国史跡・福岡城址(舞鶴公園) ~郷土愛育む巨城再建と課題~

二村 豊之

1.はじめに
現代において城とは地域の郷土愛と歴史のシンボルであり、また石垣、瓦、櫓、堀を含めて日本古来の技術の粋を集めた総合造形芸術であるともいえる。国内外多くの人々が、そこに魅力を感じて足を運ぶ。にもかかわらず福岡城を第一の目的として訪れる観光客は多いとはいえず、商人町「博多」の印象が強い為に、城の存在自体を知らない人もいる。城を活用したPRがかつて弱く、天守閣が建っていないことも一因である。近年、城址活用の為、PRと整備計画(図1)が進行している。
福岡の郷土愛を育む巨城再建と課題について、以下に添付資料を交えて考察し報告する。

2-1.基本データ(図2、図2-1)
所在地:福岡県福岡市中央区城内1−4
面 積:約48ha(参考・旧福岡城 内郭約41ha、外郭約246ha)
運営者:福岡市
設 備:博物館等(福岡城むかし探訪館・三の丸スクエア・鴻臚館跡展示館)、
歴史的建造物、陸上競技場、球技場、芝生広場、花園

2-2.歴史的背景
九州最大都市「福岡」の地名の起源となった福岡城址を中心とする公園が舞鶴公園である。別名「舞鶴城」とも呼ばれ、鶴が両翼を広げたように海側から見えたことに因む。関ヶ原で戦功を得た黒田長政が、筑前名島50万石に封じられ(後52万石)たが、名島城下が手狭であり、漁村であった福崎を改称し、先祖故地である備前国邑久郡「福岡」の地名を付け築城したことに由来する。福岡城は江戸時代には日本三名城の熊本城を凌ぐ九州一の巨城であり(図3)、47の櫓と外部からの3つの城門、大中小の天守台(図4)と本丸、二の丸、三の丸の4区画から成る縄張り(郭)を擁し、城東の商人町「博多」と共に黒田藩の政治経済の拠点として大いに栄えた。

明治に大部分の建物は解体や払下げされ、一部は寺や旧藩主の居館に移築された。第二次大戦終戦まで陸軍施設として利用されたが、その後公園として歴史文化財の保存・活用が計画的に進められており、日本城郭研究会選定100名城の85番としても数えられている。また旧外堀を活用して隣接地に大濠公園(図5 /全体39.8ha、池22.6ha)が整備され、美術館や広大な池を中心に文化・景観を活かし憩いの場となっている。

3.積極的評価点
〈歴史等〉
A1.保存状況
福岡城は築城時のままの縄張り(郭)と石垣が現在までほぼ完全に残っており(図6)、天下普請ではない一大名の城として全国的にも破格の規模で現存している点を大きく評価する(国史跡指定)。改易がなく黒田氏の支配が続いた、大きな天災・戦災に遭っていない、築城の名手である黒田官兵衛が縄張りに助言したこともほぼ変更がない要因と考えられる。

A2.心の拠りどころ
福岡城址 (舞鶴公園)は市民生活の中心として、平和台球場(現在廃止)、平和台陸上競技場(図7)、裁判所(現在移転)などが設置・活用されてきたが、城自体の価値が見直され、順次移転と再整備が進められている。戦後通じて櫓や門、石垣、堀を含めて城址全体が地域の人々の心の中心であった(図8)ことを評価する。

A3.未来への整備
広くふるさと納税等を活用した潮見櫓等の移築再建(図9)、石垣の修理他の再整備計画(入場見学できる案内所として福岡城むかし探訪館(図10)、城内の廃校を利用した三の丸スクエア(図11)は開設済)、最新VR技術を使った視覚再現(図12)など、限られた予算を最大限活用した歴史的保存・再現計画は評価できる。

〈景観〉
B1.美と技術の粋=石垣
特筆すべきは石積みの美しさ(図13)と規模である。特に大中小の天守台は礎石を含めて圧巻である。当時の築城技術の粋を集めた高石垣は、土木技術、美的感覚を示しており、訪れる人々を今なお感心させる。また統治者黒田氏の権力の大きさと、小高い丘である地形を巧みに活かした縄張りは軍事的な知略と攻城を諦めさせる視覚効果を今に伝えており大いに評価できる。

B2.歴史的人工物と自然の調和
景観のシンボルに成り得る櫓等は最大47あったが、現在、南丸多聞櫓(図14)、伝潮見櫓と下之橋御門(図15)、祈念櫓(図16)と旧母里太兵衛邸長屋門(図17)、名島門(図18)と数えるだけになっている。しかし隣接の大濠公園を含め、堀や池、石垣と歴史的建造物、梅・桜や菖蒲、牡丹など、多くの木々や草花に囲まれ、景観や自然を感じながらの散歩コースは複数ルートでモデルコースも設定されており、身近に感じる活用法は評価できる。

