「博多灯明ウォッチング」――「まち」と「ひと」をつなぐ希望の灯り

迎 佳美

はじめに
博多は、博多祇園山笠*1、博多松囃子*2、博多おくんち*3など、伝統ある祭礼神事やイベントが数多く催される「祭りのまち」だ。そんな博多のまちで、秋の風物詩として地域住民に愛されているイベントが「博多灯明ウォッチング*4」だ。本稿では、博多灯明ウォッチングをデザインの観点で評価し、未来への持続可能性を検討する。

1. 概要
1994年にはじまり、2024年10月19日で第28回を迎えた博多灯明ウォッチング(以下、博多灯明)は、博多に伝わる家内安全などを祈願する神事「千灯明*5」を現代風にアレンジした「灯明アート」で博多のまちを彩るキャンドルアートイベントだ。灯明アートの舞台となるのは、御供所・大浜・冷泉・奈良屋の4地区で構成される「博多部」と呼ばれる福岡市の中心部だ(資料1)。初回は約8千個だった灯明は現在4万個を超え、開催時間は3時間、一夜限りのイベントに3万人が来場するイベントへと成長した。小学校の校庭など、各地区の広域スペースで展示される灯明地上絵(資料2、3、4)が最大の見どころだ。

2. 歴史的背景
商業のまちとして栄えた博多は、1980 年代に入ると定住者の流出などにより空洞化が進み、コミュニティ消滅が危ぶまれるようになる。こうした危機感からまちづくりの機運が高まり、博多部の4地区に相次いでまちづくり協議会(以下、まち協)が設立された*6。同時に、博多の活性化を目的に4つの協議会の連合体である「博多部まちづくり協議会」が立ち上げられ、博多部まち協の周知、博多部の連帯意識向上を目的に、博多部まち協の設立イベントとして開催されたのが、博多灯明だ。
1998年、生徒数の減少を理由に4地区の小学校が統合してひとつの小学校校区となったが、まち協はいまも各地区に存続しており、この旧4校区の住民がそれぞれの地区で灯明を制作している。主催は「博多部まち協」だが、実際は4地区が1年交代で主催を担当する当番制でイベントを運営している*7。

3. デザイン性の評価
3-1 博多灯明がもつデザイン性の評価
博多灯明のデザインとしての大きな特徴は、アーティストとまちが協力してつくりあげる地上絵と、博多発祥の紙袋灯明だ。
1994年、初回の博多灯明は、灯明を手に灯明のなかを歩くナイトウォークだった。博多灯明が現在のような「灯明アート」へと進化したのは、はじめてアーティストとの連携がはかられた1998年(第4回)のことだ。
紙袋灯明は、コストダウンを模索するアーティストの試行錯誤のなかで生まれた。安価な紙袋や平たい形のロウソク、小学校の砂場の砂などを重りに使用する紙袋灯明は、コストダウンと安全性、デザイン性の向上を同時にかなえ、灯明数を飛躍的に増やすことに成功した。以降も紙袋の色を増やして表現の幅を広げるなど、博多灯明はいまも進化を続けている*8。また、このときアーティストと地区のあいだに生まれた相互関係は現在も続いており、「灯明師」とよばれるアーティストが地域と話し合いながら地上絵をデザインしている*9。
また、アーティストと博多灯明との関わりは、博多灯明の協賛企業でもある「博多リバレイン*10」でも見ることができる。オープン以来、毎年博多灯明に参加している博多リバレインは、福岡アジア美術館の滞在作家がデザインした灯明を展示している*11(資料5)。博多リバレインは会場の最寄り駅の一つである中洲川端駅に直結する。灯明アートの可能性を広げる作品を展示する博多リバレイン灯明は、博多灯明を知るための「玄関口」の役割も担っているといえる。

