
「平田一式飾り」-見立て遊びは創造的な発見と組み立ての思考-
はじめに
島根県出雲市平田町に平田天満宮(1)がある。天神祭に趣向を凝らした飾りもの「平田一式飾り」(以下、一式飾り)(資料1)が奉納され、競技大会を行う。
趣向とは、あるものを別の共通点があるものに置き換えて組み立てる「見立て」(2)の手法を取り入れている。信楽焼の蛙が猿の顔に狸が腕に変身したり、日常で使っている陶器を組み合わせて表現するのである。
本稿では一式飾りの特徴である見立てに着目し、文化資産として評価した今後の展望について考察する。
1.一式飾りの概要と歴史的背景
1-1.概要
身近にある生活用具を使用し、一種類のものあるいは違う素材であっても同一のジャンルとなりうる一式で飾りをつくる(3)。
生活用具を家庭から持ち寄ったり、家の商売道具を使って組み立て、終われば解体して元通りにするのである(4)。そのため穴を開けない、色を塗らない、形を変えない約束事があり(5)、元の用途を主張しつつ、かけ離れた存在で組み合わせることで面白さを生む。
生活用具、商売道具とは、昭和戦前までは陶器、茶道具、仏具、銭、馬具、脇差、三味線(6)、酒屋道具など様々な材料を一式としていたが、現在は陶器でつくることが主流となっている。生活用具や商売道具を借りる体制が難しくなり、不要となった大量の陶器類が一式飾り保存会で保管され、貸し出をしている(7)。
1-2.起源
宝歴2年(1752)に流行した疫病を鎮めるため、翌年の宝歴3年(1753)に神幸行事が行われた。疫病の流行にかかわらず御神幸が毎年恒例となるよう、寛政5年(1793)に寺町の住人である桔梗屋十兵衛が、茶道具一式で「大黒天像」を奉納したことが、始まりといわれている(8)。
近隣の各町内が飾り宿を設け、一式飾りの制作をしている。御神体を移した神輿が平田天満宮を出発し、飾り宿へ立ち寄りながら町内を2時間かけて巡行する。(資料2)
1-3.一式様式の造り物
一式様式で飾る行事は、富山県、愛知県を東限として九州南部まで西日本に集中している(9)。特に一式を冠しているのは、島根県出雲地域の数か所と鳥取県西部の「法勝寺一式飾り」のみで山陰地方に限られている(10)。他の地域では「造り物」といわれ、上方や江戸など都市で流行したものが、地方へ広がったものと考えられている。平田は木綿の生産地で、取引のあった大阪からの伝播だといわれている(11)。
2.「編集」と「時間」のデザイン性で評価
2-1.編集のデザイン
編集家の紫牟田伸子がいう「創造的な編集は、情報を新しい見方でみることで、気づかなかったことに気づかせてくれる(12)」からも、見立ては「編集」であると考え、蛙の置物をひっくり返せば、腹の部分が猿の顔に見える「切り口」から、一式飾りとしてどう表現するか「構造」を考え、ユーモアのある動きをした猿(資料1)の「語り口」で表現する(13)。蛙の置物を猿の顔に見立てても目鼻は付けない。目鼻を付けても陶器で付けるが、見立ての観点からは付けると魅力が損なわれる。菊人形(14)のように顔や手足は人形造りではない陶器一式なのである。
制約のある条件の中でデザインし、いつもと違った見せ方をするのは創造的な編集であると評価ができる。
2-2.時間のデザイン
飾りをつくる知恵や技術は「時間」でデザインされた。毎年つくる飾りのテーマは、近世以来の定番の題材(15)や昔話も好まれるが、新しさも重要で時々の流行している話題の出来事が、選ばれる傾向がある(16)。
鉄や木で骨組みをつくり、金網ネットを被せ、その上を針金を絡めた陶器を1つずつ繋いで組み立てる(17)。材料を傷つけず、組み立てる手法はマニュアル本といわれる天保8年(1837)版の『造物趣向種』(資料3)から見え(18)、江戸時代からの技法を踏襲している。かつての飾りから大型化したことや造形の躍動感を表現する吊り下げ展示で、陶器の重さや大きさによって針金の太さを変える方法を編み出している(19)。
毎年つくり続けることで、知恵や技術が集積したことは、中西裕二の「時間のデザインとは文化そのもの(20)」といえ、時代を経て創造された時間のデザインだと評価ができる。
3.「福岡町つくりもんまつり」(以下、つくりもん)と比較して特筆する点
3-1.つくりもんの概要
富山県高岡市福岡町で毎年9月に開催される、つくりもんがある。江戸時代から約300年続く、五穀豊穣を感謝する地蔵まつりが起源といわれている(21)。材料は野菜を中心とした野菜一式で、果物や草花、昆布、寒天、麩などの乾物も使用している(22)。食べる物であるため、比較的長持ちのする材料からつくり始め、傷みやすい野菜の部分はまつり前夜で完成させる。昔は使用した野菜は解体後に食べていたが、現在は接着材を使うため、まつりが終わるとすべて廃棄するという(23)。
制作は町内の自治会、企業の団体単位で、家の駐車場や倉庫、野外にテントを張って展示する。古くは家単位の小さな造り物で、お盆に供える精霊馬のような素朴で簡単なものを前夜につくっていたが、昭和38年(1963)にまつりの記事が新聞に掲載され、昭和43年(1968)にテレビ番組で紹介されたことを転機に野菜を切り取って貼り付けする写実表現で大型の造り物に変化していった(24)。メディア取材によって集客力のあるまつりとなり、地蔵まつりから、造り物が主役となった。
