下村 泰史(教授)2026年3月卒業時の講評
卒業研究レポートに取り組まれたみなさん、お疲れ様でした。
大変楽しく拝読いたしました。
この卒業研究という科目では、自身の問題関心に沿ったデザイン・芸術活動の評価報告書を作成するものです。その評価対象は制作的な契機があれば、文化遺産でも新しいイベントでも何でもよい、誰が作ったかわからない街並みや、半分自然のような棚田や並木なども対象としてよい、ということになっています。
この課題設定には、芸術教養学科のまなざしが端的に顕れていると思います。いわゆる「作家」が創る「芸術作品」だけでなく、人間の創造性の発露であれば、無名のものであれ、共同的なものであれ、半分自然のようなものであれ、取り上げることができるのです。どのようなものを取り上げるかに、この学科で学んだ受講生ひとりひとりの視線の質が顕れることになります。土地の姿、景観といったものも、その考察対象になります。
私が担当したのは、まちづくり・景観系を中心とした、以下の35件のレポート群です。黒丸が付されているものは、今回ご本人の公開同意があり、取材先等の許諾が得られたものであり、内容をもって選抜されたものではありません。今回公開できなかったもののなかにも優れたものが多くあったことを申し添えておきます。
・横浜・象の鼻地区の景観とオープンスペースの空間デザインと価値
・編み直し続ける地域の記憶 ――比治山公園「平和の丘」基本計画における重層的価値のデザイン評価
・地域へ公平な用水をもたらした久地円筒分水工の社会的・歴史的考察
・やちむん通りにおける空間造形の特徴についての考察
・日本橋庭園 「つながりのもり」 歴史、文化、自然、人間、都市(街)を接続する装置
⚫︎宮水 ― 酒造用地下水の発見と縮小、そして保全の歩み ― 地下水文化資産としての評価 ―
⚫︎麻機遊水地の利活用と伝統漁法「柴揚げ漁」について
・産業遺産と自然の融和:佐渡・北沢浮遊選鉱場跡における景観デザインの評価と可能性
・中野区立哲学堂公園の文化資産評価と今後の展望
・大都会東京にある渡り鳥のオアシス「葛西海浜公園」
・都市における自然との調和~ストックホルムの公園と緑地のあり方から学ぶ~
⚫︎黄金の絨毯に染まる町 ~銀杏のまち祖父江町~
・農業によって形成される景観のデザイン性 ー美瑛町の丘陵農地を文化資産として評価するー
・「演出」から「場所のアイデンティティ」へ ― 宝塚・花のみちにおける文化的コモンズ形成の過程 ―
・「二ヶ領用水久地円筒分水」のランドスケープとしての存在と役割
・設計者としての玉川上水~導水経路と分水が作り出した暮らしと景観~
・都市の負債を資産に変える。都市型農場「FARM HANEDA」と団地再生「大阪・茶山台団地」の評価報告書
・世田谷区立次太夫堀公園民家園の風景再現を可能にした伝承方法
・浜離宮恩賜庭園の現代的景観の意義
・「六郷用水復元水路」継承のために
・松明制作技術継承にみる文化的循環構造 ― 鞍馬の火祭における社会個性と景観形成 ―
・熊本市民の憩いの湧水「江津湖」
・砺波平野に広がる「散居村」の空間構造と文化的価値―景観と生活の調和
・明治神宮に広がる森 ー150年先を見据えた構想ー
・伝承地をデザインする 史跡八橋かきつばた園
・北芝「たいまつ・むぎわら」がしめす新たな文化運動
・ロックフェラー・エステート日本庭園と茶室の文化的意義 ―成立過程・変遷・類似施設との比較を通じた考察―
⚫︎若葉台団地にみる昭和後期住宅政策に関する考察-転換期に生まれた郊外団地の思想
⚫︎矢切の渡しの生活の中での意味と文化的景観との共存
・小机城址 ~歴史的城郭の価値と市民の森としての展望~
⚫︎カバタ文化の価値づけと継承の仕組みに関する研究 ―針江生水の郷委員会の見学・保全活動を事例として―
・サンゴに生かされる喜界島
⚫︎マニラ湾 〜自然、開発と保護、人々の関心から成り立つ景観〜
⚫︎生物多様性を育む空間「渡良瀬遊水地」
・名古屋市民会館と緑の都市景観・積み重ねた半世紀の価値