3-2 各地区の灯明デザインの評価
九州屈指の寺町である御供所地区*12は、博多祇園山笠の関係者や周辺の専門学校の学生たちの協力を得ながら、伝統的な紙巻き灯明を寺社に配置するなど、旧市街の歴史的景観を活かした灯明を作っている。地上絵の会場となる旧御供所小学校校庭は平坦で高所からの視点が得られないため、灯明を迷路状に配置するなどデザインに娯楽性を取り入れつつ、ドローンで地上絵の全体像を動画配信するなど、先進技術と伝統をうまく共存させている*13。
博多部きっての文教地区である大浜地区*14もまた、地域の学生たちと協力して地上絵を制作している。住宅や道路の整備が進む大浜地区は、博多部のなかでもっとも生活環境が変化した地区だが、目線が低くても楽しめる立体造形の地上絵をつくるなど、新たな灯明の楽しみ方を考え続けている。新しいコミュニティのあり方を模索しつつ、まちに訪れつづける変化の波をしなやかに乗り越えながら、博多灯明を積極的に楽しんでいる印象だ*15。
博多灯明と同時期に開催される秋季大祭(おくんち)でも灯明地上絵をつくる冷泉地区*16の地上絵会場は、博多の総鎮守・櫛田神社だ。地上絵の作り手は地域の住民のみだが、山笠で培ったチーム力で灯明づくりにあたっている。おくんちの地上絵との連動性も意識して決定される地上絵デザインは、博多らしい伝統的なモチーフが多い(資料6)。ワークショップで作ったしずく型灯明など、独自の灯明を境内に飾っているのも冷泉の特徴だ*17。
博多部唯一の小学校が地上絵会場である奈良屋地区*18では、以前は小学校が主体となって灯明づくりをしていたが、博多灯明を「親子と地域がつながる場」にするために、募集によって集められた参加希望の親子がまち協とともに灯明をつくる新たな試みがスタートした。体育館の2階デッキ部分から地上絵を見おろすことができるため、地上絵のスケールの大きさをもっとも楽しめる地区だ*19。
4地区に共通するのは、「まち」と「ひと」が主役であるということだ。博多には、豊臣秀吉の太閤町割りをルーツにもつ「流*20」という独自の組織単位がある。山笠をはじめ、博多部の祭りは流を単位とするのが伝統で、行政区分をも超越するその強固なつながりは日常生活にも浸透しているが、博多灯明は上述のとおり、流ではなく地区ごとに灯明づくりが行われる。ふだんは敵である他所の流が、博多灯明では仲間となるのだ。博多灯明は、博多の外から人を呼び込む地域のイベントだが、流同士、ひと同士の交流の場でもある*21。博多灯明は、アートを媒介に「まち」と「ひと」がつながる場として地域活性化に寄与する、すぐれた文化資産として評価できる。

4. イベントの特質
博多灯明の暖簾分けイベントである海の中道海浜公園の「うみなかキャンドルナイト(以下、うみなか)*22(資料6)」を比較事例に、博多灯明の特質を考察する。
1万灯のキャンドルアートでクリスマスを彩るうみなかの地上絵の会場には約2haの芝生の広場が使われており、巨大な灯明地上絵は募集によって集められたボランティアを中心につくられる。
一方、博多灯明は、地域の住民が中心となって地域のなかで地上絵をつくっている。「場所」においても「ひと」においても、代わりのきかない「必然性」がある。
いずれも視覚的な美しさで人を集める通年イベントだが、博多灯明は、博多っ子の手で、博多のまちで灯明を展示することに意味がある「まちづくり」のイベントだ。「場所」と「ひと」、この二つの「必然性」こそが博多灯明の特質といえる。

5. 今後の展望―まとめにかえて
博多部全体が抱える課題は、後継者不足*23だ。現状、御供所地区と大浜地区では学生や企業の協力が不可欠であり、地域住民のみで運営にあたる冷泉地区でも後継者不足は深刻だ。博多小学校の児童数は平成27年を境に減少傾向にあり(資料8)、進学や就職を機に博多を離れる若者も多いという*24。博多灯明には「場所」と「ひと」に必然性があることは上述したが、後継者不足に対する打開策が得られないままに現在のイベント規模を維持すれば、担い手の高齢化による「ひと」の疲弊は避けられない。博多灯明の本来の目的は、博多部の連帯意識向上だ。筆者は、「まち」のために博多部全体で持続可能なイベントの運営方法を検討し、4地区が連帯しながら「ひと」の工夫をしなければならない局面に差し掛かりつつあると感じる。
灯明師の尾形孝弘は、インタビューで「歴史と革新こそが長続きする秘訣だ」と語った*25。博多灯明がはじまって、今年度で30年が経った。290年の歴史をもつ千灯明を革新的にデザインし直した博多灯明を持続するためには、「ひと」の工夫や新たなデザインへの取り組みなど、革新の一手の積み重ねが必要になってくるだろう。博多の希望の灯りを未来へと継承するための博多っ子の革新を、期待をもって見守り続けたい。