3-2.共通点と特筆点
つくりもんと一式飾りは、どちらもコンクール形式で行われ、審査は見立ての際立ったものが評価される。そのため、つくりもんの審査員はある程度の範囲で、見立ての心得を理解している関係者や学校の美術教師である(25)。一式飾りは関係者、来賓、制作の町内団体、寄付をしている賛助会員で審査をし、賛助会員以外は1人あるいは1組3票で、これまで妥当と判断できる作品が表彰されている(26)。
特筆する違いは材料の再利用ができる点と「材料が本来の用途に即した形を主張しつつ、まったく異なる何者かに見える(27)。」ことにこだわっている点である。つくりもんでは、野菜を切り取り形を変えて、写実にこだわる部分が増えている。一方、一式飾りは制約により、材料の形を変えないことで見立の趣向を重視している。
4.今後の展望
4-1.今後の課題と取り組み
現在、平田町中心街の商店は衰退し、地域活性化の取り組みが必要とされている。商業復興と観光まちづくりに出雲市無形文化財である一式飾りは活用できると期待されている。一式飾り保存会と各町内は高齢化によって、技術者が減少しているが、地元の高校、小学校への技術指導で後継者育成に取り組んでいる(28)。
4-2.先人技術者の方向性
昭和28年(1953)7月21日付『島根新聞』に掲載された一式飾りの技術者対談で、今後のあり方が議論され、「南画調」か「写生調」かで問題提起をしている(29)。「南画調」を支持するが、「見立ての趣向を理解するためには、見物客にも伝統に培われた一種の教養が要求される(30)」と危惧していた。結論は平田町以外の展示は写実でないと理解が難しいとし、町外に披露する場合は柔軟に考えていたようだ。
現在の平田町で、どれだけの人が趣向を理解して見物しているのだろうか。今では約束事に反して陶器に加工を施し、ペンキで塗ったものも奉納されている。色を塗ることで写実的で分かりやすくなるのだろう。
4-3.変容と継承
柳田國男が日本の祭の変わり目を「見物と称する群の発生、即ち祭の参加者の中に信仰を共にせざる人々、行事を観望する者の現れたことであろう(31)」という。起源は天神祭の奉納であるが、氏子であった商店が衰退し、一式飾りはつくるから傍観するとなり、信仰や町内のコミュニティ、つくる担い手が変化した。信仰から観光やまちづくりの資源に切り替わる中で、古くからの手法を伝えて柔軟に次世代へ繋げている。
学校教育で一式飾りの面白さを学んだ高校生、小学生が今後のつくり手になると考える。
5.まとめ
共通の感性や知識があって楽しむことができる見立ては、日本ならではの手法であり遊びである。現在でも先人がこだわったように時代に応じた価値を見出している。
「編集は遊びから生まれ、誰にでもできる(32)」といわれ、見立ては既成概念にとらわれず、奇想天外な発想ができ、編集力をも身につけることができると考える。次世代のつくり手に創造的な発見と組み立ての思考が育まれるだろう。
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資料1 「平田一式飾り」猿 2026年1月6日筆者撮影 -
資料2 令和7年 平田天満宮奉納 飾り宿マップ・御神幸巡行順
国土地理院の地図を引用し、筆者編集 -
資料2 令和7年 平田一式飾り 競技大会 参加町内・団体
2025年7月20日、2025年7月21日筆者撮影 -
資料3 『造物趣向種』より、「海老 赤貝」
『造物趣向種』(国文学研究資料館所蔵)
出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/200014991 (2026年1月8日閲覧)
「平田一式飾り」の「海老」 2025年8月17日筆者撮影 -
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資料4 「平田一式飾り」についてお話を伺った記録
資料:筆者作成
写真:2025年7月21日、2025年7月18日、2026年1月6日、2026年1月23日筆者撮影 -
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資料5 「福岡町つくりもんまつり」についてお話を伺った記録
資料:筆者作成
写真:2025年9月20日、2025年9月21日筆者撮影
参考文献
【註】
(1)『出雲国風土記』(木村家本、天保8年(1837)写)の縦縫群沼田郷の頁に「宇美社」と記された古社宇美神社の摂社平田天満宮。
・宇美神社、平田天満宮
https://umi-jinja.jp/
(2026年1月10日閲覧)
(2)「連想によって、一見まったく異質なもののあいだに共通した要素を見いだし、そこから得られる相乗効果や落差を楽しむこと。とくに近世の俳諧、歌舞伎、浮世絵など、さまざまなジャンルにおいて発達をみた。」
