宮 信明(准教授:学科長 コース主任)2025年9月卒業時の講評

みなさま
卒業研究レポートの作成、そして提出、本当にお疲れさまでした。大きな課題を終えられて、いまはホッと一息つかれているところでしょうか。
寺山修司『遊撃とその誇り―寺山修司評論集』(三一書房、1966年)のなかに「私は私自身の記録である」という有名な言葉があります。「あっ、その言葉知ってる!」という方もいらっしゃるかも知れません。このたび卒業研究という大きな課題をクリアされたみなさんは、自分自身の記録を更新されたことになるわけですが、今後それは血となり肉となり、そして「私」となり、必ずみなさんを支えてくれる筈です。まだ実感が沸かないという方のほうが多いかも知れませんが、まずは大変なことを成し遂げた自分自身を、なんら憚ることなく、目一杯ほめてあげましょう!
今期の卒業研究は108件の提出がありました。ちなみに、昨年度の秋期は106件、一昨年度の秋期は97件、一昨昨年度は83件、その前年度は……、もういいですね。いずれにしても、昨年度より2件、一昨年度より11件、一昨昨年度より25件も増えたことになります。非常に多くの卒業生を送り出すことができ、我々教員にとっても、こんなにうれしいことはありません。
みなさんのご卒業を寿ぎ謹んでお慶びを申し上げます。
さて、今回、私が担当した卒業研究では、以下のような対象が取り上げられていました。
・長徳寺「寒松日暦」
・わんこそば
・イムゲー(芋酒)
・小鹿野歌舞伎
・墨絵
・桂林路美食街
・京おどり
・地唄舞
・レコルタン・マニピュラン
・下関の「ふく食」
・横浜スカーフ
・ヒアシンスハウスと別所沼公園
・聖地巡礼「カミーノ」
・シネマスコーレ
いかがですか。このラインナップ。これを見るだけでも、どれほど多彩なテーマで卒業研究(=評価報告書)が作成されているのか、一目瞭然でしょう。いずれのレポートにおいても、興味深い事例が報告されていました。また、それを論じるための視点もじつに多様で、読み応えのあるものばかりでした。
それぞれのレポートの点数と講評については、個別にお伝えしてありますので、ここでは、私が採点・講評を担当した卒業研究の中から、興味深く拝読したレポートをいくつか紹介したいと思います。
1つ目は、下関の「ふく食」を取り上げたレポートです。研究対象そのものだけでなく、デザイン学や地域文化論などに関する先行研究や資料もきちんと調査するとともに、関係者からの聞き取り調査も実施した上で、それらの知見を参照しつつ、丁寧に論理が組み立てられていました。特に、「事例のどんな点について積極的に評価しているのか」について、その「芸術性」と「精神性」を指摘するだけでなく、それぞれの分析が相補的な効果を上げることによって、対象へのいっそう深い考察につながっていくという論理構成は見事でした。
2つ目は、レコルタン・マニピュランを取り上げたレポートです。ネゴシアン・マニピュランとレコルタン・マニピュランを対比的に捉えながらも、それだけで終わるのではなく、それらの融合と深化についても考察されていました。シャンパーニュ地方の歴史や現状をまとめた添付資料も充実しており、特に、「3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」等においては、数値やデータという明確な論拠に基づいて検討が重ねられていました。論旨も明快で、優れた論述になっていたと思います。
以上、ここでは2つのレポートに言及しました。が、それ以外にも、今回の卒業研究では、素晴らしいレポートがたくさんありました。そのいずれにも共通するのは、やはり①分析や考察に必要な文献・資料がきちんと調査されていること、②対象を吟味するとともに、それが独自の問題編成によって展開されていること、③アカデミック・ライティングのルールに則って、説得力のある文章で論述されていること、の3点ではないでしょうか。その点を踏まえ、改めてご自身のレポートを読み返していただければと思います。
卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。だからこそ、個別講評では、厳しいことをあれこれと書き連ねてしまいました。とはいえ、それぞれのレポートが卒業に値するクオリティに達していたことは間違いありません。ぜひこれからも、芸術教養学科で学修したことをもとに、よりよい学びを続けていってください。
それでは、改めまして、ご卒業、誠におめでとうございます!