  • 81191_011_31883122_1_1_資料1_page-0001 資料1 博多部 各地区所在地
  • 81191_011_31883122_1_2_資料2_page-0001 資料2 灯明地上絵の配置
  • 81191_31883122_1_1_E8B387E696993_page-0001 資料3 各地区の灯明地上絵
  • 81191_011_31883122_1_4_資料4_page-0001 資料4 地区・年代別 地上絵のテーマ一覧表
  • 81191_011_31883122_1_5_資料5_page-0001 資料5 博多リバレイン灯明
  • 81191_011_31883122_1_6_資料6_page-0001 資料6 2024年 冷泉地区の灯明
  • 81191_011_31883122_1_7_資料7_page-0001 資料7 うみなかキャンドルナイト
  • 81191_011_31883122_1_8_資料8_page-0001 博多部の人口推移、博多小学校児童数等
  • 347455_1 (2024年10月19日、筆者にて撮影)

参考文献

【註】
*1 780年を超える伝統を誇る、博多の総鎮守・櫛田神社にまつられる素戔嗚尊(祗園宮)に対して奉納される神事。国の無形民俗文化財指定。博多には「山笠のあるけん博多たい(博多があるから山笠ではない、山笠があるから博多なのだ)」という、博多っ子の山笠に対する愛情を簡潔にあらわした名フレーズがあるが、博多っ子にとっての山笠はアイデンティティそのものだ。https://www.hakatayamakasa.com/(2024年11月25日閲覧)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より一部引用。
*2 840年を超える歴史をもつ、新年に祝福をもたらす歳神を迎える民俗行事が芸能化したもの。「博多松ばやし」の名称で記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財(選択無形民俗文化財)に選択されている。2020年、国の重要無形民俗文化財指定。https://bunkazai.city.fukuoka.lg.jp/cultural_properties/detail/117(2024年11月25日閲覧)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より引用。
*3 福岡市博多区にある櫛田神社の秋の例祭。五穀豊穣に感謝する秋の伝統行事。長崎くんち、唐津くんちと並ぶ日本三大くんちの一つ。https://www.city.fukuoka.lg.jp/hakataku/kikaku/charm/hakatanyokatokojoho/hakata-yokatoko/maturi-event/yokatoko-joho-maturi-event.html(2024年11月25日閲覧)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より引用。
*4 28回目となった2024年は、雨天により御供所と大浜は中止となった。観覧料は無料、誰でも見ることができる。博多灯明ウォッチング公式サイト https://hakata-toumyou.com/ 2025年1月29日閲覧
*5 冷泉地区の櫛田神社では秋季大祭(博多おくんち)で千灯明が行われている。歴史ある寺町である御供所地区では約290年前から行われており、千灯明は地祭りとして地区の住民に親しまれている。享保の大飢饉で亡くなった方々の弔いを発祥として聖福寺、叶院普賢堂、須賀神社(桶屋町のお不動さま)、聖福寺境内の白山神社、葛城地蔵尊などで行われる。御供所.info 「御供所の地祭り」 https://www.gokusho.info/map/info/festival/2011/07/ofudosama.html(2024年11月27日閲覧)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より引用。
*6 1992年、福岡市役所の協力のもと、大浜自治連合会に博多初のまちづくり団体である「大浜まち協」が設立、大浜地区のまちづくり活動を機に他の3地区でも相次いでまち協が設立された。まち協は各地区の自治協議会の組織の一部。
福岡市公式HP「自治協議会制度」 https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/community/jitikyougikaiseido.html 2024年11月27日閲覧)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より引用。