・日高薫『日本美術のことば案内』小学館、2003年、98頁。
(3)西岡陽子監修『平田一式飾り』追録版、平田一式飾り保存会、2018年(初版2003年)、2頁。
(4)加田 幹男氏より聞き取り 2025年7月5日付。(資料4)
(5)註(3)に同じ、2頁。
(6)「昔の一式飾り」『島根新聞』昭和33年(1958)7月20日付、石原源一郎氏の記事より、文政5年(1822)から明治16年(1883)までの宮之町に保存されていた帖からの抜き出しによる昔の材料として記載があった。
(7)加田 幹男氏より聞き取り 2026年1月6日付。(資料4)
(8)註(3)に同じ、6頁。
(9)註(3)に同じ、3頁。
(10)福原敏夫、西岡陽子、渡部典子『一式造り物の民俗行事-創る・飾る・見せる-』岩田書院、2016年、65頁。
(11)註(3)に同じ、3頁。
(12)紫牟田伸子、早川克美編『私たちのデザイン4 編集学-つなげる思考・発見の技法』(芸術教養シリーズ20)、京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 芸術学舎、2014年、75頁。
(13)(特集)「平田一式飾り|出雲人 -IZUMOZINE-」、出雲市産業観光部産業振興課産業企画係ホームページ
http://izumozine.jp/special/14/index.html (2026年1月10日閲覧)
(14)「菊で人物や動物の姿、芝居の場面や名所風景などを見せる菊細工は、文化年間に江戸の植木屋が始め、秋の風物詩として人気を博した。頭は写実的な人形、身体は菊という現在に続く菊人形のスタイルが定着している。」
・川添裕、木下直之、橋爪紳也編「見世物はおもしろい」『別冊太陽 日本のこころ』No.123、平凡社、2003年、78頁。
(15)出雲市内の古刹鰐淵寺(がくえんじ)は、武蔵坊弁慶ゆかりの地で釣鐘伝説がある。出雲神話のスサノオの八岐大蛇退治、昔話の桃太郎の鬼退治は、一式飾り起源の疫病退散に例えられ、桃太郎、八岐大蛇、弁慶、大国主はご当地物として定番の題材である。
・註(3)に同じ、50頁。
・註(10)に同じ、72頁。
(16)註(10)に同じ、72頁。
(17)長岡 秀人氏より聞き取り 2025年12月26日付。(資料4)
註(10)に同じ、149頁。
(18)註(3)に同じ、64頁。
(19)平井 敦子氏より聞き取り 2025年7月18日付。(資料4)
(20)中西紹一、早川克美編『私たちのデザイン2 時間のデザイン-経験に埋め込まれた構造を読み解く』(芸術教養シリーズ18)、京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 芸術学舎、2014年、43頁。
(21)「福岡町つくりもんまつり」、福岡町観光協会ホームページ
https://f-kanko-tukurimon.jp/page38956/ (2026年1月12日閲覧)
(22)註(10)に同じ、165頁。
註(14)に同じ、100頁。
(23)さくらの会 会長と副会長より聞き取り 2025年9月21日付。(資料5)
(24)さくらの会 会長と副会長より聞き取り 2025年9月21日付。(資料5)
註(14)に同じ、102頁-103頁。
(25)さくらの会 会長と副会長より聞き取り 2025年9月21日付。(資料5)
(26)加田 幹男氏より聞き取り 2026年1月6日付。(資料4)
(27)註(10)に同じ、58頁。
(28)加田 幹男氏より聞き取り 2025年7月5日付。(資料4)
(29)註(3)に同じ、70頁。
(30)註(3)に同じ、70頁。
(31)柳田國男『定本柳田國男集』第10巻、筑摩書房、1969年、182頁。
(32)松岡正剛『知の編集術 発想・思考を生み出す技法』講談社、2000年、250頁。
【参考文献】
・人間文化研究機構 国文学研究資料館「第1章 3「見立て」とその周辺」『図説「見立て」と「やつし」-日本文化の表現技法-』八木書店、2008年、18-19頁。
・笹原亮二、西岡陽子、福原敏男『ハレのかたち 造り物の歴史と民俗』岩田書院、2014年。
・高橋健司『一式飾り ~山陰に息づく暮らしの芸術~』今井出版、2025年。
・高橋健司『「見立て遊び」の伝統の継承』「一式飾り」調査報告Ⅲ、鳥取大学地域学部 高橋健司研究室、2016年、1-14頁、37-50頁。
・高橋健司「第2部「一式飾り」に見る「見立て」の創造性」『「一式飾り」に見る「見立て」の創造性』「一式飾り」調査報告Ⅵ、鳥取大学地域学部 高橋健司研究室、2019年、1-2頁、75-86頁。
・高橋健司「第2部「一式飾り」に見る「風流」の伝統」『「一式飾り」に見る「風流」の伝統』「一式飾り」調査報告Ⅶ、鳥取大学地域学部 高橋健司研究室、2020年、1-2頁、37-46頁。
・細谷功『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』東洋経済新報社、2011年。