榛名神社― 大地との融合―神秘の空間

木村 美奈子

1. はじめに

本稿では、群馬県高崎市にある榛名神社が大地と見事な融合により建設されていることに観点をおき、その融合性を検証・考察し報告する。大地との融合によりうまれる神秘的な空間について評価し、大地が人にあたえるパワーについて論じる。

2. 基本データ

榛名神社は、群馬県高崎市榛名山町にある巌山の一字15万㎡、標高800mの境内にご鎮座されている。榛名山の山沿いに造られており、本堂への参道は入口から約700mあり榛名川の清流に並行している。
赤城山・妙義山と共に上毛三山の1つとされる榛名山の神を祀る神社である。
現在の主祭神は火の神・火産霊神と土の神・埴山姫神であり、水分神・高龗神・闇龗神・大山祇神・大物主神・木花開耶姫神を合わせ祀る。

3.歴史的背景

綏靖天皇の時代に饒速日命の御子、可美真手命父子が山中に神籬を立て天神地祇を祀ったのが始まりといわれ、用明天皇元年(586年)に祭祀の場が創建したと伝えられる。
延長5年(927年)完成の延喜式神名帳には上野国十二社として記録されている。古くからの神仏習合が定着していた。
中世には上野国六の宮と位置づけられ、南北朝時代には主導権争いが展開された。北朝に属していた頼印が榛名山の支配者となり、頼印と室町幕府との関わりから幕府の手厚い庇護を受けたが、戦国時代には座主職も置かれず衰微した。近世に入り天海僧正の手により復興され、東叡山輪王寺宮兼帯所となり、榛名山巌殿寺・満行宮と称した。慶応4年(1868年)神仏分離令が発せられてから、榛名神社として復活する。その後の明治3年(1870年)神仏分離取締の指導により仏教色は廃された。
求心力を失っていた榛名神社を立て直すために明治14年榛名神社教会を開設し、昭和27年に宗教法人神道大教榛名大教会と改称され、宿坊も講社と称して榛名講の村々のとの結びつきを維持し、配札や祈祷など崇敬者の教育育成に努めている。

4. 建造物 (国指定重要文化財)

本社・幣殿・拝殿  文化3年(1806)再建
国祖社・額殿    享保年間(1716~35)建築
神楽殿       昭和元年 (1764)再建
双龍門       竣工 安政2年(1855)
神幸殿       安政6年  (1859)建設
随神門       引化4年 (1847)建築

5. 祭儀

1月1日 歳旦祭り 天下泰平、国家安穏、崇敬者の安泰繁栄の祈願祭
1月3日 氏子・崇敬者年頭祈願 家内安全、家業繁栄の祈願祭
1月15日 筒粥神事 1年の作物の豊作凶作を占う
2月3日 節分祭 祭典後豆まき
2月15日 御神楽始祭 太々御神楽奏上
2月17日 祈年祭 新しい年の五穀を始め作物の豊作を祈る祈願祭
5月1日未明 御嶽祭神事 御姿岩御幣束を取り替え神事
5月5日 端午祭 祭典後太々 御神楽奏上
5月8日 神幸祭氏子 神興還御(神幸殿まで) 小神楽奏上
5月15日 還御祭 神興還御(神幸殿より)
5月15日 春季例祭 氏子、崇拝者及び国の安泰、繁栄を祈る春の祭典
6月5日 粽祭 一年の邪気を払い家業の繁栄を祈る
6月30日 12月31日 大祓道餐祭・鎮火祭 心身のけがれを払い、村中の安全火防の祈願
10月9日 秋季例祭 氏子、崇拝者及び国の安泰を祈る秋の祭典
11月23日 新嘗祭 秋の初穂を供えて豊作の御礼の祭典
12月31日 天狗祭神事 餅を拾うと幸運ありという
毎月1日、15日 月次祭 崇敬者の安泰繁栄祈願

