クリエイティブデザインによる影響力と可能性~THE TOKYO TOILET PROJECT~
1.はじめに
2020年「THE TOKYO TOILET」[1]プロジェクトにより渋谷区の公共トイレが世界的に有名な一流クリエーター達の手で生まれ変わった。
恵比寿公園、はるのおがわコミュニティパークを皮切りに渋谷区の17カ所の公共トイレがリニューアルする。クリエーターたちのデザインにより公共トイレの社会問題をどのようにとらえてデザインしたのか、そしてその影響力と可能性について佐藤可士和氏や坂茂氏などのトイレについて紹介する。
2.背景と基本データ
「THE TOKYO TOILET」は日本財団[2]の誰もが快適に使用でき、多様性を受け入れる社会を実現することをめざす公共トイレを設置するというプロジェクトである。ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定[3]を2017年に結んでいることと東京の情報発信地であり世界への影響力もある渋谷区と協業した。渋谷区は2018年「渋谷区トイレ環境整備基本方針」[4]を策定。誰も排除しないインクルーシブなトイレ環境を実現することを目的とした基本方針で、このプロジェクトは2020年のオリンピック、パラリンピックの会場もをしている渋谷区にとっても協業するに値するものである。
「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは「公共トイレを使用してもらえるものにする。障がいがある人がない人と同じように社会で楽しんでもらう。そのためにクリエイティブの力を借りて変えていくことで固定概念も取り払われ世の中を良くしていく。トイレ技術の先進国である日本のトイレを改修して世界へ発信していく。そして維持管理をしてよいトイレをみんなで作っていきたい。」と日本財団の笹川氏は述べている。[5]
長く使用してもらうために維持管理は2023年まで日本財団も助成を行い清掃回数も増やした。清掃員のユニホームもNIGO氏がデザインを監修した。「トイレ診断士」による診断を実施、その結果を基にメンテナンスを向上させている。
プロジェクト共通のピクトサインはどのようなデザインのトイレでも合うよう視認性の良い優しいシンプルなもので佐藤可士和氏が監修している。
設計施工は大和ハウス工業、トイレの調査、設置機器とレイアウト提案はTOTOが協力している。
2022年1月現在完成しているのは12カ所で残り5カ所は22年中に完成予定である。
3.対象データと評価
3.1 17カ所の公共トイレ [資料1]
3.2 恵比寿駅西口 佐藤可士和氏 [6]
恵比寿駅西口の駅前交番横に完成したトイレのコンセプト名は「WHITH」で「清潔」「安心」「公共空間との調和」そしてトイレのあたりまえを配慮してデザインされた。真っ白な四角いトイレは清潔な佇まいで駅前にあっても違和感を感じさせない。アルミルーバーで囲まれた白い四角いトイレは暗くなると計算された照明で明るく美しく浮かび上がる。駅側に近い入り口にはだれでもトイレが設置されている。
トイレブース : 誰でもトイレ 1 、男女兼用トイレ 2
3.3 はるのおがわコミュニティパーク/代々木深町小公園 坂茂氏 [7] [8]
公園にあるトイレの中が綺麗で誰もいないかが心配であるが鍵を締めると不透明になるガラスで外壁を作ることで、トイレに入る前に中が綺麗か、誰もいないか確認できるガラス張りのトイレである。夜間にはトイレが公園を照らしている。
トイレブース : 誰でもトイレ 1 、男性トイレ 1 、女性トイレ 1 (×2カ所)
3.4 恵比寿公園 片山正道氏 [9]
木の素材感がある高いコンクリート壁を組み合わせしている外見は、色も公園の緑と自然にマッチし高級感がある。間接照明も壁の隙間から柔らかく照らしてトイレ空間へいざなうようだ。杉板の型枠で作成したコンクリート打ち放しの壁がデザインの肝となっている。コンクリートにはいった木目が美しい品のあるトイレとなっている。
トイレブース : 誰でもトイレ 1 、男性トイレ 1 、女性トイレ 1
3.5 鍋島松濤公園 隈研吾氏 [10]
トイレは5つの小屋で出来ている。トイレの周りを吉野杉の板で囲っている贅沢なつくりである。トイレに行くため階段を上っていくのは森の小道に入っていくかのようである。木材のこだわりはトイレブース内にも感じられるつくりで、木の温かみを感じる。公園のトイレのため幼児トイレのブースもある。
トイレブース : 誰でもトイレ 1 、男性トイレ 2 、男女兼用トイレ 1 、幼児用トイレ
3.6 恵比寿東公園 槇文彦氏 [11]
タコ公園と呼ばれる恵比寿東公園にあるトイレは、白を基調とした爽やかなつくりで屋根をいかの耳のようなデザインにした設計でいかトイレと呼ばれるように意識したクリエーターの遊び心を感じて面白い。風通しの良い中庭の周りにそれぞれのトイレブースがあり、シンプルな清潔感があるしつらいのトイレである。
トイレブース : 誰でもトイレ 1 、男性トイレ 1、女性トイレ 2
3.7 代々木八幡 伊藤豊雄氏 [12]
代々木八幡宮の参道の横にあるトイレは3棟で、それは3本のキノコが生えているようである。空間は行き止まりがなく見やすいことで防犯性を考慮している。外壁のブラウンのタイルの上に行くと明るくなるグラディションはまさにきのこである。
トイレブース : 誰でもトイレ 1 、男性トイレ 1 、女性トイレ
3.8 東三丁目 田村菜穂氏 [13]
田村氏はLGBTQと女性についてのプライバシーと安全に配慮したトイレをデザインしている。男性トイレで通常は奥にある大便器ブースを入口に設置しているのはさりげないジェンダーの受入れと感じた。建築面積19.25㎡という狭い三角の土地に赤い外壁はとても目立つ建物であるが、中に入ると白く明るい清潔な空間となっている。建物もおられたおりがみのようで影の印影はとてもおしゃれなイメージである。
トイレブース : 誰でもトイレ 1 、男性トイレ 1 、女性トイレ
4.おもてなしトイレとの比較
国や自治体でも公共のトイレをおもてなしトイレとして改修を推進している。和式トイレの洋式化や洋式トイレの増設、温水洗浄便器を設置するものに交換など、訪日客に対してのおもてなしトイレを開設。車いすやオストメイト対応などのバリアフリー配慮機器の導入や空港などの全トイレを温水洗浄便座付きの洋式化にしているが機器までのおもてなしトイレでとどまっている。建物にクリエイティブな要素はない。[16]「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは機器にも除菌水のでるトイレや自動で水のでる水栓、バリアフリー配慮機器を採用しているのは当たり前でそこにクリエイティブのアイデアを入れたデザイントイレとしている。
