山名八幡宮リニューアルプロジェクトについて

片岡淳

山名八幡宮リニューアルプロジェクトについて

群馬県高崎市にある「山名八幡宮」は現在創建840年であり、区切りとした850年を目処に第28代目神職、高井俊一郎氏の発案により「山名八幡宮リニューアルプロジェクト」と銘うち、御利益の安産と子育ての守り神としての原点回帰をして行きつつ、寺社本来の役目であった集いの場所としての機能を往時のように復元する事を中心に、再興する計画である。

はじめにーなぜ興味を抱いたか
神社は古来よりその役目を人々に伝える為に様々な様式や表示がデザイン化されて使われており、デザインの宝庫と言える。そして空間のデザインにおいても、様々な手法を用いている事がうかがえる。それは鳥居による神域の始まりや注連縄による聖と俗の区別や結界としての働きとその可視化。そしてお札による場の雰囲気作りや、祈念所に高さを持たせて意味を伝えるなど様々な工夫がなされているなど、その演出力は永続性により説得力が増し、連なる鳥居や参道の灯籠などシンプルなモチーフ*1を繰り返す事で参拝者により強い働きかけをしている。そして神使・眷族、謂われ有る物にはわかりやすいデザインやデフォルメ*2を施して、より親しみを抱かせたりと工夫もしている。地元高崎の歴史有る山名八幡宮がミニコミ誌にリニューアルする広告を出していたのが目に留まり、どのようにデザインされていくのか興味が募り、今回の報告に採り上げる事とした。
現代の地方の全国的に有名ではない寺社は、過去の安定した収益や人々が崇める事が、歴史と格式となりその結果、漫然とした経営に陥り、時代の趨勢から取り残された残念な場所として虚無感すら覚えるモノが多く、この山名八幡宮もその例に倣わぬように再興を開始したわけである。
神職の高井俊一郎氏は地元高崎生まれの活動家の側面を持ち、パスタの街として高崎市をブランディングした「キングオブパスタ」というイベントや、市内の遊休地利用と街中の活性を目的にした「高崎食文化屋台通り」という屋台村作りのプロジェクトに係わり、学生生活応援プロジェクト「学生プロジェクト【PRIME】」や、市民向けワークショップ「ジョウモウ大学」などにも深く係わり地域コミュニティの形成から活性化のための運営を支援している。そして高崎青年会議所副理事長や高崎市議会議員を務めた人物でもある。それは旧来の神職にはない斬新な発想で寺社の再興を行うのではないかと期待を思わせ、興味を深める事となった。その高井氏がリニューアルをプロジェクトとして立ち上げ、8人のプロジェクトメンバー*3が集結した。主体となるのはクリエイティブディレクター加藤智啓氏とアートディレクターの山田遊氏、企業CIや店舗デザインを手掛ける近藤ナオ氏などである。

ここで、山名八幡宮についてとその歴史を記す。*4
所在地 群馬県高崎市山名町1581
社格 旧郷社
創建 安元年間(1175年 - 1177年)
本殿の様式 三間社流造
主祭神 応神天皇 神功皇后 玉依比売命

同様事例の調査
当初、歴史有る寺社のリニューアル(再興)にデザーナーやディレクター、マーケティングのスペシャリストを配した事は、やや場違いな印象を受けた。そのため国内で興隆している新旧寺社の事例を調査して検証して見る事とし、それを以下に示す。
新しい寺社の例としては京都「清明神社」を取り上げた。理由は京都に有っては、山名八幡宮同様に小さな規模であるのに、昨今参拝者が急増して有名になっているからである。そこは陰陽師安倍晴明由来の神社であり、五茫星の象徴的なデザイン*5を前面に出して強調する事により、人々に強い印象を与えて記憶に留め、映画「陰陽師」からの話題提供とパワースポットという時流のキーワードを巧みに操り、多数のメディアへの露出にも成功していた。それはインターネットやインスタグラム*6を利用した喧伝をしている結果であり、まさに今風な演出手法と情報の操作に努めているという事である。もう一方で旧来より興隆している寺社を調査してみると、更に興味深い事がわかった。
日本の代表的な寺社として、神々の隠る場所とされる島根の「出雲大社」は「神無月」と言ういわば全国の寺社を敵に回すキャッチコピーを一方的・独善的に進め、強烈な印象で存在をアピールして知名度を一気に広めた。そして現在のポイント制、オマケの先駆けとも言える「蕎麦券」を配布して、何度もお参りする事を定着させる事にも成功する。さらに祭礼の最終日に幕府公認の「富くじ」を実施して参拝客を釘付けする事まで行っていた。その上、マーケティングも行い、数ある御利益のうち、ライバルが少ない「縁結び」を強調する事を計画した。そして門前町のデザインから参画し、第一に甘味処を誘致して門前に配し、若い女性客を引寄せた。そしてそれにつられた若い男性客を取り込み。最終的にはカップルとなり婚姻した人々には、それを御利益と銘打ち、家族での参拝の誘致まで獲得する。そして宿泊所までトータルにサポートする体制まで作り上げたのである。それほど、様々な当時の手法を駆使した集客がなされていたのである。これら新旧の例より寺社のアピールには、その当時の最先端の手法が活かされていた事がわかり、参拝者の獲得に努力していたという事である。
これら調査の結果を見ると、歴史的な寺社にそぐわないイメージのアートディレクターらクリエイターなど先端職種による寺社のリニューアルに対する疑義は、単に先入観によるモノであり、高井氏の計画は再興の手段としては当然の事を選択している事になる。これは氏の多種多用な活動の産物でも有り、多くの事例に係わり学習する事の重要性でもある。