*7 「担当持ち回りの提案は、山笠からのシステムの登用(筆者補足:山笠は当番町(その年の流の山笠運営を取り仕切り、各町の世話をする)も一番山笠(追い山笠でトップバッターの流のこと)をつとめる「流」(註20を参照)も持ち回り制であるため、博多には歴史的に持ち回り制が染みついている。担当持ち回り制、生活のひとつの頂点が祭にあり共同体としての結びつきの強さにつながっている点など、福島県会津田島の祇󠄀園祭における党屋制に通じるものがある)。事務局を各当番校区が持つことで公平性を保ちながらうまくいく事を当時の4地区のまち協の会長が話し合いの上で決めたと記憶している。以前からも博多部まち協の会長は1年ごとの持ち回りだったので、会長が回ってきた校区が事務局を行なう状況になった。」(2025年1月29日 NPO法人九州コミュニティ研究所・灯明師 尾方孝弘氏 メールインタビューより)
*8 あらかじめ袋をクシャクシャにすることで風に強くなる博多灯明。延焼や転倒を防止するだけでなく、ロウソクの炎をゆらゆらと幻想的に明滅させることもできる。従来は白のみだった紙袋灯明は現在7色(白、赤、水色、黄、橙、桃、黄緑)に増え、加えて黒の表現に紺や紫の袋を活用するなど、多彩な色表現が可能になった。紙袋灯明は各地に広がり、まちづくりや通年イベント、記念事業、アート活動などで使われている。(博多灯明25周年記念誌冊子『博多灯明100万灯へのあゆみ』博多灯明ウォッチング記念誌発行委員会・博多部まち協・御供所まち協・大浜まち協・奈良屋まち協・冷泉まち協発行、2017年、p.19-21、p.50-51)
*9 早川克美は、デザインを「構想から着地までを通して結果を得るための、思考のプロセス」と定義している。灯明師と地域住民で地上絵のモチーフを決定する(構想)~資材調達(調査)~灯明をならべる(技術・検証)~ロウソクに火を灯して地上絵を完成させる(成果)と、博多灯明においてもデザインのプロセスが実践されていることがわかる。
*10 1999年 3月開業。商業施設である「博多リバレインモール」、アジアの近現代の美術作品を系統的に収集する世界唯一の美術館である「福岡アジア美術館」、歌舞伎やミュージカルなど多彩なジャンルの演劇を公演する全国初の公設民営劇場である「博多座」など、文化施設と商業施設が融合した大型複合商業施設である。福岡市営地下鉄中洲川端駅と直結。所在地は福岡市博多区下川端町3-1。
*11 博多リバレイン スクエアガーデンにて開催。福岡アジア美術館のアーティスト・イン・レジデンス(https://faam.city.fukuoka.lg.jp/residence/ 2025年1月29日閲覧)で滞在する芸術家が灯明のデザイン・下絵を担当している。今年度のデザインを担当したのは、現在アーティスト・イン・レジデンスの第2期で滞在中の杉原信幸×中村綾花(長野)。
*12 博多小学校統合前の旧御供所校区。聖福寺や承天寺、東長寺などの歴史ある寺社や太閤町割に由来する由緒ある町並みがあり、平成11年に都市景観形成地区に指定された。承天寺通りには、地域住民・地元企業・行政が一体となって取り組んだ博多寺社町のウエルカムゲート「博多千年門」が平成26年に完成。11月に開催される「博多旧市街ライトアップウォーク」の中心的地域で、このイベントは一般社団法人 夜景 観光コンベンション・ビューローの「日本夜景遺産」に認定された。「博多区の各校区・地区データ集(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/community/life/kakukunokoukude-tasyuu/hakata.html)」より引用。
*13 「準備に参加するのは全部で150人程度。地域外に居住する人も含めた山笠関連、協賛の地場企業や近隣の学校にご協力いただいている。会場となる旧御供所小学校校庭が平坦でなかなか高所から見られないので、デザインには工夫が必要。昨年の地上絵は迷路状にし、チェックポイントに書いてある数字の合計を受付で回答すると先着で景品を配布するイベントを行った。地上絵に使う灯明は4000程度。地区全体だと9000ぐらい。寺社付近を中心に、境内や道沿いにも置いている。(御供所地区の灯明の特徴をたずねる筆者の問いに対し)昔ながらの紙巻き灯明。寺社町ならではの景観を活かしている。」(2025年1月18日 御供所まち協会長 矢野俊幸氏インタビューより)
*14 博多小学校統合前の旧大浜校区。北側は博多港国際ターミナルやマリンメッセ福岡のある海の玄関口・中央ふ頭、近隣には福岡国際会議場などがある。「大浜流灌頂(おおはまながれかんじょう)」など博多の伝統文化が息づく下町の風情が残る土地柄である一方、マンションも建ち並んでいる。また、市立特別支援学校博多高等学園や多くの専門学校があり、約4千人の学生が通う学園のまちでもある。災害や疫病で亡くなった人々を供養する「大浜流灌頂」は8月24~26日に開催され、地域内外からの多くの人出で賑わう。「博多区の各校区・地区データ集(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/community/life/kakukunokoukude-tasyuu/hakata.html)」より引用。
