社中のように変容を遂げ継承していく芸能もあれば、太神楽獅子舞のように閉幕する事で伝統を守り抜くと言う観念もある。各団体の時代背景や意向によって理念は変化するものであり、両者とも至当な見解であると考察する。

4.今後の展望

市外の認知が進む一方で、懸念されるのが地域の浸透性の低さである。みずき会の8割以上が市外の座員である事に対し、市内の座員の割合が少なさが地域の認知の低さを示唆している[註20]。勉氏は、「文化がない場所には人は集まらない。」と語る。継承の為には、拠点の市にも神楽が浸透して行くことが今後の課題である。
垣澤社中では、地域の子供達へのワークショップや市内の学校での講演活動を継続している。それらの活動が土台となり、生まれ育った土地の文化を尊ぶ心を育み、神楽を習う子供達が増えることを願う[註21]。
また、経済面の継続的な支援体制の充実も重要である。厚木市の昨年度の予算案では、隣接する平塚市との予算額の差は歴然であり、市の支援の僅少さが垣間見えた[註22]。しかし、今年度の予算案では増額があり、市の伝統芸能への強化の傾向が見える[註23]。
伝統を継承するために資金調達や周知活動は不可欠であるが、垣澤社中は神楽の演者団体であり、情報発信のプロでは無い。情報発信の時間を短縮し、本業に集中出来る環境づくりが必要である。
文化庁「大学における文化芸術推進事業」では、文化芸術に精通した人材育成を行っている[註24]。これにより伝統芸能に特化する人材が輩出され、専門的コンサルタントが普及する事を期待したい。継承者とコーディネーターが連携し、伝統芸能の未来を共創する事が、垣澤社中及び伝統芸能全体の今後の展望であると考察する。

5.まとめ

垣澤社中の継承は、時代に沿った変容と多岐にわたる周知活動のもと紡がれて来た。伝統の継承という大きな課題を、時代の風を読み持続させる事は容易では無い。後ろ楯には、地域の芸能への関心や応援、日本文化を重んじる心を育む事が必要である。
鈴木正崇は、「(前略)「伝承」とは、文化と情報の伝達の問題であるということを深く自覚し、急速に変化する時代状況に対応した研究方法を考えていかねばならない。」と述べる(18)。
変わることを恐れず本質を伝えていく。その姿勢こそが、垣澤社中の伝統芸能継承のデザインであると考察する。

  • 81191_31983067_1_1_TOP_page-0001 写真1:第21回「厚木市郷土芸能まつり」(2023年11月19日筆者撮影)
  • 81191_31983067_1_2_E8B387E6969901_page-0001 資料01:歴史的背景と歩み・近年の周知活動(筆者作成、垣澤社中より写真提供)
  • 81191_31983067_1_3_E8B387E6969902_page-0001 資料02:垣澤瑞貴氏インタビュー(筆者作成、2023年8月23日筆者撮影)
  • 81191_31983067_1_4_E8B387E6969903_page-0001 資料03:垣澤瑞貴氏インタビュー(筆者作成、2023年8月23日筆者撮影)
  • 81191_31983067_1_4_E8B387E6969904_page-0001 資料04:垣澤社中・みずき会アンケート(筆者作成)
  • 81191_31983067_1_5_E8B387E6969905_page-0001 資料05:垣澤社中・みずき会アンケート(筆者作成)
  • 81191_31983067_1_6_E8B387E6969906_page-0001 資料06:記念公演の演出・構成 /新しい試みと広域活動 /伊勢十二座太神楽獅子舞(筆者作成、筆者撮影、大神楽獅子舞の提供画像を除く)
  • 81191_31983067_1_7_E8B387E6969907_page-0001 資料07:厚木市・平塚市伝統芸能においての予算比較(筆者作成)
    ●令和5年度 予算の概要 厚木市 P.50
    https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/R05budget-summary_atsugicity.pdf
    ●令和5年度 厚木市一般会計予算書 特別会計 及び予算に関する説明書 P.243
    https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/tosyoyosansyo.pdf
    ●令和5年度 平塚市一般会計予算書 P.277
    https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/common/200149780.pdf
    ●令和5年度 厚木市一般会計補正予算(第2号) 主要事業
    https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/R05budget-main_program-atsugicity.pdf
    ●広報あつぎ特別号 事業と予算のあらまし 2023 P.14~15
    https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/3/20230701aramashi.pdf
    ●令和6年度厚木市当初予算 主要事業
    https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/R06_budget-main_program-atsugicity.pdf
    ●広報あつぎ特別号 事業と予算のあらまし 2024
    https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/3/20240401aramasi.pdf
    (2024年11月15日閲覧)

