市民集団まちぐみー「風の人」と「土の人」が紡ぐ地方創生の未来

江夏 由香

はじめに
「風の人」は「遠くから理想を含んでやってくるもの」「土の人」は「そこにあって生命を生み出し育むもの」。農学者玉井袈裟男は「それが和して文化を生む」と言っている(1)。そして現在、地方創生の雛形ともいうべき「風の人」の役割は、アーティストに委ねられている。本稿で取り上げる山本耕一郎も、理想を運ぶ「風の人」として八戸のまちに新たな文化を創生しているアーティストである 。ここでは山本率いる「市民集団まちぐみ」(以下まちぐみ)の活動を「アーティストと地方創生」の観点から評価し、文化資産として報告する[写真] [資料1]。

歴史的背景と基本データ
1−1 八戸の風土と歴史的背景
まちぐみが活動する八戸市は、青森県の南東部に位置する人口22万の都市である。太平洋岸の肥沃な漁場による恩恵を受け水産工業都市として発展しているが、冷涼な気候による作物被害、大地震、津波など数々の災害に見舞われている。そのため郷土芸能へ込めた五穀豊穣への願いは強く「八戸えんぶり」「八戸三社大祭」など郷土の伝統を大切に守り続けている(2)。
八戸のまちは、現在本八戸駅がある八戸城下跡を中心に栄えたが「大型商業施設の進出による空洞化」という問題を抱えている。その対策として八戸市は「文化によるまちづくり」政策を打ち出し「八戸ポータルミュージアムはっち」(以下はっち)等、様々な文化施設を八戸市中心街に建設し、それを活用したまちの活性化を図っている[資料2]。

1−2 まちぐみ結成の経緯
八戸市は、2011年のはっち開業イベントのために国内外で活動するアーティスト、山本耕一郎を招聘し「八戸のうわさ」プロジェクトを行った(3)。その後「中心街の活性化」という課題が残された八戸市は、再び山本に活動要請をし「まちぐ(る)み」で活動する市民集団、まちぐみが結成された [資料3]。

2. 評価点
紫牟田伸子は「人間の文化は、新しい視点や概念が人間の編集力によって見出され、さまざまな編集の仕方でまとめられたものに支えられている」と述べている(4) 。まちぐみの活動で用いられているのが、これと同様の「編集」という手法である。筆者は編集の観点から以下2点を評価する 。

2−1 伝統文化の編集ー「ヨソモノ」の視点で地域に寄り添う
外部からやってきた人を揶揄して「ヨソモノ」(5)というが、その人々が持つ新しい視点は、地域の活性化に大きな力を与えるものである(6) 。まちぐみの伝統文化も、外からやってきたアーティストの編集によってアートとしての魅力を創出しているが、一方でそこには「郷土の伝統はまちの財産」という概念も引き出されている(7) 。祭、工芸、郷土菓子、方言等の伝統文化一つ一つには、その価値を伝えるアーティストの活動への思いが込められている[資料4、5、6、7] 。新しい視点を取り入れながら地域に寄り添うこの姿勢は人々の心を動かし、協働の場へ導き、まちに活気をもたらしている。この事は、地方創生団体からも高い評価を受け、数々の受賞によってその価値を市民に還元している(8) 。

2−2 「なんか楽しそう」で惹きつける
紫牟田はまた「編集とは世の中を楽しむための手段」と言っている(9) 。まちぐみの編集の切り口も「なんか楽しそう」である(10)(11) 。人々を笑顔にするその活動にはアートを「敷居の高いものではなく身近なもの」にする工夫が成されている(12) 。「新しい事を始めると『また何か面白い事を始めたな』と商店街の人々が面白がって協力してくれるんです」という山本の言葉からは、人々がそのユーモアあふれる活動を共に楽しんでいる様子が窺える(13)(14) 。「なんか楽しそう」に惹きつけられるのは地元の人だけではない。観光客や出張中の会社員など、たまたまその活動を目にした外部の人々が組員になるケースも多い 。年々増え続ける組員は2024年1月現在642人となり、まちぐみの拠点であるまちぐみラボは、多くの来訪者で賑わっている。

