東京ディズニーシー・ホテルミラコスタを中心としたポルトパラディーゾにみるテーマパークとして表現されたイタリア文化
課題にあたり、パークの入口に当たる「ポルト・パラディーゾ」に焦点を当て、建造物のメインとなる「東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ」を中心に文化資産評価報告を以下に述べる。
1基礎データと歴史的背景
1−1.基本データ
施設概要
①東京ディズニーシー
所在地 千葉県浦安市舞浜
開業日 2001年9月4日
面積 49.0 ha(テーマパークエリア)
施設数 アトラクション:35
商品施設:37
飲食施設:41
(2023年3月31日現在)
総事業費 約3,350億円 (東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ建設費を含む)
②東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ
所在地 千葉県浦安市舞浜1-13(東京ディズニーシー・パーク内)
開業日 2001年9月4日
構造 地上5階(1階部分はパークと共用)
延床面積 約46,000m²
客室数 502室
宴会場 5室(大宴会場 1、中小宴会場 4)
料飲施設 4施設(レストラン2、ロビーラウンジ1、プールバー1)
諸施設 チャペル等婚礼施設、ディズニーショップほか
総事業費 東京ディズニーシーの総事業費(約3,350億)に含む
1−2.歴史的背景
東京ディズニーシーは、世界に数あるディズニーのテーマパークの中で唯一「Sea(海)」をコンセプトにした新たなテーマパークとして2001年9月にオープンした。事例のホテルミラコスタも同時にオープンした。東京ディズニーシーのキャッチコピーは『冒険とイマジネーションの海へ』である。海にまつわる物語、伝説をベースに ①メディテレーニアンハーバー(ロマンティックな南ヨーロッパの港町)、②アメリカンウォーターフロント(ノスタルジーあふれるニューヨークとケープコッド)、③ポートディスカバリー(時空を超えた未来のマリーナ)、④ロストリバーデルタ(中央アメリカの失われた古代文明)、⑤アラビアンコースト(魔法と神秘に包まれたアラビアンナイトの世界)、⑥マーメイドラグーン(人魚姫アリエルと仲間たちのゆかいな海底王国)、⑦ミステリアスアイランド(天才科学者ネモ船長の驚異に満ちた秘密基地)、以上7つのテーマポートから構成される。
本事例のポルトパラディーゾは東京ディズニーシーのメインとなる①メディテレーニアンハーバーの大部分を占めるエリアである。
2.積極的に評価する点
2−1背景設定。
事例について積極的に評価するにあたり、テーマパークの定義は総務省、経済産業省の「2020 年経済構造実態調査報告書 公園,遊園地・テーマパーク」によると
『入場料をとり、特定の非日常的なテーマのもとに施設全体の環境づくりを行い、 テーマに関連する常設かつ有料のアトラクション施設を有し、パレードやイベントなどを組み込んで、空間全体を演出する事業所』(総務省経済産業省2021年より引用)
となっている。 この特定の非日常的なテーマとして、実際の南ヨーロッパの歴史をもとに、実際に歴史上あったかのような物語を設定し、これに従って3つのエリアを構成・構築している。 3つのエリアの総称をメディテレニアンハーバーと呼び、東京ディズニーシーの玄関口として存在する。ここでの物語は「大航海時代の要塞(エクスプローラーズ・ランディング)」「美しく眺めの良い漁村(ポルト・パラディーゾ)」「ロマンティックな運河のある魅力的な街並み(パラッツォ・カナル )」という3つのエリアで構成され、これに合わせてホテルミラコスタが建てられている。メディテレーニアンハーバーには次に挙げるストーリー(歴史)が設定されている。
16世紀初頭、この港は古代ローマ時代の遺跡周辺に築かれた、小さくひなびた漁村にすぎませんでした。ただ一つ、ほかと違っていたのは対岸に見える壮麗な要塞です。これはスペイン国王カルロス1世の避寒用施設として使われていた砦。そしてカルロス1世の統治期の終盤に、船乗りや科学者、技術者、芸術家のグループで構成される国際的な学会S.E.A.(Society of Explorers and Adventures)に譲渡され、世界中の探検家や冒険家たちが、この地へやってくるようになりました。この要塞に頻繁に足を運んだのが、港の裕福な地主、サンビーニ家の人々です。探検家ではありませんでしたが、S.E.A.の知識や業績に感銘を受け、今後の発展に寄与できるよう、高台に自分たちの別荘を建てました。その後、ホテルや店、レストラン、ワイナリーなどの事業を始め、300年以上にわたって、発展していきました。そして、近代的な世の中になっても、スペイン国王からS.E.A.に譲渡されたことから始まったこの歴史ある要塞に守られた港町の魅力を保っているのです。
(「海の絵本」 講談社出版 2006年 より引用)
2−2.建物の特徴