参考文献

【註】
[註1]相模は地名のこと。旧国名。現在の神奈川県の大部分に相当する。 相州とも表す。

[註2]神楽は、『古事記』や『日本書紀』などの日本神話を演劇科させた仮面黙劇で、日本最古であり最長の伝統芸能である。また、神への祈りを捧げる鎮魂・招魂の儀式として演者自身が神に扮する神事舞踊であることから神代神楽とも言われる。神楽は全国各地に点在し、地域の風土に根差したものが多く見られる。その為地域特色が強くオリジナリティに富んでいる事が特徴である。神楽は大きく分けて、宮中の御神楽と、民間の里神楽に分類される。さらに里神楽は4つに分類出来、巫女神楽、出雲流神楽、伊勢流神楽、獅子神楽とされる。国最古の歌集『万葉集』795年頃には既に神楽の文字が記されている(1)。

[註3]江戸で完成し発展した里神楽は、相模国に伝播した。「江戸流」は旧江戸市中に居住の神楽師が演舞を行う。神社境内に神楽殿が常設され、能管(神楽で使用する笛)の寸法が短く、高音である。演舞は早間でキビキビとした所作であることに対し、「相模流」は旧江戸市中周辺居住の神楽師が演舞する。祭りごとに花道付舞台を仮設する。能管は江戸流より寸法が長く低音で、演舞はゆったりとした間で大きい所作を特徴とする(12)。

[註4]萩原家は古くから陰陽師を務めた家系である。明治以前に相模国を統括した萩原英之進は、相模国愛甲郡村(厚木市)神事舞太夫として、田村八太夫から相模一国の配札権を受けた。明治維新で変革期を迎え、迷信邪説、習合神道を否定する神仏分離関係布達、神楽道相伝改正、神事舞太夫、陰陽師は祈祷、配札禁止されたが、神話を演じる神代神楽は明治政府の神道国教化政策で生き永らえた。1987年に萩原保が没し、愛甲の神楽は伝承が途絶えた一方で、英之進の孫娘キチの嫁ぎ先である垣澤家が神楽を受け継ぎ、命脈を保つ(提3)。

[註5]明治元年(1868年)に廃仏毀釈運動と神仏分離令が布告され、明治3年(1870年)に神職演舞禁止令と神がかり禁止令が発布された。

[註6]垣澤社中三代目家元。垣澤瑞貴氏の父。二代目垣澤常蔵に師事。神奈川県民俗芸能保存協会会長。

[註7]日本舞踊 玉井流創流家元 玉井錦之輔氏に師事。2023年7月に伝統芸能の殿堂、国立劇場で行われた『玉井流創流記念公演 玉の會』にゲスト出演を果たした。

[註8]岩戸に隠れてしまった天照大神を天鈿女命踊り誘い出したとされるのが根源と言われ、この時の舞が神楽の起源であったとされる。神楽起源の祖である大元の書物、『古事記』、『日本書記』を辿ると、元は神楽は神との交流である巫女舞であった(提4)。