B3.中心となる景観を作る
福岡城には景観の中心となる天守閣や御殿、三層櫓等がなく、規模の割に熊本城のような観光の中心とは成り得ていない。その為、市民の有志の間で模擬天守閣を木造で建てたいという意見がでており、経済に活用したい地元経済界の一部も賛同している。これを踏まえ2017年8月11日~12日にFukuokaにぎわいプロジェクト「福岡城夏祭り2017」でパネル張りの一夜城(図19)が現れ、機運を盛上げると共に景観を一変させた出来事があった。文化財保護と歴史の真実、観光活用という面で賛否の議論が交わされているが、資料豊富で規模の大きな武具櫓を再建することで、天守の代わりのシンボルとする福岡市の方針が評価される。

4.他事例と比較した特筆点
比較対象として県内を事例とした場合、小倉城(観光型模擬天守)・秋月城(城下町活用型)・久留米城(石垣・資料館のみ)・柳河城(御殿・城下町活用型)などが挙げられる。また北部九州で天守・御殿等再建事例として熊本城・佐賀城、観光型模擬天守事例として中津城(大分)・平戸城(長崎)・唐津城(佐賀)、VR技術活用事例として府内城(大分)などがある(図20-1)。比較するどの城においても文化財の観光活用、地域のシンボルという点では一致しているが、観光用模擬天守であっても経済効果は大きいことがわかる(図20-2)。現在天守を含む建築物は資料に基づく忠実な再現が求められる反面、建築基準法・消防法、障碍者・高齢者への配慮も求められ、また再建・維持管理費用の捻出問題もある。

福岡城址 (舞鶴公園)の特筆点は、利点として築城時の規模の大きさ、ほぼ完全に残っている郭(地形を巧みに利用、石垣の美しさ=技術、視覚効果)、大都市の予算として費用捻出が他都市より比較的容易であること。問題点として国指定史跡の為、大胆な再建が難しく(文化財保護法)、他城のような観光型天守再建が難しいこと。武将としての黒田氏PRが不十分、周囲の武家屋敷、政務を執った御殿や櫓等、入場型の観光資源、宿泊・飲食施設の脆弱さ等が考えられる。

5.今後の展望(a,bは図21-1.2.3参照、cは添付資料に著者がまとめた)
a.福岡城址(舞鶴公園)と大濠公園を併せて再整備する福岡セントラルパーク構想の現実化
b.移築だけでなく、武具櫓、本丸御殿等建造物の復元による市民や観光客、インバウンド需要活性化
c.期待される天守閣の再建についての是非

6.まとめ
市民憩いの場の役割だけであれば現状で十分であるが、歴史的遺産の活用としては十分ではない。規模や立地という強みがありながら、毎年福岡の観光施設ベスト10圏外に低迷している(資22-1.2)理由を再考すべきである。デザイン思考的計画である福岡城跡整備基本計画から既に10年が経過し、2028年までの計画から大幅な遅れが出ている。2018年迄に完了予定の潮見櫓は移築さえ進んでおらず、2028年迄に再建計画がある武具櫓(図23)は見通しも立たない。これは市民の募金や地元企業の寄付が、必要性の問題、税の優先順位の問題で低迷しているからである。機運を盛上げるには、櫓より先に本丸御殿の整備や、観光型木造天守閣の建設を問う住民投票の実施、結果を踏まえた文化庁との規制緩和交渉など、地元官民一体となった取組みが必要と思われる。

固定化した問題の解決には、民間の知恵を広く募り「アート思考」で見直すべき時にきているように考える。私案であるが、内部に武道・茶道・香・生け花等インバウンド向け日本文化の体験できる(図24)ような「武家屋敷風エリア」を城内の一角(移転や立退きが進み空き地になった区域)に設けたり、国史跡の為、天守台へ天守再建自体が困難であれば、県内の岩石城((図25/田川郡添田町)のような天守型資料館(又はここを平戸城のような観光客の宿泊施設にしたり、文化体験館とするテーマパーク構想等)を先の城内の一角に立て、天守台はそのまま保存する手法なども考え、歴史を護りながらも未来を切り拓く案を提示したい。

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  • 修正版20230825卒業研究図表1-2_page-0002 卒業研究図表1-2.pdf
  • 修正版20230921卒業研究図表3-4_page-0001
  • 修正版20230921卒業研究図表3-4_page-0002 卒業研究図表3-4.pdf
  • 5-6_page-0001
  • 5-6_page-0002 卒業研究図表5-6.pdf
  • 7-8_page-0001
  • 7-8_page-0002 卒業研究図表7-8.pdf
  • 修正版20230825卒業研究図表9-10_page-0001
  • 修正版20230825卒業研究図表9-10_page-0002 卒業研究図表9-10.pdf

