北海道江別市の都市景観施設(ランドマーク)

酒谷猛

北海道江別市の都市景観施設(ランドマーク)

I. はじめに
北海道江別市はれんがの生産量が日本一であり、「江別のれんが」は北海道遺産に指定されている。市内にはれんが建造物が数多く存在し、なかでも都市景観施設(ランドマーク)は幹線道路においてその存在感を主張している。本論では、江別市の都市景観施設はミニチュア的だが重厚感があり、ノスタルジックで美的芸術性を見ることが出来、街のランドマークとして「れんがのまち」江別市のイメージ作りに貢献していると結論付ける。
以下、ⅡからⅤにかけて、都市景観施設の基本データ、歴史的背景、事例の評価、今後の展開を述べ、Ⅵでは他事例との比較を行い、Ⅶのまとめへとつなげていく。

II. 基本データ
江別市の都市景観施設(ランドマーク)とは、「美しい街づくり、江別らしい街づくりの一環として、市民の誰もが利用できる建物などを民間が建造する際に、江別市が建造費の一部を補助し、民間と公共が協力して設置したもの」(1)であり、これらの建造物は、れんがなどを用いて江別らしい、また市民に親しまれるシンボル的なものとなっている。施設は13か所あり(添付地図参照)、内訳は、バス待合室10か所、電話ボックス2か所、歓迎塔1か所である。そのうちの3か所について、名称、①概要、②所在地、③完成年、④管理者、⑤構造、⑥規模、⑦製作費などを説明する。
1. 酪農学園前バス待合所(写真1)
①大学を象徴するサイロをイメージした建物が牧歌的な雰囲気を演出している、②江別市文京台緑町569番地41(国道12号線沿い)、③昭和62年度、④学校法人酪農学園、⑤RC造 壁面れんがブロック張り、⑥延床14.7㎡ 高さ約3.9m、⑦1千万円
2. 豊幌駅前電話ボックス(写真2)
①国道12号線沿道のJR豊幌駅前に、駅舎の改築に合わせ同駅周辺の景観の向上を図るため設置され、重厚なヨーロッパの古城をイメージしたモニュメントの中に電話ボックスを配したデザインになっている、②江別市豊幌146番地4(国道12号線沿い)、③平成2年度、④豊幌・豊幌町内自治会、⑤補強れんが構造、⑥延床11㎡ 高さ約7.16m、⑦630万円
3. 札幌学院大学・北翔大学前バス待合所(写真3)
①文教地区にふさわしく、大学の記念館をイメージし、外壁にはれんがを用い、アイヌの人と屯田兵を描いたれんがレリーフが飾られている、②江別市文京台31番地2(国道12号線沿い)、③平成4年度、④文京台第二自治会、⑤RC造 壁面れんがタイル張り、⑥延床8.71㎡ 高さ約6.1m、⑦870万円

III. 歴史的背景
1. 江別市の概要
江別市は人口120,225人(2015年1月1日現在)、面積187.57km2(東京23区合計面積の約30%)、道央圏で札幌市につぐ規模の街であり、札幌のベッドタウンである(2)。江別市の開拓の歴史は明治4年(1873)からで、明治11年には江別村が誕生、その後、各地から屯田兵が入地し、計画的な開拓がすすめられた。昭和50年代より宅地造成が進み、交通アクセスの良さ、平坦な地形などが評価され、札幌市への通勤・通学圏内で最も人口が増加した。
2. 北海道遺産「江別のれんが」
江別市内のれんが製造会社は現在3社で、全国一の生産量を誇り、歴史ある「江別のれんが」は北海道遺産に選定された(3)。江別市では明治時代から窯業が盛んに行われており、れんが製造会社は最大で15社ほどあった。繁栄した理由は、札幌、小樽などの大量消費地が近くにあり、原料となる良質な粘土や山砂が豊富にあり、燃料の薪や石炭が比較的容易に手に入り、平らな広い土地があった、などである。現在、江別市は市町村別のれんが生産量が全国一で、また北海道のれんが生産量のほとんどを占めており、れんが製造会社は現在3社である。長期に渡り製造を継続してきたことやれんがを用いた街づくりも活発に行っていることが評価され、平成16年(2004)に「江別のれんが」が北海道遺産構想推進協議会より北海道遺産に選定された。
3. 都市景観施設(ランドマーク)設置の経緯
当時の市長のアイデアの下、都市景観施設は昭和60年(1985)から設置された(4)。昭和58年(1983)に就任した市長は、街づくりの視点を歴史性・美観性・快適性を内容とし、自然と文化を重視した。そのため、学校や街路、公園など都市施設の整備促進の中にも文化的視点と自然の保全が打ち出された。都市景観の創出では、昭和60年(1985)から地場産業の代表であるれんがを主素材にし”都市景観施設(ランドマーク)構想”が始まり、毎年一施設ずつ設置されて行った。