3. 特筆点
まちぐみの特筆点はその活動が「アーティスト主導による市民集団」によって行われている事である。ここではそれを行政主導のアーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)事業と比較して考察する。

3−1 行政によるAIR事業
八戸市はAIR事業として例年アーティストを公募している(15) 。2022年に行われた「ビバ!オルタナティブ八戸」はカメラマン、奥川純一のAIRである。その滞在期間中には「八戸さんぽマイスター」と撮影現場を巡るツアーなど地元の人々との交流がとられ、それによって育まれた活動の集大成は、書籍、展示会という形で発表の場が設けられている。八戸の日常を新たな視線で切り取ったこの活動は、まちぐみ同様、外部から来たアーティストがもたらす刺激を地域の人々に与えている(16)[資料8] 。

3−2 AIRから「市民集団」へ
AIR事業の専門家である菅野幸子は「AIRは中心街の空洞化といったニーズに適しており、アーティストの介在は地域に変化を与える」(17)と述べ、上記のようなAIRを推奨している。一方八戸市の文化アドバイザーを務めた加藤種男は「(その実現には)市民自治が主体のアートプロジェクトを行政や企業が支えていくことが望ましい」と語っている(18) 。まちぐみに採用されているのが、この市民主体を組織化した「市民集団」である(19) 。

3−3 「市民集団」がもたらす「自分ごと」
この「市民集団」は主軸を行政から市民へと転換するものである。まちぐみのコンセプトが「『みんなのやりたい!』をカタチに」であるのは、行政任せではなく「自分ごと」としてまちづくりを捉えてもらうためである。自らの活動を「種を蒔いている」と表現する山本が見据えているのは、目先の成果だけではない(20) 。公共の椅子に南部菱刺しする人々の中に芽生えた郷土の工芸に対する愛着や、大人たちと一緒に南部せんべいを再開発した高校生の故郷への想いは「自分ごと」から生まれたものである。また組織として継続される「市民集団」は撒かれた種を時間をかけて育むための土壌であり、いつでも立ち寄る事の出来る市民の居場所としての役割も果たしている(21)。

4. 今後の展望
4−1 AIRのジレンマ
AIR事業の興盛によって、アーティストと地方創生はますます結びつきを強めているが、その一方で定数評価を求める行政と、作品制作の過程も作品だとするアーティストの間に行き違いが生じているのも事実である(22) 。AIRの主催者側である慶野結香はそれを「AIRのジレンマ」という言葉で現している(23) 。本来アーティストのためであった欧米のAIRが「ふるさと創生事業」として行われている日本において、その本質を失っている状況は憂慮すべき問題である (24)(25) 。

4−2 アーティストと行政を「つなぐ者」
未だ未熟なアーティストと地方創生の関係において必要とされるのが、それを成熟させるための根気のいる対話である。そこには、アーティストが何を表現しようとしているのか、行政が求めるものは何なのか、それをいかに市民に伝えるのかという問題を、全て理解してサポートする「つなぐ者」の存在が不可欠である 。まちぐみにおいてこの役割を果たしているのが、はっちの職員だ(26) 。この職員はまちぐみ専属の職員としてまちぐみの活動に同行し、行政とアーティスト、そして市民をつなぐ「かすがい」のような存在として活動全体に信頼関係を生み出している(27) 。AIRの現場でもそのようなコーディネーターの地位向上と育成が急がれている今、まちぐみのこの事例は、その価値を示す大きな指標となるものである(28) 。

まとめ ーアーティストと地方創生の未来へ
山本が八戸の地でイベントを成功させたのは、2011年2月である。それからわずか1ヶ月後に起きた東日本大震災は、はっちを文化施設ではなく避難所にしてしまったが、八戸のまちにはそれに屈せず新たなまちを作ろうとする機運が高まっていたという(29) 。三社大祭の中止を受けて祭飾りでまちを彩った「俺たちも三社大祭」、コロナ禍の医療従事者を励ますためにまちを青く染めた「ブルーフラッグプロジェクト」(30)、災害に苦しむ地域への募金活動(31)、これらまちぐみの活動も、地域に寄り添いながらアートによってまちを元気にするまちぐみの信念の現れである[資料9] 。まちぐみの目指す「まちぐ(る)み」のまちづくりが「風の人」と「土の人」の絆によって紡がれる様は、これからの地方創生の未来に大きな足跡を残すであろう。