地域にナマモノとして存在している景観を評価するには、まずそれを記述しなければなりません。文献批判からスタートするわけにいかないのです。これがなかなか難しい。その景観を持つ地域がどこにあって、どんな広がりをもって存在していて、どこからどんなふうに見えるのか、といったことが適切に紹介されていることが必要になります。これは本文の文章だけでは難しく、地図情報をはじめとする一定のビジュアルな資料が求められることがほとんどです。現実界にあるものを記述しようとするときは、景観に限らずこうした資料化は必須になります。ある人の人生を辿ろうと思えば、徹底的にお話しを聞かなくてはならないのと同じです。対象とのつきあいかたにも、それぞれのレポートの個性があって、そこもこの「芸術教養学科WEB卒業研究展」の見どころのように思います。
今回興味深く感じたのは、この「卒業研究」の蓄積、厚みということでした。今回私が担当した中に、東京都中野区の「哲学堂公園」を扱ったものがありました。この10年ほどこの科目の講評採点を行なってきて、この「哲学堂公園」を取り上げたものは、私が知る限りで三件ほどあります(昨年度もあったと思います)。そしてそのいずれもがまったく違ったアプローチで、対象に取り組んでいるのです。読み合わせることで、大変複雑な「哲学堂公園」像が立ち上がってくるのでした。
また今回読んだものの中に、東京の大田区〜世田谷区〜川崎市あたりの歴史的用水路を扱ったものが何件かありました。残念ながらそれらは今回公開されていないのですが、これなども併せ読むことで、地域像が浮かび上がってくるものでした(この悦びを得たのは、それらのレポートを読むことができた私だけなのですが)。
ここに公開されているレポートだけでも、年を経て情報密度が上がってくることで、相互に響き合うレポートが生まれてきているように思います。地域の近接性だけでなく、地域を超えての主題の類似性、潜在的な問題意識もあると思います。レポートを書かれた方も、お読みになる方も、検索機能を使って幾つかのレポートを併せ読んでみてください。レポート間の未知のアンサンブルから、新たな気づきがあるかもしれません。
大変楽しく拝読いたしました。
この卒業研究という科目では、自身の問題関心に沿ったデザイン・芸術活動の評価報告書を作成するものです。その評価対象は制作的な契機があれば、文化遺産でも新しいイベントでも何でもよい、誰が作ったかわからない街並みや、半分自然のような棚田や並木なども対象としてよい、ということになっています。
この課題設定には、芸術教養学科のまなざしが端的に顕れていると思います。いわゆる「作家」が創る「芸術作品」だけでなく、人間の創造性の発露であれば、無名のものであれ、共同的なものであれ、半分自然のようなものであれ、取り上げることができるのです。どのようなものを取り上げるかに、この学科で学んだ受講生ひとりひとりの視線の質が顕れることになります。土地の姿、景観といったものも、その考察対象になります。
私が担当したのは、まちづくり・景観系を中心とした、以下の35件のレポート群です。黒丸が付されているものは、今回ご本人の公開同意があり、取材先等の許諾が得られたものであり、内容をもって選抜されたものではありません。今回公開できなかったもののなかにも優れたものが多くあったことを申し添えておきます。
・横浜・象の鼻地区の景観とオープンスペースの空間デザインと価値
・編み直し続ける地域の記憶 ――比治山公園「平和の丘」基本計画における重層的価値のデザイン評価
・地域へ公平な用水をもたらした久地円筒分水工の社会的・歴史的考察
・やちむん通りにおける空間造形の特徴についての考察
・日本橋庭園 「つながりのもり」 歴史、文化、自然、人間、都市(街)を接続する装置
⚫︎宮水 ― 酒造用地下水の発見と縮小、そして保全の歩み ― 地下水文化資産としての評価 ―
⚫︎麻機遊水地の利活用と伝統漁法「柴揚げ漁」について
・産業遺産と自然の融和:佐渡・北沢浮遊選鉱場跡における景観デザインの評価と可能性
・中野区立哲学堂公園の文化資産評価と今後の展望
・大都会東京にある渡り鳥のオアシス「葛西海浜公園」