6.特色

近年パワースポットとして知名度が高い榛名神社であり、火・土・水・山の大自然の神々が祀られている。山の傾斜にある榛名神社は随神門をくぐると約700mもの榛名川の清流に沿ってつくられた参道を少しずつ緩やかな坂を歩くことになるがこの地へ一歩踏み入れると感じられる神秘的空間について評価する。
広大な奇岩・巨岩に囲まれた地形からなる敷地に一歩踏み入れると空は高杉に覆われて、参道の右側には川、左側は山の傾斜に挟まれており、空気・皮膚感・自然界の音など一瞬にして外界と遮断された異空間にいることが感じとれる。参道を歩いていくと不老長寿の神の像や毘沙門天の像などが点在する。神の像以外には地蔵や水琴窟があり、長い参道は境内の雰囲気を神聖なものにする効果がある。また参道沿いにある千本杉の見事な年月を感じさせる存在は、神社における神秘的な空気を一層引き立てるものである。参道の終わりには、榛名川に落ちる清滝の音がこの神社の静けさを引き立てる。そこから山の傾斜につくられたいくつかの階段を上ると御水屋、神幸殿、双龍門、神楽殿、国祖社・額殿、本社・幣殿・拝殿へ行くことができる。本社は御姿岩に接し岩奥に御神体をお祀りする。
本社の御姿岩や双龍門の鉾岩は大地のエネルギーを吸収したままの状態であり建造物と自然物とが見事に調和した景観だといえる。榛名神社の建造物は自然物をありのままの形で利用してつくられており、神々の存在、自然の生命力を強く感じ取ることができる神秘の空間であり、歴史的な空間へ人の心を自然と引き込むのである。

7.比較

兵庫県西宮市の越木岩神社では巨岩が多いことが類似しているので比較の対象とする。
東六甲山麓唯一の霊場で天然記念物の広大な森におおわれており、甑岩を霊岩とし全国的に信仰を集めている。また、古代信仰の磐境(いわさか)・磐座(いわくら)祭祀と呼ばれ学術上でも貴重とされている。千年前の延喜式神名帳に大国主西神社が記録されているが、それが現在の越木岩神社であろうと云われている。正保年間(西暦1644年頃)に社殿が再建され、明暦二年(西暦1656年)の八月十六日に円満寺の教順僧侶が「福神」の総本社西宮神社より蛭子大神を勧請し、蛭子太神宮と称した。以後、数回社殿は修復され、現在の片削破風羽流造のご本殿は昭和十一年に、また、拝殿は昭和五十八年に御造営となったものである。
越木岩神社のご神体は周囲約40m・高さ10mの大怪石である一大霊岩とされ、御祭神は女性守護・安産・子授けの神様として祀られている。御祈祷では人生儀礼・地鎮祭・神式葬儀、行事では秋に行われる例大祭・だんじり巡行・泣き相撲・相撲大会・もちまきがある。
先に述べた榛名神社の神秘的な空間は榛名山町巌山の一字15万㎡、標高800mの境内にあり、外部と遮断されている。千本杉に覆われた境内や榛名川清滝の音、原形のまま大地に偉大な存在を保つ岩石、自然の神々を祀る榛名神社では自然との融合によりできている。
外界と分離して自然と融合して生まれた空間については、山麓で比較的平地にあり岩石を建造物に合わせて積み重ねる越木岩神社では神秘性が少し薄れて感じられてしまう。また、榛名神社の清流沿いのまっすぐな参道を少しずつ歩むことにより本殿にたどり着くその過程は、気を鎮めていく過程でもあるが、向かいたいところを多方に選択できてしまう越木岩神社の地形では、行事面からみても神社と住民との密接な関わりにより神秘性より距離感が強いことから親近感が強く感じられる。これらのことより、岩石との融合性という点では似ているが榛名神社は地形や岩石をできるだけ原形のまま生かすことで神秘性を高めている。

8.おわりに

今後の展望として、長期にわたる大規模修繕を行っている榛名神社だが、建造物維持はもちろんのこと少子高齢化を意識して祭儀存続のための後継者や榛名講の人材育成をより強化して、これからの榛名神社を維持発展させる計画をすることが重要であると考えられる。
今後もパワースポットとして全国から訪れる人々は少なくないと考えられるが、1400年以上の歴史的かつ神秘的で厳格な空間を保ち続け、文化資産としての価値を高めていくことが求められる。
現在に生きる人々が一歩足を踏み入れるだけで歴史的空間と融合できる地として永遠に変わらぬために。

  • %e6%9c%a8%e6%9d%911 神秘の世界へ
    榛名神社公式ホームページより画像引用(2018年12月26日閲覧)
  • %e6%9c%a8%e6%9d%912 岩石との融合
    榛名神社公式ホームページより画像引用(2018年12月26日閲覧)

参考文献

www.haruna.or.jp/ 榛名神社公式サイト
http://harunavi.pya.jp/wp
榛名観光協会発行 榛名神社散策マップ /榛名観光協会はるなびサイト
http://jin-power.com/modules/todoufuken/index.php?content_id=61 開運の神社仏閣・パワースポットサイト
https://gurutabi.gnavi.co.jp/a/a_1482/ 株式会社ぐるなびサイト
https://ja.wikipedia.org/wiki/ ウィキペディア榛名神社
www.koshikiiwa-jinja.jp/越木岩神社公式サイト

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