IV. 事例の評価
都市景観施設(ランドマーク)はミニチュア的ではあるが重厚感があり、れんが建造物として存在感がある。都市景観施設の多くはバス待合室などであり、大きさが延床10㎡程度であるためミニチュア的で、“B級建造物”風である。しかしそれらには重厚感があり、れんが建造物として存在感があり、決してB級とは言えない。
江別市の都市景観施設は、ランドマークとして「れんがのまち」のイメージを決定付けている。ケヴィン・リンチによると、都市のイメージを決める要素としてパス(道)やエッジ(縁)などの他に、ランドマーク(目印)を挙げている(5)。江別市の都市景観施設は幹線道路である国道12号線沿いに多くが設置されており、ランドマークとして「れんがのまち」江別市のイメージを決定付けていると言っても過言ではない。また、市内には2000件以上のれんが建造物があって、街を回れば国道沿いの都市景観施設と共に、北海道遺産「江別のれんが」を身近に感じることが出来る。

V. 今後の展開
市には都市景観施設の増設の予定はないそうだが、街のイメージ作りのためにも発展が必要である。市の都市計画課に問い合わせたところ、「現時点におきまして、増設や廃棄を予定している都市景観施設はありませんが、都市景観施設は「れんがのまち」を印象づける貴重な景観資源と考えております」と返答を得た。一施設当たりの設置費用が多額であるため、増設は容易でないことは理解できるが、観光や市民の街への愛着などの面でも、更なるイメージ作りのために発展することが必要であろう。

VI. 他事例との比較
~長崎県諫早市小長井町のフルーツバス停(写真4)~
小長井町の特産品である、イチゴ、トマト、メロン、スイカ、オレンジの5種類をかたどったバス停が、市内16ヶ所に設置されている(6)。これは平成2年(1990)に開催された長崎旅博覧会で、長崎県の玄関口として訪れる人たちの心を和ませるために、当時の小長井町が整備したものであり、アイデアの元はグリム童話「シンデレラ」に登場するカボチャの馬車であるという。今でも休日になると、ドライブ中の家族連れなどが車を止めて記念撮影する姿も多く見られ、地域住民にとってもランドマークとして、親しまれる自慢の一つになっている。
江別市の都市景観施設、小長井町のフルーツバス停、共にランドマークとしての存在感に差はないが、芸術性があるかどうかで評価が分かれる。小長井町のフルーツバス停はポップな“B級建造物”であり、そこには芸術性はあまり見られない。一方、江別市の都市景観施設はれんがを使った建造物であり、ノスタルジックであり、色や統一感には美的芸術性を見ることが出来る。

VII. まとめ
都市景観施設(ランドマーク)は、街のランドマークとして「れんがのまち」江別市のイメージ作りに貢献している。幹線道路に建つ歓迎塔や変わった造りのバス待合室などは、外部から来た者にとってランドマークとして街のイメージを決定する存在である。江別市の都市景観施設は、北海道遺産「江別のれんが」を使った建造物であり、その多くはバス待合室である。それらはミニチュア的だが重厚感があり、ノスタルジックで美的芸術性を見ることが出来、街のランドマークとして「れんがのまち」江別市のイメージ作りに貢献している。

  • 987383_d8a2e32f50e54e04b5a47949fa43b089 ランドマーク施設地図
  • 987383_d8302636a4da436089e466d5ca7e3cbd 写真1 酪農学園バス待合所
  • 987383_008565972e8f48749b677083463c5a51 写真2 豊幌駅前電話ボックス
  • 987383_3c4d97f69f2f427f8e04f6acb755dbe8 写真3 札幌学院大学・北翔大学前バス待合所
  • 987383_0b01bf82563f4e29a680205733176988 写真4 小長井町のフルーツバス停

参考文献

(1)北海道江別市公式ウェブサイト 都市景観施設(ランドマーク)の紹介  2015/1/7 http://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/site/toshikeikaku/2781.html
(2)北海道江別市公式ウェブサイト 江別市のプロフィール 2015/1/7 http://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/soshiki/koucho/7405.html
(3)江別市教育委員会(2008)『江別歴史ガイドブックシリーズⅣ 江別のれんがを歩く』(株)アイワード
(4)江別市総務部編(2005)『新江別市史[本編]』江別市発行
(5)ケヴィン・リンチ(2007)『都市のイメージ』岩波書店
(6)諫早市公式ホームページ おとぎの世界の「BUS STOP(バスストップ)」・フルーツバス停 2015/1/9 http://www.city.isahaya.nagasaki.jp/post03/1452.html