  • 347531_1  
  • 81191_011_32283208_1_1_写真まちぐみラボ 資料1風土舎_page-0002 写真  :三社大祭の祭飾りで装飾されたまちぐみラボ まちぐみ提供
    資料1 :玉井袈裟男「風土舎創立宣言」
  • 341176_1 資料2 八戸市中心街
    ・広報はちのへ
    https://www.city.hachinohe.aomori.jp/gyoseijoho/koho_kocho/kohohachinohe/index.html
    (2024年7月3日閲覧)
    ・八戸市中心街地活性化協議会タウンマップ
    https://www.city.hachinohe.aomori.jp/gyoseijoho/koho_kocho/kohohachinohe/index.html
    (2024年7月3日閲覧)
    ・『八戸見聞録の謎』、木村久夫、デーリー東北新聞社、2019年
  • 3 資料3 市民集団まちぐみの構成
  • 81191_011_32283208_1_4_伝統文化の編集 資料4(祭)資料5(伝統工芸 ) _page-0001
  • 81191_011_32283208_1_4_伝統文化の編集 資料4(祭)資料5(伝統工芸 ) _page-0002 伝統文化の編集
    資料4 「俺たちも三社大祭」 
    資料5 「はっちの椅子に、南部菱刺し」
    まちぐみブログ
    https://machigumi.main.jp/blog/(2025年1月10日閲覧)
  • 81191_011_32283208_1_5_伝統文化の編集 資料6(郷土菓子)7(方言)_page-0001
  • 81191_011_32283208_1_5_伝統文化の編集 資料6(郷土菓子)7(方言)_page-0002 伝統文化の編集
    資料6 「高校生とつくる南部せんべいカフェ」
    資料7 「はづのへエモーション展」
    まちぐみHP
    https://machigumi.main.jp/(2025年1月10日閲覧)
    まちぐみブログ
    https://machigumi.main.jp/blog/(2025年1月10日閲覧)
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    「八戸のうわさ(本八戸駅通り)」
    資料8ー1 本八戸駅通りの吹き出し
    はっちブログ
    https://hacchi.jp/blog/(2025年1月10日閲覧)
    資料8ー2 商店街の歴史と吹き出し
    資料8ー3 八戸のうわさ(本八戸駅通り)語録
  • 9 資料9 「ビバ!オルタナティブはちのへ」
    はっちHP
    https://hacchi.jp/(2025年1月10日閲覧)
  • 10 資料10 「ブルーフラッグプロジェクト」・募金活動
    まちぐみブログ
    https://machigumi.main.jp/blog/(2025年1月10日)

参考文献

註釈
(1) 風土舎設立宣言の際に作製された冊子の冒頭に寄せられた言葉である。
  『風土舎』P.5 - 8 、 玉井袈裟男、新葉社、1994年 (松本大学 白戸洋氏より資料提供)
  (資料1参照)                

(2)「八戸えんぶり」「八戸三社大祭」は国の重要無形民俗文化財に指定されている。

(3) ・イベントの様子
  はっちHP https://hacchi.jp/op-art-project/hachinohe-no-uwasa.html
https://hacchi.jp/art-project/docs/01_hachinohenouwasa.pdf
       (2024年12月1日閲覧)

(4) 『編集学ーつなげる思考・発見の技法』P.16 -17、
紫牟田伸子、京都芸術大学 東北芸術工科大学出版局、藝術学舎、2014年

(5) 地方創生の現場では、外部から来た「風の人」をヨソモノと置き換えて
  語られることが多い。(下記参照)
   ・ 70 seedsInterview 2017.05.01 地方創生「風の人・土の人」
   【取材その後】福井・XSCHOOL
    https://www.70seeds.jp/xschoolafter-240/(2024年12月1日閲覧)
   ・山本は「長く住んでいると忘れがちな『ヨソモノ』の視点を忘れずにいたい」と言っている。
   あおもり暮らし 青森県移住・交流ポータルサイト
   よそ者の視点と行動力を、街の力に! 山本耕一郎特集
    https://www.aomori-life.jp/interview/message_ijyu/post_11.html(2024年12月30日閲覧)