*15 「準備に参加するのは、地域の専門学校の学生とまち協の約50~100人。地上絵のデザインは、子どもたちに博多の歴史に触れてもらえるように地域の歴史や伝承をもとにしたものや、立体的な灯明など子どもたちが喜ぶようなものを目指して、灯明師と話し合って決めている。高台から見下ろせるような所がない平面的な会場なので、見せ方を工夫したい。今年度は比較的見えやすいビューポイントと地上絵の図案イラストを会場内に設置する予定だった。大浜地区はベッドタウンで夜になると暗くなることを活かして、花火のような非日常感をもっと打ち出したい。でも、たとえ「今年はきれいにできた」と思っても、もっときれいに見せたい、もっと喜んでほしい、というのは永遠の課題。地元の住民と観光客、どちらにも喜んでもらえるようなものを作っていきたい。」(2025年1月18日 大浜まち協会長 春山大輔氏 電話インタビューより)
*16 博多小学校統合前の旧冷泉校区。博多祇園山笠の各流に代表される伝統的な博多の情緒が息づく地域で、博多総鎮守と称される櫛田神社や、博多町家ふるさと館がある一方、西日本最大の歓楽街である中洲や、繁華街の川端商店街があり、住民の他に事業所世帯も含めたコミュニティを形成している。また冷泉公園や那珂川沿いの清流公園では、オクトーバーフェストやジャズ・フェスティバルなど様々なイベントが開催されている。「博多区の各校区・地区データ集(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/community/life/kakukunokoukude-tasyuu/hakata.html)」より引用。
*17 「準備や片付けに参加するのは、のべ人数でおよそ100人。まち協のメンバーを中心に、地域の住民、育成会の方など、毎年だいたい同じメンバーが参加している。作業に慣れている人ばかりだし、人員が足りなかったら地域の住民に声をかけて手伝いを頼むので、今のところ不足は感じていない。今は夏休みに公民館講座として年に一回ワークショップを開催している。以前は博多小2年生の生徒に対し灯明学習(冷泉が発祥であるしずく型灯明の作成)をやっていて、授業の手伝いに行っていたが、現在は灯明師が行っている。灯明師とのデザイン決めなどのやり取りはまち協で、おくんちや櫛田神社の千灯明の際も灯明師に関わってもらっている。」(2024年11月18日 冷泉公民館 松本主事、加藤氏インタビューより)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より一部引用。
*18 博多小学校統合前の旧奈良屋校区で、博多小学校は奈良屋小学校跡地に建設された。北側は博多ふ頭ターミナルやベイサイドプレイス博多がある海の玄関口・博多ふ頭で、近隣には福岡国際センターや福岡サンパレスなどがある。明治通り沿いには博多座や博多リバレイン、福岡アジア美術館などがある。太閤町割の名残を残す規則正しい区画が今に生き、古くから問屋街等商業も繁栄し、博多校区人口の4割を占めている。7月15日早朝の博多祇園山笠「追い山」の廻り止め(ゴール)は奈良屋地区にある。「博多区の各校区・地区データ集(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/community/life/kakukunokoukude-tasyuu/hakata.html)」より引用。
*19 「以前は2年生全員に声をかけていたが、2024年度から3年生の子ども・保護者の希望者にイベント当日の「地域の灯明づくりの手伝い」を呼びかけ、「親子・地域ふれあい」に重点を置き、保護者・子どもたち・地域が一体となって博多のまちを盛り上げる方向にシフトした。灯明袋は事前にイラストを印刷し、3年生全員に授業で塗り絵をしてもらった。奈良屋地区の博多灯明ウォッチングは、奈良屋まち協が主催する地域のイベント。以前は小学校が主体だったため教職員が灯明づくりの指導にあたっていたが、「親子・地域ふれあい」にすることで、保護者と子どもと地域が一緒に灯明づくりができるように、小学生主体から地域主体に運用体制をスライドしているところ。博多小学校校庭が地上絵の会場である奈良屋地区では、体育館の2階デッキから地上絵を見ることができる。」(2024年11月25日 博多小学校 藤本教諭インタビューより)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より一部引用。