進捗と検証
現段階での進捗とその検証を以下に示す。

1.寺社のシンボルである新社紋のデザイン*7と利用。
これは現在のエッセンスを取り入れたデザインでロゴをアピールする事は、方向性も示す事が出来てたいへん有効で有ると思われる。ここではデザインの意味を解説する事で、更に上手に擦り込みを行っている。

2.境内にカフェの開設、その名も「ミコカフェ」。*8
ターゲットである若い女性や妊婦を対象にシェフやパティシェを招いた料理教室やマタニティヨガ、マッサージセミナーや編み物など、様々なワークショップの開催をしている。ワーフショップはコミュニティ作りには有効であり、継続性もある。場所を思いきって神社の境内に設置した事は場のハードルを一気に下げる事に成功して、コミュニケーションにたいへん有効であると思われる。ネーミングも洒脱に巫女とカフェを併せたもので新旧うまく織り交ぜて、過去の歴史とこれからの未来を予見させている。

3.例大祭等行事に市内の人気飲食店を招聘し、誘客に努めている。
ハンバーガーや喫茶、肉料理など話題のお有名店を身近に招聘する事で、地域の人に話題と利便性を提供し、権威を示す事に成功しており、地域貢献にも役に立っている。

今後の計画
4.天然酵母パン工房「ピッコロリーノ」を三月より境内に開設予定。
出雲大社における甘味処と同じく、パン食は現代女性のライフスタイルには欠かせない物であり、天然酵母と言う付加価値は、他店との差別化にもなっており、有名なお店の誘致はイメージの向上と女性の誘客にはたいへん有効である。

今後の展望
こじんまりした境内には社務所やカフェが配置され、天然酵母のパン屋まで開業させる事となった。これら固定されたモノに対して、ワークショップやイベント、招聘店など、その時々の要素を取り入れた行事が加わり、飽きさせない変化の要素が常に提供されて行き、計画は上手に推移して行く準備が整った。10年計画というスパンは丁度子供の義務教育に重なり、語り継がれ引き継がれていくには丁度良い時間であり、臨機応変な対応と実行で、多くの人が集う場として成長する事を予見させる。

  • 987383_238359d145de43ac9888ea21cb2ea377 *1伏見稲荷の参道 シンプルなモチーフである鳥居が繰り返され、印象を深めている。
  • 987383_5ec8e68ea1894bc58536aa6f3e8b895b *2  山名八幡宮の裏神様「獅子頭」はユニークにデフォルメされている
  • *3 プロジェクトメンバー 加藤智啓氏(非公開) *EDING:POST代表 最近の代表作「OMOTESANDO KOFFEE」など 山田遊氏 株式会社メソッド 近藤ナオ氏 株式会社アソボット 他5名
  • *4 出典元(非公開):山名八幡宮ホームページ http://yamana8.net/
    群馬県web観光案内 http://guntabi.web.fc2.com/takasaki/yamana.html
  • 987383_fcc15e3ce1b64051b55cfc6535887a4f *5 五茫星デザイン 旧来のデザインであるが現代風でも有る。
  • 987383_b2dc7d27476d4407914c3d5524d27615 *7 図解された神社紋 図解されて非常にわかりやすい。
  • 987383_0fa55f97c94a48b68b7c43c0e54cf248 *8 境内社務所二階にある「ミコカフェ」 ミコカフェでは若い女性やマタニティ向けなどの様々なワークショップが行われている。

参考文献

「出雲大社」第三版 千家 尊統著 単行本 出版社: 學生社