(6) 「地域に住んでいる当事者にとっては「当たり前」のことでも、外部の視点からとらえ直す
   ことで、その地域ならではの魅力が再発見されることがあります。そうした「よそもの」
   にとっての素朴な驚きから、ワークショップの切り口を見つけていくのです。」
   と山﨑亮は言っている。
  ・『協働の場のデザインーワークショップで企画と地域が変わる』 P.169、
編者早川克美、京都芸術大学 東北芸術工科大学 出版局、藝術学舎、2014年

(7) この概念は、山本がその活動の中で大事にしているものである。
   活動を告知するチラシには、その伝統文化の価値と、その活動の意義が綴られている。
このアナウンスも含め編集された作品といえる。(まちぐみHP活動報告内チラシ参照) 

(8) まちぐみ受賞歴
  2016年 ふるさとあおもり景観賞「地域づくり活動部門最優秀賞」
  2019年 地域再生大賞「北海道・東北ブロック賞」
  2021年 あしたのまち・くらしづくり活動賞「総理大臣賞」

 ・令和3年度 あしたのまち・くらしづくり活動賞 総理大臣賞
 山本耕一郎寄稿文「”なんか楽しそう”を作り出す」
http://ashita.or.jp/publish/mm/mm156/mm156.htm(2024年12月2日閲覧)

(9) 紫牟田は、編集が世の中を楽しむための手段であると述べて
「笑顔の紅白まんじゅう」の例をあげている。
紫牟田伸子、前掲著書(註4) P.118

(10) ・「なんか楽しそう」はまちぐみのモットーである。(資料3参照)
・. 山﨑亮は「楽しさという尺度」を
   「これほど大きなモチベーションをかき立ててくれるものはない」と言っている。
   『ふるさとを元気にする仕事』P.142 、 山崎亮、株式会社筑摩書房、2015年

(11) 「笑いは人間だけのもの。難しい顔をしてやるのが教育。笑いながらするのが学習」
   と玉井袈裟男は語っている。また「『暗い感情』を『明るい感情』に変える方法の発見は
   外にいる世界の人の方が客観的に見る事ができる」と岩本哲臣は言っている。
   玉井袈裟男、前掲書籍(註1) p.17・ P.52

(12) 山本は「アートは敷居が高いものではない、身近で楽しむものだ」と言っている。
   以下3つの活動は、まちぐみの身近なアートの例である。
これらはSNSで拡散される事の多い事例である。
   ①本八戸駅通りのユーモラスな吹き出し(「八戸のうわさ 本八戸駅通り」)
   ②まちぐみラボ脇のおもしろ自販機(ユニークな飲み物だけを集めている)
   ③八戸駅に張り出された方言(「はづのへエモーション」)
  
(13)(山本のユーモアが、八戸に受け入れられる理由について)
「八戸のまちの人々の笑いは、関西のものと違って、穏やかで優しい。漁港という土地柄、
他所から来た人をもてなす文化があったためでないか」と山本は語っている。
下記の書籍に八戸のまちの様子が記録されている。
『写真で見る八戸の歴史 明治・大正の試練』P.166 、
八戸市長者町本の虫店内・北方春秋社発行、1970年 
   
(14) 地元の人々が、まちぐみラボを訪ねて協力する様子がブログに記録されている。
「俺たちも三社大祭」では、その活動に共感したおがみ神社によって、
山車11団体から山車飾りを借りる手配がなされた。
まちぐみHP 2022年実績 P.11-13(参考文献参照)

(15) ・ はっちアーティストインレジデンス
    https://hacchi.jp/programs2/air/index.html (2025年1月3日閲覧)
   ・はっちAIR2022 「ビバ!オルタナティブはちのへ」奥川純一
    https://hacchi.jp/programs2/alternativehachinohe/index.html (2025年1月3日閲覧)

