旧東海道川崎宿からの歴史をつなぐ現在の街のデザインと景観

浜野 芳枝

▪️はじめに
東海道五十三次といえば歌川広重の浮世絵が大変有名であるが、その中の一つである川崎宿の浮世絵は「六郷渡舟」として、川崎宿と多摩川を結ぶ渡し船と共に描かれている。見事なまでの浮世絵はメディアなどでも取り上げられ、江戸の歴史を芸術の観点から見ることができる。【註】資料1-1
一方で、当時描かれた宿場町は現在どのようになっているのかあまり知られていないのではないだろうか。川崎宿の現在は、江戸時代にはどのような街並みで、現在の街のデザインや景観とどのように結びついているのかを、様々な観点から考察していきたい。

▪️基本データ
東海道は、江戸時代に徳川により整備された五街道の一つであり、江戸と京都をつなぐ街道として、重要な役割を果たしていた。
そして、川崎宿は、日本橋から数えて、3番目の宿場町であり、1623年に開設され、2023年に起立400年を迎えた歴史ある街である。川崎宿の大きさは、約1.5kmあり、街道を商店、旅籠(旅館)が軒を連ねていた。

▪️川崎宿の現在の位置と形
現在川崎は、東京と横浜の間にあり、JR東海道線の駅でいう所の、品川駅ー川崎駅ー横浜駅の順番で電車は停車する。これが旧東海道の宿場町順となると、品川宿ー川崎宿ー神奈川宿となり、現在のターミナル駅と一致している部分もある。【註】資料1-2
また、川崎宿の場所は、現在の川崎駅からやや南下した位置にあり商店街を形成している。そして、旧東海道は、現在の多摩川にかかる橋である六郷橋のたもとからスタートする。【註】資料2
街道の形、幅は、江戸時代からほぼ変わることなく、くの字に曲がった形をしており、家々の区画は、より多くの商店が並べる様に、街道沿いに面した部分の間口は狭く、奥行きのある形をしている。これは、江戸時代に、商店が沢山連なっている賑やかな宿場町を構成していた名残である。そして、現在の旧東海道にもそのような店が多く滞在している。

▪️ 歴史的背景からみた現在との繋がり
・川崎大師との繋がり
川崎大師は、1128年の開設以来川崎の庶民の信仰の中心であった。江戸時代に入り川崎大師の参拝客の増加と共に川崎宿も土産物や、特産品などの店が増え観光産業の発達に大きな影響を与えた。
そして現在も、川崎大師の初詣参拝客は、260万人以上となっており、厄除けのお寺として、全国に知られており、川崎の観光拠点といて大きな影響を与えている。【註1,2】

・宿泊場所、茶屋としての役割
川崎宿の旅籠(旅館)はピーク時に72軒あったとされており、中でも多摩川近くの「万年屋」は、最大規模を誇り、江戸時代後期にハリスが来日した時に「万年屋」に宿泊したと記録されている。【註】資料3-1
また「万年屋」には名物の「奈良茶飯」が有名で、旅人のお腹を満たす食べ物として当時大変人気があった。現在は、旧東海道沿いの老舗和菓子店で現代風にアレンジした物を食する事ができる。【註】資料3-2

・川崎宿の立地
川崎宿は多摩川の辺りに立地しており、旅人にとって、渡し舟で川を渡るという事は、当時旅の一大イベントであったに違いないと想像できる。川を渡る前後に休憩をする、気分の切り替えや、旅の小休止に川崎宿は、好まれたのではなかっただろうか。
川沿いの風景も自然が多く、人々がゆっくりでき、土産物、特産品などのショッピングを楽しめる状況は、現在の川崎とも通じる所があると言えよう。

・立地を生かした産業へ
江戸時代には、参勤交代、川崎大師の参拝客など人の行き来によって発展していった川崎宿であるが、明治以降は、多摩川に隣接しているという立地を生かし、運搬用の経路として河を使う事で、工業も発展していった。
また、東京と隣接している立地により、商業の発展にも繋がったのである。そして、東海道線の開通後、川崎駅の開設により、電車交通網も整備され、更に川崎沖の埋め立てエリアに工場が建てられ、それを繋ぐ貨物線路も整備された。こうして、川崎は工業都市としてさらに発展していった。【註3】