各建築物はそのエリアに応じた特徴を有しており、「大航海時代の要塞」に関してはカルロス1世が作ったとされ、ルネサンス様式の荘厳な建築様式を反映している。この一方でイスラーム風のモスクや宮殿のような部分が見られるのは、イベリア半島が15世紀以前にイスラーム王朝の支配下にあったことを反映しているとおもわれる。
「美しく眺めの良い漁村」は、メディテレーニアンハーバーの大部分を占めている。このエリアはイタリアの高級リゾート地「ポルトフィーノ」をモデルにして作られたと言われている。港の発展を築いた大地主ザンビーニ家のブドウ畑・オリーブ畑を起点に、東方向にレストラン・店舗・ホテルが増築を繰り返して発展していった形になっている。一番東に位置するのが「ホテルミラコスタ」であり、フィレンツェ風の一番豪華な装飾が違和感なく施され、1階がパーク、2階から5階がホテルとなって、ホテルミラコスタ=ポルトパラディーゾと見なすことができる。
本物の窓に紛れて、壁面に描かれているだまし絵の窓はトロンプ・ルイユと言うヨーロッパの芸術である。これはイタリアから職人を呼んで描いて本当のイタリアを再現している。これこそがポルトパラディーゾが持つ魅力である。
「ロマンティックな運河のある魅力的な街並み」に関しては、ベネチアをモデルに運河と建物が作られている。ベネチアの建築様式を忠実に反映しており、運河にはゴンドラが行き交い、更には洪水の跡といった災害の歴史までもが壁に刻まれている。
3.その他の同様の事例と比較・特筆される点
3−1.ハウステンボスとの比較
ハウステンボスは園内に5つのホテルを持つ、テーマ・パークである。園内ホテルを含め、オランダの町並みを忠実に再現している点ではハウステンボスのほうがより精巧な再現と思える。しかしハウステンボスにはテーマ・パークとしての「物語」はなく、訪れた者が感じる「イマジネーションの世界」はディズニーシーのホテルやパークには遥かに及ばない。
3−2 特筆される点
ホテルミラコスタは単なるホテルではなく宿泊するゲストをおもてなしする様々な工夫がある。外観はパーク同様に玄関はフィレンツェ、パーク側はトスカーナとフィレンツェ、そしてベネチアが体験できる様になっている。宴会場に当たる外観はパルテノン宮殿を彷彿させる。
客室からの景色もベネチア側は運河を進むゴンドラが見えたり、ゴンドリエの歌声がときおり響く。トスカーナ側は素朴な茶色の屋根瓦の連なりが目に入り、ポルトパラディーゾ側はパーク内のショーが見えるといったように部屋に居てもパークとの連続性が感じられる。古きイタリアを意識したデザインには無機質なところがなく、ホテル滞在中もパーク同様の心地にいざない五感を刺激し、パークとの相乗効果でイタリアを旅している感覚に導く。陶器製の洗面台蛇口ノブや、鏡など丸みおびた装飾は見た目だけではなく、遊び疲れた体にも安らぎを与えてくれる。
視覚だけでなく、館内に漂う香りも非常に心を和ませる。バンケットに飾られた大きな生花は香りと色彩の両面から安らぎを与え、ホテルの素晴らしさを印象付ける。
4.今後の展望について
日本においてイタリアを忠実に再現しているが、テーマ・パークという商業施設ゆえに様々な見直しが行われている。ホテルで飾られている花が造花から生花に変更されるといったホスピタリティの向上は常に行われている一方で、ホテルのエレベータホールにあったポプリが撤去されたりしている。パークにおいても本場を目指して設けられていたものがいくつか廃止されている。例えばジェラートの店がメニューを絞ったコーヒーの店になったり、時折パークで見られた「大道芸」の廃止等が挙げられる。新しく作られる物は「歴史」に沿って建設されるが、商品や飲食物などが日本化されて開園時の魅力喪失が懸念される。
5.まとめ
本場イタリアを設定して現実化したのが「ポルトパラディーゾ」であり、その中心に「ホテルミラコスタ」がある。これらの建物にはイタリアの建築様式が正確に再現され、彫刻や絵画といった装飾品によってテーマーパークにとどまらない文化的な価値を築いている。数多くの拘りがあることが本研究で実感できた。「ポルトパラディーゾ」を対象として文化資産評価を行ったが、東京ディズニーシー全体が世界各地の文化・芸術を忠実に再現しており、芸術研究の場としても十分価値があるものと評価する。
参考文献
「2020 年経済構造実態調査報告書 公園,遊園地・テーマパーク」総務省経済産業省 2021年
「海の絵本」 講談社出版 2006年
「東京ディズニーシー完全ガイド(第3版)」講談社 2006年
「ディズニーリゾート物語 第1号」講談社 2002年9月4日
「ディズニーリゾート物語 第4号」講談社 2002年10月15日
「ディズニーリゾート物語 第13号」講談社 2003年3月15日
「メディテレーニアンハーバー」フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)
「週刊東洋経済 ディズニーを最高に楽しむ、ホテルの使い方」 東洋経済新報社 2014年4月21日
「週刊東洋経済 世界唯一、ディズニー「内」ホテルの秘密」 東洋経済新報社 2014年4月14日