[註9]石塚によると、神楽は地方によっては異なるが、神威伝達の担当者は女性であったが、平安前期から後期にかけ宮司や管理者の立場を担う男性が権限を握り主導するようになり、地方の神楽も古来の単純な巫女神楽から、漸次男性主体の神楽に変わっていったことは否定できないと説いている(14)。

[註10]「(前略)神楽の家元は伝承されてきた神楽を保存するだけの装置ではなくて、世間の風を読む興行主であったことを理解してもらわないといけません(後略)」(4)『第九回 楽しくて、わかりやすい江戸里神楽公園解説プログラム』実行委員会 
斎藤修平氏より(文教大学生活科学研究所客員研究員・坂戸市文化財保護審議委員)

[註11]厚木市文化会館で行われた記念公演は、日本舞踊家、ソプラノ歌手など異分野とのコラボや、東の神楽・西の神楽をテーマに、西の神楽最大手である石見神楽のほか、江戸神楽若山社中、土師流郷神楽荻原社中を招いての豪華コラボレーションを実現させた。オリジナル脚本『イナリ』では、瑞貴氏の長女さくや氏(当時5歳)も出演し、親子共演となった。獅子舞演舞では、テレビ神奈川「猫のひたいほどワイド」の企画「役者道を極めろシリーズ」で、12ヶ月に渡り垣澤社中で稽古を受けた俳優の早瀬圭人さんが稽古の成果を披露した。記念公演の映像は後日アーカイブ化され、見逃した人も容易にアクセスが出来、迅速な情報発信が見られた。

[註12]相模流里神楽萩原彦太郎社中「はぎわら会」に所属した髙見進氏。瑞貴氏は5年間髙見氏に師事し、垣澤社中に獅子舞演舞を新たに取り入れた。萩原彦太郎社中は、新宿区西落合に四代続く江戸里神楽相模流を継承する神楽社中である。相州愛甲郡に生まれた相模里神楽の祖である萩原門次(1846〜1929)より派生した。
衰退した愛甲神楽萩原家の一派である事に、御縁を感じた髙見氏は瑞貴氏に獅子舞を伝授した。古くから神楽師同士の婚姻・分家・師弟関係は多くあり、垣澤家が荻原家と婚姻関係にあった事からも強い結びつきを示している(提5)(12)。

[註13]2023年9月の企業向け講習会では、獅子舞を伝授する立場となり、鹿児島の島津家別邸の大名庭園「仙巌園」の社員に稽古を付けた。垣澤社中の「相模流」の獅子舞は他地方へと受け継がれた。

[註14]神奈川県の文化芸術活動再開加速化事業補助金の採択を受けプロモーションビデオ“KAGURA~ KAKIZAWA COMPANY~”を2020年12月に発表した。
https://youtu.be/QITnalT7peM?si=KBF3ATWRohI3j_zD

[註15]「アートな映像を残し日本の文化を伝えること」を目的とした団体「和文化スピリット」から愛知県へ招致される。神楽舞と和太鼓奏者青木崇晃氏との共演「岩戸びらき I WA TO BI RA KI」を成功させ、異ジャンルの共演となった(13)。2021年。https://youtu.be/WGF1aSF1xVg

[註16]名称:伊勢十二座太神楽獅子舞
団体名:伊勢十二座太神楽獅子舞保存会
所在地及び所有者:神奈川県厚木市温水
座員数:4名(活動時15名)
稽古場所:アミューあつぎ、厚木南公民館、旧市青少年会
区分:厚木市

[註17]伊勢神宮の信仰を関東に流布するためにおよそ元禄時代に発祥したとされ、当時12座あったことから伊勢十二座と名称された。市の太神楽獅子舞は継承最後の一座となっている。
厚木市への系譜は、1895年に20代目嶋本亀吉が市に居住した事から始まる。継承者は直系男子は禁忌とされており、直系女性が婿養子を取る婚姻で継承されて来た。獅子舞のほか太鼓、笛、三味線は全て血縁親族で演じる。

