進化していく表参道の景観、その成り立ちとこれからの展望

大森 義雲雅

進化していく表参道の景観、その成り立ちとこれからの展望

1:はじめに
表参道は、明治神宮の参道として整備された大通りである。明治神宮境内には、北参道、南参道、西参道と呼ばれる主要な参道が三つ存在し、表参道はそのうちの南参道に通じている通りである。また表参道という呼称は、一般的にはこの通りを中心とした原宿、青山地域を指して使われることもある。
私自身、表参道にある古着屋で働いていることもあり、週五日表参道を歩いている中で表参道の本来の役割、そして今後どのように変化していくのかということに対して興味を抱いたことが、この報告書のテーマに選んだ理由である。
この報告書では、単に表参道の成り立ちをまとめることではなく、私自身が日々目の当りにしている表参道の現状と、そこにみられる空間的なデザインの観点から、これからの表参道の更なる発展の可能性を懐疑的な視点を持ちながら探っていく。

2:基本データ
所在地:東京都港区北青山3‐6~東京都渋谷区神宮前1‐13‐18を結ぶ区間。
構造:調査した現時点の構造は、片側二車線・往復四車線の車道、区間内には三本の歩道橋、そして歩道にはケヤキの街路樹による並木道が備わっている。
規模:都道413号線と青山通りが交差する表参道交差点から、明治神宮付近の神宮橋交差点までの全長約1.1㎞の区間である。

3:事例の何について積極的に評価しようとしているのか
私が表参道という地域をテーマに掲げたうえで積極的に評価したいのは、表参道という通りを演出している、空間のデザインである。
単なる神社へと繋がる参道ではなく、もはやこの参道だけで様々な楽しみ方を見出すことができるという点を強く評価している。
商業的な側面が突出して発達している点は勿論であるが、ここでは表参道の特徴のひとつであるケヤキの並木についてみていきたい。
添付写真を撮影した2017/1/20.21時点では葉は落ち、寒空を引き立たせる並木の景観である。夏には緑が爽やかな葉を揺らし、都会の喧騒を一瞬忘れてしまいそうになる。またクリスマス前から年始の時期まで、並木には電飾が施され表参道一帯がクリスマスムード一色となる。
このように四季の移り変わりに合わせて、その表情が変わっていくのも魅力である。
ここで私が空間のデザインとして特に注目したいのは、自然を感じる並木道と都会的な商業ビルの組み合わせが、不思議と不自然に見えない点である。
この組み合わせが不自然に見えない理由のひとつとして、私が考えたことは、並木の間隔が規則的に平然と並んでいるからであろう。言い方は難しいが、この一直線に並んだ無機質な佇まいが、人工的に造られた空間であるという印象を強め、ビルなどの都会的な建造物と並べてみたときにも、不自然に見えない特有のコントラストを生み出している。
この点のように、観察してみると浮かび上がってくる人工的な思惟を、これからも観察しながら評価していきたいと強く感じている。

4:歴史的背景は何か
表参道の成立は、1919年(大正8年)の明治神宮創建前年に遡る。明治神宮の正面側参道として整備された。現在の表参道は美しいケヤキ並木が特徴のひとつであるが、明治神宮創建時にはケヤキは植えられていなかった。その翌年の1921年にケヤキの若木200本が植樹され、この植樹が後に表参道の表情を季節ごとに変化させる、ケヤキ並木となっていく。
表参道に大きな変化が起こったのが、1945年のアメリカ軍による東京大空襲であった。この空襲で表参道付近も甚大なダメージを受け、ケヤキ並木の大部分が焼失してしまった。
この戦争に日本が敗戦後、明治神宮に隣接している代々木公園にアメリカ軍の軍事施設が建設された。それに伴い、表参道にはアメリカ人向けのお店がつくられていった。現在の表参道からは想像できない事実である。
私たちの世代がイメージする表参道へと変わっていったのは、1970年代後半に高級ブランド店の出店が始まり、若者が集まる流行の発信地としての機能が生まれ始めた頃である。
このように、表参道という一つの通りが、様々な事態を乗り越え、人の手が加わり変容しながら、現在のような若者文化やカルチャーの発信地へと姿を変えていった歴史を見ることができる。
この動きは、単なる時代推移ではなく、各時代に生きた人々の様々な思惑の内に生まれたデザインの形、また人工的な制作物であると捉えることができる。