5.今後の展望
維持管理は掃除の回数を増やし、トイレ診断士を入れて見守っているとのことであるが実際に訪問すると壊れていて使えないところもあった。人の目が行き届かない場所のトイレは、難しいだろうが壊れたままの期間を短くし、素早く対応することでみんなの意識は変わるのではないかと考える。坂茂氏のはるのおがわコミュニティパークなどのガラスのトイレは曇ったままとの張り紙があった。公共のトイレとはいえ画期的、機能的でおしゃれなトイレは有料化ということを検討しても良いのではと考える。今回女性クリエーターは2名であったが多様な社会に対してのデザインにはいろいろな視点が重要と考える。公共トイレに男女共用トイレの是非など女性の視点も活用することを期待したい。
6.まとめ
今まで「汚い」「うす暗くて怖い」と思われていた公共トイレが「THE TOKYO TOILET」プロジェクトのクリエイティター達の力によって概念が変わり、きれいで清潔な場所として認められたのではないかと考える。デザイントイレはクリエイターの方によって違う趣がありトイレめぐりをする人も増えている。Time Out誌のグローバル調査「Time Out Index」2021版の世界のベストシティランキングで東京が10位にランクインした。その要因の一つに「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの「アートな公衆トイレ」が高く評価されている。[17] クリエイターたちの英知によってトイレが見直されインクルーシブ社会の実現の一歩となっているのではないか。今後もクリエイターの力で社会の課題を解決やイノベーションを起こしてくれることを期待する。
参考文献
参考文献
【WEB参考サイト】 (最終閲覧 2022.01.29)
THE TOKYO TOILETプロジェクト特設サイト [1]
https://tokyotoilet.jp/
日本財団公式サイト [2]
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/thetokyotoilet
ソーシャルイノベーションに関する包括連推協定 [3]
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/information/2017/20171031-22048.html
渋谷区トイレ環境整備基本方針-渋谷区公式サイト [4]
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/ku_keikaku/toire_2018.html
「THE TOKYO TOILET」プロジェクト紹介映像 [5]
https://www.youtube.com/watch?v=vAotHF2hZvk
恵比寿西口 [6]
https://tokyotoilet.jp/ebisu_station_west_exit/
春の小川コミュニティパーク [7]
https://tokyotoilet.jp/haruno_ogawa/
代々木深町小公園 [8]
https://tokyotoilet.jp/yoyogifukamachi_mini_park/
恵比寿公園 [9]
https://tokyotoilet.jp/ebisu_park/
鍋島松濤公園 [10]
https://tokyotoilet.jp/nabesima_park/
恵比寿東公園 [11]
https://tokyotoilet.jp/nabesima_park/
代々木八幡 [12]
https://tokyotoilet.jp/yoyogi_hachiman/
東三丁目 [13]
https://tokyotoilet.jp/higashi_sanchome/
素晴らしい槇文彦氏、田村菜穂氏、片山町通氏日本在台渋谷公園トイレPJ [14]
https://www.rbayakyu.jp/rbay-kodawari/item/5656-pj
TOTO通信2021年新春号 最新水まわり物語 [15]
https://jp.toto.com/tototsushin/2021_newyear/mizumawari.htm
全国に拡大するおもてなしトイレ [16]
https://jp.toto.com/products/public/machinaka/omotenashi/omotenashi.htm
東京が世界のベストシティランキングで10位にランクイン。グローバル調査「Time Out Index」2021年版 [17]
https://www.adfwebmagazine.jp/art/tokyo-ranks-10th-in-time-outs-global-survey-on-best-cities-in-the-world-for-2021/
【WEB閲覧】 (最終閲覧 2022.01.29)渋谷区に出現した「透明トイレ」が話題に。サイボウズ・大槻さんと日本財団・笹川常務がトイレを通じて問いかける「多様性」と「インクルーシブ社会」(2020年8月31日)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2020/48426
隈研吾、安藤忠雄・・・16人の世界的クリエーターが参画する「公共トイレ」プロジェクトその狙いとは
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2020/47104
渋谷区内17の公共トイレが生まれ変わる「THE TOKYO TOILET」プロジェクト メディア公開
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2020/20200805-46948.html
渋谷区トイレ環境整備基本方針(PDF)
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/assets/com/000036728.pdf
渋谷区にNIGO氏の公共トイレ21年夏に隅氏や伊藤氏、可士和氏らのトイレも続々竣工
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00110/00232/