*20 「太閤町割」に端を発した博多の町の区画分けの単位で、十数カ町によって構成された自治組織。この「流」が博多祇園山笠のグループ単位の発祥となり、現在も「七流(しちながれ)」と呼ばれる大黒流 ・東流・中洲流・西流・千代流・恵比須流・土居流に受け継がれている。 山笠ナビ 流の紹介より https://www.hakata-yamakasa.net/yamakasamap/ (2024年11月25日閲覧)※筆者演習2レポート「「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」の註より引用。
*21 「奈良屋地区は、山笠でいうと西流、大黒流、土居流の三つの流がある。博多灯明は山笠では交わらない人たちが集まるいい機会。地上絵が完成した夜の風景もいいが、人と人がつながって灯明がつながっていくのがいいなあと思う。」(2024年11月25日 博多小学校 藤本教諭インタビューより)
「山笠など博多で実施される行事は、住民にとってはすべて財産。大浜地区には東流と恵比須流があるが、「流」単位で行う山笠よりも大きな括りで一緒になってやる博多灯明は、流同士の交流ができる。近隣の学生や子どもたちとの交流の時間を持てるという意味でも大きな役割を果たしている。」(2025年1月18日 大浜まち協会長 春山大輔氏 電話インタビューより)
*22 国営海の中道海浜公園で開催される冬のうみなかの風物詩。国営海の中道海浜公園で開催される冬のうみなかの風物詩。2024年は、12月14日・15日・21 日(荒天のため中止)・22 日・25 日に開催された。開催時間は17時30分~20時45分。「野外劇場」とよばれる広大な芝生スペースが地上絵の会場で、縦横100メートルにもおよぶ巨大な地上絵が最大の見どころ。2024年は「光の万華鏡〜みんなのハッピークリスマス〜」をテーマに募集した地上絵のデザインの中から最優秀賞に輝いた作品を1万本のキャンドルで描いた。筆者は、会期初日の12月14日にボランティアとして灯明づくりに参加したが、慣れない作業だったことを差し引いても身体への負担は大きく、博多部の住民の苦労を理解する一助となる貴重な機会となった。会場には高所作業車からの映像を生中継するモニターが設置されており、すり鉢状の野外劇場に広がる地上絵の全体像を見ることができる。地上絵のほかにも、ライトアップやイルミネーションが園内随所にほどこされ、紙袋にメッセージを書いて指定エリアに灯明を飾ることができる「メッセージキャンドル」というイベント(先着300人、参加費は200円)も行われるなど、来場者を楽しませるためにさまざまな工夫がされている。様々な技法やデザインを駆使したキャンドルアート作品や全国で開催されているキャンドルナイトを表彰する日本最大級のキャンドルアート・コンテスト「JAPAN CANDLE ARTIST AWARD2024」で、「1か所でのキャンドル数としては西日本で最大」、「キャンドルボランティアや地上絵デザイン募集などにおける市民参加」、「2007年より17年間継続して開催」といった点で高い評価を受け、キャンドルナイト部門でグランプリに選出された。所在地は福岡市東区西戸崎18-25。
*23 「後継者不足はやはりある。まち協は人員の入れ替わりが少なく、入ってくる人も少ない。御供所は単身世帯が多いが、単身者が御供所に来てまちづくりに関わるようになった例は聞いたことがない。ポスティングやポスター掲示などでイベントを宣伝して若い人をもっと巻き込みたいが、まち協が人員不足でなかなか手が回らず、積極的な策が出せないのが現状。」(2025年1月18日 御供所まちづくり協議会会長 矢野俊幸氏インタビューより)
「後継者不足はもちろんある。生産人口的な部分でいえば、正直機能不全に陥っている。ただ、単身者に関して言えば灯明を知らない若い世代が一定数いる。地域にいる学生たちにも意見をもらいつつ、コミュニティを広げていきたい。」(2025年1月18日 大浜まちづくり協議会会長 春山大輔氏 電話インタビューより)
「後継者不足はもちろんある。灯明に限らず、山笠も松囃子も同じ状況。できることを自分たちでやるだけ。」(2024年11月25日 博多小学校 藤本教諭インタビューより)
「今のところは問題ないが、冷泉は子どもが少ないので、やはり後継者不足は今後の一番の課題。博多区は20代の単身の住民が多いうえに転居による入れ替わりが激しく、ファミリー世帯向けのマンションもなかなか作られない。」(2024年11月24日 冷泉公民館インタビューより)
*24「博多の人口は流動的。子どもたちも就職や進学で博多を出て行ってしまう。その不足を、山笠で培われた横と縦の関係に頼っている。」(2024年11月24日 冷泉公民館インタビューより)
*25 2025年1月29日 NPO法人九州コミュニティ研究所・灯明師 尾方孝弘氏 メールインタビューより。