(16) ・ はっちによる成果報告書
    https://hacchi.jp/air-blog/2023/003018.html (2025年1月20日閲覧)
   ・『ビバ!オルタナティブはちのへ
    もうひとつの八戸を巡る大衆芸術思春期娯楽マガジン』
   奥川純一、八戸ポータルミュージアムはっち、2022年

(17) 菅野幸子:文化庁AIR事業のオブザーバ他数々のAIR事業に携わっている。
  「中心街の空洞化がますます深刻になっている現在、アーティストが介在することによって
地域が変化するきっかけが生まれる。そのようなニーズにこそAIRが適している。」
と述べている。
  ・「日本のアーティスト・イン・レジデンスの課題と可能性」
    https://www.nettam.jp/course/residence/4/(2024年12月3日閲覧)

(18) 加藤種男:「アサヒ・アートフェスティバル」「アーツカウンセルしずおか」など
数多くの芸術創造都市活動を行なっている。はっちのアドバイザーを務めた。
  「あくまで市民が主体となること。市民自治こそがアートプロジェクトには寛容。
行政や企業が主体となるのではなく、あくまでも市民主体のアートプロジェクトを、
行政や企業が支えていくという構造が望ましい」と語っている。

   ・加藤種男「祝祭芸術こぼれ話(その1)「本と種、そして酔っ払いに愛を」
   https://active-archipelago.com/column/(2024年12月29日閲覧)

(19) 加藤種男と同様の意見を小田井真美が述べている。
小田井真美:さっぽろ天神山アートスタジオ AIRディレクター
「文化担当者として育成された専門スタッフが不在で、一般職員が『承認』をする
日本の地方自治体の基本的な体裁が根深く影響していて、AIR運営現場と、
行政の双方を疲労させる。(中略)解決策の一つとして、日本各地で行政から独立した形で、
尚かつ固定的な専門人材で構成されるアーツカウンシルを設ける方向への議論が
高まっている」
(まちぐみは、アーツカウンセルではなく、アーティストが主導し、
   育成された専門スタッフがサポートする「市民団体」として組織されている)(資料3参照)
・『アーティスト・イン・レジデンス』P.45-46 菅野幸子・日沼禎子編、美学出版、2023年 

(20) 山本は「自分は種を蒔いている。人があってのまちづくり。人づくりが大事だ」
   と言っている。イベントの成功という成果を超えた、長期的な人づくりを目的としている。
   
(21) 山本は「いつか八戸を出ていく若者が、一緒に活動した普通の大人たちを心のふるさとに
して帰ってこられる居場所を残したい」と語っている。まちぐみブログには、
帰省した学生が、まちぐみラボに立ち寄る様子が載せられている。組員がUターンして
まちぐみの活動を継続する例もある。このような事例は通常のAIRには見られないもので
   ある。

(22) 小田井真美は、現状のAIRには
「行政スタンダードの数字で表現できる成果、常に一般に理解されるような説明、
要求される住民への還元がある」と言っている。
  ・菅野幸子・日沼禎子編、前掲書籍、(註19)P.45

(23) 慶野結香:青森公立大学国際芸術センター青森でAIR事業を主催。
「アーティストに機会を提供しながらも、目に見える成果や地域に対する効果を期待して
しまいがちになる運営側のジレンマ」と言っている。
  ・ART RESEARCH ONLINE「アーティスト・イン・レジデンスのジレンマ」
   https://www.artresearchonline.com/issue-10b(2024年12月5日閲覧)

(24) AIRの起源は1666年、「ローマ賞」を受賞したアーティストがヴィラ・メディチに滞在
し、最高の芸術を見聞し、最先端の技術を習得したことから始まったとされる。
本来は、アーティストに対し、創作に専念するための時間と奨学金を提供し、
情報や人的ネットワークを広げることを支援するシステムだった。
  ・菅野幸子、前掲記事(註17)