卒業研究レポートの作成、そして提出、本当にお疲れさまでした。大きな課題を終えられて、いまはホッと一息つかれているところでしょうか。
寺山修司『遊撃とその誇り―寺山修司評論集』(三一書房、1966年)のなかに「私は私自身の記録である」という有名な言葉があります。「あっ、その言葉知ってる!」という方もいらっしゃるかも知れません。このたび卒業研究という大きな課題をクリアされたみなさんは、自分自身の記録を更新されたことになるわけですが、今後それは血となり肉となり、そして「私」となり、必ずみなさんを支えてくれる筈です。まだ実感が沸かないという方のほうが多いかも知れませんが、まずは大変なことを成し遂げた自分自身を、なんら憚ることなく、目一杯ほめてあげましょう!
今期の卒業研究は108件の提出がありました。ちなみに、昨年度の秋期は106件、一昨年度の秋期は97件、一昨昨年度は83件、その前年度は……、もういいですね。いずれにしても、昨年度より2件、一昨年度より11件、一昨昨年度より25件も増えたことになります。非常に多くの卒業生を送り出すことができ、我々教員にとっても、こんなにうれしいことはありません。
みなさんのご卒業を寿ぎ謹んでお慶びを申し上げます。
さて、今回、私が担当した卒業研究では、以下のような対象が取り上げられていました。
・長徳寺「寒松日暦」
・わんこそば
・イムゲー(芋酒)
・小鹿野歌舞伎
・墨絵
・桂林路美食街
・京おどり
・地唄舞
・レコルタン・マニピュラン
・下関の「ふく食」
・横浜スカーフ
・ヒアシンスハウスと別所沼公園
・聖地巡礼「カミーノ」
・シネマスコーレ
いかがですか。このラインナップ。これを見るだけでも、どれほど多彩なテーマで卒業研究(=評価報告書)が作成されているのか、一目瞭然でしょう。いずれのレポートにおいても、興味深い事例が報告されていました。また、それを論じるための視点もじつに多様で、読み応えのあるものばかりでした。
それぞれのレポートの点数と講評については、個別にお伝えしてありますので、ここでは、私が採点・講評を担当した卒業研究の中から、興味深く拝読したレポートをいくつか紹介したいと思います。
1つ目は、下関の「ふく食」を取り上げたレポートです。研究対象そのものだけでなく、デザイン学や地域文化論などに関する先行研究や資料もきちんと調査するとともに、関係者からの聞き取り調査も実施した上で、それらの知見を参照しつつ、丁寧に論理が組み立てられていました。特に、「事例のどんな点について積極的に評価しているのか」について、その「芸術性」と「精神性」を指摘するだけでなく、それぞれの分析が相補的な効果を上げることによって、対象へのいっそう深い考察につながっていくという論理構成は見事でした。
2つ目は、レコルタン・マニピュランを取り上げたレポートです。ネゴシアン・マニピュランとレコルタン・マニピュランを対比的に捉えながらも、それだけで終わるのではなく、それらの融合と深化についても考察されていました。シャンパーニュ地方の歴史や現状をまとめた添付資料も充実しており、特に、「3.国内外の他の同様の事例と比較して何が特筆されるのか」等においては、数値やデータという明確な論拠に基づいて検討が重ねられていました。論旨も明快で、優れた論述になっていたと思います。
以上、ここでは2つのレポートに言及しました。が、それ以外にも、今回の卒業研究では、素晴らしいレポートがたくさんありました。そのいずれにも共通するのは、やはり①分析や考察に必要な文献・資料がきちんと調査されていること、②対象を吟味するとともに、それが独自の問題編成によって展開されていること、③アカデミック・ライティングのルールに則って、説得力のある文章で論述されていること、の3点ではないでしょうか。その点を踏まえ、改めてご自身のレポートを読み返していただければと思います。
卒業研究は、みなさんがこれまで芸術教養学科で学んでこられたことの集大成です。だからこそ、個別講評では、厳しいことをあれこれと書き連ねてしまいました。とはいえ、それぞれのレポートが卒業に値するクオリティに達していたことは間違いありません。ぜひこれからも、芸術教養学科で学修したことをもとに、よりよい学びを続けていってください。
それでは、改めまして、ご卒業、誠におめでとうございます!