・都市における自然との調和~ストックホルムの公園と緑地のあり方から学ぶ~
⚫︎黄金の絨毯に染まる町 ~銀杏のまち祖父江町~
・農業によって形成される景観のデザイン性 ー美瑛町の丘陵農地を文化資産として評価するー
・「演出」から「場所のアイデンティティ」へ ― 宝塚・花のみちにおける文化的コモンズ形成の過程 ―
・「二ヶ領用水久地円筒分水」のランドスケープとしての存在と役割
・設計者としての玉川上水~導水経路と分水が作り出した暮らしと景観~
・都市の負債を資産に変える。都市型農場「FARM HANEDA」と団地再生「大阪・茶山台団地」の評価報告書
・世田谷区立次太夫堀公園民家園の風景再現を可能にした伝承方法
・浜離宮恩賜庭園の現代的景観の意義
・「六郷用水復元水路」継承のために
・松明制作技術継承にみる文化的循環構造 ― 鞍馬の火祭における社会個性と景観形成 ―
・熊本市民の憩いの湧水「江津湖」
・砺波平野に広がる「散居村」の空間構造と文化的価値―景観と生活の調和
・明治神宮に広がる森 ー150年先を見据えた構想ー
・伝承地をデザインする 史跡八橋かきつばた園
・北芝「たいまつ・むぎわら」がしめす新たな文化運動
・ロックフェラー・エステート日本庭園と茶室の文化的意義 ―成立過程・変遷・類似施設との比較を通じた考察―
⚫︎若葉台団地にみる昭和後期住宅政策に関する考察-転換期に生まれた郊外団地の思想
⚫︎矢切の渡しの生活の中での意味と文化的景観との共存
・小机城址 ~歴史的城郭の価値と市民の森としての展望~
⚫︎カバタ文化の価値づけと継承の仕組みに関する研究 ―針江生水の郷委員会の見学・保全活動を事例として―
・サンゴに生かされる喜界島
⚫︎マニラ湾 〜自然、開発と保護、人々の関心から成り立つ景観〜
⚫︎生物多様性を育む空間「渡良瀬遊水地」
・名古屋市民会館と緑の都市景観・積み重ねた半世紀の価値
地域にナマモノとして存在している景観を評価するには、まずそれを記述しなければなりません。文献批判からスタートするわけにいかないのです。これがなかなか難しい。その景観を持つ地域がどこにあって、どんな広がりをもって存在していて、どこからどんなふうに見えるのか、といったことが適切に紹介されていることが必要になります。これは本文の文章だけでは難しく、地図情報をはじめとする一定のビジュアルな資料が求められることがほとんどです。現実界にあるものを記述しようとするときは、景観に限らずこうした資料化は必須になります。ある人の人生を辿ろうと思えば、徹底的にお話しを聞かなくてはならないのと同じです。対象とのつきあいかたにも、それぞれのレポートの個性があって、そこもこの「芸術教養学科WEB卒業研究展」の見どころのように思います。
今回興味深く感じたのは、この「卒業研究」の蓄積、厚みということでした。今回私が担当した中に、東京都中野区の「哲学堂公園」を扱ったものがありました。この10年ほどこの科目の講評採点を行なってきて、この「哲学堂公園」を取り上げたものは、私が知る限りで三件ほどあります(昨年度もあったと思います)。そしてそのいずれもがまったく違ったアプローチで、対象に取り組んでいるのです。読み合わせることで、大変複雑な「哲学堂公園」像が立ち上がってくるのでした。
また今回読んだものの中に、東京の大田区〜世田谷区〜川崎市あたりの歴史的用水路を扱ったものが何件かありました。残念ながらそれらは今回公開されていないのですが、これなども併せ読むことで、地域像が浮かび上がってくるものでした(この悦びを得たのは、それらのレポートを読むことができた私だけなのですが)。
ここに公開されているレポートだけでも、年を経て情報密度が上がってくることで、相互に響き合うレポートが生まれてきているように思います。地域の近接性だけでなく、地域を超えての主題の類似性、潜在的な問題意識もあると思います。レポートを書かれた方も、お読みになる方も、検索機能を使って幾つかのレポートを併せ読んでみてください。レポート間の未知のアンサンブルから、新たな気づきがあるかもしれません。