(25) 萩原康子:社会法人企業メセナ協議会
「1997年に文化庁の地域振興課が「アーティスト・イン・レジデンス事業を開始したことが
大きな要因」と言っている。
  ・わが国のアーティスト・イン・レジデンス事業の概況
https://air-j.info/article/reports-interviews/now00/(2025年1月10日閲覧)

(26) この論文の中では、はっちの職員を「つなぐ人」として分析している。
   ・日本建築学科計画系論文集 第85巻 2020年11月 
   『中心市街地活性化を目的とした拠点施設の運営と市民集団の活動展開による参加の形態
ー八戸市によるポータルミュージーアム「はっち」と市民集団「まちぐみ」を事例として』
生田尚志 堀越まい 佐藤将之
   https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/85/777/85_2363/_pdf(2024年12月3日閲覧)P.2367

(27) はっちの職員、齋藤彩は、インタビュー(参考文献参照)の中で以下のように述べている。
「テレビや新聞、ネット記事で取り上げてもらう事の多いまちぐみだが、理解の足りない所
には丁寧に対応して市民と対話をしている。『まちぐみさん!頑張ってるね!』と
声をかけられることも多く、年々認知度が高まっているのを感じる。組員に対しては声がけ
をして活動を促し、組員同士のSNSによる気軽なコミュニケーションも大事にしている。
何より、山本さんをアーティストとして尊重している」

(28) 「アーティストの作品制作ばかりでなく生活面の支援、リサーチの手配、
企画展じのキュレーション、報告書の編集などキュレーター以上に多岐にわたる業務を
こなしているにもかかわらず、ステイタスは安定しておらず、周りからの認知度も
低いように思われます。こういったレジデンス事業を支える人材の育成も急務です。」
と菅野幸子は言っている。
菅野幸子、前掲記事(註17)

(29) はっち館長佐々木は、その頃の八戸の人々の様子を
「『自分たちのまちを作っていこう』と大変な盛り上がりを見せていました。」
と言っている。

(30) コロナ禍に働く医療従事者への感謝を示すために、各家庭から寄付された
青い布で旗を作り商店街に飾った。市民団体であるまちぐみならではのスピードと
機動力で実現している。
・生き生き健やかWeb
心の中にある「感謝」の気持ちを“見える化“できる方法はないか。
それが“ブルーフラッグプロジェクト"だ。
https://ikiikisukoyakaatv.jp/wpcontent/uploads/2020/10/82a8dd9e62235bfcad45710265971dad.pdf.
(2024年12月1日閲覧)

(31)「市民集団」としてのまちぐみには、この募金活動など、行政が承認に時間がかかる事案を
瞬時に行動出来る利点がある。通常でもまちぐみラボ、はっちのまちぐみブースには
募金箱が設置してあり、募金に「おもしろくじ」がつくというまちぐみらしさも
盛り込まれている。


参考文献
【基本情報】(2025年1月25日閲覧)
・まちぐみHP https://machigumi.main.jp.
・まちぐみブログ  https://machigumi.main.jp/blog/
・はっちホームページ https://hacchi.jp/op-art-project/hachinohe_no_uwasa.pdf.

【インタビュー】
(本文・註釈内の山本耕一郎、斎藤彩、佐々木淳一の発言は、
これらのインタビューから引用されている)
 ① 山本耕一郎メールによるインタビュー
  2024年4月18日 5月20日 7月17日
② はっち職員 齋藤彩へのメールによるインタビュー(註27)
   2023年5月20日
③ 山本耕一郎インタビュー(註5、7、12、13、20、21)
  同席者 はっち職員齋藤彩、まちぐみ組員小笠原功
  2024年7月13日 13時〜15時 まちぐみラボにて
④ はっち館長 佐々木淳一(註29)
  はっち職員(コーディネーター) 斎藤彩 インタビュー
   2024年7月13日 15時〜16時 場所:はっち