5:国内外の他の同様の事例に比べて何が特筆されるのか
日本国内には他にも様々な、神社へと通ずる参道が存在している。しかし本来の、神社へと通じる道であるという意味以外に、様々な商業的な側面、またその規模に関して言えば他の同様の事例に比べ、はるかに大きな規模を有しているといえよう。
商業的な側面にスポットを当ててみてみると、表参道ヒルズをはじめ、ChristianDiorのビルなど大人を対象とした施設もあると思えば、古着屋や常に流行を発信しているカフェなどの飲食店も充実している。このように老若男女すべての層を捉えることができる地域は、東京のみならず全国各地で探しても、同様の例は見つからないだろう。
このような側面を生み出すことができた背景にも、時間をかけて表参道という地域を作り出す動きが起こっており、空間のデザインが行われた例と捉えることができよう。
参道そのものが本来持っている意味から飛躍して、新たな価値を植え付けるというデザインは、国内外の同様の事例にはないであろう、特筆すべきものである。

6:今後の展望について
今後はこの表参道も、どんどん変化していくことは明白であろう。その大きな契機のひとつ、2020年に開催予定の東京オリンピックも控え、外国からの観光客は今以上に増えてくることが予想される。
現時点でも、観光やショッピングを目的として表参道を訪れている外国人の数は目を見張るものである。その実感を裏付ける根拠として、東京都産業労働局が発表した『平成27年訪都旅行者数等の実態調査結果』では平成27年1月~12月の外国人旅行者数は過去最多、約1,189万人(前年比34.0%増)であった(1)。この理由としては、円安や消費税免税制度が広まったことが挙げられるが、東京がオリンピック開催地と決定したことも、その理由のひとつとして挙げてよいのではなかろうか。勿論この観光客がすべて表参道を訪れているわけではないのだが、日々の実感を確信づけるひとつの根拠として提示させていただいた。
東京オリンピックに関して言えば、表参道の近くには国立代々木競技場もあり、表参道の通りが盛り上がることだろう。オリンピック開催に伴い、この一大イベントが成功すれば、その経済効果もさることながら日本に対して好感を持ってくれる外国人も増え、オリンピック終了後も更なる発展が期待できる。
日本が盛り上がることは喜ばしいことであるが、懐疑的な視点から、そのデメリットも予測しておかなければならない。
単純に考えて、人が集まるところには物が集まる。その物が消費されることによって、ゴミをはじめとする廃棄物が増える。例えるなら、近年話題になっている、渋谷をはじめとしたハロウィンイベント後の街の散らかった惨状が挙げられる。
これまで散々と、表参道の‘‘参道としての位置づけから飛躍した側面,,をポジティブに評価してきた。しかし、視点を覆すわけではないが、表参道はあくまで日本の貴重な文化遺産であり、東京という都会のど真ん中に現存している神聖な資産であると捉えている。ここで私が恐れているのが、オリンピックという目先の宝物に目がくらみ、本当に大事にすべきこと、外国からの客人に伝えていかなければならない日本らしさ、というものを忘れてしまわないかという点である。
この点に留意しながら、大きなイベントを楽しみ、外国からの客人をもてなすことができたとしたら、本当の意味で日本という国、ここでいうと表参道という素晴らしい空間を感じてもらうことができ、歴史を踏まえたうえでの更なる発展が期待できるだろう。

7:終わりに
その成立から発展までの歴史を理解し、長い時間をかけて作り上げられ、デザインされた表参道という空間を、報告書という形で評価することで、明日からまた表参道の見え方、感じ方も変わるだろう。
その変化を楽しみながら、懐疑的な視点を忘れず、これからも表参道の発展を見届けていきたい。

  • 1jsessionid4aa14ca6eb46b91e9a8b54ea6cf25aef 神宮橋交差点から青山方面を見た並木道(著者撮影)
  • 2jsessionid4aa14ca6eb46b91e9a8b54ea6cf25aef 東急プラザやラフォーレ原宿などの商業施設近くの交差点、青山方面(著者撮影)
  • 3jsessionid4aa14ca6eb46b91e9a8b54ea6cf25aef 東急プラザやラフォーレ原宿などの商業施設近くの交差点、神宮橋交差点方面(著者撮影)
  • 4jsessionid4aa14ca6eb46b91e9a8b54ea6cf25aef 歩道橋から見た表参道並木道、神宮橋交差点方面(著者撮影)
  • 5jsessionid4aa14ca6eb46b91e9a8b54ea6cf25aef 歩道橋から見た表参道並木道、青山方面(著者撮影)
  • 6jsessionid4aa14ca6eb46b91e9a8b54ea6cf25aef 表参道を代表する商業施設、表参道ヒルズ(著者撮影)
  • 7jsessionid4aa14ca6eb46b91e9a8b54ea6cf25aef 表参道を代表する商業施設、Christian Diorビル(著者撮影)

参考文献

(1)平成27年訪都旅行者数等の実態調査結果(www.metro.tokyo.jp)、2016年5月掲載