[註18]太神楽獅子舞は神事舞とされ、2人で演舞するニ人立て形態である。前の人は獅子頭を、後ろの人は獅子頭後から大きく垂れた布に入り演舞する。特に足の運びを合わせが難しいとされ、相互の息合いが必要である。
年中行事では、1月5日〜2月中旬頃に正月祓と言う儀式を行う。神輿を引いて氏子の家を廻り、部屋の中を剣を持って回り清める儀礼法である。伊勢神宮の御参りの代行となり、氏子は新たな年を迎える事が出来る。そのほか社寺への奉納舞や万歳・茶番・歌舞伎物まねを行う(2)。

[註19]市から伝統芸能普及の斡旋があり、太神楽獅子舞教室を開講した。

[註20]日々入門数が増加している為、現時点の割合である。(2023年11月時点)

[註21]斎藤修平氏(文教大学生活科学研究所客員研究員)と垣澤勉氏の対談で、勉氏は以下のように述べている(4)。
「里神楽を通し、地域に伝わる民俗芸能を鑑賞し、日本の国の歴史を学び、日本の良いところを知り、自分達の住んでいる故郷を知り、生まれ育った故郷を大切にして欲しいと言う気持ちで活動をしています。『神楽の道は人の道』とは私の父が生前よく言っていた言葉です。神楽の舞の道は決められており、忘れたり、迷ったりしても、正しい道を歩もうとする気持ちが大事であると理解しています。又、神楽というのは神を楽しませると書くのだから、神様、つまり「先祖達の供養」でもあるとも言っています。今の自分は、遠い先祖達の数々の努力、営みがあって存在しているということを忘れてはいけないということだと思います。」

[註22]市の昨年度の「予算と事業のあらまし」を見ると、スポーツ・文化芸術・歴史の新規予算項目「文化芸術発信強化事業」 では、全体で1550万円の予算組がされているが、内訳では、1000万円がスポーツ事業に予算が置かれ、芸能は550万円の助成金額となっている。市がスポーツ推進に予算を注力する所を見ると、伝統芸能における比重は大きくは無い事が分かる。
また、厚木市に隣接する人口数が同規模の平塚市を選定し、2023年度予算を比較する。
(厚木市人口:22万人、平塚市人口:25万人)

【厚木市】
郷土芸能事業費 3,489千円
文化財事業費 2,147千円
文化財保護保存補助金等交付事業費 7,467千円
計13,103千円

●令和5年度 予算の概要 厚木市 P.50
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/R05budget-summary_atsugicity.pdf

●令和5年度 厚木市一般会計予算書 特別会計 及び予算に関する説明書 P.243
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/tosyoyosansyo.pdf

【平塚市】
無形文化財保護事業費 798千円
文化財保護事業 28,673千円
計29,471千円

●令和5年度 平塚市一般会計予算書 P.277
https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/common/200149780.pdf

以上の内訳から、平塚市との予算額は倍額以上の差があることが分かる。

[註23]
令和5年度 文化芸術発信強化事業<新規>
予算 5,500 千円

●令和5年度 厚木市一般会計補正予算(第2号) 主要事業
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/R05budget-main_program-atsugicity.pdf
●広報あつぎ特別号 事業と予算のあらまし 2023 P.14~15
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/3/20230701aramashi.pdf

令和6年度 文化芸術発信強化事業費 <拡大>
予算 7,800千円

●令和6年度厚木市当初予算 主要事業
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/11/R06_budget-main_program-atsugicity.pdf
●広報あつぎ特別号 事業と予算のあらまし 2024
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/material/files/group/3/20240401aramasi.pdf
※文化芸術発信強化事業についての記事記載無し

令和5年度と比較すると、令和6年度の予算は2,300千円の増額となっている。
垣澤社中は活動資金ために市からの補助金を受領するほか、実績を文化庁へ提出し補助を受領するなど資金調達をしているが、「活動を継続するために、行政が把握する以上に資金不足が深刻です。」と瑞貴氏は語る。