▪️三重県旧東海道関宿との比較
東海道53次の中で、川崎宿の初期の発展姿と似ている、関宿との比較をしていきたい。関宿は、日本橋から数えて、47番目の宿場町であり、江戸から明治にかけての町屋が約200件も連なり、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。大きさは、約1.8kmあり、参勤交代や、伊勢神宮の参拝者の交通の拠点として繁栄していった。【註4,5】【註】資料4-1,4-2
川崎宿との共通点を見てみると、街の大きさや、参拝者の交通の拠点として発展した背景が挙げられるが、関宿は、現在も美しい景観や街並みを残し観光の発展を遂げている。
一方、川崎宿は、関東大震災、太平洋戦争時の川崎大空襲を経験しており、一帯は焼け野原と化し、残念ながら、当時の建物は一つも残っていない。東海道という道の形はそのまま残しながらも、新しい建物が立ち並び、街を再び形成した。【註】資料5
つまり、関宿は街をそのまま残し観光産業を発展させ、川崎宿は、東京と隣接している立地を生かし、工業・商業都市の役割を果たすという形で発展していったのである。初期の発展方法は同じでも、現在は全く別の姿として、各役割を果たしていると言える。

▪️川崎宿の評価
前章でも触れたように、川崎宿は、関東大震災・太平洋戦争の川崎大空襲により何度か建物は壊されてきた。しかし、焼け野原になっても、旧東海道は、道の形を変える事なく、戦後の復興を見せた点が、大きく評価するポイントの一点目である。
一方で、手放した物もあるのも事実である。工業の発展により、昭和の高度経済成長期には、公害が社会問題になり多摩川を始めとする多くの自然を失った。
しかしながら、現在の令和の川崎に目を向けてみると、多摩川の緑地化、景観法を取り入れた新しいまちづくりなどを行なっている。
例えば、旧東海道の景観を統一し、街並みの魅力を向上する為に、地域の人々の協力のもと、クラウドファンディングも行い街路灯の設置が行われた。街路灯には、歌川広重の浮世絵などが描かれ、東海道の歴史を思い出させる。【註6,7】【註】資料6
そして、古い街の面影は無くなってしまったが、「東海道川崎宿交流館」が2013年に設立され、そこを中心に川崎宿の文化を発信し、旧東海道沿いには、街路灯をはじめ、石碑・説明看板などが建てられており、旧東海道の歴史を感じる事ができる。【註6】【註】資料7,8
この様に、街並みの景観の統一と、東海道にゆかりのある物を市民の力などで、導いたという点が、評価する点の2点目である。

▪️今後の展望について
現在は、新しい取り組みとして東海道をモチーフにした「ホテル縁道」は、地域の人と旅人を結ぶというコンセプトを持ち、1階の「縁道食堂」は地域の人々も利用されている。通りに開かれた縁側のような小上がりは、「万年屋」の面影を彷彿させる。【註9】
また「東海道ビール川崎宿工場」では、川崎宿が開設された1623年にちなんで、「1623」というクラフトビールを旅人や地域の人々に提供している。【註10】
今後も、更に、祭りやイベントなどを通して、東海道に因んだ場所や食文化を提供し、旅人や地域の人々を繋げる事で、旧東海道の歴史を伝えていくであろう。

▪️まとめ
この様に、川崎宿は、川崎市の発展に大きな影響を与えた。現在は、古い建物も残ってはなく、現代風な建物が立ち並ぶ商店街となっている。【註】資料9
しかし、旧東海道の歴史の精神は、今でも受け継がれ、街のあちこちで、みることができる。
この様な歴史、精神を大切にしている街は、日本中に多くあるのではないだろうか。その精神は、これからも失う事なく続けていく事が私達現代人に取って幸福な事であり、私は、それを未来へも伝えていきたい。

参考文献

(参考文献・サイト) 以下最終閲覧日2024年7月閲覧

【註1】川崎大師
https://www.kawasakidaishi.com/about/

【註2】川崎大師観光センター
http://kawasakidaishi-kanko.com/

【註3】東海道川崎宿から工都川崎への歴史資料
https://www.city.kawasaki.jp/kawasaki/cmsfiles/contents/0000026/26446/20kouza01.pdf

【註4】観光三重 東海道関宿
https://www.kankomie.or.jp/special/sekijuku/

【註5】重要伝統的建造物群保存資料関宿
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/93738601_52.pdf

【註6】川崎市景観計画
https://www.city.kawasaki.jp/kurashi/category/26-1-3-1-16-3-0-0-0-0.html

【註7】川崎宿起立400年プロジェクト推進会議
https://kawasakishuku400.jp/

【註8】東海道川崎宿交流会館
https://kawasakishuku.jp/

【註9】縁道ホテル
https://en-michi.jp/

【註10】東海道ビール川崎宿工場
https://tokaido.beer/menu

東京新聞Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/270557

以下最終閲覧日2024年9月閲覧

「川崎市役所HP」
https://www.city.kawasaki.jp/kawasaki/category/123-9-2-8-0-0-0-0-0-0.html

「刀剣ワールド浮世絵HP」
https://www.touken-world-ukiyoe.jp/tokaido/

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