伝統工芸士の伝統×デジタルとの関わり方

小川 清誠

1. はじめに
京都は、日本の伝統工芸にとって重要な場所だ。京都は古くから織物や漆、技法などの技術を磨いてきた地域であり、その美しい伝統工芸は世界的にも知られている。
しかし、生活様式や価値観の変化により、産業そのものが停滞している。
そんな中、京都御所の近くにある土御門仏所(写真1)(WEB1)の三浦さんは、伝統工芸をもっと身近なものにしようとデジタルなどの活用に取り組んでいる。
こうした彼の取り組みを紹介するとともに、伝統工芸産業の現在の問題点と今後の課題・展望について考察する。

2. 基本データ
土御門仏所
所在地:京都市上京区上長者町通西洞院東入ル土御門町311
三浦耀山 氏
1973年埼玉県生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。
大学卒業後、一度はサラリーマンになるが、仏像好きから25歳で滋賀県大津市の大仏師渡邊勢山師のもとに弟子入りをし、13年間にわたり仏師の修行。
2012年に独立。

3. 三浦氏との出逢い
伝統工芸は現代でも重要な役割を担っているが、現在以下のような問題がある(WEB2)
1.日本国内の需要の低迷
2.人材、後継者不足
3.生産基盤(原材料、道具など)の減衰・深刻化
4.生活様式・価値観の変化
5.日本人の工芸に対する関心の低さ
などがあり、その課題を解決するために毎年開かれている「DESIGNWEEKKYOTO」のイベント「クラフトソン2020」(WEB3,4)というアイデアソンに筆者は参加し、新しい伝統工芸の関わり方「週末工芸」をチームビルディングしたメンバーで考えて発表した。
「週末工芸」とはオンラインだけで学び、工芸を作成できるサービスだ。
その間に三浦さんの教室を最終発表に向けてリアルとオンラインで実施、検証した。(写真2,3)
イベント終了後にチームは解散したが、アイデアを実現したいと思い会社を辞めて筆者は株式会社Qrethon(クレソン)を立ち上げた。
アドバイスをもらうなどして、本当に感謝している伝統工芸士の一人だ。
このやりとりに影響されたのか、筆者も仏像のデザインに惹かれたようだ。
筆者のピッチ資料には、一人でも多くの人に知ってもらいたいので必ず三浦さんの写真を入れている。

4. 仏像×IT
三浦さまのお仕事は
新しい仏像の彫刻、古い仏像の修復、仏像彫刻教室の3つの事業を行っている。
仏像彫刻では、木を専門に伝統的な技法を踏襲している。
仏像修復では、平安時代から江戸時代まで、さまざまな時代の仏像を手がけている。
仏像彫刻教室では、自分で仏像を作りたい人に、自分の好きな仏像を彫れるように指導している。
それとは別にいろいろな挑戦を実施しておられる。

・ガチャ仏さま(写真4)
ガチャガチャを回すと出てくる仏像は、身近に感じてもらうための一つの方法だ。
木で彫りしたデータを3Dプリンターで再現し、カプセルに入れることで、三浦さんの作品を手軽に、遊び心を持って手に入れることができる。

・ドローン仏さま(写真5)(WEB5)
「ドローンと仏像の融合」普通にみたらとても奇抜なアイデアであるが、「来迎」(西方極楽浄土から阿弥陀如来が諸菩薩を従え紫雲に乗ってお迎えに来てくれること)を今の技術で表現したのがこのドローン仏さまだ。
宙に浮かす表現は昔からいろいろな手法でされてきた。雲=ドローンという発想は三浦さんらしい発想だ。

・3D仏像データ
古い仏像には設計図がない。
そのため、修理は匠の技で即興的に行うしかなかったのだ。
また、技法を記した書物や図面もないため、昔の技法はわからないのが普通であった。
一度修理したものが戻ってくるのは、数十年後、あるいはそれ以上経ってからである。
三浦さんは、修理品を返却する前にお寺さまの許可を取り、デジタルスキャナーでデータを取り込んでいる。
これにより、技術の伝承と、万が一盗難にあった場合でも、将来的に原型を再現することができるのだ。
また、デジタルデータを3Dプリンターに出力することで、他の用途にも利用できる。

5. 伝統工芸士と伝統工芸士の比較
一般に、伝統工芸の職人には「自分は伝統的なものだから、外のことを知ることは必要ない」という人が多い。
そのため、外部の情報に接することができず、時代の価値観についていけないのだ。
また、デジタル技術への関心はこの業界に限ったことではないが、ITリテラシーに欠ける人が多いのも事実だ。
筆者が面白いと思う職人は、サラリーマンを経て弟子入りした人が多かったり、YouTubeや音声配信アプリなどで思いをアウトプットしていたりする職人たちだ。
また、異業種とのコラボレーションや海外にも目を向けている。
伝統工芸以外のことにも興味を持つからこそ、業界の枠を超えることができる。
それが、問題意識やデジタル化で現在の伝統工芸業界への変化につながっている。
これがこれからの職人の姿ではないか?