[註24]文化庁「大学における文化芸術推進事業」。大学の有する教員、学生等の人材、教育研究機能、施設・資料等の資源を積極的に活用したアートマネジメント(文化芸術経営)人材の養成プログラムの開発・実施を補助し、開発されたプログラムを広く他大学等に周知・普及させること。また、新進芸術家等の人材が技術を磨いていくために必要な舞台公演や創作及び発表などの実践の機会や、知識を身につける場を提供することで、我が国の文化芸術の振興を図ることを目的とします。文化庁ホームページ より(18)。


【参考文献】
(1)協力 国立劇場、編集 西角正夫 日本音楽叢書-7『民俗芸能[1]』、音楽之友社、1990年。
(2)厚木史編纂委員会『厚木近代史話』、1970年、p.126,129~130
(3)厚木市教育委員会『第16回収蔵資料展 あつぎの民俗芸能〜受け継がれるムラの娯楽〜』、厚木市郷土資料館、2001年
(4)『第九回 楽しくて、わかりやすい江戸里神楽公園解説プログラム』、江戸里神楽学生実行委員会、2016年
(5)三田村佳子『里神楽ハンドブック 福島・関東・甲信越』、おうふう、2005年
(6)相模里神楽垣澤社中ホームページ
https://www.sagami-satokagura.com(2024年11月15日閲覧)
(7)厚木市教育委員会社会教育部 文化財保護課文化財保護係『 厚木市史 民俗編(2) 村の暮らし』、厚木市、2017年
(8)野村朋弘『伝統を読みなおすI 日本文化の源流を探る』 (芸術教養シリーズ22)、藝術学舎、2014年
(9) 山路興造『民間神楽における芸能の詞章』、編集委員 久保田淳・栗坪良樹・野山嘉正・日野龍夫・藤井貞和『岩波講座 日本文学史第16巻 口承文学1』、岩波書店、1997年
(10) 土橋寛 池田弥三郎 編『鑑賞 日本古典文学 第4巻 歌謡I 記紀歌謡・神楽歌・催馬楽』、角川書店、1975年
(11)現代神道研究集成編集委員会 委員長 工藤伊豆『現代神道研究集成(第五巻) 祭祀研究編II』、神社新報社、2000年
(12)東京国立文化財財研究所『第29回芸能部公開学術講座 里神楽の技法テキスト』、国立劇場、1996年
(13)和文化スピリットホームページ https://ruruca.jp/activities/ (2023年8月30日閲覧)
(14)石塚尊俊『里神楽の成立に関する研究』、岩田書院、2005年
(15)厚木市ホームページ 広報あつぎ特別号 事業と予算のあらまし 2023
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/soshiki/kouhouka/9/2023/37229.html(2024年11月15日閲覧)
(16)厚木市ホームページ 広報あつぎ特別号 事業と予算のあらまし 2024
https://www.city.atsugi.kanagawa.jp/shiseijoho/koho/6/2024/41315.html (2024年11月15日閲覧)
(17)斉藤修平『相模里神楽における「舞」研究―神前舞との関係から―』、文教大学紀要 生活科学研究 、2018年、40巻p. 135 ~ 145
(18)文化庁ホームページ 大学における文化芸術推進事業
https://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/shinshin/daigaku/
https://www.daigaku.bunka.go.jp
(2024年11月15日閲覧)
(19)鈴木正崇『伝承を持続させるものとは何か 比婆荒神神楽の場合』、2014年、国立歴史民俗博物館研究報告 第 186 集