⑤ 奥川純一へのインタビュー 2023年3月14日 はっち展示会場にて

【まちぐみ掲載誌】
・『まちづくり仕組み図鑑 ビジネスを生む「地元ぐらし」のススメ P.74-83、
  佐藤雅之 馬場義徳 安冨啓、日経アーキテクチュア、2022年
・『地域を変えるデザイン コミュニティが元気になる30のアイデア』P.156、
 issue + design project (イシュープラスデザイン・プロジェクト)、
  英治出版株式会社、2011年
・『地方創生のプレミアム(付加価値)戦略 稼ぐ力で上質なマーケットを作り出す』P.133、
  山﨑朗 鍋山徹、(株)中央経済社、2018年
・『祝祭藝術ー再生と創造のアートプロジェクト』P.19、
  加藤種男、株式会社水曜社、2022年

【まちぐみに関する論文】
・ 公益社団法人 日本都市計画学会 都市計画論文集
Vol.51 No.3. 2016年10月
地方都市の中心街活性化が地域活性化に果たす役割に関する研究
-イノベーティブ・タウン仮設の提示とその妥当性の検討- P.794
城所哲夫・近藤早映
https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/51/3/51_791/_pdf/-char/ja

【八戸市の風土】
・ Visit Hachinohe
https://visithachinohe.com/tag/%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%83%BB%E6%96%87%E5%8C%96/(2024年12月2日閲覧)
・ 八戸気質」が熟成してきたものー青森県八戸市の文化施設と地域住民たちの10(+α)年間 
今川和佳子
 https://artscape.jp/focus/10173493_1635.html(2024年12月2日閲覧)

・『八戸見聞録の謎 ー遠来の青年教師を巡る八戸の群像ー』
  木村久夫、デーリー東北新聞社、2019年 
・『はちのへ 町内風土記』
  下斗米謹一編、デーリー東北社、1971年
・『地域の基層と表層 八戸地域から考える』
  木鎌耕一郎 加来聡仲編、イービックス(大船渡印刷出版部、2020年

【八戸市行政】
・新・公民連携最前線 PPPまちづくり
 八戸市長 小林眞氏に聞く 2018年12月20日掲載記事
  https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/121000087/?P=4
  (2024年12月20日閲覧)
・はちのへ文化のまちづくりプラン〜八戸市文化芸術推進基本計画 P.23-24
  https://www.city.hachinohe.aomori.jp/soshikikarasagasu/bunka/bunka/02/3993.html
(2024年12月20日閲覧)
・アートおよび新美術館を軸とした中心市街地活性化に関する研究 P.22
  https://research.hachinohe-u.ac.jp/wp
 content/uploads/2023/03/197a673297ad3379ca3e0671fa94be31.pdf
 (2024年12月3日閲覧)

【地方創生】
・まちづくり+クリエイティブ ー市民参加の方法論、風の人からの提言ー
  レクチャー:永田宏和(NPO法人 プラス・アーツ理事長)
  関西大学先端科学技術推進機構 地域再生センター
https://www.kansai-u.ac.jp/ordist/ksdp/danchi/136.pdf(2024年12月1日閲覧)

・『ふるさとを元気にする仕事』
   ふるさとを元気にする人たちー「風の人」と「土の人」P.159 - 164、
   山﨑亮、株式会社筑摩書房、2015年
・『人にやる気・むらに活気 新 むらづくり論』、
   玉井袈裟男、信濃毎日新聞社、1995年
 
【AIR】
・ 菅野幸子 アーティスト・イン・レジデンス入門 第一回
  アーティスト・イン・レジデンスとは
  https://www.nettam.jp/course/residence/1/ (2025年1月22日閲覧)
・『アーティスト・イン・レジデンス まち・人・アートをつなぐポテンシャル』
   菅野幸子・日沼禎子編、美学出版合同会社、2023年
・ 地方文化行政の機能強化に向けた調査研究報告書 P.12、
  文化庁政策課 文化制作調査研究室
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/bunka_gyosei/pdf/94065801_01.pdf.
(2025年1月15日閲覧)
・ アーティスト・イン・レジデンス(AIR)事業
  文化庁と大学・研究機関等の共同研究事業
新たな文化芸術の創造を支える活動支援および人材育成のためのプラットフォーム形成研究
  https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/92879001_01.pdf
(2024年12月29日閲覧)

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