6. エフェクチュエーションとイノベーション
三浦さまと話をしていて思いついた言葉がある。
“エフェクチュエーション(書籍1)”と“イノベーション”だ。
エフェクチュエーションとは、消費者ニーズや市場の需要を分析し、新たな市場を創造するために新製品や新サービスを開発する方法についての学問である。これにより、新たな市場を開拓し、経済的利益を生み出すことができる。
エフェクチュエーションは伝統工芸を現代に応用し、新たな市場を開拓するために用いることができる。例えば、伝統工芸の技術をファッションやインテリアなどの新しい分野に応用することができる。また、伝統工芸にイノベーションを取り入れることで、より質の高い製品を生産し、市場の需要に応えることができる。
また、イノベーションとは、新しいアイデアや技術の導入・改良を意味する。イノベーションは、社会・経済の発展に寄与し、新しい産業やビジネスチャンスを生み出す。
伝統工芸とイノベーションは一見相反するように見えるが、実は補完し合うものだ。伝統工芸を残しつつ、新しいアイデアや技術を取り入れることで、伝統工芸を現代に生かし、持続可能なものにすることができるのだ。
三浦さんはこの言葉は知らずとも実践をされていると感じる。

7. 今後の展望について
今、ITはWeb3.0、メタバース、ブロックチェーンなど様々な技術で日進月歩の進化を遂げている。そんな技術をいかに取り組めるかだ。
もちろんこの技術をメインに取り組むのではなく業界の課題を洗い出し適切な技術を解決の手段として取り入れる。
三浦さんもMata社のVRヘッドセットの話をしたら、すぐに買ってくれた。(写真6)
VR空間と仏像は相性がいいからだ。
伝統工芸において、メタバースは新たな可能性を秘めていると考えられている。例えば、作品を3Dグラフィックスで再現し、それをメタバース上に展示することで、より多くの人々にアクセスしてもらうことができる。
また、三浦さんの作品をメタバース上に配置することで、インタラクティブな体験を提供することができ、仏教に対する理解を深めることができる。
さらに、メタバース上での作品の販売や、オンライン上でのワークショップの開催なども可能になり、伝統工芸の普及や振興につながる可能性もある。
私は伝統工芸とDX(Digital Transformation)と活動では論じている。(写真7)
デジタル技術を活用して、伝統工芸の業界を変革することでビジネスプロセスやオペレーションを効率化し、顧客体験を向上させることを目指す。

また「体験以上弟子入り未満」で、この業界に興味を持つ人を増やしたいのだ。
今の子供達はYouTuberにあこがれるのは常に目にするからだ。
伝統工芸の職人は中々目にしない存在なのでいきなり弟子入りしたいと思う人はほとんどいないだろう。
職人を憧れの職業にするためには、職人を日常生活に近づけるしかない。
「弟子」と「体験」の間の職人との関係を作りたい。

8. まとめ
伝統が未来に続いていくためには、維持するのではなく、進化していかなければならないと考える。
そのために、伝統工芸はさまざまな文化や生活様式を吸収しながら、変化し続けるのだ。
若い世代には、日本人として、日本の文化を次の世代に伝えていってほしい。

  • 81191_011_32083257_1_1_20221226_153540 写真1:京都御所近くにある土御門仏所(2022年12月26日 筆者撮影) 
  • DSC_1895 写真2:実際にユーザー参加してもらったオンライン配信(2021年2月27日 筆者撮影)
  • 81191_011_32083257_1_3_dsc_1899 写真3:ZOOMを活用して教える(2021年2月27日 筆者撮影)
  • DSC_0795 写真4:ガチャ仏さま(2021年 11月 23日 筆者撮影 )
  • STORYPIC_00019408_BURST211123172531 写真5:ドローン仏さま~龍岸寺にて~(2021年 11月 23日 筆者撮影 )
  • 81191_011_32083257_1_6_20220421_142906 写真6:土御門仏所にてVRゴーグルのデモ実施(2022年 4月 21日 筆者撮影)
  • 81191_011_32083257_1_7_301332567_435740165257084_9171359544210232260_n 写真7: 第425回 東京でのビジネスピッチで伝統イノベーション特集で登壇する筆者 (2022年8月25日 同席した知人撮影)

参考文献

写真1:京都御所近くにある土御門仏所(2022年12月26日 筆者撮影) 
写真2:実際にユーザー参加してもらったオンライン配信(2021年2月27日 筆者撮影)
写真3:ZOOMを活用して教える(2021年2月27日 筆者撮影)
写真4:ガチャ仏さま(2021年 11月 23日 筆者撮影 )
写真5:ドローン仏さま~龍岸寺にて~(2021年 11月 23日 筆者撮影 )
写真6:土御門仏所にてVRゴーグルのデモ実施(2022年 4月 21日 筆者撮影)
写真7: 第425回 東京でのビジネスピッチで伝統イノベーション特集で登壇する筆者 (2022年8月25日 同席した知人撮影)
WEB1:土御門仏所(取得日2023/1/17)https://miurabutsuzo.com/
WEB2:BECOS Journal、2021年、「伝統工芸が衰退する3つの原因と私たちにできること」(取得日2023/1/23)https://journal.thebecos.com/dentoukougei-suitai/
WEB3:DESIGN WEEK KYOTO、2020年、「クラフトソン2020」(取得日2023/1/17) https://designweek-kyoto.com/craftthon/craftthon2020/
WEB4:木彫りワークショップ実施 (取得日2023/1/23)https://fabcafe.com/jp/events/kyoto/weekendkogei
WEB5:龍岸寺(取得日2023/1/23)https://ryuganji.jp/activity/drone-buddha/
参考書籍1:サラスサラスバシー『エフェクチュエーション: 市場創造の実効理論』、碩学舎、2015年

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