【参考文献】
・博多灯明25周年記念誌冊子『博多灯明100万灯へのあゆみ』 博多灯明ウォッチング記念誌発行委員会・博多部まちづくり協議会・御供所まちづくり協議会・大浜まちづくり協議・奈良屋まちづくり協議会・冷泉まちづくり協議会発行、尾方孝弘監修、2017年。
・『博多のまちづくり 市民研究員研究報告書 平成17年度 -聖福寺・御供所・博多駅周辺-』2006年3月発行、財団法人福岡アジア都市研究所編。
・野村朋弘編『伝統を読みなおす5 人と文化をつなぐもの―コミュニティ・旅・学びの歴史』、藝術学舎、2014年
・早川克美著『デザインへのまなざし―豊かに生きるための思考術』、藝術学舎、2014年
・博多灯明ウォッチング公式HP https://hakata-toumyou.com/ 2024年11月25日閲覧
・まなびアイふくおか 福岡市学習情報提供システム「公民館を探す」 https://gakushu.city.fukuoka.lg.jp/center より「御供所公民館」https://gakushu.city.fukuoka.lg.jp/center/detail/9a1a7040-3fdc-4d5e-94b0-deb1ecc0e444 、 「大浜公民館」 https://gakushu.city.fukuoka.lg.jp/center/detail/41db745e-86f6-468d-b596-97b62329410b 、 「冷泉公民館」https://gakushu.city.fukuoka.lg.jp/center/detail/bb91098a-3f8c-4b05-b4c2-f7896c736cf9 、 「奈良屋公民館」https://gakushu.city.fukuoka.lg.jp/center/detail/e6a5c24c-6588-421b-ac6e-c48759f069f0  2024年11月27日閲覧
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・山笠ナビ「流の紹介・山小屋マップ」 https://www.hakata-yamakasa.net/yamakasamap/ 2024年11月25日閲覧
・御供所.info  https://www.gokusho.info/ 2024年11月27日閲覧
・博多秋博HP https://hakata-akihaku.com/ 2024年11月27日閲覧
・博多リバレイン https://www.riverain.co.jp/ 2025年1月29日閲覧
・福岡アジア美術館 https://faam.city.fukuoka.lg.jp/ 2025年1月29日閲覧
・福岡アジア美術館 博多リバレイン灯明 https://faam.city.fukuoka.lg.jp/event/22237/ 2025年1月29日閲覧
・Map-It マップイット | 地図素材サイト「福岡県福岡市博多区の地図」 https://map-it.azurewebsites.net/Map/%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E7%9C%8C__%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E5%B8%82_%E5%8D%9A%E5%A4%9A%E5%8C%BA/highlight 2024年11月6日閲覧
・みんなの行政地図「博多区(福岡県福岡市) https://minchizu.jp/fukuoka/f-hakata.html#google_vignette 2024年11月6日閲覧
・迎佳美『「博多灯明ウォッチング」――博多っ子が未来へとつなぐ伝統の灯り」』京都芸術大学芸術教養演習2レポート、2024年度秋期

【調査協力】
・御供所まちづくり協議会会長 矢野俊幸氏
・大浜まちづくり協議会会長 春山大輔氏
・冷泉公民館 主事 松本教子氏
・冷泉公民館 補助職員 加藤利恵子氏
・福岡市立博多小学校 主幹教諭 藤本英樹氏
・NPO法人九州コミュニティ研究所・灯明師 尾方孝弘氏
・国営海の中道海浜公園 海の中道管理センター 市民交流係 室山遥介氏
・博多 への字 店主 野田敏夫氏

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