参考文献

【参考文献】
・早川克美著『デザインへのまなざし 豊かに生きるための思考術』、藝術学舎/幻冬舎、2014年 P72-79
・川添善行著、早川克美編『空間にこめられた意思をたどる』、藝術学舎/幻冬舎、2014年 P13、P138-147
・後藤光秀著『福岡歴史百景』葦書房、1994年 P96
・福岡県編集『福岡県文化百選 作品と風土編』西日本新聞社、1995年 P44、P62.P132.P170.P158、P176
・福岡県教育委員会監修『ふくおか歴史彩発見文化財ガイドブック』福岡県、2006年 P11
・佐藤正彦著『福岡城天守を復原する』、石風社、2011年 P35-48 ※1
・佐藤正彦著『甦れ!幻の福岡城天守閣』、河出書房新社、2001年 P83-105
・福岡地方史研究会編『福岡市歴史散策』、海鳥社、2005年 P20-23、P64-67
・中井 均監修『黒田官兵衛をめぐる65の城』、辰巳出版、2013年 P72、P83-86、P99、P102-105
・内藤 昌著『城なんでも入門』小学館、1980年 P68-89、P158-160、P162-165
・ (公財)日本城郭協会監修『日本100名城公式ガイドブック』、学研プラス、2007年・2017年 P128、P132-135、P137
・(公財)日本城郭協会監修『日本100名城に行こう』、学研プラス、2012年 P88、P92-95
、P97
・双葉社監修『日本の名城写真図鑑103』双葉社、2017年 P86-87、P44、P89-91、P93-95
・福岡市情報プラザ『季刊誌“i”Spring 2023.4.5』福岡市、2023年 P2-3

【他参考資料】
・福岡市経済観光文化局史跡整備活用課『福岡みんなの城基金』、福岡市パンフレット
・福岡市財政局財産有効活用部財産活用課『福岡市ふるさと納税』、福岡市パンフレット
・福岡市経済観光文化局観光コンベンション部『福岡城の見どころ/楽しみ方』パンフレット
・福岡市経済観光文化局『大濠公園・舞鶴公園ガイドマップ』福岡市パンフレット
・福岡市経済観光文化局『福岡市文化財マップ』福岡市パンフレット
・福岡城むかし探訪館『福岡城』福岡市パンフレット
・福岡城・鴻臚館案内処『三の丸スクエア』パンフレット
・NPO法人福岡城市民の会『福岡城・城下町フォトコンテスト』パンフレット
・公財・福岡観光コンベンションビューロー『2022-2023福岡観光ガイドブック』パンフレット

【参照WEBページ】
・福岡城公式サイト(福岡市)
 https://fukuokajyo.com/ 2023/7/21最終閲覧
・国史跡福岡城跡整備基本計画(福岡市 経済観光文化局 文化財活用部 史跡整備活用課)
 https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/ds-suishin/shisei/fukuokajokihonkeikaku.html 2023/7/21最終閲覧
・国史跡鴻臚館跡整備基本計画(福岡市 経済観光文化局 文化財活用部 史跡整備活用課)
 https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/ds-suishin/shisei/kourokankihonkeikaku.html 2023/7/21最終閲覧
・福岡城 武具櫓跡 の調査(福岡市)
 https://bunkazai.city.fukuoka.lg.jp/files/NewsParagraph79fileja.pdf 2023/7/21最終閲覧
・福岡市の文化財(福岡市)
 https://bunkazai.city.fukuoka.lg.jp/ 2023/7/21最終閲覧
・福岡市公式シティガイド『YOKA NAVI』(福岡市)
 https://yokanavi.com/ 2023/7/21最終閲覧
・和文化体験『福岡城 舞遊の館』
 http://www.myyounoyakata.com/ 2023/7/21最終閲覧
・公財・福岡観光コンベンションビューロー
 https://www.welcome-fukuoka.or.jp/ 2023/7/21最終閲覧
・福岡セントラルパーク構想(福岡市)
 https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/44690/1/01.gaiyouban.pdf?20170501170739 2023/7/21最終閲覧
・本丸御殿等建造物の復元計画図(福岡市)
 https://www.city.fukuoka.lg.jp/promotion/kanbei/fukuoka_castle.html 2023/7/21最終閲覧
・文化財行政の現代的な課題」平成24年7月号(No.526)/史跡の現地保存,凍結保存,及び復元について(文化庁)
 https://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2012_07/series_15/series_15.html 2023/7/21最終閲覧 
・福岡市観光統計(福岡市)
 https://www.city.fukuoka.lg.jp/shisei/toukei/kankoutoukei.html 2023/7/21最終閲覧
・福岡市の観光・MICE 2023年版(福岡市観光統計)
 https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/110090/1/kankoutoukei2023.pdf?20230526150122 2023/7/21最終閲覧
・舞鶴公園・大濠公園 管理運営の現況(福岡市)
 http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/68922/1/03.centralpark-kihonkeikaku-siryouhen05.pdf?20190610110342  2023/7/21最終閲覧
・小倉城半世紀ぶりに入場者数20万人越え/朝日新聞2020.3.7付記事
 https://www.asahi.com/articles/ASN3674K2N36TIPE00M.html 2023/7/21最終閲覧

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