【提供資料】相模里神楽垣澤社中 垣澤瑞貴氏より 
(提1)厚木市敎育委員会生涯学習部 文化財保護課市史編さん係『厚木市史 近世資料編(3)文化文芸』、厚木市、2003年
(提2)笹原亮二『相模原及びその周辺地域における祭と芸能』、1987年12月第6号神奈川地域史研究抜刷、1987年
(提3)飯田孝『相模国人国記―厚木愛甲の歴史を彩った百人―』、市民かわら版社、2000年、p.286~289
(提4)久保田裕道『本間平太夫の神楽について―綾瀬市における神代神楽の系譜と盛衰―』、
2002年3月綾瀬市史研究第8号抜刷、2002年
(提5)相模原教育委員会『神楽と芝居―相模原及び周辺の神楽師と芸能―』、相模原教育委員会、1989年、p.43~59、p.102~122


【取材協力】
・2023年7月16日 電話取材 垣澤瑞貴氏
・2023年7月22日 電話取材 伊勢十二座太神楽獅子舞 本多あけみ氏
・2023年8月27日 稽古場見学・撮影 垣澤瑞貴氏、みずき会座員坂西まなみ氏


【文書取材】
・2023年6月13日 垣澤瑞貴氏 インタビュー
・2023年9月17日 垣澤社中・みずき会座員アンケート


【引用】
筆者、「獅子舞の厄祓い」、「芸術教養演習2」、2023年度夏期。
筆者、「厚木市指定無形民族文化財 相模里神楽を事例とし伝統を問う」、「芸術教養講義6」、2022年度 春期。


【体験取材】
・巡回写真展示「Do you know 神楽!?〜相模里神楽垣澤社中〜」2022年4月9日、古民家レストランカフェよってけさん
・「社中創設110周年・厚木市無形民俗文化財指定50周年記念公演 〜古き新しき伝統〜」2023年3月5日、厚木文化会館、チラシ、ポスター等筆者作成
・「七沢花まつり」ゲスト出演、2023年4月16日、七沢観音寺
・「次世代を担う神楽師たちが里神楽の未来を語るvol.3」トークイベント、2023年5月3日、浅草大黒屋別館ホール
・「玉井流創流記念公演 玉の會」日本舞踊公演 ゲスト出演、2023年7月11日、国立劇場小劇場
・「獅子舞の厄祓い」獅子頭御祈祷、2023年7月15日、厚木神社
・文化庁 「令和5年度伝統文化親子教室業はじめてのお神楽教室」 ワークショップ、2023年7月23日・7月30日・8月6日、相川公民館、チラシ筆者作成
・「七沢納涼の夕べ 千灯会盆踊り」ゲスト出演、2023年7月29日、七沢観音寺、チラシ筆者作成
・スチール撮影、2023年10月30日、厚木市大釜弁財天
・第21回「厚木市郷土芸能まつり」、2023年11月19日、厚木市睦合西公民館
・合同会社デザイン基地10周年記念企画「神楽展」、2023年11月21日
・本厚木ミロード「お正月獅子舞イベント」2024年1月2日
・あつぎ郷土博物館「開館5周年記念セレモニー」ゲスト出演、2024年1月28日、同時開催 開館5周年記念企画展「あつぎの秋葉信仰」チラシ、ポスター等筆者作成
・「みずき会お浚い会」「第2回相模里神楽垣澤社中展示会」、2024年3月9日、アミューあつぎ
・「七沢花まつり」ゲスト出演、2024年4月19日、七沢観音寺
・「プラネタリウムで神楽 神話から見る神々の世界」、2024年7月13日、相模原市博物館プラネタリウム、チラシ筆者作成
・「七沢納涼の夕べ 千灯会盆踊り」ゲスト出演、2024年7月21日、七沢観音寺、チラシ筆者作成


付記:相模里神楽垣澤社中垣澤勉氏、垣澤瑞貴氏、みずき会座員の皆さま、伊勢十二座太神楽獅子舞本多様、垣澤社中応援団及び関係者の皆さまに多大なるご協力をいただき感謝申し上げます。

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